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第5章 冬休み、南部地方への旅
第79話 ポルトの港を観に行こう ②
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ゆっくりと市場を見た後、次は商店街で交易品を見ようと岸壁沿いの大通りを引き返した。
大きな交易船の前まで戻って来たとき、
「あら、フェイちゃんじゃない、久し振りだね。何百年振りかしら?」
と交易船の方から歩いてきた女性が声をかけてきた。何百年振りって…。
涼しげなノースリーブのワンピースを纏い薄いシルクのショールを肩にかけたその女性は、見た目はミルトさんよりやや若く見える。
実際は見た目通りでないことを、彼女自身の言葉が物語っている。
まあ、フェイさんに声をかけてきた時点で普通ではないことは明らかなんだけど…。
「テーテュス様、ご無沙汰しております。
テーテュス様がこちらの大陸にいらっしゃるとは存じ上げませんでした。」
この方、テーテュスさんっていう名前なんだ。
フェイさんが、敬語を使っているところを見ると南大陸の大精霊なのかな。
「やだな、私達には身分なんかないのだから、そう畏まらないでよ。
私はちょくちょくこの港町には来ているんだよ。
見てちょうだい、私の船、南大陸でも最新型の大型船なんだ。」
この船、テーテュスさんのモノなの? 大精霊が船で交易をやっているの?
「テーテュス様、申し訳ございませんが、今はちょっと都合がつきませんので…。
後ほど、私の方からお伺いさせていただくことでよろしいでしょうか。」
ヴィクトーリアさんとハイジさんには、精霊の存在を説明していないからね。
ここで、話をされると面倒だ。
「そうなのかい?
私はフェイちゃんと一緒にいる者たちにも興味があるんだけどね。
見える者が五人も揃っているなんて珍しい、しかも二人は完全に見える人間ではないかい。
あ、もしかして、見えない二人には内緒だったのかな。」
みんなに聞こえる声でそこまで言ってしまったら台無しだよ。
「テーテュス様、お初にお目にかかります。口を挟むことをお許しください。
フェイ様、こちらのことは気を使っていただかなくても結構です。
どのみち、隠し通せるものではないと思っていたので。」
ミルトさんは、精霊の話をヴィクトーリアさん達に説明するつもりのようだ。
「そうか?おまえさん、なかなか気が利くね。気に入ったよ。
そこのちっちゃい子よ、この船に乗りたくないかい?」
テーテュスさんがハンナちゃんを船に誘った。
ハンナちゃんは、わたしの後ろに隠れるような姿勢で顔だけ出して言った。
「おばちゃん、今まで会った中で一番強いの。ハンナを虐めない?」
ハンナちゃんはテーテュスさんが持つ強大な力を感じ取ったようで少し怯えているようだ。
「ハンナちゃんって言うのかい。
おばちゃんはハンナちゃんみたいな可愛い子を虐めるなんてしないよ。」
テーテュスさんがそういうと、ハンナちゃんはわたしの背中から出てきて、
「じゃあ、ハンナ、お船に乗りたい!」
と嬉しそうに答えた。
**********
フェイさんは苦い顔をしていたが、ハンナちゃんがテーテュスさんと手を繋いで船に向かってしまったため、全員で船を見学することになった。
船内を一通り案内されたわたし達は、最後にテーテュスさんの船室に通された。
そこは、船内とは思えないほど広くて立派な作りだった。
テーテュスさんは、全員をテーブルに着かせるといきなりぶっちゃけた。
「私は、この船の船長で、オーナーでもあるテーテュスだよ。
まあ、私は人間ではなく、精霊なんだけどね。水の大精霊なんだよ。」
テーテュスさんが船長をやっているのは趣味みたいなものらしい。
テーテュスさんいわく、『大精霊は暇だ』とのこと。
南の大陸では、太古の昔から精霊は人間に無干渉だとのこと。
かつてのこの大陸のように精霊が人に積極的に力を貸すことは無かったんだって。
この大陸の精霊と同じように自然の秩序を維持することはするけど、ほとんどのことは中位精霊で事足りてしまうとのことだ。
大精霊クラスだと簡単に天変地異を起こせるので迂闊に力を使えないそうだ。
魔導王国の引き起こした瘴気汚染せいで、大精霊が浄化に大忙しのこの大陸は異例のようだね。
普通、大精霊は漂いながら自然の秩序に歪みが生じてないか見守るだけらしいが、テーテュスさんはそれに飽きたらしい。
まあ、何千年も見守るだけでは飽きもするだろう。
それで、テーテュスさんは人に手を貸すのではなく、自ら人の営みの真似事を始めたらしい。
そして、大陸間の交易で成功してこの船を買ったそうだ。
南大陸とこの大陸の間の海には、潮流が速くて、かつ複雑な海域があり航海が非常に難しいらしい。
そんな中で、テーテュスさんの船の航海成功率は百パーセントなんだって。
だってテーテュスさんが潮流を都合の良いように変えられるんだから失敗するはずないよね。
現在、南大陸の船でこの大陸と確実に往復できるのはテーテュスさんの船だけらしい。
**********
「それで、フェイちゃん達はどういう集まりなんだい?
精霊の森から出てこなかったフェイちゃんが人の街に溶け込んでいるなんて吃驚したよ。
しかも、上位の精霊が七体も揃ってるしね。
人間の方は精霊を見える者が五人もいる。うち二人は下位精霊まで見えるんだろう。
私は、最初ここにいる精霊が加護を与えた人間かと思っていたけど、七体の加護を受けたものは一人もいないのだね。
五人はウンディーネの加護で、一人はこの大陸にいる全ての大精霊の加護持ちか。
残る一人は、まだ大精霊に会わせていないのかな。」
テーテュスさんは、興味津々にそう尋ねてきた。
大きな交易船の前まで戻って来たとき、
「あら、フェイちゃんじゃない、久し振りだね。何百年振りかしら?」
と交易船の方から歩いてきた女性が声をかけてきた。何百年振りって…。
涼しげなノースリーブのワンピースを纏い薄いシルクのショールを肩にかけたその女性は、見た目はミルトさんよりやや若く見える。
実際は見た目通りでないことを、彼女自身の言葉が物語っている。
まあ、フェイさんに声をかけてきた時点で普通ではないことは明らかなんだけど…。
「テーテュス様、ご無沙汰しております。
テーテュス様がこちらの大陸にいらっしゃるとは存じ上げませんでした。」
この方、テーテュスさんっていう名前なんだ。
フェイさんが、敬語を使っているところを見ると南大陸の大精霊なのかな。
「やだな、私達には身分なんかないのだから、そう畏まらないでよ。
私はちょくちょくこの港町には来ているんだよ。
見てちょうだい、私の船、南大陸でも最新型の大型船なんだ。」
この船、テーテュスさんのモノなの? 大精霊が船で交易をやっているの?
「テーテュス様、申し訳ございませんが、今はちょっと都合がつきませんので…。
後ほど、私の方からお伺いさせていただくことでよろしいでしょうか。」
ヴィクトーリアさんとハイジさんには、精霊の存在を説明していないからね。
ここで、話をされると面倒だ。
「そうなのかい?
私はフェイちゃんと一緒にいる者たちにも興味があるんだけどね。
見える者が五人も揃っているなんて珍しい、しかも二人は完全に見える人間ではないかい。
あ、もしかして、見えない二人には内緒だったのかな。」
みんなに聞こえる声でそこまで言ってしまったら台無しだよ。
「テーテュス様、お初にお目にかかります。口を挟むことをお許しください。
フェイ様、こちらのことは気を使っていただかなくても結構です。
どのみち、隠し通せるものではないと思っていたので。」
ミルトさんは、精霊の話をヴィクトーリアさん達に説明するつもりのようだ。
「そうか?おまえさん、なかなか気が利くね。気に入ったよ。
そこのちっちゃい子よ、この船に乗りたくないかい?」
テーテュスさんがハンナちゃんを船に誘った。
ハンナちゃんは、わたしの後ろに隠れるような姿勢で顔だけ出して言った。
「おばちゃん、今まで会った中で一番強いの。ハンナを虐めない?」
ハンナちゃんはテーテュスさんが持つ強大な力を感じ取ったようで少し怯えているようだ。
「ハンナちゃんって言うのかい。
おばちゃんはハンナちゃんみたいな可愛い子を虐めるなんてしないよ。」
テーテュスさんがそういうと、ハンナちゃんはわたしの背中から出てきて、
「じゃあ、ハンナ、お船に乗りたい!」
と嬉しそうに答えた。
**********
フェイさんは苦い顔をしていたが、ハンナちゃんがテーテュスさんと手を繋いで船に向かってしまったため、全員で船を見学することになった。
船内を一通り案内されたわたし達は、最後にテーテュスさんの船室に通された。
そこは、船内とは思えないほど広くて立派な作りだった。
テーテュスさんは、全員をテーブルに着かせるといきなりぶっちゃけた。
「私は、この船の船長で、オーナーでもあるテーテュスだよ。
まあ、私は人間ではなく、精霊なんだけどね。水の大精霊なんだよ。」
テーテュスさんが船長をやっているのは趣味みたいなものらしい。
テーテュスさんいわく、『大精霊は暇だ』とのこと。
南の大陸では、太古の昔から精霊は人間に無干渉だとのこと。
かつてのこの大陸のように精霊が人に積極的に力を貸すことは無かったんだって。
この大陸の精霊と同じように自然の秩序を維持することはするけど、ほとんどのことは中位精霊で事足りてしまうとのことだ。
大精霊クラスだと簡単に天変地異を起こせるので迂闊に力を使えないそうだ。
魔導王国の引き起こした瘴気汚染せいで、大精霊が浄化に大忙しのこの大陸は異例のようだね。
普通、大精霊は漂いながら自然の秩序に歪みが生じてないか見守るだけらしいが、テーテュスさんはそれに飽きたらしい。
まあ、何千年も見守るだけでは飽きもするだろう。
それで、テーテュスさんは人に手を貸すのではなく、自ら人の営みの真似事を始めたらしい。
そして、大陸間の交易で成功してこの船を買ったそうだ。
南大陸とこの大陸の間の海には、潮流が速くて、かつ複雑な海域があり航海が非常に難しいらしい。
そんな中で、テーテュスさんの船の航海成功率は百パーセントなんだって。
だってテーテュスさんが潮流を都合の良いように変えられるんだから失敗するはずないよね。
現在、南大陸の船でこの大陸と確実に往復できるのはテーテュスさんの船だけらしい。
**********
「それで、フェイちゃん達はどういう集まりなんだい?
精霊の森から出てこなかったフェイちゃんが人の街に溶け込んでいるなんて吃驚したよ。
しかも、上位の精霊が七体も揃ってるしね。
人間の方は精霊を見える者が五人もいる。うち二人は下位精霊まで見えるんだろう。
私は、最初ここにいる精霊が加護を与えた人間かと思っていたけど、七体の加護を受けたものは一人もいないのだね。
五人はウンディーネの加護で、一人はこの大陸にいる全ての大精霊の加護持ちか。
残る一人は、まだ大精霊に会わせていないのかな。」
テーテュスさんは、興味津々にそう尋ねてきた。
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