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第4章 学園祭
第67話 学園祭⑤ 運動会ってこれでいいの?
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*今日、15時に臨時で1話投稿しています。
お読みでない方は、1話戻ってお読みください。
**********
学園祭最終日、今日は初等部の運動会がある。
澄み渡る青空、絶好の運動会日和だ。
初等部の運動場へ向かう魔導車の中、フローラちゃんの顔色が優れない。
「わたくし、ずっと病気がちでしたので体を動かすのに慣れていなくて運動は苦手ですわ。」
今まで瘴気過敏症に悩まされていたフローラちゃんは運動などしたことがなかったので、運動会は憂鬱らしい。
だからと言って、人に面倒な役を振るのはやめて欲しかった。
*************
初等部の運動場は、一周五十シュトラーセあり、徒競走は直線部分を使う十シュトラーセ走、トラックを半周する二十五シュトラーセ走、トラックを一周する五十シュトラーセ走があり、この三つとクラス対抗リレーがガチの競技である。男子はこれに出たがるのだ、元気だね。
全員参加なのは、綱引きと玉入れの二つだ。
そして、学園名物、障害物競走とストーンシューティング。
一見競技が少なそうに見えるが、これを四学年全てで行うので結構時間が掛かるみたいだ。
ちなみにシュトラーセというのは、街道に設置された『村』と『村』の間の距離を示すドルフの千分の一の長さであり、街道の幅員は最低一シュトラーセと決められているそうだ。
長い距離の尺度の中心がシュタットなのに対し、短い長さの基準になるのがシュトラーセだ。
シュトラーセの百分の一をセンチシュトラーセ又は単にセンチと言い最も身近な長さの単位だ。
最初の競技は花形種目の十シュトラーセ走だ、うちのクラスの代表は男子のリーダーになっているリーンハルト君だ。
一年生のクラス代表全員がスタートラインに付く、スターターの「用意」の合図でみんなスターティング姿勢に入る。
うん?リーンハルト君だけはスタートラインでボーッと立ったままだよ?
そしてスタートの合図、極小の爆裂魔法が「パーン」という音を響かせた。
各者一斉にスタートとはならず、何故かリーンハルト君はまだスタートラインにいる。
わたしが首をかしげた瞬間、もの凄い風が吹いた。
追い風にのって凄いスピードで走り始めるリーンハルト君、先行する走者をごぼう抜きだ。
ええええ!それってありなの?普通に反則でしょう。
その後も風は衰えず、リーンハルト君は一人だけ凄い追い風に乗ってゴールする。
リーンハルト君、ぶっちぎりの一番だ、それでいいの?
他のクラスからクレームが付くんじゃないかと思っていたら、あっさりと順位が確定した。
その後の二年生以上の競技を見ていたら、みんな普通に魔法を使っていたよ。
どうも一年生は、リーンハルト君以外は魔法を使いこなせないので使わなかっただけみたい。
最高学年の四年生の先輩なんか、ほとんど風にのって飛んでいたよ、それ走ってないよね。
**********
そして、全員参加の玉入れ、これはフィールドを使って全クラス一斉に行う。
この競技のキモは、玉を入れる籠は他のクラスの担任が魔法で動かすこと。
上下左右に籠を動かして玉を入り難くするんだよ、意地悪な競技だね。
でもこれは、事前に対策済みだ。
わたしが『特別クラス』と書かれた籠を風のおチビちゃんに捕まえさせる。
そして、それを地面すれすれまで降ろしてきたところを、フローラちゃんが土のおチビちゃんに固定させた。
傍から見れば、風魔法で籠を捕まえて土魔法で地面に固定したように見えただろう。
あとは、ありったけの玉を籠に入れるだけ、球を投げる必要もない。
何度も言うようだけど、これって本当にいいの?競技の本質から違ってるでしょう?
本来これって、わたし達みたいな小さい子が一生懸命に玉を放り投げる姿を見て父兄が和むモノだと思う。
間違っても籠を捕まえる競技ではないと思うよ。
わたしとフローラちゃん以外はゴミ箱にゴミを捨てるように、籠に玉を放り込むだけなんだもん。
見ている父兄も楽しくないと思うよ。
そうでもなかった、観客席から、
「今年の一年生は凄いな、籠を捕まえちゃったぞ。」
「あの風魔法を使ったの誰だ?凄いコントロールだ。」
「いやあの土魔法もすごいだろう、あれってフローラ王女じゃないか?」
という声が聞こえてきた。結構受けているようだ。
上級生の競技を見ていて納得、凄かったのはやはり四年生で、クラス全員の玉を集めて風魔法で籠を追尾させて全部入れてしまった。
「ホーミング」っていう魔法なんだって、初めて聞いた。
そういうことで、クレームが付くでもなく玉入れはうちのクラスの圧勝だった。
用意された玉一つ残らず入れたもんね。
**********
クラス全員参加種目その二、綱引き、これはトーナメントだった。
五クラスしかないので二山しかない。
一つ目の山は、五組と四組の勝者が二組と対戦し、二つ目の山は三組とうちのクラスが対戦する。
そして、各山の勝者で決勝戦だ。
最初の五組と四組の対戦を見る。
両クラス二十人全員が一生懸命綱を引いている。
時々踏ん張りきれずに転んで綱に引き摺られる子がいる。
微笑ましい光景だ、きっと父兄はこういうのが見たいんだと思うよ。
次はわたし達の番だ、対戦相手は三組だ。
両クラスとも全員が縄を持ち『開始』の合図を待つ、パーンという合図が鳴った。
と同時にミーナちゃんの術が発動、三組の足元がぬかるみに変わる。
踏ん張ることができなかった三組のみんなは、わたし達のクラスに引き摺られてあえなく敗退した。
この間、わずか十秒弱、わたし達のクラスの圧勝だ。
だから、何か間違っているって、全然子供らしさとか、爽やかさとかが感じられないって。
三組の子なんかみんな泥だらけになっているし、かわいそうに。
全員に浄化の術を掛けてあげたら凄く感謝された、せめてもの罪滅ぼしだよ。
クラスの他の子達はわたしのようには思っていないらしくて、勝った勝ったと喜んでいる。
この学園の運動会ってこんなものなんだ。
そして決勝戦、もう一つの山を勝ち抜いてきたのは二組だ。
うちのクラスは今回も同じ作戦だ、今回の術担当はフローラちゃんだ。
開始の合図と共にフローラちゃんが術を発動する。
「えっ?」
そのとき、わたしの足元がぬかるんだ。
「しまった、二組も同じ作戦を使ってきたぞ!みんな踏ん張れ!」
リーンハルト君がとっさにみんなに指示を出した。
さすが、学年で二番目に優秀なクラスだけあって、土魔法と水魔法でぬかるみくらい作れる生徒がいたらしい。
一方で、わたし達はすっかり油断していたよ。文字通り足元を掬われてしまったね。
お互いにぬかるみの中で奮闘することになった。
きっとこういうのを『泥仕合』って言うんだね、え、違うって?
そのとき、 リーンハルト君がお得意の風魔法を使った。
二組に対して追い風になるように強風を吹かせた。
風にあおられた二組のみんながこちらに引っ張られてきた。
あっ、ぬかるみに倒れこんだ子がいる、気の毒に。
結局、 リーンハルト君が機転を利かせてくれたおかげでわたし達のクラスが優勝した。
何か、こうじゃない感が酷いのですが…。
(設定注釈)
一ドルフ=五キロメートル (馬車が継続して一時間に走れる距離)
一シュトラーセ=五メートル(一ドルフの千分の一、街道の最低道路幅員)
一センチシュトラーセ=五センチメートル(一番使う長さの単位、単にセンチとも)
お読みでない方は、1話戻ってお読みください。
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学園祭最終日、今日は初等部の運動会がある。
澄み渡る青空、絶好の運動会日和だ。
初等部の運動場へ向かう魔導車の中、フローラちゃんの顔色が優れない。
「わたくし、ずっと病気がちでしたので体を動かすのに慣れていなくて運動は苦手ですわ。」
今まで瘴気過敏症に悩まされていたフローラちゃんは運動などしたことがなかったので、運動会は憂鬱らしい。
だからと言って、人に面倒な役を振るのはやめて欲しかった。
*************
初等部の運動場は、一周五十シュトラーセあり、徒競走は直線部分を使う十シュトラーセ走、トラックを半周する二十五シュトラーセ走、トラックを一周する五十シュトラーセ走があり、この三つとクラス対抗リレーがガチの競技である。男子はこれに出たがるのだ、元気だね。
全員参加なのは、綱引きと玉入れの二つだ。
そして、学園名物、障害物競走とストーンシューティング。
一見競技が少なそうに見えるが、これを四学年全てで行うので結構時間が掛かるみたいだ。
ちなみにシュトラーセというのは、街道に設置された『村』と『村』の間の距離を示すドルフの千分の一の長さであり、街道の幅員は最低一シュトラーセと決められているそうだ。
長い距離の尺度の中心がシュタットなのに対し、短い長さの基準になるのがシュトラーセだ。
シュトラーセの百分の一をセンチシュトラーセ又は単にセンチと言い最も身近な長さの単位だ。
最初の競技は花形種目の十シュトラーセ走だ、うちのクラスの代表は男子のリーダーになっているリーンハルト君だ。
一年生のクラス代表全員がスタートラインに付く、スターターの「用意」の合図でみんなスターティング姿勢に入る。
うん?リーンハルト君だけはスタートラインでボーッと立ったままだよ?
そしてスタートの合図、極小の爆裂魔法が「パーン」という音を響かせた。
各者一斉にスタートとはならず、何故かリーンハルト君はまだスタートラインにいる。
わたしが首をかしげた瞬間、もの凄い風が吹いた。
追い風にのって凄いスピードで走り始めるリーンハルト君、先行する走者をごぼう抜きだ。
ええええ!それってありなの?普通に反則でしょう。
その後も風は衰えず、リーンハルト君は一人だけ凄い追い風に乗ってゴールする。
リーンハルト君、ぶっちぎりの一番だ、それでいいの?
他のクラスからクレームが付くんじゃないかと思っていたら、あっさりと順位が確定した。
その後の二年生以上の競技を見ていたら、みんな普通に魔法を使っていたよ。
どうも一年生は、リーンハルト君以外は魔法を使いこなせないので使わなかっただけみたい。
最高学年の四年生の先輩なんか、ほとんど風にのって飛んでいたよ、それ走ってないよね。
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そして、全員参加の玉入れ、これはフィールドを使って全クラス一斉に行う。
この競技のキモは、玉を入れる籠は他のクラスの担任が魔法で動かすこと。
上下左右に籠を動かして玉を入り難くするんだよ、意地悪な競技だね。
でもこれは、事前に対策済みだ。
わたしが『特別クラス』と書かれた籠を風のおチビちゃんに捕まえさせる。
そして、それを地面すれすれまで降ろしてきたところを、フローラちゃんが土のおチビちゃんに固定させた。
傍から見れば、風魔法で籠を捕まえて土魔法で地面に固定したように見えただろう。
あとは、ありったけの玉を籠に入れるだけ、球を投げる必要もない。
何度も言うようだけど、これって本当にいいの?競技の本質から違ってるでしょう?
本来これって、わたし達みたいな小さい子が一生懸命に玉を放り投げる姿を見て父兄が和むモノだと思う。
間違っても籠を捕まえる競技ではないと思うよ。
わたしとフローラちゃん以外はゴミ箱にゴミを捨てるように、籠に玉を放り込むだけなんだもん。
見ている父兄も楽しくないと思うよ。
そうでもなかった、観客席から、
「今年の一年生は凄いな、籠を捕まえちゃったぞ。」
「あの風魔法を使ったの誰だ?凄いコントロールだ。」
「いやあの土魔法もすごいだろう、あれってフローラ王女じゃないか?」
という声が聞こえてきた。結構受けているようだ。
上級生の競技を見ていて納得、凄かったのはやはり四年生で、クラス全員の玉を集めて風魔法で籠を追尾させて全部入れてしまった。
「ホーミング」っていう魔法なんだって、初めて聞いた。
そういうことで、クレームが付くでもなく玉入れはうちのクラスの圧勝だった。
用意された玉一つ残らず入れたもんね。
**********
クラス全員参加種目その二、綱引き、これはトーナメントだった。
五クラスしかないので二山しかない。
一つ目の山は、五組と四組の勝者が二組と対戦し、二つ目の山は三組とうちのクラスが対戦する。
そして、各山の勝者で決勝戦だ。
最初の五組と四組の対戦を見る。
両クラス二十人全員が一生懸命綱を引いている。
時々踏ん張りきれずに転んで綱に引き摺られる子がいる。
微笑ましい光景だ、きっと父兄はこういうのが見たいんだと思うよ。
次はわたし達の番だ、対戦相手は三組だ。
両クラスとも全員が縄を持ち『開始』の合図を待つ、パーンという合図が鳴った。
と同時にミーナちゃんの術が発動、三組の足元がぬかるみに変わる。
踏ん張ることができなかった三組のみんなは、わたし達のクラスに引き摺られてあえなく敗退した。
この間、わずか十秒弱、わたし達のクラスの圧勝だ。
だから、何か間違っているって、全然子供らしさとか、爽やかさとかが感じられないって。
三組の子なんかみんな泥だらけになっているし、かわいそうに。
全員に浄化の術を掛けてあげたら凄く感謝された、せめてもの罪滅ぼしだよ。
クラスの他の子達はわたしのようには思っていないらしくて、勝った勝ったと喜んでいる。
この学園の運動会ってこんなものなんだ。
そして決勝戦、もう一つの山を勝ち抜いてきたのは二組だ。
うちのクラスは今回も同じ作戦だ、今回の術担当はフローラちゃんだ。
開始の合図と共にフローラちゃんが術を発動する。
「えっ?」
そのとき、わたしの足元がぬかるんだ。
「しまった、二組も同じ作戦を使ってきたぞ!みんな踏ん張れ!」
リーンハルト君がとっさにみんなに指示を出した。
さすが、学年で二番目に優秀なクラスだけあって、土魔法と水魔法でぬかるみくらい作れる生徒がいたらしい。
一方で、わたし達はすっかり油断していたよ。文字通り足元を掬われてしまったね。
お互いにぬかるみの中で奮闘することになった。
きっとこういうのを『泥仕合』って言うんだね、え、違うって?
そのとき、 リーンハルト君がお得意の風魔法を使った。
二組に対して追い風になるように強風を吹かせた。
風にあおられた二組のみんながこちらに引っ張られてきた。
あっ、ぬかるみに倒れこんだ子がいる、気の毒に。
結局、 リーンハルト君が機転を利かせてくれたおかげでわたし達のクラスが優勝した。
何か、こうじゃない感が酷いのですが…。
(設定注釈)
一ドルフ=五キロメートル (馬車が継続して一時間に走れる距離)
一シュトラーセ=五メートル(一ドルフの千分の一、街道の最低道路幅員)
一センチシュトラーセ=五センチメートル(一番使う長さの単位、単にセンチとも)
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