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第1章 人間の街へ

第8話 もうすぐ王都

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 あれから魔獣に遭遇することもなく順調に旅は進んだ。
今日は既にノイエシュタットを出てから六日目、何事もなければ王都へ着く予定だ。

 この六日間、ミーナちゃんは周りの精霊さんたちと大分仲良くなった。
精霊さんにできることを教えてもらい、ミーナちゃんも大分色々なことが出来るようになったよ。

 大分余裕のある速度で旅をしているので、途中泊まる街には結構早い時間に着くため、五日間毎日ミーナちゃんはフェイさんから勉強を教わっていた。
 これから行く学校に入学試験があるんだって。そんなの聞いてないよ。
 わたしは、やらなくても良いのかと聞いたら、ミーナちゃんと一緒にやればミーナちゃんが喜ぶから良いけど、必要はないといわれた。

 ミーナちゃん一人でお勉強するのは、寂しいかと思って一緒に聞いていたら確かに必要はなかった。大分前に習ったことばかりだった。
 でも、ミーナちゃんが一緒に勉強できて嬉しいって言ってくれたから、それで良かったんだ。



     **********


 魔導車が小さな森の横を通りすぎようとしたら、剣や槍で武装した小汚い男の集団が、前方でいきなり道を塞いだ。
 危ないよ、この速度でぶつかったら怪我では済まないよ。

「野盗の集団ですね。今まで遭遇しなかったんで、ずいぶん治安が良いなと思っていたんですがこの辺にもいたんですね。
このまま轢き潰して進みましようか?」

 ソールさんがそういうと、普段はあまり発言しないフェイさんが珍しくソールさんに意見した。

「人間の社会では、盗賊を捕縛して官憲に突き出すと報奨金が貰えると聞きました。
それから、盗賊の持ち物は捕縛者の取得して良いとも。
路銀は幾らあっても困るものではないし、アレを捕縛して小銭を稼いでおきませんか。」

「だ、そうですが、お譲様、いかが致しますか?」

 はいはい、やればいいんでしょう。最近、ソールさん、わたしに厳しくない?

「あの野盗を捕縛します。あまり近寄ると臭いそうなので、この辺で止めてください。」

 まだ、野盗の集団とは大分距離がある。あいつらが走ってきても早々にはここまで来ないだろう。

(光のおチビちゃんたちにお願い。あいつらが近づく前に眠らせたいんだけど、『安らぎの光』を全力でやってちょうだい。)

「光のおチビちゃんたち、やっちゃって。」

わたしの掛け声と共に、体から大量のマナが吸い取られる。
 『安らぎの光』は、『浄化の光』ほどは、マナを使わないのだけど、今回は対象人数と範囲が大きすぎる。
 体中のマナが吸い出されるかと思った頃やっと柔らかい光が野盗共を包み込む。

 走りながらふらふらと膝をついていく野盗共、中には顔からもろに倒れこむ奴もいる。

 うーんパーフェクト。肩で息するぐらいマナを持っていかれたけど、野盗は一網打尽にした。

「お嬢様も大分大技が使えるようになりましたね。でも、まだまだマナの無駄が多いですね。
そんなにマナを全力で放出しなくても、全ての野盗を捕らえることができたはずです。
もう少し練習が必要ですね。」

 うん、最近ソールさんの指導がスパルタだよ。

「それで、この野盗共どうするの?王都まで連れて行くの?」

「それは、私にお任せください。私が荷車を作って、こやつ等を運搬しましょう。」

木の精霊のシュケーさんはそう言うと森の木の枝を利用して荷車を作り出した。
凄いね一瞬で作っちゃったよ。

 荷車を後ろの魔導車のところまで持ってきたシュケーさんは、蔦を生み出して魔導車の後ろに荷車をつないだ。

 そして、野盗を一人ずつ蔦でぐるぐる巻きにすると、荷車に積み上げた。
あの大きさの荷車に、どうやって二十人以上の野盗を乗せるのかと思ったら積み上げるのね。

 うん?チビちゃん達が何か騒いでいる。なに話しているのかなと思ったら、地元の精霊さんが野盗のねぐらを知っているんだって。


「ねえ、ソールさん。ここの精霊さんが野盗のねぐらに案内してくれるって。戦利品漁りに行こうよ。」


     **********


 わたし達は、地元の精霊さんの案内で野盗共のねぐらにやってきた。
どう見てもやっつけ仕事で作った掘っ立て小屋だった。
何か臭うし、汚いしで、はっきり言って入りたくない。

 嫌だなと思っていたら、ソールさんが浄化してくれた。臭いはなくなったね。
 尻込みするわたしとミーナちゃんを残して、ソールさんたちが中に入って物色してきた。

 ソールさんたちが持ってきたのは、袋いっぱいの銀貨と銅貨、僅かばかりの金貨、ほんの少しの宝飾品だった。

「ちっ、時化しけてるわね。しょせん野盗なんてこんなものか。」

フェイさんがやさぐれている。
珍しいね温厚なフェイさんがあんな態度取るなんて、ドンだけ期待してたんだろう。

「おい」

これ以上は何もないようだし、戻りますか。

「こら、そこの」

みんな、もう行こう。わたしたちは野盗のねぐらを後にする。

「おい、『そこの色なし』無視するな。」

ああ、うるさいな、こっちは見ない振りしているって言うのに。

 掘っ立て小屋の奥に、縛って転がされているガキと同じ状態の二人の女性がいた。

 女性二人は助けても良かったんだけど、ガキは私たちの誰もが助けようとしなかった。

 だってこいつ、黒髪に黒い瞳しているんだもん。精霊が一番嫌いな人種だよ。
 あっ、そうだ。

「ねえ、ソールさん、黒髪に黒目って野獣に似てるね。浄化したらどうなるんだろう?」

「さすが、お嬢様、物事に疑問を持つのは良いことですよ。私がやって見せましょう。」

わくわく、どうなるんだろう?魔獣だったら消滅しちゃうっよね。
ソールさんが『浄化の光』をガキに当てる。あれちょっと弱くない?

 ソールさんの『浄化の光』を浴びたガキは、薄茶色の髪と瞳、黄色っぽい肌に変化していた。
なんだ、消滅しちゃう訳じゃないんだ。
 『浄化の光』を浴びたガキは、光が収まったあとも呆然としていたが、我に返ると言った。

「こら、おまえら今何をやったんだ。」

「別に何もしてませんよ。あなたが、(瘴気で)汚れていたものですから少し綺麗にしただけです。」

「お、そうか、気が利くではないか。」

「じゃあ、そういうことで、さようなら」

「ちょっと待て、縄を解いていかないか。」

我が儘なガキだな、まあ縄くらい解いてやっても良いけど。
わたし達は、うるさいガキと二人の女性の縄を解いた。

「良くやった、褒めてつかわすぞ。」

何その上から目線、それでお礼を言っているつもり?

「そうですか。じゃあ、さようなら。」

「いや待て、おまえらに私を王都まで送る名誉を授けるぞ。」

「嫌です。そんな名誉いりません。」

「無礼な、私を誰だと思っている。」

「知りませんし、知りたくもないです。ソールさん行きましょう、こんなガキに構う時間ないです。」

付き合うのも馬鹿馬鹿しくなって、無視して去ろうとしたら、拘束から解かれた女性が言った。

「若様が失礼なことをいって申し訳ございません。私は、王都のアロガンツ家に使えるものです。
郊外の荘園に出かけた帰りに野盗に襲われ運悪く拘束されてしまったのです。
重ねて申し訳ございませんが王都まで送っていただけませんか。
きちんとしたお礼は致しますので。」

 わたしに懇願する女性を哀れに思ったのだろう、ソールさんが続けて言った。

「お嬢様、外に馬車があります。
馬は逃げられてしまったのか見当たりませんが、魔導車で引っ張っていけますよ。」

自分の馬車に乗ってもらうけど良いかと確認すると良いというので引っ張って行く事にした。
ガキが魔導車に乗りたいと言っていたけど断固としてお断りした。

さあ、王都まであと少しだ。


 

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