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アイイロモンペ

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第二三章 時は緩やかに流れて…

第846話 マイナイ領の新たな処遇

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 その日、王宮の謁見の間に微妙な空気が流れていたんだ。
 玉座に腰を降ろすおいらの隣で、オランも微妙な顔をしてたよ。

 そんな謁見の間の空気を無視して、宰相がおいらに代わってこの日の式典の本旨を告げる。

「レクチェ・ド・マイナイを辺境伯に叙する。
 昇爵に当たっては、コシ、ギン、チャク、三領を加封するものとする。」

 宰相から昇爵が告げられると、おいらの前に恭しく跪いていたレクチェ姉ちゃんがそれに応えて。

「身に余る御厚情を与り光栄で御座います。
 ご期待に沿えるよう、益々精進することを誓います。」

 型通りの謝辞を述べ。 

「国家の繁栄と民の安寧のため、尽くすことを期待しています。」

 これまた型通りにおいらが声を掛けると、謁見の間に参列した貴族から疎らな拍手が起こったよ。

 この日、加封により王国東部最大の所領を有することになったレクチェ姉ちゃんの昇爵の式典が行われたの。従来、辺境伯って爵位はこの国には無かったのだけど。トアール国のハテノ領やシタニアール国のイナッカ領に倣って新設したんだ。
 その趣旨は倣った二国と同じで、魔物の領域に接するマイナイ領の防備を充実することにあるの。マイナイ辺境伯に東部辺境全体の防衛を義務付けたよ。その見返りとして、領独自の騎士団を自由裁量で保有できることとした他、辺境防衛に対する報酬を毎年国庫から支出することにしたんだ。
 これによって年二回の魔物狩りが王宮から正式に委託を受けた業務となり、マイナイ領は報酬を受け取ることになったの。従来はマイナイ領が自発的かつ自己負担で行っていたので、少しは負担軽減になると思う。
 また、新たにマイナイ領に編入された三領だけど、それぞれ領主だった男爵三家は娘さんを新当主として存続することにはなったんだ。だけど、領地で抱えていた騎士は全ておいら達の襲撃に加わっていたことから死罪となり、その他の家臣も婦女子の拉致に関与していて裁かれることになっちゃった。そのため、男爵家では人材面で領地の維持が困難だってことが明らかになり、マイナイ領に編入されることになったの。男爵家は存続したまま、レクチェ姉ちゃんの家臣になりそれぞれ旧領地の代官に就任するってことで落ち着いたよ。
 更に、マイナイ辺境領に冒険者管理局の支局と図書館を設置することにしたんだ。図書館に関してはマリアさんに蔵書の提供と妖精さんの派遣をお願いしたよ。図書館の設置には数年の準備期間が必要だけど、冒険者管理局の支局は父ちゃんの頑張りで速やかに設置できたよ。
 冒険者管理局の支局設置はマイナイ領で冒険者資格を取得できるようにするのが目的で、冒険者研修所も同時に設置したんだ。これにより、魔物の領域で稼ぐ冒険者を育成すると共に、マイナイ領の騎士の増員に対応できるようにしたの。マイナイ領で騎士を増やしたいときに、魔物狩りの実績がある冒険者を候補に出来るでしょう。
 図書館の設置については、貴族に対する『塔の試練』を義務付けの復活及び庶民からの官吏登用開始に対応したもの。『塔の試練』に挑むために王都まで出て来るのはハードルが高いもの。特に庶民では王都までの交通費や滞在費を負担するのは困難だし。現状で『塔の試練』に挑めるのは王都周辺に住む人に限られてて、優秀な人材が埋もれてしまうことが危惧されるんだ。その対策の第一弾として、王国東部地域最大のマイナイ辺境伯領に図書館を設置して『塔の試練』を受けることを可能とするの。
 これにより、マイナイ辺境伯領は王都を補完する機能を担うことになるんだ。それを含めた特別な地位として『辺境伯』とした訳だね。

                **********

 レクチェ姉ちゃんの叙爵が終わると、コシ、ギン、チャク家の家督継承と新たな当主となった三人の娘さんに対する男爵に対する叙爵の儀礼を行ったよ。本来、家督相続とそれに伴う新当主の叙爵(爵位継承)は書簡で済ませるのだけど、今回は当人達が王都滞在中だったので式典の次第に加えたんだ。
 三人が壇上で跪き、おいらに対する宣誓を行い、おいらが一言言葉を掛ける。それを三回繰り返すと、謁見の間の空気がますます微妙なものとなり、臨席した貴族の中から疎らに拍手が漏れるんだ。本来、叙爵の式典ってもっと華やかな雰囲気で拍手も大きいのだけど…。

「ううっ、ううっ…。」

 式典の間中、謁見の間では獣の唸り声のようなくぐもった声が聞こえていたの。これが微妙な空気を漂わせていたんだ。

 それが何かと言うと…。

「式典が済んだからもう良いよ。
 その愚か者共の猿轡を外して上げて。」

 おいらが指示すると、謁見の間の一画に設置されていた檻の中に騎士が入ったよ。そして、檻の中の罪人達の口を塞いでいた猿轡を外し始めたの。

「この無礼者が! 我等に対するこの辱め、決して赦しはせぬぞ!」

 元伯爵、改め死刑囚その一が、おいらに噛み付いたんだ。凄いね、まだそんな虚勢を張る元気があるとは…。
 そう、檻の中に閉じ込められているのは、街道の開通式典に向かう途中のおいら達を襲撃した連中だよ。
 つい昨日、連中の裁判が終わって判決が確定したの。密室で不正な裁判が行われないよう、臨時の裁判所を造って公開の場で裁判を行ったら、王都の人達で傍聴席が満員になったよ。それまで明らかにされることの無かった貴族の悪事が暴かれるかもってことで、市民の関心を集めたみたい。
 押収した証拠の数々やマリアさんが撮影した証拠映像のほか、捜査の中の明らかになった余罪も晒されて、傍聴した市民から歓声が沸いたらしい。特にマリアさんが盗撮した証拠映像は、人々にとって衝撃的だったみたい。今の技術では真似できないことだからね…。
 これからは貴族だって法の下に裁かれるってことを市井の人々も認識して欲しいの。貴族の不正行為に対して泣き入りすることなく堂々と告発できるようになれば良いと思っているんだ。

 そんな訳で、公開の場で法に基づく厳正な裁判の結果、襲撃に加わった者は全員死罪が言い渡されたんだ。それと、ハテノ辺境伯領に編入された三家を含む五つの領主貴族を除いて全て私財没収、貴族位剥奪となったの。

「ええい、黙れ、愚か者。お前らこそ無礼であるぞ!」

 宰相が壇上から檻の中の罪人に対して叱り付けたよ。

「既知のことかも知れぬが、この場で改めて告知する。
 この者達は陛下の行幸中を襲撃した反逆者である。
 従来ならば大逆罪として陛下の一存で死罪になっておったのだが。
 陛下のお慈悲で公正な裁きを行うこととなった。
 これより、昨日なされた判決を披露するので良く聞くように。」

 宰相は檻の中の罪人一人一人について、罪状と判決内容を謁見の間に参列した貴族に向かって紹介していったの。
 これ、要は晒し者だね。貴族であろうとも法に背くとどうなるかを、再認識してもらうため今回の式典の後にこの時間を設けたんだ。

 連中を貴族仲間に晒すことで他の貴族がどんな反応を示すかを観たいと思ったし、この機においらからも再度貴族の心構えを諭そうと思っているんだ。
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