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第二三章 時は緩やかに流れて…

第843話 襲撃者、思いの外あっけなく片付いたよ…

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 さて、嵌められたとも知らずに大挙して襲撃してきた不平貴族達、その主力は騎士なのだけど…。幾ら、簒奪王ヒーナルが騎士団長の出身だとは言え、騎士の中に反旗を翻す者がこんなに残っているとは予想外だった。ヒーナルに与した騎士連中の多くは処刑したか、貴族籍を剥奪して辺境へ追放したので現残している騎士は真面な人ばかりかと思ってた。

 まあ、親類縁者が反旗を翻したので、貴族のしがらみから渋々参加した者も居るかも知れないけど。実際に数百の騎士が襲撃に加わっているのだから、おいらが想像する以上にこの国の貴族が腐っていたってことなんだろうね。これだけの数を裁くのは心が痛むけど、現実から目を背ける訳にはいかないね。

「ヒーナル陛下を弑した大悪党の首とったり!」
「あっ、馬鹿! あの娘の見た目に騙されるな。
 あいつはバケモノだぞ!」

 気勢を上げながら血の気の多い猪武者が、馬を走らせ突進してた来たよ。猪武者はおいらの戦い方を見たこと無いみたい。仲間がそれを制してたけど、猪武者は忠告を聞かずにおいらに向かって来た。

「あっ、マロン様、何で前に出るのですか!」

 猪武者を迎え撃つためおいらは護衛達の前に進み出たのだけど、近衛隊長のジェレ姉ちゃんには想定外だったようで慌ててたよ。

「うん? おいらの首を取りたいみたいだから、お相手しようと思って。」

「護衛対象が前へ出たらダメでしょう。」
「賊を退治しようってのに、なんで得物を持って無いですか?」

 すかさず、ジェレ姉ちゃんとルッコラ姉ちゃんからツッコミが入るけど…。

「剣を使ったら殺しちゃうじゃん。
 こいつらは生かして公正な裁きを与えないといけないんだもの。
 それが法治国家への第一歩だよ。」

 王侯貴族の胸一つで罪科が左右されちゃダメって。マリアさんから指摘があって、ここ数年刑事罰に関する法律の整備をしてきたんだ。こんな無法者でも、その場で処分するのではなく公開の場で法に則った処罰しないどダメになったんだ。
 まあ、見直し後の法でも、反乱罪と大逆罪は死刑以外には無いのだけど…。

「このクソガキが言わせておけば舐めくさって!」

 おいらのセリフが耳に届いたのか、激おこで剣を振り下ろす猪武者。
 気が立っているからか、はたまたおいらを小娘と見くびっているからか、猪武者の剣は大振りで楽勝で躱せる剣筋だった。怠け者揃いのヒーナル一派のことだし、単に剣の鍛錬不足なだけかもしれないけど。

「ほら、こんなの相手に剣なんか要らないでしょう。」

 もう、『回避』スキルすら要らない感じのへぼい剣を交わすと、おいらは思い切り振り降ろされた剣の側面を蹴とばしてやったよ。

「うわっ!」

 剣を蹴とばされて姿勢を崩した猪武者は、勢い良く疾走する馬から落馬してしたよ。受け身も取れずに落馬した猪武者は、地面に背中を強打するとそのままゴロゴロと転がってたよ。

「あの小娘はセーヒ殿下を打ち破った手練れだぞ。
 一対一になるんじゃねえ。周りを取り囲んで袋叩きにするんだ。」

 おいらの強さを知っている騎士がそんな指示を出すと、走り寄って来た騎士がおいらを取り囲んだよ。
 その時には、既にオランやタロウ、それに護衛騎士との間にも戦闘が始まってたの。

 でも…。

「この騎士達、何なんですか。
 弱すぎます。」
「ホント、なんちゃって騎士さんです。
 騎士のコスプレしているだけですか。」

 タルトとトルテが鞘に納めたままの剣で、襲撃者側の騎士を一撃のもとに叩きのめしていく。

「こら! 相手は女子供、しかも十人もおらんのだぞ。
 何をもたもたしているんだ。」

 手下達が次々と倒れる様子を見て、焦った親玉伯爵がハッパを掛けてたけど…。
 まあ、おいらの方は全員高レベル持ち、しかも実戦経験豊富なメンバーだもね。一番レベルの低いタルト、トルテですらレベル五十だもの。
 低レベルで、訓練すらサボっていたヒーナル一派の騎士達では手も足も出ないよ。

        **********

 あれよ、あれよと言う間に謀反者達は数を減らし、残り百人ほどとなった時のこと。

「ねえ、母さん、私、退屈しちゃった。
 こいつら悪い奴らでしょう。やっつけちゃって良い?」

 ヒノキの棒を振り回しながらそう問い掛けて来たキャロットは、期待で目をキラキラと輝かせてた。どうやら、これ以上は『待て』が利かないらしい。
 魔物狩りの時に使っている剣は持たせてないよ。子供に加減は難しいからね。剣なんて持たせたら賊を殺しちゃうから。
 因みに、何故ヒノキの棒かと言うと、タロウが「雑魚を狩るならヒノキの棒がお約束だろう。」と主張するものだから特注で作ったの。持ち手の部分にクッション性のある皮革を巻いて手にフィットするようにね。
  
「良いけど、ソノギと連携するんだよ。
 それと深追いはダメ。
 敵をこちらに引き込んで戦うようにね。」

「うん! じゃあ、悪者退治だ!」

 おいらが許可すると嬉々として謀反者達に向かうキャロット。

「キャロットちゃん、一人で行っちゃダメだって。
 マロン母さんが言ってるでしょう。
 二人で連携して戦いなさいって。トレント狩りの要領で行くんだよ。」

 ソノギは飛び出していくキャロットの後襟を掴んで何とか制止してたよ。

 そんな幼子二人のやり取りを謀反者達も見逃すはずもなく。

「おい。手が空いている者はあの子供を確保するんだ!
 子供を人質にとってしまえばこっちのものだ。」

 そんな親玉の指示で、謀反者達はキャロット達に群がったんだ。

「いっちばーん!」

 捕えようと襲い掛かって来た騎士を嬉々としてヒノキの棒で殴り倒すキャロット。
 その後も周囲にいる騎士達を手当たり次第殴り倒していったよ。

「なんだ、このガキ、ムチャクチャ強いぞ。」

 大の大人を鎧袖一触で屠るキャロットに謀反者達が臆していると。

「大人しく降参してください。
 争いは好きじゃないんです。」

 性格温厚なソノギは謀反者達に向かって投降を呼びかけたんだ。
 そんなソノギを目にしてキャロットより組み易しと感じたみたいで。

「おっ、こっちの小娘は気弱そうだな。
 人質だったらこっちでも良いんじゃねえか。」

 謀反者達はターゲットをソノギに換えたの。ソノギは争いが嫌いと言ってるだけで、気が弱い訳でも、戦いが弱い訳でも無いのに…。

「暴力反対!」

 そんな暴徒を相手に、ツッコミどころ満載の掛け声でヒノキの棒を振り降ろしたんだ。レベル五十三のベヒーモスを一撃で屠るソノギの攻撃を鈍った体の騎士達が躱せる訳もなく。

「「「ぎゃー!」」」

 ソノギは一薙ぎで取り囲んでいた三人の騎士を打ち倒してたよ。

「何なんだよ、このガキ共は…。ここにいる連中はガキまでバケモノなのかよ。」

 奮闘する幼児二人に面食らった様子の襲撃者達。いや、キャロットが八歳の誕生日を迎えるのを待って襲撃を誘導したのはこのためだもの。
 謀反者達をおびき出すために、一見して弱点と思える幼児二人を同行したのだから。魔物の領域で高レベルの魔物を討伐したことは秘密にしといたの。謀反者達からしたらさぞかし襲撃の好機に見えただろうね。ロクに闘えそうもない二組の夫婦と護衛の女騎士四人、それに足手まといの幼児二人だし。

 いざとなれば簡単に人質にとれると踏んでた幼児二人が、レベル七十二と五十三の最強クラスの人間だとは思いも寄らなかっただろうね。

「おい、ヤバいぞ。こっちはどんどん削られてるぜ。」
「弱いところを狙うんだ。
 あの貧相な伯爵とその女房を…。」

 幼児二人が存外に強いので、今度はタロウとマリアさんに狙いを換えようとしている襲撃者。そんな襲撃者が目にしたのは。

「うーん、これでもまだ過剰な威力かな?
 死にはしないみたいだけど、廃人一直線よね。」

 手にした道具から、アルトよろしく電撃を放つマリアさん。その電撃は襲撃者十人以上を包み込み、バリバリと音を立ててた。
 しばらくして電撃が止むと、そこには衣服が黒焦げになった襲撃者達がピクピクと痙攣しながら転がっていたよ。

「なんだ、ありゃー!
 あんなの相手にしたら命が幾らあっても足りねえぜ。
 やめだ、やめ! 俺は降りるぜ!」

 それを目にして戦意喪失した一部の人間が逃げ出そうとするけど。

「ダーリンと私達家族の平穏を脅かそうって輩を逃がす訳無いでしょう。」

 離れた場所を攻撃できる道具って便利だね。マリアさんの手から放たれた電撃は逃げ出そうとした連中を一網打尽にしたよ。
 マリアさん曰く、護身道具の対人実践テストをしたかったんだって。当初はタロウの助力だけ予定してたのだけど、そんな目的があって、マリアさんが珍しく戦闘に参加したんだ。
 マリアさんの護身道具の威力は本当に凄まじくて、一度の攻撃で十人以上を戦闘不能にして行ったんだ。
 そんなマリアさんの活躍もあって…。

「えっ、もうお終い?」

 あっという間に数百の襲撃者を撃退してしまうと、物足りなかったのかキャロットは不満気な顔をしてたよ。

「もう、キャロットちゃんたら…。もう少しお淑やかにしないとダメだよ。」

 そんなキャロットをお姉さんのソノギが諫めてた。

 加担した者総勢三百余名、貴族家・騎士家の数二百五十家ほどに上る謀反はこうして呆気なく片付いたんだ。
 実際、キャロットとソノギが戦力にならなければ、こう上手くはいかなかったと思う。
 鎧袖一触で倒した騎士だってレベル十や二十はあるし、体格は幼児二人よりもはるかに大きいから、二人のレベルが限定解除になってなければ戦えなかったと思うんだ。
 一方で、幼児二人を同行したのは今回連中をおびき出す胆だったから、同行しないって選択肢はなかったの。幼児二人が足手まといになって、おいら達の戦闘能力が削がれる。幼児二人を人質にとればおいら達が抵抗できなくなる。そんな風に連中の思考を誘導して、連中が襲撃を実行するように仕向けたのだから。

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