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第3章 夏休み、帝国への旅

第42話 帰路につく

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 皇后様の治療のあとしばらくお部屋に留まり皇后様の様子を見ていたが、具合が悪くなる気配はない。
 とりあえずは心配なさそうだ。

 ケントニス皇太子が、皇帝に報告に行くというので、わたし達もお暇することにした。

 貴賓室へ戻り、フェイさんにお茶を入れてもらい一息入れることにする。

「ターニャちゃん、母上を治療してくれて有り難うございます。
まさか、帝都について一日目で治療してしまうとは思いませんでした。」

「二、三日様子を見て症状がぶり返さなければ、安心して良いと思います。
ただ、この宮殿は瘴気が凄く濃いですから、また具合が悪くなる恐れが強いですよ。」

「ええ、ヴィーナヴァルトに住んでみると、帝都やこの宮殿が如何に瘴気が濃いか分りますわ。
しかし、四年前はこんなひどくはなかったと思うのですが。」

 どの程度酷くなったのかはわからないけど、ハイジさんから聞いていたとおり、帝都までの街道沿いには森林が見られなかった。
 当然のことだけど、精霊さんも全然いなかったよ。
 これでは、清浄なマナは生み出されないし、瘴気は浄化されずに溜まる一方だよね。

「帝都の雰囲気が殺伐としているというのも、瘴気のせいかもしれませんね。」

 濃い瘴気に晒されていると、イラついたり怒りっぽくなったりするんだよね。
 それよりも、これだけ瘴気が濃いと息苦しく感じると思うのだけど帝都に住んでいる人は大丈夫なのかな。

 ちなみにこの部屋は、光のおチビちゃん達にお願いして常に浄化しているから息苦しくないよ。


     ***********


 しばらく三人でお茶を楽しんでいたら、ケントニス皇太子が戻って来た。
ケントニス皇太子の顔色は優れない、皇帝はまだ機嫌が悪いのかな。

「ティターニアさん、ミーナさん、非常に申し訳ない。
 父上は、帝国の治癒術師がお手上げであった母上をいとも簡単に治療してしまったことが甚くご不満なようだ。
 君達に対する感謝に言葉はおろか、母上が快癒したことに対する喜びの言葉すらなかった。
 父上にとっては、『色なし』の中に君達のような強力な魔法が使える者が現れたことが脅威であり、頭を悩ませる問題らしい。」

 わたし達が何をやっても、あの皇帝の気に障るらしい。

「それでは、わたし達はサッサと帰った方がよろしいですね。
ですが、あと数日皇后様の様子を見ないと不安なんですが。
それと、皇后様に関してこちらが申し上げたことはどうなりました。」

「ああ、愚かしいことだが、父上は瘴気の森産の木材でできた調度品の撤去を認めなかった。
父上は、あの黒光りする木材を甚く気に入っていて、あれが病の原因だと認めようとしないのだ。
植樹についても取り合ってもらえない。
父上は意固地になっており、君達のアドバイスに従うことを良しとしないようだ。
ただ、母上の国外への移動は、あっさりと認めたよ。」


 皇后の出国を認めたことを意外と感じたが、ケントニス皇太子はありうることだと思っていたようだ。
 皇后は、帝国でも最有力の侯爵家から嫁いで来たが、その栗毛色の髪に茶色の瞳が皇帝のお気に召さなかったらしい。
 しかも、皇后の子である皇太子と第一皇女が、栗毛色の髪に茶色の瞳であり、皇帝自慢の黒い髪に黒い瞳と褐色の肌を受け継がなかったため、皇后を疎ましく思っているらしい。

 現在皇帝は、黒い髪に黒い瞳で褐色の肌の第二王妃を溺愛しており、双方の血を色濃く継いだザイヒト王子を何とか皇太子にしたくて虎視眈々と機会を窺っているらしい。

 皇帝は、皇后もケントニス皇太子もできれば排除したいのだそうだ。

 今回、わたし達に皇后を同行させて、一緒に葬れば一石二鳥ぐらいに思っているのではないかとケントニス皇太子は言っていた。

 
「皇后様の出国許可が出たのであれば問題ないです。
わたし達を害することができる者などおりませんので、ご安心ください。」

 こちらには上位精霊が六人もついているのだ、その気になれば国でも滅ぼせるよ。
精霊さんは、殺生を嫌うからそんな事はしないけど。

 ケントニス皇太子が言うには、この宮殿に留まっている間は安全だろうとのこと、危ないのは帝都を出て街道の人通りが減ったところとのことだ。

 皇后様には急な出立になって申し訳ないが、わたし達は二日後の朝に帰路につくことにした。
本当は、帝都の様子をもう少し見たかったが、皇帝がわたし達を快く思っていないなら仕方がない。


     **********


 出発までの二日間、ソールさんたちには帰路の食料の調達などで動いた貰った。
わたしとミーナちゃんは、皇后様の健康状態を診る以外は貴賓室に閉じこもっていた。

 ハイジさんは、わたし達に窮屈な思いをさせて申し訳ないと気の毒なほど恐縮している。

 そして、二日後の朝。

「本来ならば、国を挙げて持て成さなければならないのに、追い返すようになって申し訳ない。
頼りきりになって心苦しいが、くれぐれも母上のことをよろしくお願いします。
アーデルハイトも母上のことをよろしく頼むぞ。」


 わたし達は、ケントニス皇太子に見送られて宮殿を出発する。
さあ、ヴィーナヴァルトへ帰るぞ。




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