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第5章 冬休み、南部地方への旅
第74話 冬は風邪の季節です
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*お昼に臨時で1話投稿してあります。
お読みでない方はお手数ですが1話前からお読みください。
よろしくお願いします。
**********
わたし達を乗せた魔導車は一路南を目指す。
この街道は王国一番の往来と言われているだけあって、馬車四台が楽々並べるだけの道幅があり路面の石畳もよく手入れされている。
ミルトさんの話では表面の石畳は何年かに一度取り替えているとのこと。
一番の往来と言っても、生まれた町から出たことがない人が多いこの国で街道を行くのは商隊の馬車が中心で、稀に乗合馬車や貴族の馬車が通るくらいだ。
街道を通る馬車が少なく道の状態も良いため、ソールさんは今までにないほど魔導車の速度を上げている。
だって景色が後ろに飛んでいくように見えるんだもの。なのに全然揺れないの、凄いね。
しばらく走るうちに、雪雲の下は抜けたようで雲の切れ目から陽射しが出ていた。
速度を上げて進んできたので、昼前には最初の宿泊予定地に着いてしまった。
「走っているときにいつもに比べて早いと感じていましたが、こんなに早く着くとは驚きです。
予定では夕方に着くはずだったのですが…。」
フローラちゃんは驚いているが、ミルトさんは早速行動を開始した。
「せっかく早く着いたのです。
この街でも少し治療活動をして精霊神殿の評判を上げておきましょう。
騎士の皆さんは設営をお願いしますね、私は領主に挨拶をしてきますので。」
近衛騎士に指示を出すとミルトさんはサッサと領主館へ入ってしまった。
ミルトさんって普段はおっとりしているのに、凄いバイタリティがあるよね。
すぐに戻ってくるかと思い魔導車の中で待機していたが、結構待つことになった。
ミルトさんは戻ってくると微妙な笑顔で言った。
「わたくし達は非常に良いタイミングでこの町に来たようですわ。
この町では今、たちの悪い風邪が流行っているそうなんです。
領主も高熱を出して寝込んでいたのですが、わたくしが治療してきました。
初日から領主に恩を売ることができたのを喜ぶべきか、微妙なところですね。
町にも患者さんは多いようなのでハリキッて行きましょう!」
**********
中央広場に行くと慣れたもので既に天幕が張られ準備が整っていた。
ちゃんと、『精霊神殿 臨時診療所』と大きく書かれた看板が立てられており、ご丁寧に『どなたでも無償で治療いたします。』と一回り小さな字で注釈までついている。
領主の指示で領主館の役人が町中に触れ回ったためすぐに患者が集まってきた。
やっぱり体力がないせいか、子供の方が症状が重いようだ。
ハンナちゃんに風邪がうつったら困るので、今回は魔導車の中でヴィクトーリアさんたちに遊んでもらうことにした。
いつもの要領で、風邪のもとを『浄化』で消し去り、『癒し』で体力を回復するという手順で患者さんを治療していく。
一体この町の人のどの位が風邪を引いているんだろうか?
ぜんぜん患者さんが減らないような気がする。
ミーナちゃんの顔にも疲労の色が見えるよ。
「ターニャちゃん、もうすぐ日が暮れるのに患者さんが減らないけど大丈夫でしょうか?」
ミーナちゃんが不安げに話しかけてきた。
「この町にそんなにたくさんの人がいるとは思えないんで、そろそろ減ってくると思うんだけど…。」
そう返事をしたとき、若い女性が天幕に走りこんできた。
女性は向こうの天幕ですよと言おうとしたとき、その女性は叫ぶように言った。
「うちの子がぐったりしちゃって、泣くこともできないんです。どうか助けてください!」
よく見るとおくるみに包まれた赤ちゃんを抱いている。
「ちょっと見せてくださいね。」
わたしは、赤ちゃんに近付いておくるみの中を覗き込んだ。
確かに酷い熱のようでぐったりとしている。大丈夫なのかな?
この子が一刻を争うような状態なのかまでは分らないが、治療は早い方がいいだろう。
わたしは並んでいる患者さんに順番を譲ってもらうようにお願いして先に赤ちゃんを診る事にした。
他の人と同じように『浄化』をかけてみる。効いてはいるようだ。
もう少し強く『浄化』をかけると熱は引いたみたいで、呼吸も安定してきた。
今度は、様子を見ながら『癒し』をかけていく。
しばらくすると、赤ちゃんはおくるみの中でもぞもぞと動き出し、いきなり泣き始めた。
これで大丈夫なんだろうか?
こちらも八歳の子供だ、医者じゃないから喋らない赤ちゃんが治ったかどうかは自信がない。
大人だったら自分の状態を説明してくれるから、これでいいか判断できるんだけどね。
「あらあら、お腹が空いたんでちゅねー」
そう言って若いお母さんがいきなり赤ちゃんにお乳をあげ始めた。
そこのお母さん、ここは男性用の天幕ですよ。みんな見てますよ。
さっきまでは風邪のせいでお乳を飲む元気もなかったのだろう、凄い勢いでお母さんの乳を吸っている。
このくらい乳を吸う元気があればもう大丈夫かな?
「有り難うございます。
この子がぐったりしてしまった時にはどうしたら良いのか分らず慌ててしまって。
こんなに元気に乳を吸ってるので、もう大丈夫だと思います。」
お母さんがそういうのなら一安心だ。良かったね元気になって。
他の患者さんが前屈みになっているのは何故だろう?みんな急に具合が悪くなったの?
結局集まった患者さんの治療が終わったときにはすっかり日が暮れてしまった。
天幕から出ると新しい看板が一つ置いてあった。
その看板には、
『精霊神殿の教え
風邪の予防の秘訣
外から帰ったら必ず手を洗って、うがいをしましょう。』
と大きく書いてあった。
精霊神殿の教え?そんな事まで書いてあるの?
本当に宗教じゃないよね、精霊神殿って。
領主館に戻ると領主に凄い歓待を受けた。
晩御飯は凄く豪華だったよ、疲れてあまり食欲はなかったけど。
そして翌日、予定通りに領主館を出発したわたし達は、先を急ぐ魔導車の中で泥のように眠っていた。
お読みでない方はお手数ですが1話前からお読みください。
よろしくお願いします。
**********
わたし達を乗せた魔導車は一路南を目指す。
この街道は王国一番の往来と言われているだけあって、馬車四台が楽々並べるだけの道幅があり路面の石畳もよく手入れされている。
ミルトさんの話では表面の石畳は何年かに一度取り替えているとのこと。
一番の往来と言っても、生まれた町から出たことがない人が多いこの国で街道を行くのは商隊の馬車が中心で、稀に乗合馬車や貴族の馬車が通るくらいだ。
街道を通る馬車が少なく道の状態も良いため、ソールさんは今までにないほど魔導車の速度を上げている。
だって景色が後ろに飛んでいくように見えるんだもの。なのに全然揺れないの、凄いね。
しばらく走るうちに、雪雲の下は抜けたようで雲の切れ目から陽射しが出ていた。
速度を上げて進んできたので、昼前には最初の宿泊予定地に着いてしまった。
「走っているときにいつもに比べて早いと感じていましたが、こんなに早く着くとは驚きです。
予定では夕方に着くはずだったのですが…。」
フローラちゃんは驚いているが、ミルトさんは早速行動を開始した。
「せっかく早く着いたのです。
この街でも少し治療活動をして精霊神殿の評判を上げておきましょう。
騎士の皆さんは設営をお願いしますね、私は領主に挨拶をしてきますので。」
近衛騎士に指示を出すとミルトさんはサッサと領主館へ入ってしまった。
ミルトさんって普段はおっとりしているのに、凄いバイタリティがあるよね。
すぐに戻ってくるかと思い魔導車の中で待機していたが、結構待つことになった。
ミルトさんは戻ってくると微妙な笑顔で言った。
「わたくし達は非常に良いタイミングでこの町に来たようですわ。
この町では今、たちの悪い風邪が流行っているそうなんです。
領主も高熱を出して寝込んでいたのですが、わたくしが治療してきました。
初日から領主に恩を売ることができたのを喜ぶべきか、微妙なところですね。
町にも患者さんは多いようなのでハリキッて行きましょう!」
**********
中央広場に行くと慣れたもので既に天幕が張られ準備が整っていた。
ちゃんと、『精霊神殿 臨時診療所』と大きく書かれた看板が立てられており、ご丁寧に『どなたでも無償で治療いたします。』と一回り小さな字で注釈までついている。
領主の指示で領主館の役人が町中に触れ回ったためすぐに患者が集まってきた。
やっぱり体力がないせいか、子供の方が症状が重いようだ。
ハンナちゃんに風邪がうつったら困るので、今回は魔導車の中でヴィクトーリアさんたちに遊んでもらうことにした。
いつもの要領で、風邪のもとを『浄化』で消し去り、『癒し』で体力を回復するという手順で患者さんを治療していく。
一体この町の人のどの位が風邪を引いているんだろうか?
ぜんぜん患者さんが減らないような気がする。
ミーナちゃんの顔にも疲労の色が見えるよ。
「ターニャちゃん、もうすぐ日が暮れるのに患者さんが減らないけど大丈夫でしょうか?」
ミーナちゃんが不安げに話しかけてきた。
「この町にそんなにたくさんの人がいるとは思えないんで、そろそろ減ってくると思うんだけど…。」
そう返事をしたとき、若い女性が天幕に走りこんできた。
女性は向こうの天幕ですよと言おうとしたとき、その女性は叫ぶように言った。
「うちの子がぐったりしちゃって、泣くこともできないんです。どうか助けてください!」
よく見るとおくるみに包まれた赤ちゃんを抱いている。
「ちょっと見せてくださいね。」
わたしは、赤ちゃんに近付いておくるみの中を覗き込んだ。
確かに酷い熱のようでぐったりとしている。大丈夫なのかな?
この子が一刻を争うような状態なのかまでは分らないが、治療は早い方がいいだろう。
わたしは並んでいる患者さんに順番を譲ってもらうようにお願いして先に赤ちゃんを診る事にした。
他の人と同じように『浄化』をかけてみる。効いてはいるようだ。
もう少し強く『浄化』をかけると熱は引いたみたいで、呼吸も安定してきた。
今度は、様子を見ながら『癒し』をかけていく。
しばらくすると、赤ちゃんはおくるみの中でもぞもぞと動き出し、いきなり泣き始めた。
これで大丈夫なんだろうか?
こちらも八歳の子供だ、医者じゃないから喋らない赤ちゃんが治ったかどうかは自信がない。
大人だったら自分の状態を説明してくれるから、これでいいか判断できるんだけどね。
「あらあら、お腹が空いたんでちゅねー」
そう言って若いお母さんがいきなり赤ちゃんにお乳をあげ始めた。
そこのお母さん、ここは男性用の天幕ですよ。みんな見てますよ。
さっきまでは風邪のせいでお乳を飲む元気もなかったのだろう、凄い勢いでお母さんの乳を吸っている。
このくらい乳を吸う元気があればもう大丈夫かな?
「有り難うございます。
この子がぐったりしてしまった時にはどうしたら良いのか分らず慌ててしまって。
こんなに元気に乳を吸ってるので、もう大丈夫だと思います。」
お母さんがそういうのなら一安心だ。良かったね元気になって。
他の患者さんが前屈みになっているのは何故だろう?みんな急に具合が悪くなったの?
結局集まった患者さんの治療が終わったときにはすっかり日が暮れてしまった。
天幕から出ると新しい看板が一つ置いてあった。
その看板には、
『精霊神殿の教え
風邪の予防の秘訣
外から帰ったら必ず手を洗って、うがいをしましょう。』
と大きく書いてあった。
精霊神殿の教え?そんな事まで書いてあるの?
本当に宗教じゃないよね、精霊神殿って。
領主館に戻ると領主に凄い歓待を受けた。
晩御飯は凄く豪華だったよ、疲れてあまり食欲はなかったけど。
そして翌日、予定通りに領主館を出発したわたし達は、先を急ぐ魔導車の中で泥のように眠っていた。
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