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第2章 オストマルク王立学園

第14話 入学式前夜

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 入学試験の翌日、わたし達は合格発表を見に行った。
もちろん、私もミーナちゃんも合格していた。
合格発表を見に行って不思議だったのが、結構不合格になった子がいること。
掲示板には、合格者の受験番号が書いてある。
合格者はちょうど百名なんだけど、結構飛んでる数字が目立つんだよね。

 周りには落ち込んでいる親子も見られるし、でも落ちるような難しい問題あったかな?

 合格発表の横では、クラス分けも発表になっていた。やった、ミーナちゃんと同じクラスだ。


 合格発表を見たその足で、ソールさんは入学手続きをしに行った。
 わたしとミーナちゃんの二人分で、入学金と四年間の授業料合わせて金貨千枚支払ってきた。
 金額を聞いたミーナちゃんが目を丸くしていた。
 ただ、授業料の中には、寮費と生徒の食費が含まれているんだって。
 寮は主寝室、従者部屋、リビングで一セットだって、でもわたしとミーナちゃんは主寝室二つ、従者部屋二つ、リビング一つ、浴室一つという部屋を確保できた。
 この部屋は、王族みたいに従者のほか学友を連れてくる場合に備えて用意されているらしい。


     **********


 入寮手続きを済ませた翌日わたし達は、早速寮に移ることにした。
 寮も大理石造り二階建の立派な建物だった。何が立派かって、正面の扉、両開きの重厚な木製でとても大人一人の力では開閉できそうにない。わたしなんか扉を見上げて呆然としてしまったよ。
 正面エントランスには屋根付きの車寄せがあって、寮の横にはちゃんと駐車場があるんだ。


 正面の扉を抜けた広いロビーの先にある階段を二階に上がって南東の角部屋がわたし達の部屋だった。リビングには大きな窓があり、凄く明るくて見晴らしも良かった。
 でも、部屋は空っぽだった。調度品は自分で持ち込まないといけないらしい。
 どうするのかなと思っていたら、いきなり背中から抱きつかれた、この感触はクロノスお姉ちゃんだ。

「ソールに呼ばれたから来たよ。ターニャちゃん久しぶり、会いたかったわ。」

 クロノスお姉ちゃんが、わたしの頬へ自分の頬をスリスリと擦り付ける。
いや、久し振りってつい最近来てもらったじゃない。永遠の時を生きる精霊にとっては、ついさっき会った様なもんでしょうが。

「で、ソール、どこに何を運べばいいの?」

 クロノスお姉ちゃんは、ソールさんに各部屋のレイアウトを尋ねた。
ソールさんは心得たもので事前に部屋ごとのレイアウトを描いていた様で絵を見せながら説明している。


「ターニャちゃん、ご褒美ちょうだい。ここを素敵な部屋に変えてあげる。」

はいはい、お手柔らかにお願いしますよ。

「じゃあ、クロノスお姉ちゃん、お願い!!」

 わたしのマナがスーッとクロノスお姉ちゃんに吸い取られる。
一瞬、部屋全体が淡く光に包まれ、光が消えた後にはソファーとローテーブルがあった。

 わたしの部屋を見るとお気に入りの天蓋付きのベッドがちゃんと置かれていた。
お気に入りのドレッサーもクローゼットもちゃんとある。

「有り難う、クロノスお姉ちゃん!!とっても嬉しいよ。」

「まかせて、ターニャちゃんの為ならこのくらいなんでもないわ。また呼んでね。」

 クロノスお姉ちゃんが帰った後、ミーナちゃんが慌ただしくリビングに飛び込んできた。

「ターニャちゃん!部屋を見ていたらいきなりベッドなんかが現れたの。」

 あ、いけない、ミーナちゃんに声をかけるの忘れてた。


     **********


 入学式の前日、ウンディーネおかあさんが入学式を見に来るとソールさんから聞いた。
精霊は、神出鬼没だ、どういう理屈かわからないが、どこにでも現れる。

 てっきり、ウンディーネかあさんのことだから、直接この部屋に来るのかと思ったら、王都の西にある森の精霊に泉に来るので迎えに行くという。

 水の上位精霊のフェイさんが、自身で生み出した水をバスタブに溜めた、この水がその精霊の泉に繋がっているそうだ。
 精霊の道と言うらしい。精霊自身はどこにでもすぐいけるが、精霊以外のもの、例えば人、を導くときは精霊の道を通らないといけないらしい。


 フェイさんは、わたしとミーナちゃんの手をとり、

「精霊の道に入ったら、精霊の泉に着くまで絶対に手を離したらいけませんよ。
もし、手を離したら永遠に常世とこよを彷徨うことになりますよ。」

と言った。ええ、絶対に離しませんとも、フェイさんは意味のない脅しなんかしないの解ってるから。

「ミーナちゃん、絶対に手を離したらダメだよ。」

わたしは、ミーナちゃんに念押しして、フェイさんの手をきつく握った。
三人で手を繋いでバスタブに足を踏み入れる、一瞬足元が底抜けて落下するような感覚を感じ、気が付いたら仄かに光を放つ泉の前にいた。

  水を張ったバスタブに入ったはずなのに、全然濡れてないのね?
いつも思うんだけど、精霊さんの力って不思議だ。


「ターニャちゃん!!久し振り!会えなくて寂しかったわ。元気にしてた?体調おかしくはない?」

 いきなり抱きつかないで、ウンディーネおかあさん。苦しいよ、苦しい……。
わたしの顔がウンディーネかあさんのふくよかな胸に沈み込んで息ができない。
 わたしが苦しげにもがいていたらウンディーネかあさんも察してくれたようで、

「あらあら、ごめんなさい、苦しかったわね。久し振りにターニャちゃんと会えたら嬉しくて、つい。
で、そちらの方はミーナちゃんかしら、クロノスから聞いているわ。」

と言ってわたしを離してくれた。やっとミーナちゃんに紹介できる。

「ミーナちゃん、こちらが、ウンディーネかあさん、わたしを拾って育ててくれたお母さんの一人で水の大精霊なんだよ。」

「初めましてミーナと申します。お会いできて嬉しいですウンディーネ様、よろしくお願いします。」

「ちゃんとご挨拶できるのね、まだ小さいのにえらいわ。
私こそ、あなたのような可愛い子がターニャちゃんのお友達になってくれて嬉しいわ。
これからも、ターニャちゃんと仲良くしてくださいね。」

 自己紹介も終わり、ウンディーネかあさんも一緒に寮へ帰ることにした。


     **********


「おや、泉の方で何やら人の気配がすると思ったら、可愛いお嬢さんが二人もいる。
どうやってここへ入ったのかな?ここは、王宮の最奥、誰も立ち入り出来ないはずなのだが。」

 帰ろうとしているわたし達に、背後から声がかかった。
振り向くとそこには、豪奢な身形みなりの老人が立っていた。
 老人には、ウンディーネかあさんとフェイさんは見えていないようだ。
 わたしやミーナちゃんは、普通に精霊を見ることができるけど、一般の人は精霊が顕現しないと認識出来ないみたいなんだ。

「おお、そなたヴァイスハイトの末裔か、よくみると確かに僅かだが面影が残っとるわ。」 

 ウンディーネかあさんの存在感が急に濃くなる、顕現したようだ。

「もしや、あなた様はこの泉におわすと言われる精霊様ですか。王祖様の育ての母という。」

「いかにも、この泉の縁で捨てられていたヴァイスハイトを育てたのは私だ。
こうして、ヴァイスハイトの末裔との邂逅も二千年振りとなるかの。」

「お目にかかれて光栄です、精霊様。
私は、今代の国王、ヴァイゼと申します。 
して、此度こたびはどの様なご用件で、こちらにお越しいただけたのでしょうか。」

「そうかしこまるでない。
わが愛し子が明日、ここの学校に入学するのでな、晴れ姿を見に来ただけのこと。
そうだ、そなたにだけ紹介しておこう。
私たち大精霊が二千年振りに慈しみ育てた愛し子のティターニアとその友人のミーナだ。
このことは他言無用に頼むぞ悪い虫がつくと困るからな、特別扱いも無用だ。
ティターニアは、精霊の森で育てたゆえ人の世に疎くてな、勉強のためこの国に来たのだ。」

 わたしとミーナちゃんは、ウンディーネかあさんに促され国王様の前に進んで挨拶をした。

「明日の入学式と申しますと、オストマルク王立学園の初等部ですか。
では、わたくしめの方から、初等部の教員を全員集めて、生徒を外見で差別するものは厳罰に処すと直接訓示しておきます。
そのくらいはよろしいでしょう?最近、『色なし』と差別するやからが増えているものですから。」

「ふむ、この国にもそのような愚か者が居るのか。そこは、良いように任せる。」


 こうして、国王との邂逅と言う予想外の出来事もあったが、ウンディーネかあさんを連れて無事学園の寮へ帰って来た。

 さあ、明日は入学式だ。











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