45 / 508
第3章 夏休み、帝国への旅
第44話 東の町の街角で
しおりを挟む
帝都を出発して三日が過ぎた、今わたし達は帝国で最も東にある城郭都市オストエンデにいる。
初日に魔法部隊がわたし達に対する襲撃に失敗したあとは、わたし達に害を及ぼそうとする者は誰もなかった。
わたしが皇帝と話した後すぐに、わたし達に何らかの危害を加えようとする指示を出したとしても、その指示は未だここまでは到達しておらず、この町は安全なはずだとハイジさんは言っている。
わたし達は、辺境へ踏み込む前にこの町で補給をするため、二日間留まることにした。
宿泊するのはこの町で最も格式の高いホテルだ、主寝室二つに、従者部屋、リビング、浴室がついた部屋をとる。
ヴィクトーリアさんとハイジさんの安全を考えるとわたし達と一緒の部屋の方がいいからね。
「ターニャちゃんの用意してくれた魔導車があまりにも快適なので、このホテルが居心地がいまいちに感じるわ。
人間ってすぐ贅沢に慣れるからダメね。」
ヴィクトーリアさんが扇で自分を扇ぎながら言った。
たしかに、魔導車の中と違って魔導空調機がないので夏の暑さが堪えるのだろう。
これでも、わたしとミーナちゃんが瘴気に弱いので、光のおチビちゃんに『浄化』を続けてもらっている。
空気が清浄な分だけ過ごし易いはずだが、病み上がりのヴィクトーリアさんには厳しいのかな。
「ヴィクトーリア様、お体の調子が良くないようですので、少しお部屋の温度を下げますね。
アリエルさん、お願いしてもよろしいかしら。」
わたしは、アリエルさんに頼んで室温を少し下げてもらうことにした。
さすがに、大気をつかさどる風の上位精霊だけあって、あっという間に快適な温度に下がった。
「ターニャちゃんだけでなく、お供の方も器用に魔法を使いこなすのですね。
大分過ごしやすくなりましたわ、ありがとう。」
ヴィクトーリアさんは、アリエルさんの室温操作の巧みさに驚きを隠せない様子だった。
************
オストエンデの町滞在二日目、わたし達は市場に食べ物の買出しに出かけた。
ソールさんによると市場に並ぶ食料品の価格は、ヴィーナヴァルトより相当高いらしい。
凶作のため食料品が品薄になっていて、価格が上がっているみたいだ。
それでも、今後の旅路に必要な食べ物を確保して街を歩いていると、フードを被った小さな子供が道の端に蹲っているのが見えた。
具合が悪いのかと思い近づこうとしたところで、露天で野菜を売っている男に声をかけられた。
「そいつは、市場で廃棄される野菜屑なんかを漁りにきているスラムの住人だ。
おおかた、空腹で動くことも出来ないんだろう。
関わりにならん方がいいぞ。」
こんな小さな子が、野菜屑で飢えを凌いでいるのか。
わたしも、おかあさん達に拾ってもらえなければ、こういう風になっていたんだろうな。
「あなた、大丈夫ですか?」
わたしは子供に声をかけるが返事はなく、力なく蹲るだけだった。
病気ではないようだが非常に汚れていたので、いつものように『浄化』と『癒し』をセットで施した。
「あなた、大丈夫ですか?」
子供の顔色が良くなったので再び声をかけてみた。
「お腹が空いた……。」
うっすらと目を開いた子供がたった一言呟いた。
「フェイさん、何か消化のよさそうな食べ物はないですか?」
フェイさんが、甘い瓜を切ったものを露天で買ってきてくれた。
わたしが、子供に瓜を差し出し「お食べ。」というと、子供は一心不乱に瓜に喰らいついた。
よほどお腹が空いていたのだろう結構な大きさの瓜をほぼ一つ食べ尽くしたころ、こちらを気にする余裕ができたようだ。
「お姉ちゃんたち、食べ物を恵んでくれて有り難うございました。
もう三日も何も食べてなくて、動けなかったの。」
こんな小さな子供が三日も何も食べれられないのはさぞかし辛かっただろう。
「あなた、お名前は、ご両親は何処にいるの。」
「あたしは、ハンナっていうの。
パパとママは、この町の広場でここで待ってなさいと言って何処かへ行ったの。
広場でずっと待ってたんだけど、迎えに来てくれなくて。
泣いてたら、知らないお兄ちゃんがきて、ハンナは捨てられたんだって言うの。
それから、そのお兄ちゃんとスラムというところに居たんだけどお兄ちゃんも居なくなっちゃって。」
「ターニャちゃん、この子どうするの?
このままじゃ、暮らしていけないと思うよ。」
ハンナちゃんの話を聞いたミーナちゃんが尋ねてきた。
「ソールさん、この子を連れて行きたいのだけど、ダメかな?」
やっぱり、わたしと同じような境遇の子を放っておくことはできないよね。
「ティターニアお嬢様、分ってると思いますが、私達は全ての孤児を救うことなど出来ないのですよ。
現実問題として、この子を連れて行ったら魔導車の定員からいって、同じような境遇の子がいてももう連れて行けませんよ。
それでもいいですか?」
「わたしの手は小さく、全ての恵まれない子供に手を差し伸べることはできないのは解っています。
でも、この子とこうして出会ったのも何かの縁です。
きっとここで連れて行かなければ後で悔やむことになると思います。」
「ティターニアお嬢様がそうおっしゃるなら、私は反対したしません。」
ソールさんの承諾が得られたので、ハンナちゃんを誘うことにする。
「ハンナちゃん、もし良かったらお姉ちゃんたちと一緒に来ない?
おなかいっぱいのご飯を食べさせてあげるよ。」
「本当?」
「うん、本当だよ。」
「ハンナをおいて、何処かへ行っちゃわない?」
「大丈夫、ずっと一緒だよ。」
「じゃあ行く!」
こうして、ハンナちゃんがわたし達に加わることになった。
初日に魔法部隊がわたし達に対する襲撃に失敗したあとは、わたし達に害を及ぼそうとする者は誰もなかった。
わたしが皇帝と話した後すぐに、わたし達に何らかの危害を加えようとする指示を出したとしても、その指示は未だここまでは到達しておらず、この町は安全なはずだとハイジさんは言っている。
わたし達は、辺境へ踏み込む前にこの町で補給をするため、二日間留まることにした。
宿泊するのはこの町で最も格式の高いホテルだ、主寝室二つに、従者部屋、リビング、浴室がついた部屋をとる。
ヴィクトーリアさんとハイジさんの安全を考えるとわたし達と一緒の部屋の方がいいからね。
「ターニャちゃんの用意してくれた魔導車があまりにも快適なので、このホテルが居心地がいまいちに感じるわ。
人間ってすぐ贅沢に慣れるからダメね。」
ヴィクトーリアさんが扇で自分を扇ぎながら言った。
たしかに、魔導車の中と違って魔導空調機がないので夏の暑さが堪えるのだろう。
これでも、わたしとミーナちゃんが瘴気に弱いので、光のおチビちゃんに『浄化』を続けてもらっている。
空気が清浄な分だけ過ごし易いはずだが、病み上がりのヴィクトーリアさんには厳しいのかな。
「ヴィクトーリア様、お体の調子が良くないようですので、少しお部屋の温度を下げますね。
アリエルさん、お願いしてもよろしいかしら。」
わたしは、アリエルさんに頼んで室温を少し下げてもらうことにした。
さすがに、大気をつかさどる風の上位精霊だけあって、あっという間に快適な温度に下がった。
「ターニャちゃんだけでなく、お供の方も器用に魔法を使いこなすのですね。
大分過ごしやすくなりましたわ、ありがとう。」
ヴィクトーリアさんは、アリエルさんの室温操作の巧みさに驚きを隠せない様子だった。
************
オストエンデの町滞在二日目、わたし達は市場に食べ物の買出しに出かけた。
ソールさんによると市場に並ぶ食料品の価格は、ヴィーナヴァルトより相当高いらしい。
凶作のため食料品が品薄になっていて、価格が上がっているみたいだ。
それでも、今後の旅路に必要な食べ物を確保して街を歩いていると、フードを被った小さな子供が道の端に蹲っているのが見えた。
具合が悪いのかと思い近づこうとしたところで、露天で野菜を売っている男に声をかけられた。
「そいつは、市場で廃棄される野菜屑なんかを漁りにきているスラムの住人だ。
おおかた、空腹で動くことも出来ないんだろう。
関わりにならん方がいいぞ。」
こんな小さな子が、野菜屑で飢えを凌いでいるのか。
わたしも、おかあさん達に拾ってもらえなければ、こういう風になっていたんだろうな。
「あなた、大丈夫ですか?」
わたしは子供に声をかけるが返事はなく、力なく蹲るだけだった。
病気ではないようだが非常に汚れていたので、いつものように『浄化』と『癒し』をセットで施した。
「あなた、大丈夫ですか?」
子供の顔色が良くなったので再び声をかけてみた。
「お腹が空いた……。」
うっすらと目を開いた子供がたった一言呟いた。
「フェイさん、何か消化のよさそうな食べ物はないですか?」
フェイさんが、甘い瓜を切ったものを露天で買ってきてくれた。
わたしが、子供に瓜を差し出し「お食べ。」というと、子供は一心不乱に瓜に喰らいついた。
よほどお腹が空いていたのだろう結構な大きさの瓜をほぼ一つ食べ尽くしたころ、こちらを気にする余裕ができたようだ。
「お姉ちゃんたち、食べ物を恵んでくれて有り難うございました。
もう三日も何も食べてなくて、動けなかったの。」
こんな小さな子供が三日も何も食べれられないのはさぞかし辛かっただろう。
「あなた、お名前は、ご両親は何処にいるの。」
「あたしは、ハンナっていうの。
パパとママは、この町の広場でここで待ってなさいと言って何処かへ行ったの。
広場でずっと待ってたんだけど、迎えに来てくれなくて。
泣いてたら、知らないお兄ちゃんがきて、ハンナは捨てられたんだって言うの。
それから、そのお兄ちゃんとスラムというところに居たんだけどお兄ちゃんも居なくなっちゃって。」
「ターニャちゃん、この子どうするの?
このままじゃ、暮らしていけないと思うよ。」
ハンナちゃんの話を聞いたミーナちゃんが尋ねてきた。
「ソールさん、この子を連れて行きたいのだけど、ダメかな?」
やっぱり、わたしと同じような境遇の子を放っておくことはできないよね。
「ティターニアお嬢様、分ってると思いますが、私達は全ての孤児を救うことなど出来ないのですよ。
現実問題として、この子を連れて行ったら魔導車の定員からいって、同じような境遇の子がいてももう連れて行けませんよ。
それでもいいですか?」
「わたしの手は小さく、全ての恵まれない子供に手を差し伸べることはできないのは解っています。
でも、この子とこうして出会ったのも何かの縁です。
きっとここで連れて行かなければ後で悔やむことになると思います。」
「ティターニアお嬢様がそうおっしゃるなら、私は反対したしません。」
ソールさんの承諾が得られたので、ハンナちゃんを誘うことにする。
「ハンナちゃん、もし良かったらお姉ちゃんたちと一緒に来ない?
おなかいっぱいのご飯を食べさせてあげるよ。」
「本当?」
「うん、本当だよ。」
「ハンナをおいて、何処かへ行っちゃわない?」
「大丈夫、ずっと一緒だよ。」
「じゃあ行く!」
こうして、ハンナちゃんがわたし達に加わることになった。
36
お気に入りに追加
2,292
あなたにおすすめの小説
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる