ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
845 / 848
第二三章 時は緩やかに流れて…

第845話 これで色々と発展すれば嬉しいね

しおりを挟む
 トアール国と合同で行った式典は予定通り執り行われたの。そこで顔を合わせたカズヤ兄ちゃんやライム姉ちゃんに途中で襲撃に遭ったことを話したら、苦笑いされたよ。子供二人をダシにして襲撃を誘導したこととかを暴露したら、カズヤ兄ちゃんには大笑いされ、ライム姉ちゃんには呆れられちゃった。

 開通式典を済ませて王都に戻ると、マイナイ領から領主のレクチェ姉ちゃんが上京していたよ。予め打ち合わせした通り、おいらが襲撃された日においらが預けた近衛騎士と領地の騎士で、コシ、ギン、チャクの三男爵家の摘発に入ったそうで、無事制圧できたらしい。
 おいらに対する襲撃、領地周辺での婦女の拉致及び人身売買の証拠は首尾よく押収できたとのことで、領主の息子を始めとする実行犯の捕縛も出来たって報告を受けたよ。
 レクチェ姉ちゃんが捕らえた罪人共も既に王都へ移送済みで牢獄に収監されてた。おいらが捕えた襲撃犯と同時に裁判に掛けることしたの。

 そして、数か月後…。

「さあ、王国各地を結ぶ街道網の開通です。
 女王陛下に開通のテープカットを賜ろうかと存じます。
 皆様、拍手でお迎えくだい。
 陛下、よろしくお願い致します。」

 シフォン姉ちゃんの良く通る声が王都の西門前の広場に響いたよ。シフォン姉ちゃん、すっかりイベントの進行役して王都ではお馴染みの存在になってるの。流石に、今日は『きゃんぎゃる』の衣装ではなく、清楚なドレスに身を包んでいるけど。
 おいらは、シフォン姉ちゃんの案内に従い街道の起点に張られたリボンに向かって歩みを進めたよ。おいらの両隣りにはオランとキャロット、三人でテープカットをする次第になってるの。
 十二歳で女王に即位し真っ先に着手した街道網の整備事業、十二年の歳月を経てやっと主要街道の全てを同一規格に整えることが出来たよ。繰り返しになるかも知れないけど、街道は大型の馬車が余裕で擦れ違える車道を中心に、その両サイドに歩道を付けた広さに統一したんだ。
 車道は全面石畳を敷き、車道の中央は色の異なる石でラインを引いて左側通行を義務付けたよ。また、歩道は、人力で引く荷車が通行可能な広さを確保すると共に、馬車が侵入しないよう段差を設けて車道に比べて一段高くしてるんだ。もちろん、歩道も全面石畳にしたよ。更に車道と歩道の間には排水用の側溝を設けて雨の日でも通行に支障を来さないように工夫されてるの。全国にある主要な街道二十弱を全て同じ幅員・構造にしたら思いの外時間が掛かっちゃった。まあ、ヒーナルが街道の補修を怠っていたんで凸凹だらけで荒れ放題になっていたことも時間を要した一因なんだけど…。

 おいら達がテープをカットした瞬間、広場に集まっていた観衆が沸いたよ。よほど街道整備の完成を待ちわびていたらしく、広場が人々の拍手と歓声に包まれてた。
 観衆の熱気が冷めやらぬ中、おいら達が来賓席に下がると。

「それでは、これより王都と各地を結ぶ定期馬車の運行スタートです。
 これは王家とひまわり会の提携により実現したもので。
 全国主要都市と王都とを結ぶ駅馬車を、定時かつ格安で運行致します。
 皆様、拍手でお見送りください。」

 シフォン姉ちゃんのアナウンスと共にゆっくりと広場に待機していた馬車が目的地を目指して動き出したよ。と同時に、再び広場が拍手に包まれた。
 シフォン姉ちゃんの紹介にあったように、定期馬車はおいらがタロウに運行を指示したの。従来から駅馬車はあったのだけど、運行が不定期で、王都と結ばれている町も少なかったんだ。加えて、いずれの業者も馬車の老朽化が進んでいる上に乗車料金も馬鹿みたいに高額だったの。とても気軽に利用できる運賃じゃないんだもの。職を探して王都へ出て来た若者が、中々故郷へ帰れないって嘆くってのも頷けたよ。
 今回の街道網の完成に当たりそのネックを解消するため、ひまわり会に駅馬車の運行を一任することにしたの。乗車料金を思い切って従来の半額に下げる代わりに、新型の馬車をおいらのポケットマネーで提供したよ。全国主要都市を結ぶために必要な馬車五十台を馬付きで提供したの。重量を軽くするため箱馬車ではなく幌馬車にしたのだけど、マリアさん考案のサスペンションとスプリング入りの座席を採用した最新型だよ。
 街道整備が完了したことで人・物・金の流れが活性化する筈だと期待しているんだ。

            **********

 テープカット、駅馬車の出初式の後も式典は続き。

 今度は司会進行のシフォン姉ちゃんに代わり、宰相が広場に設えられた壇上に上がったよ。
 おいらはと言うと、同じ壇上の一段高くなったところに設けられた玉座に座っているんだ。

「以上、五名の者、壇上にあがるよう。」

 宰相が指示すると、指名された五人の男が壇上に上がって来たの。みんな、真新しい礼装を身に着け緊張した面持ちだったよ。

「此度の街道整備に対する功労を鑑み貴族に列し、男爵位を授けるものとする。」

 宰相の厳かな口上が広場に響くと、「わっ!」って歓声が観衆のそこかしこから上がってた。
 本来、叙爵のセレモニーは貴族達が居並ぶ謁見の間で行われるのだけど、今回は特別に街道整備に貢献を讃えるってことで開通式典の中に盛り込んだんだ。
 と言うのは、五人のうちの二人が王都の下町の出身だから。一般市民に公開の式典でお披露目すれば、知人友人も祝ってくれるかと思って。
 他の三人は辺境の農民の出自で、最初の工夫募集の際に仕事を求めて田舎から出てきたの。第一回目の募集で採用してから勤続十二年になる最古参の人達で、現場を指揮する技術者からの評価も高く現場監督を任せられてたらしい。この三人には、王宮の馬車を貸し与えて今回の式典に家族を呼び寄せるように指示したよ。やっぱり、晴れの姿を家族に見てもらいたいだろうからね。

 叙爵の式典は、宰相から名前を読み上げられた者がおいらの前に跪いて臣従の誓いを述べるんだ。
 それに対して。

「長きに亘る街道整備での働き、大儀でした。
 これからも一層の働きを期待しています。」

 おいらは予め決められたセリフを五回、オウムのように繰り返すだけなのだけど。その都度、広場の一画から歓声が上がっていたよ。おそらく、叙爵を受けた者の親族や知人集まっている一画なんだろうね。
 叙爵のセレモニーを終えて壇上から降りる時、五人とも広場の観衆に向かって手を振っていたのだけど。その時の表情は皆誇らし気で叙爵の式典を公開の場でして正解だったと感じたよ。おいらが王位に就いてから、ポツポツと平民から貴族に取り立てているのだけどあまり知られてなかったし。取り立てたのも『塔の試練』をクリアした人ばかりで、市井の人々にとって馴染みがあるとは言えなかったんだ。
 今回の五人は何れも何処にでもいるような庶民で、特異な知識を有している訳でもないからね。地道に国に貢献していれば評価すると言うおいらの姿勢を周知する良い機会だと思ったんだ。これが切っ掛けとなって優秀な人材が集まってくれたら良いなって。
 なので便乗してこんなことも…。

「これを持ちまして街道整備事業の完成式典を終了とさせて戴きますが。
 この場をお借りして、先日、新たに叙爵の栄誉を賜った方々をご披露したいと思います。」

 再び、司会進行役として壇上に上がったシフォン姉ちゃんがアナウンスしたんだ。
 そして、名を読み上げられたルッコラ姉ちゃん、タルト、トルテが壇上に上がったよ。
 先日の謀反者達の捕縛でおいらに対する不満分子がほぼ一掃されたので、今まで先送りしたきた近衛騎士の叙爵を行ったんだ。先日の襲撃事件のおかげでまた貴族の数が減ったので、近衛騎士の中から能力と倫理観に問題の無い者を叙爵して貴族に列することにしたの。騎士だと本人に限り貴族扱いだけど、貴族そのものではないため家族は貴族ではないし、その身分を相続することも出来ないからね。
 その第一弾がアントルメ姉妹、ルッコラ姉ちゃん、トルテ、タルトの五人だよ。ジェレ姉ちゃんとムース姉ちゃんはアントルメ子爵家から独立した貴族家を創設して独自の爵位を持つことになるんだ。今回のお披露目にアントルメ姉妹二人が居ないのは、平民から取り立てられた三人をアピールするためだよ。
 叙爵のセレモニーは先日、慣例に従い謁見の間で執り行われたので、今回は本当に王都の人達に対するお披露目なんだけど…。

「キャー!ルッコラ隊長、こっち向いて!」「ルッコラ隊長、素敵ー!」

 男前のルッコラ姉ちゃんが壇上に上がると、広場に集まった若い娘さんから黄色い声が上がったよ。

「トルテちゃん、タルトちゃん、おめでとう!」「子供の頃から仲良かったけど、まさか二人仲良く貴族になるとは」

 王都でそれなりの商いを営む商家出身のタルトとトルテは顔見知りが多いみたい。ルッコラ姉ちゃんが壇上に上がった時より歓声が大きかった。やっぱり、子供の頃から顔馴染みの二人が出世したことは、王都に住む人達にとって嬉しいことなんだろうね。祝福の声に混じり、二人の叙爵を知らなかった顔見知りから驚きの声も漏れ聞こえたよ。

 と同時に…。

「すげえな、あのお転婆なトルテ、タルトが貴族になっちまうなんて…。」
「でもよ、さっき爵位を貰ってた五人だって農家や下町の生まれだって言ってたぜ。」
「お前、広場の告知板見たか。女王様はこれからも平民から貴族に取り立ててくれるらしいぜ。」
「あれだろう、『塔の試練』ってのをクリアしたモンを定期的に官吏に採用するってやつ。」
「そうそう、昇進したら貴族になれるって。」
「それなら、俺にもワンチャンあるかな?」

 護衛の騎士からの報告では、平民からの登用に関してそんな声が広場のあちこちで聞かれたそうだよ。
 街道整備に携わった五人やタルト達三人が市井の民から貴族になる瞬間を目の当たりにして、広場の観衆の中にも後に続けと思う人が居たみたいなの。そんな会話をしている人の中から優秀な人材が出て来てくれたら、おいらの思惑通りだよ。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...