精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第5章 冬休み、南部地方への旅

第95話 提督の呟き ①

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「どうしてこんな事になっちまったんだ…。」

 誰もいないコンキスタドール号の艦長室で俺は一人、ごちる。

 元はと言えば、あの小娘が持ち帰ったおびただしい魔導具にあった。
 誰でも一瞬で火がつけられる着火の魔導具、何もないところから水が出せる給水の魔導具、火を使わずに明かりが灯る灯火の魔導具、魔導具の存在は以前から知られていた。

 どれもとても便利だが、俺達の住む大陸ではどうしても作ることができず、北にある大陸から輸入するしかないものだ。
 輸入される数が非常に少ないことから北の大陸でも貴重品で輸出に回せるほどの数を作ることはできないのだろうと思われていた。
 魔導具を手に入れられるのは一部の金持ちだけなので、とても軍に配備できる物ではないと諦めていた。


 ところがだ、五、六年ほど前に二十歳過ぎぐらいの小娘が北の大陸から千ではきかない数の魔導具を持ち込んできた。
 テーテュスとかいう小娘は、たった一回の航海で多額の利益を得て、でっかい船を手に入れやがった。
 テーテュスは、その後数回北大陸と往復しそのたびに数多くの魔導具を持ち帰ることに成功し巨万の富を築いた。


 それで、俺達は知ったんだ。
 北の大陸では魔導具はたいした貴重品でもなく、量産が可能な生活雑貨に近いものだと。

 最初は、テーテュスから魔導具を買い取ろうとしたが、あの小娘は自国の商人が優先だと言って俺達コルテス王国の海軍への提供を拒みやがった。

 やむをえず、商人を通して手に入れたが、そこで魔導具の思わぬ欠点に気付いた。
魔導具は北の大陸では、『生活雑貨』だったのだ。
 例えば給水の魔導具、三、四人の家族なら数年分の飲み水や調理用の水が賄える。
 しかし、軍艦では、例えばこのコンキスタドールには船乗りと陸戦隊をあわせて四百名ほどが乗っているが、給水の魔導具一つで二週間もたないのだ。

 魔導具は、魔晶石というもので動いているようで、魔導具を一旦使い切っても魔晶石を交換すればまた使えるようになる。
 しかし、魔晶石も輸入量が少なく数個の予備しか手に入らなかった。
 家庭で使うなら、数個の予備があれば給水の魔導具が十年くらい使えることになり十分だろう。
 しかし、一回の軍事行動で数ヶ月の航海をすることがある海軍には全然足りないのだ。

 結論を言えば、仮にテーテュスが持ち込んだ数千の魔導具を全部買い取ったとしても、海軍全体に配備するには全く足りないということがわかった。

 
 しかし、北大陸の魔導具は俺達がのどから手が出るほど欲しいものだ。
 例えば給水の魔導具、これがあれば真水を軍艦に乗せる必要がなくなる。
俺達の軍艦の積荷の中で飲料水がどれだけのスペースを取っている事か。
真水を積まなければもっと弾薬が積めるのにとか、もっと略奪品がつめるのにとか考えるのはいつものことだ。

 例えば着火の魔導具、すぐに火をつけられるので竈におき火の必要がなくなる。これで船の火災の心配が一つ減らせる。
 更に、鉄砲を撃つのに必要な火縄の火が消えないように気を配る必要もなくなる。

 まだまだ他にもあるけど、これだけでも今より相当楽に戦闘行動をとることができるんだ。


 そして、俺達海軍上層部は決断した、北の大陸を手中に収め魔導具を独占しようと。
 北の大陸は交易に往復一年以上を要するほど離れている。
そのため、交易は盛んではない。しかし、断片的だが情報は入ってくる。


 北の大陸で一番豊かな国はオストマルク王国、この国は極端な平和主義でここ千年も戦争をしたことがないそうだ。
 また、北の大陸の人間は魔法というものが使えて、魔導具も使わずに何もないところから水を出したり、火をつけたりできると言われている。

 一方で、北大陸までの航海はきわめて困難だという情報もあった。
 今まで魔導具の輸入が少なかったのは、途中で難破して持ち帰れなかったからだとか、行きの航路で船が損傷して修理代を払ったら十分な仕入れ資金が残らず少量の魔導具しか仕入れられなかったからだとかが港の商人の言い分だった。


 平和主義の国、大変結構ではないか大砲と鉄砲で脅かしてやれば、そんな頭の中お花畑の連中なんかすぐに降参してくるだろう。
 噂が本当なら、魔法を使える人間を奴隷として捕まえてくれば、魔導具がなくても火も水もタダで使い放題だ。

 航海が困難だ?
 そんなのがめつい商人が魔導具の値を吊り上げるために使っている方便に違いないだろう。
二十歳そこそこの小娘が何度となく北大陸との間を往復しているんだぞ。
しかも、あの小娘の船は往復しても無傷というじゃないか。

 あの小娘の船は、従来の船よりかなり大きく船が安定しているように見える。

 それならば、大型船が中心のわが第一艦隊がでれば問題ないだろう。
こちらは百戦錬磨の船乗りの集団だ、小娘にできたことをできないはずがない。


     **********


 海軍内でも、北の大陸進攻を支持する者が多く、俺は盛大な見送りを受けて大洋に乗り出した。
 俺が乗る旗艦は、コルテス王国が誇る最新鋭艦コンキスタドール号。
従えるのは、第一艦隊隷下三十隻の中から選び出した大型で艦齢の若い船十五隻、どれも主力艦である。

 提督である俺は、今回の作戦行動に一欠けらの不安も抱いてなかった。
 あんな小娘にできたことを俺ができないはずがないと信じ込んでいたんだ…。




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