上 下
80 / 508
第5章 冬休み、南部地方への旅

第79話 ポルトの港を観に行こう ②

しおりを挟む
 ゆっくりと市場を見た後、次は商店街で交易品を見ようと岸壁沿いの大通りを引き返した。

大きな交易船の前まで戻って来たとき、

「あら、フェイちゃんじゃない、久し振りだね。何百年振りかしら?」

と交易船の方から歩いてきた女性が声をかけてきた。何百年振りって…。

 涼しげなノースリーブのワンピースを纏い薄いシルクのショールを肩にかけたその女性は、見た目はミルトさんよりやや若く見える。
 実際は見た目通りでないことを、彼女自身の言葉が物語っている。

 まあ、フェイさんに声をかけてきた時点で普通ではないことは明らかなんだけど…。

「テーテュス様、ご無沙汰しております。
 テーテュス様がこちらの大陸にいらっしゃるとは存じ上げませんでした。」

 この方、テーテュスさんっていう名前なんだ。
フェイさんが、敬語を使っているところを見ると南大陸の大精霊なのかな。

「やだな、私達には身分なんかないのだから、そう畏まらないでよ。
 私はちょくちょくこの港町には来ているんだよ。
 見てちょうだい、私の船、南大陸でも最新型の大型船なんだ。」

 この船、テーテュスさんのモノなの? 大精霊が船で交易をやっているの?

「テーテュス様、申し訳ございませんが、今はちょっと都合がつきませんので…。
 後ほど、私の方からお伺いさせていただくことでよろしいでしょうか。」

 ヴィクトーリアさんとハイジさんには、精霊の存在を説明していないからね。
ここで、話をされると面倒だ。

「そうなのかい?
 私はフェイちゃんと一緒にいる者たちにも興味があるんだけどね。
 見える者が五人も揃っているなんて珍しい、しかも二人は完全に見える人間ではないかい。
 あ、もしかして、見えない二人には内緒だったのかな。」

 みんなに聞こえる声でそこまで言ってしまったら台無しだよ。

「テーテュス様、お初にお目にかかります。口を挟むことをお許しください。
 フェイ様、こちらのことは気を使っていただかなくても結構です。
 どのみち、隠し通せるものではないと思っていたので。」

 ミルトさんは、精霊の話をヴィクトーリアさん達に説明するつもりのようだ。

「そうか?おまえさん、なかなか気が利くね。気に入ったよ。
 そこのちっちゃい子よ、この船に乗りたくないかい?」

 テーテュスさんがハンナちゃんを船に誘った。

 ハンナちゃんは、わたしの後ろに隠れるような姿勢で顔だけ出して言った。

「おばちゃん、今まで会った中で一番強いの。ハンナを虐めない?」

 ハンナちゃんはテーテュスさんが持つ強大な力を感じ取ったようで少し怯えているようだ。

「ハンナちゃんって言うのかい。
 おばちゃんはハンナちゃんみたいな可愛い子を虐めるなんてしないよ。」

 テーテュスさんがそういうと、ハンナちゃんはわたしの背中から出てきて、

「じゃあ、ハンナ、お船に乗りたい!」

と嬉しそうに答えた。


     **********


 フェイさんは苦い顔をしていたが、ハンナちゃんがテーテュスさんと手を繋いで船に向かってしまったため、全員で船を見学することになった。

 船内を一通り案内されたわたし達は、最後にテーテュスさんの船室に通された。
そこは、船内とは思えないほど広くて立派な作りだった。

 テーテュスさんは、全員をテーブルに着かせるといきなりぶっちゃけた。

「私は、この船の船長で、オーナーでもあるテーテュスだよ。
 まあ、私は人間ではなく、精霊なんだけどね。水の大精霊なんだよ。」

 テーテュスさんが船長をやっているのは趣味みたいなものらしい。
テーテュスさんいわく、『大精霊は暇だ』とのこと。

 南の大陸では、太古の昔から精霊は人間に無干渉だとのこと。
 かつてのこの大陸のように精霊が人に積極的に力を貸すことは無かったんだって。
 この大陸の精霊と同じように自然の秩序を維持することはするけど、ほとんどのことは中位精霊で事足りてしまうとのことだ。
 大精霊クラスだと簡単に天変地異を起こせるので迂闊に力を使えないそうだ。
 魔導王国の引き起こした瘴気汚染せいで、大精霊が浄化に大忙しのこの大陸は異例のようだね。


 普通、大精霊は漂いながら自然の秩序に歪みが生じてないか見守るだけらしいが、テーテュスさんはそれに飽きたらしい。
 まあ、何千年も見守るだけでは飽きもするだろう。

 それで、テーテュスさんは人に手を貸すのではなく、自ら人の営みの真似事を始めたらしい。

 そして、大陸間の交易で成功してこの船を買ったそうだ。
 南大陸とこの大陸の間の海には、潮流が速くて、かつ複雑な海域があり航海が非常に難しいらしい。

 そんな中で、テーテュスさんの船の航海成功率は百パーセントなんだって。
 だってテーテュスさんが潮流を都合の良いように変えられるんだから失敗するはずないよね。
 現在、南大陸の船でこの大陸と確実に往復できるのはテーテュスさんの船だけらしい。


     **********


「それで、フェイちゃん達はどういう集まりなんだい?
 精霊の森から出てこなかったフェイちゃんが人の街に溶け込んでいるなんて吃驚したよ。
 しかも、上位の精霊が七体も揃ってるしね。
 人間の方は精霊を見える者が五人もいる。うち二人は下位精霊まで見えるんだろう。
 私は、最初ここにいる精霊が加護を与えた人間かと思っていたけど、七体の加護を受けたものは一人もいないのだね。
 五人はウンディーネの加護で、一人はこの大陸にいる全ての大精霊の加護持ちか。
 残る一人は、まだ大精霊に会わせていないのかな。」


 テーテュスさんは、興味津々にそう尋ねてきた。
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

魔導具士の落ちこぼれ〜前世を思い出したので、世界を救うことになりそうです〜

OSBP
ファンタジー
科学と魔導が織りなす世界。そんな世界で、アスカ・ニベリウムには一つだけ才能があった。それは、魔導具を作製できる魔導具士としての才だ。だが、『かつて魔導具士は恐怖で世界を支配した』という伝承により、現状、魔導具士は忌み嫌われる存在。肩身の狭い生活をしいられることになる‥‥‥。 そんなアスカの人生は、日本王国のお姫様との出会い、そして恋に落ちたことにより激動する。 ——ある日、アスカと姫様はサニーの丘で今年最大の夕陽を見に行く。夕日の壮大さに魅入られ甘い雰囲気になり、見つめ合う2人。2人の手が触れ合った時…… その瞬間、アスカの脳内に火花が飛び散るような閃光が走り、一瞬気を失ってしまう。 再び目を覚ました時、アスカは前世の記憶を思い出していた‥‥‥ 前世の記憶を思い出したアスカは、自分がなぜ転生したのかを思い出す。 そして、元の世界のような過ちをしないように、この世界を救うために立ち上がる。 この物語は、不遇な人生を送っていた少年が、前世を思い出し世界を救うまでの成り上がり英雄伝である。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!

ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。 私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...