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第5章 冬休み、南部地方への旅

第76話 ポルト公爵が暑苦しい

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 *申し訳ございません。
  本日もお昼に1話投稿しています。
  まだお読みでない方は1話戻ってお読みください。
  よろしくお願いします。

     **********  


「暖かいですわね。今が真冬だとはとても信じられませんわ。」

 三日目の宿泊地で車から降りたヴィクト-リアさんの口から漏れた言葉がそれだった。
 本当に春のような陽気だった。
空調が効いている魔導車から降りるときは、必ずコートを着ているがここでは不要のようだ。

 王都から南へ約三十シュタット、ここはもう別世界のようだよ。
とても同じ国にいるとは思えないくらい暖かいんだもん。

「冬でも農地が青々しているのには驚きましたわ。
 本当に実り豊かな土地なのですね。」

 ヴィクトーリアさんは心底感心したように言うが、多分みんなも驚いていると思うよ。
為政者であるミルトさんも知識では知っていたと思うけど実際に見たのは初めてじゃないかな。

「そうですわね、実はわたくしも見るのは初めてで驚いていたのです。」

 ほらね。
王都付近では寒さが酷くて冬の畑には何も作れないものね。 


 ちなみに畑を青々と彩っていたのは葉物野菜だった。
ハクサイ、コマツナ、チンゲンサイ、どれも王都では秋に収穫し、塩漬けにして冬に食べる物だ。
 ここでは、新鮮な葉物野菜を冬に食べられるということで、夕食に出されたチンゲンサイと鶏肉のクリーム煮はチンゲンサイがシャキシャキっとしてとても美味しかった。

 また、この辺りでは、春から夏の終わりにかけてイネを作り、秋の初めから春にかけて小麦を作っているらしい。
 もっと南に行くと、年二回イネを作っているそうだ。
イネって暖かい場所じゃないと作れないって聞いたけど、冬にかけてイネを作れるほど暖かいんだ。


     **********


 そして四日目、更に陽射しは強くなり、もう初夏って感じになってきた。

 車窓から見える風景は何処までもまっ平らであり、街道の両脇には四角く整備された農地が整然と並んでいる。
そこには黄金色に実って頭を下げる穀物の穂が見える。
きっとあれがイネだ。本当に冬に収穫できるんだね。

「この時期に黄金色に実る作物があるんですね。風にそよいできれいです。」

 ミーナちゃんが感動している。
そうだね、整然とどこまでも続く黄金色の風景はとってもきれいだね。
ミーナちゃんが感動するのも頷けるよ。

 もうすぐ夕暮れという時間になって、黄金色の絨毯の先に果てしなく広がる青い水面が見えてきた。

「あれが海…?」

 誰の発した言葉だろうか?
誰も答える者はいない、みんな初めて見るものだから…。

 そして、わたし達の目的地、ポルトの町が海辺に見えてきた。


     **********


 予定通り四日目の夕方、わたし達は無事にポルトの町に着いた。
 今日はこのまま王家の別荘に行く、ミルトさんのお父さん、ポルト侯爵への挨拶は明日の予定だ。

 王家の別荘は街外れの小高い丘の上にあった。
別荘…? どう見てもこれって離宮って規模だよね。

 王宮より二回りくらいは小さいだろうか、それでも荘厳な大理石造りの宮殿が目の前にあった。
 別荘の車寄せに魔導車を停めると、別荘の中から侍女やら侍従やらがぞろぞろと出てきて魔導車の昇降口の前に整列した。

 助手席のドアから下りたフェイさんが、昇降口の扉を開きステップを降りるミルトさんに手を差し伸べた。
 ミルトさんが車から降りて。

「みなさん、出迎え、ごく…」

「ミルト、よく来たな!何年ぶりだろうか、よく顔を見せておくれ!」

 ミルトさんが言葉を言い終わる前に、初老の紳士がミルトさんを抱き寄せた。

「お父様…?」

「あなた、いきなり現れるからミルトが驚いているではありませんか。」

 ミルトさんのお父さん?の後ろにいた初老のご婦人が注意している。
 どうやら、ミルトさんのお父さん、ポルト公爵は明日ミルトさんの方から挨拶に行くのを待ちきれずにこの別荘で到着を待っていたらしい。
 王様もそうだけど、この国の王族ってフットワークが軽いね。

 ミルトさんに続いてフローラちゃんが車を降りると、ポルト公爵は今度はフローラちゃんを抱きしめて言った。

「おおフローラか、大きくなったな。ミルトの小さい頃そっくりだわい。
 お祖父ちゃんのこと覚えているかい?」

「覚えているわけないでょう、あなたが会ったのはフローラが生まれたときよ。」

 公爵夫人のツッコミが入る。そんな記憶があったら、どんな天才児かって。

 しかし、ポルト公爵がミルトさん達を可愛がっているのは分るが愛情表現が暑苦しすぎるよ。
 

 そして、わたしがハンナちゃんと手を繋いで車を降りた。

「おい、ミルト、なんで二人目ができたことを教えてくれなかったのだ。
 こんな可愛い子ができたのを内緒にするなんて酷いではないか。
 知らせてくれれば仕事を放ってでも会いに行ったのに。」

 ハンナちゃんを見たポルト公爵がミルトさんに言った。

「あら、言ってませんでしたっけ、ハンナちゃんって言うのよ。可愛いでしょう。」

 ミルトさん、しれっと肯定しないでください。
そんなことをしてもハンナちゃんはあげませんよ。

 ハンナちゃんは何のことか分らず、ボーっとしていた。





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