77 / 508
第5章 冬休み、南部地方への旅
第76話 ポルト公爵が暑苦しい
しおりを挟む
*申し訳ございません。
本日もお昼に1話投稿しています。
まだお読みでない方は1話戻ってお読みください。
よろしくお願いします。
**********
「暖かいですわね。今が真冬だとはとても信じられませんわ。」
三日目の宿泊地で車から降りたヴィクト-リアさんの口から漏れた言葉がそれだった。
本当に春のような陽気だった。
空調が効いている魔導車から降りるときは、必ずコートを着ているがここでは不要のようだ。
王都から南へ約三十シュタット、ここはもう別世界のようだよ。
とても同じ国にいるとは思えないくらい暖かいんだもん。
「冬でも農地が青々しているのには驚きましたわ。
本当に実り豊かな土地なのですね。」
ヴィクトーリアさんは心底感心したように言うが、多分みんなも驚いていると思うよ。
為政者であるミルトさんも知識では知っていたと思うけど実際に見たのは初めてじゃないかな。
「そうですわね、実はわたくしも見るのは初めてで驚いていたのです。」
ほらね。
王都付近では寒さが酷くて冬の畑には何も作れないものね。
ちなみに畑を青々と彩っていたのは葉物野菜だった。
ハクサイ、コマツナ、チンゲンサイ、どれも王都では秋に収穫し、塩漬けにして冬に食べる物だ。
ここでは、新鮮な葉物野菜を冬に食べられるということで、夕食に出されたチンゲンサイと鶏肉のクリーム煮はチンゲンサイがシャキシャキっとしてとても美味しかった。
また、この辺りでは、春から夏の終わりにかけてイネを作り、秋の初めから春にかけて小麦を作っているらしい。
もっと南に行くと、年二回イネを作っているそうだ。
イネって暖かい場所じゃないと作れないって聞いたけど、冬にかけてイネを作れるほど暖かいんだ。
**********
そして四日目、更に陽射しは強くなり、もう初夏って感じになってきた。
車窓から見える風景は何処までもまっ平らであり、街道の両脇には四角く整備された農地が整然と並んでいる。
そこには黄金色に実って頭を下げる穀物の穂が見える。
きっとあれがイネだ。本当に冬に収穫できるんだね。
「この時期に黄金色に実る作物があるんですね。風にそよいできれいです。」
ミーナちゃんが感動している。
そうだね、整然とどこまでも続く黄金色の風景はとってもきれいだね。
ミーナちゃんが感動するのも頷けるよ。
もうすぐ夕暮れという時間になって、黄金色の絨毯の先に果てしなく広がる青い水面が見えてきた。
「あれが海…?」
誰の発した言葉だろうか?
誰も答える者はいない、みんな初めて見るものだから…。
そして、わたし達の目的地、ポルトの町が海辺に見えてきた。
**********
予定通り四日目の夕方、わたし達は無事にポルトの町に着いた。
今日はこのまま王家の別荘に行く、ミルトさんのお父さん、ポルト侯爵への挨拶は明日の予定だ。
王家の別荘は街外れの小高い丘の上にあった。
別荘…? どう見てもこれって離宮って規模だよね。
王宮より二回りくらいは小さいだろうか、それでも荘厳な大理石造りの宮殿が目の前にあった。
別荘の車寄せに魔導車を停めると、別荘の中から侍女やら侍従やらがぞろぞろと出てきて魔導車の昇降口の前に整列した。
助手席のドアから下りたフェイさんが、昇降口の扉を開きステップを降りるミルトさんに手を差し伸べた。
ミルトさんが車から降りて。
「みなさん、出迎え、ごく…」
「ミルト、よく来たな!何年ぶりだろうか、よく顔を見せておくれ!」
ミルトさんが言葉を言い終わる前に、初老の紳士がミルトさんを抱き寄せた。
「お父様…?」
「あなた、いきなり現れるからミルトが驚いているではありませんか。」
ミルトさんのお父さん?の後ろにいた初老のご婦人が注意している。
どうやら、ミルトさんのお父さん、ポルト公爵は明日ミルトさんの方から挨拶に行くのを待ちきれずにこの別荘で到着を待っていたらしい。
王様もそうだけど、この国の王族ってフットワークが軽いね。
ミルトさんに続いてフローラちゃんが車を降りると、ポルト公爵は今度はフローラちゃんを抱きしめて言った。
「おおフローラか、大きくなったな。ミルトの小さい頃そっくりだわい。
お祖父ちゃんのこと覚えているかい?」
「覚えているわけないでょう、あなたが会ったのはフローラが生まれたときよ。」
公爵夫人のツッコミが入る。そんな記憶があったら、どんな天才児かって。
しかし、ポルト公爵がミルトさん達を可愛がっているのは分るが愛情表現が暑苦しすぎるよ。
そして、わたしがハンナちゃんと手を繋いで車を降りた。
「おい、ミルト、なんで二人目ができたことを教えてくれなかったのだ。
こんな可愛い子ができたのを内緒にするなんて酷いではないか。
知らせてくれれば仕事を放ってでも会いに行ったのに。」
ハンナちゃんを見たポルト公爵がミルトさんに言った。
「あら、言ってませんでしたっけ、ハンナちゃんって言うのよ。可愛いでしょう。」
ミルトさん、しれっと肯定しないでください。
そんなことをしてもハンナちゃんはあげませんよ。
ハンナちゃんは何のことか分らず、ボーっとしていた。
本日もお昼に1話投稿しています。
まだお読みでない方は1話戻ってお読みください。
よろしくお願いします。
**********
「暖かいですわね。今が真冬だとはとても信じられませんわ。」
三日目の宿泊地で車から降りたヴィクト-リアさんの口から漏れた言葉がそれだった。
本当に春のような陽気だった。
空調が効いている魔導車から降りるときは、必ずコートを着ているがここでは不要のようだ。
王都から南へ約三十シュタット、ここはもう別世界のようだよ。
とても同じ国にいるとは思えないくらい暖かいんだもん。
「冬でも農地が青々しているのには驚きましたわ。
本当に実り豊かな土地なのですね。」
ヴィクトーリアさんは心底感心したように言うが、多分みんなも驚いていると思うよ。
為政者であるミルトさんも知識では知っていたと思うけど実際に見たのは初めてじゃないかな。
「そうですわね、実はわたくしも見るのは初めてで驚いていたのです。」
ほらね。
王都付近では寒さが酷くて冬の畑には何も作れないものね。
ちなみに畑を青々と彩っていたのは葉物野菜だった。
ハクサイ、コマツナ、チンゲンサイ、どれも王都では秋に収穫し、塩漬けにして冬に食べる物だ。
ここでは、新鮮な葉物野菜を冬に食べられるということで、夕食に出されたチンゲンサイと鶏肉のクリーム煮はチンゲンサイがシャキシャキっとしてとても美味しかった。
また、この辺りでは、春から夏の終わりにかけてイネを作り、秋の初めから春にかけて小麦を作っているらしい。
もっと南に行くと、年二回イネを作っているそうだ。
イネって暖かい場所じゃないと作れないって聞いたけど、冬にかけてイネを作れるほど暖かいんだ。
**********
そして四日目、更に陽射しは強くなり、もう初夏って感じになってきた。
車窓から見える風景は何処までもまっ平らであり、街道の両脇には四角く整備された農地が整然と並んでいる。
そこには黄金色に実って頭を下げる穀物の穂が見える。
きっとあれがイネだ。本当に冬に収穫できるんだね。
「この時期に黄金色に実る作物があるんですね。風にそよいできれいです。」
ミーナちゃんが感動している。
そうだね、整然とどこまでも続く黄金色の風景はとってもきれいだね。
ミーナちゃんが感動するのも頷けるよ。
もうすぐ夕暮れという時間になって、黄金色の絨毯の先に果てしなく広がる青い水面が見えてきた。
「あれが海…?」
誰の発した言葉だろうか?
誰も答える者はいない、みんな初めて見るものだから…。
そして、わたし達の目的地、ポルトの町が海辺に見えてきた。
**********
予定通り四日目の夕方、わたし達は無事にポルトの町に着いた。
今日はこのまま王家の別荘に行く、ミルトさんのお父さん、ポルト侯爵への挨拶は明日の予定だ。
王家の別荘は街外れの小高い丘の上にあった。
別荘…? どう見てもこれって離宮って規模だよね。
王宮より二回りくらいは小さいだろうか、それでも荘厳な大理石造りの宮殿が目の前にあった。
別荘の車寄せに魔導車を停めると、別荘の中から侍女やら侍従やらがぞろぞろと出てきて魔導車の昇降口の前に整列した。
助手席のドアから下りたフェイさんが、昇降口の扉を開きステップを降りるミルトさんに手を差し伸べた。
ミルトさんが車から降りて。
「みなさん、出迎え、ごく…」
「ミルト、よく来たな!何年ぶりだろうか、よく顔を見せておくれ!」
ミルトさんが言葉を言い終わる前に、初老の紳士がミルトさんを抱き寄せた。
「お父様…?」
「あなた、いきなり現れるからミルトが驚いているではありませんか。」
ミルトさんのお父さん?の後ろにいた初老のご婦人が注意している。
どうやら、ミルトさんのお父さん、ポルト公爵は明日ミルトさんの方から挨拶に行くのを待ちきれずにこの別荘で到着を待っていたらしい。
王様もそうだけど、この国の王族ってフットワークが軽いね。
ミルトさんに続いてフローラちゃんが車を降りると、ポルト公爵は今度はフローラちゃんを抱きしめて言った。
「おおフローラか、大きくなったな。ミルトの小さい頃そっくりだわい。
お祖父ちゃんのこと覚えているかい?」
「覚えているわけないでょう、あなたが会ったのはフローラが生まれたときよ。」
公爵夫人のツッコミが入る。そんな記憶があったら、どんな天才児かって。
しかし、ポルト公爵がミルトさん達を可愛がっているのは分るが愛情表現が暑苦しすぎるよ。
そして、わたしがハンナちゃんと手を繋いで車を降りた。
「おい、ミルト、なんで二人目ができたことを教えてくれなかったのだ。
こんな可愛い子ができたのを内緒にするなんて酷いではないか。
知らせてくれれば仕事を放ってでも会いに行ったのに。」
ハンナちゃんを見たポルト公爵がミルトさんに言った。
「あら、言ってませんでしたっけ、ハンナちゃんって言うのよ。可愛いでしょう。」
ミルトさん、しれっと肯定しないでください。
そんなことをしてもハンナちゃんはあげませんよ。
ハンナちゃんは何のことか分らず、ボーっとしていた。
26
お気に入りに追加
2,295
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!
ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。
私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる