ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二三章 時は緩やかに流れて…

第844話 襲撃に加担した家の存続について話してみたら…

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 簒奪王ヒーナルに与した貴族の残党による襲撃を難無く撃退したおいら達。
 取り敢えず三百余名の謀反者達は縄で拘束しておいらの目の間に転がしたよ。

「貴様ら一体何なんだ。
 どうして年端もいかないガキ共がそんなに強いんだよ。」

 捕らえた騎士の中からそんな泣き言が聞こえて来たよ。

「まあ、この子達は五歳の頃から、機会を見つけて魔物狩りに参加しているからね。
 あんた達こそ、日頃の鍛錬が足りてないんじゃない?
 正規の騎士の癖して幼女に負けるなんて情けない…。」

 幼女にも勝てない腕前で、恥ずかし気も無く騎士を名乗れたものだとある意味感心しちゃったよ。こんな騎士共に高い俸給を支払っていたなんて税の無駄遣いだし、雇い主として情けなく思う。

「魔物狩りだって! そんな野蛮なことをする王女が何処にいる。
 王族ってのは、王宮の奥で優雅にお茶でも啜ってるもんだろうが」

 情けないと蔑まれたことにカチンときたのか、騎士の一人がおいら達を口汚く罵ったよ。

「なに言ってんのさ。有事の際は王族が陣頭指揮を執らないといけないんだよ。
 日頃から、鍛錬を重ねておかないと実戦で何の役にも立たないじゃん。
 今のあんた達のようにね。」

「うぐっ…。」

 ザコ騎士は図星を指されて言葉に詰まったよ。
 圧倒的な多数で数人の女子供に襲い掛かった挙げ句返り討ちにあうなんて、こいつらどんだけ体が鈍っているんだ。日頃、真面目に鍛錬していればもう少しマシに戦えるだろうに。貴族の子弟だからって理由だけで、こんな腰抜け共を国民の血税で養ってたかと思うと頭が痛いよ。
 負け犬の泣き言に付き合ってたら日が暮れるから、ザコ騎士共の戯言は放っといて話を進めることにしたんだ。

「今後だけど、あんたらは法に基づいて公開の場で裁判に付されることになる。
 弁明の機会が与えられて良かったね。
 ヒーナルの治世だったら問答無用で首を刎ねられてたもの。」

「貴様! 公開の場で裁くだと!
 我々を晒し者にするつもりなのか。
 どこまで我々貴族を貶めれば気が済むのだ。」

 裁判を公開で行うと告げると首謀者の伯爵は烈火の如く怒ったよ。

「違う違う。晒し者じゃなくて、公正な裁きをするためだよ。
 密室で裁こうものなら、幾らでも権力者に都合よく裁けるじゃん。
 冤罪を無くして、法が正しく執行されていることを示すために公開が必要なの。
 良いの? 密室で裁判するなら、おいらが一言死罪と言えばそれで決まっちゃうけど。」

「煩い。貴様には情けと言うものが無いのか。
 無様に罪を晒されるくらいなら、この場で殺された方がマシだわ。」

 いや、罪が晒されるのが厭なら、最初から悪事なんて働かなきゃいいじゃん。こいつ等、密室で裁きを進めればワンチャンありなんて甘いことを考えているんじゃないだろうね。以前なら上位貴族はどんな悪事を働いてもヒーナルの一言でお目溢しになってたみたいだし。密室裁判なら、袖の下を使って無罪放免にしてもらえるんじゃないかと期待しているのかも。

「まあ、何と言われようと、法律でそう決まっているんだから。
 公開の場で裁きを行うことは確定だよ。
 ところで、これから名前が呼ばれた人は返事をして。」

 首謀者の伯爵との会話を打ち切ると、おいらは領主貴族の名前を五人ほど読み上げたんだ。それにはマイナイ伯爵領に隣接する三つの領地の領主も含まれていた。おいらはジェレ姉ちゃんにその五人を連れて来るよう指示したの。

「今ここで捕縛した者の屋敷には既に騎士団が家宅捜索に突入しています。
 今回の襲撃に掛かる証拠等を押収するためです。」

 お粗末だったとは言え、二百家以上の貴族家が襲撃に関与しているのだから事前にそれなりの計画は練っていたはず。当然、なんらかの計画書面もあるはずでだから、それを押収するのが目的なんだ。ついでに余罪の証拠が出て来れば有り難いと思っているの。

「家宅捜索だと? どうしてそうなるんだ。
 ここから王都までどれだけ離れていると思っている。」

「だから、事前に襲撃されることは分かってたんだよ。
 だいたい、何で、護衛騎士が四人しか居ないと思って。
 おいら達で十分対処できると言っても、普通はもっと沢山護衛に就けるでしょう。
 できるだけ近衛騎士を家宅捜査に回すためなんだよ。」

「貴様ら、我等を謀ったな!」

 襲撃が事前に察知されていたと知り、激昂する首謀者の伯爵。
 そんな伯爵は無視して、おいらの前に連れて来られた五人に対し。

「これにサインしてちょうだい。」

 おいらは五人それぞれに一枚づつ文書を渡したの。

「家督相続願い? なんだ、これは?
 何故、娘に家督を譲らないとならないのだ。」

 そのうちの一人が、書面に目を通して怪訝な表情で尋ねて来たよ。

「個人の罪過に関しては法に基づき公正な裁判があるけど。
 貴族家の処遇については、従来通り国王、つまりおいらの裁量に委ねられているの。」

 貴族位は国王との主従関係に基づき与えられているもので、あくまで国王が与奪の権利を有するんだ。もちろん、慣習法のようなものはあり、国王が好き勝手にすることは出来ないけどね。

「それが、この家督相続とどういう関係があるんだ?」

「先例に従うと、この襲撃に加担した家は貴族位を剥奪の上、私財没収になるんだ。
 まあ、当然だよね。謀反を起したんだもの。
 ただね、永年国に仕えて来た貴族を取り潰し過ぎるのもどうかと思って。」

「おい待て! それじゃ、何か? そこにいる五人以外の家は全て取り潰すつもりか?」

 まだ五家を残すと言ってないのだけど、首謀者は察した様子で噛み付いてきたよ。

「そう、ここ数か月、事前に色々と調査してね。
 この五つの家の娘さんがとても優秀な方だと分かってね。
 娘さんに家督を譲るのなら、家の存続を認めようと思ってるんだ。」

 もちろん、今回、行幸に出る前に内密で五人と面談して、おいらがその人柄を判断したよ。
 今回、襲撃に加わった貴族は全て監視対象になっていて、以前からノノウ一族のメイドを送り込んで探りを入れていたんだ。当主だけじゃなく、家族の素行も監視対象になっていて、この人なら任せられるって人は五人だけだったの。その全員が娘さんだったよ。
 特に、マイナイ伯爵領に隣接する三家は当主と長男坊の浪費が激しく、その穴埋めのため違法な人身売買を行っていたんだ。三家結託してそれぞれ自領以外の二領から年頃の娘さんを拉致って、マイナイ領で奴隷として闇取引されていたの。
 各家の娘さんがその実態を掴んでいて、父親と長兄の悪事を止めさせたいとレクチェ姉ちゃんに相談していたんだ。だけど、拉致と人身売買に直接貴族三家が関与している証拠がないため、強制捜査が出来なかったんだ。仕方がないので、今まではその都度レクチェ姉ちゃんが拉致された娘さんを密かに保護してくれてたの。
 今回、レクチェ姉ちゃんの所においらの近衛騎士を百人ほど貸与して、マイナイ領騎士団と共に三家に乗り込んでもらう手筈になっている。この襲撃にかこつけて、拉致と人身売買の証拠も押収する予定なんだ。

「何故、その五家だけが家督の存続を許されるのだ。
 我が家はこの国でも古い血筋の貴族なのだぞ。
 何故、我が家は存続を許されないのだ。」

 と言ったのは今回の襲撃の首謀者。

「幾ら何でも首謀者の家が存続ってのは有り得ないでしょう。
 だいたい、世継ぎだって今回の襲撃に加わっているじゃない。」
 
 そうこのお馬鹿、敗けると思っていないものだから息子まで襲撃に加担させてるの。多分、息子の箔付けにしたかったのだろう。

「それなら、何故、娘に家督を譲らないとならないのだ。
 うちの息子は今回の襲撃に加わっておらんぞ。」

 と言ったのは、マイナイ領に隣接するコシ男爵。こいつとギン男爵、チャク男爵の三人で結託して拉致と人身売買を繰り返しているんだ。

「だって、あんたの息子、違法な人身売買に手を染めているじゃない。
 あんたの所だけじゃなく、ギン男爵、チャク男爵もね。
 三家結託して若い娘さんを拉致して、マイナイ伯爵領で闇商人に売っていたでしょう。
 あんたらのバカ息子がそれに関与してたのは掴んでいるんだ。
 今頃、お縄になっているはず。
 三家とも優秀な娘さんが、拉致・人身売買を告発してくれたからね。
 娘さんを当主にすることが、お家存続を認める条件だよ。」

 他の二家も似たようなもの。子は親の鏡と言うけど、息子は家柄だけを鼻にかけた父親そっくりのダメ貴族なんだ。反面教師なのか、そんな男共を嫌悪している娘さんはとても優秀なの。

 因みに、襲撃に加わった騎士家は全て貴族身分を剥奪の上、私財没収にする予定だよ。本来、騎士ってのは一代限り貴族身分とするってだけで世襲制じゃないんだ。ところが、コネで騎士が半ば世襲になっている上、爵位を継げない貴族の次男・三男が騎士になることで貴族身分を維持するって悪習が出来ちゃって。いつの間にか騎士の数が水膨れしちゃったんだ。
 結果が目の前に転がるなんちゃって騎士達。騎士としても実力も、忠誠心も、やる気すら乏しい税の無駄遣いとしか思えない連中。
 二百家以上を取り潰して私財没収とすれば国庫も潤うし、今後の支出も減らせるから助かるよ。
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