ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二三章 時は緩やかに流れて…

第839話 優秀だね。レベルも、スキルも順調に育っている

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 魔物の領域に留まること三日、キャロットとソノギは不平を漏らすことなく大人達と行動を共にしてたよ。八歳児には無理があるかと懸念していた日程だったけど、二人共嬉々として狩りを続けていたし、野営も楽しんでいたよ。特に、妖精の森の長ロード・デンドロさんの許可を貰って入った妖精の泉での水浴びが気に入ったみたい。澄みきった泉の中、キャロットとソノギは年相応にはしゃいでパシャパシャと水を掛け合っていた。

 そして、三日目。二日間で目標数の魔物を粗方間引いたので、その日は午前中で狩りを終えて街に戻ることにしたんだ。
 
「これ、キャロットに。誕生日のお祝いよ。」

「ロード・デンドロ様、有り難うございます。
 うわっ、キラキラ光ってるし、ツルツル!
 これ欲しかったんだ!」

 ロードデンドロさんから手渡された贈り物に目を輝かせて喜ぶキャロット。プレゼントはこの森でしか採れないイエローシルクの反物だよ。
 薄いレモンイエローの絹地は不思議な光沢を持ち、とても肌触りが良いの。本当に僅かしか採れないので希少価値も高い生地なんだ。

「喜んでもらえて嬉しいわ。
 汚さないうちに仕舞っておきなさい。」

 ロード・デンドロさんに促されたキャロットは、「はい!」と元気良く答えると手にした反物をスッと消していた。
 そう、八歳の誕生日を迎える少し前にキャロットも『積載庫』の取得に成功したんだ。おいらが『積載庫』を取得した年齢と同じにタイミングで取得できるよう計画的にスキルの実を摂取させてきたことが実を結んだの。キャロットは取得したその日から嬉々として『積載庫』に物を溜め込んでいたよ。

 それからロード・デンドロさんはソノギに向かい。

「これはソノギの分。
 本当は最初にここへ来た時に差し上げたかったのだけど。
 昨年は繭のできが悪くて、手持ちが無かったの。」

 やはり、イエローシルクの反物を渡したんだ。どうやら、誕生日のプレゼントと言うよりもお近付きの印らしい。キャロットは偶々誕生日直後だと知らせてあったので、誕生日のお祝いと言ったみたい。

「私にまで戴いてしまい有り難うございます。
 これでドレスを仕立てて、大切に着させて戴きます。」

 丁寧に頭を下げるソノギに、ロード・デンドロさんは笑みを浮かべ。

「あら、本当に礼儀正しいのね。
 気に入ったわ、是非また、遊びに来なさい。」

 そう告げたロード・デンドロさんはお世辞ではなく本当にソノギを気に入った様子だったよ。
 ソノギもキャロットとほぼ同時に取得した『積載庫』に反物を仕舞い終えると、おいら達は野営した妖精の森を辞することにしたんだ。

          **********

 そして、三日間の狩りの最後に。

「帰る前に、ソノギにして欲しいことがあるんだ。」

「私ですか?」

 ソノギは、帰り際のおいらの言葉に「聞いてないよ」って表情をしてた。

「そう、ソノギに特別な魔物を討伐して欲しいんだ。
 これからアルトが魔物を一匹引っ張ってくるから倒してちょうだい。
 もし危なくなったら、みんなで支援するから安心して挑戦して。」
 
「はい、マロン様の御命令とあらば…。」

「なになに、強い魔物なの?
 はい、はい、私も倒したい!」

 自信無さげなソノギとは対照的にやる気満々のキャロット。なんで、この娘はこんなに好戦的に育ったのだろう…。

「キャロットも手伝うのは良いけど、あくまで主役はソノギだからね。
 ソノギが苦戦するようなら、キャロットが参戦するようにしてちょうだい。」

「はーい…。」

 あくまでもソノギの補助に徹するようにと指示をすると、キャロットはあからさまにテンションを下げていたよ。
 そして、待つことしばし…。

「マロン、ご指名の魔物引っ張って来たわよ。」

 魔物の領域の奥深くからこちらに向かって一直線に飛んで来るアルト。
 そんなアルトを、この領域の頂点に君臨する魔物が一匹、怒りを露わにして追って来たよ。

「マロン様、あれは?」

 そう尋ねるソノギは、遠目にもその巨大さが分かる魔物を目にして怯えているみたいだった。

「この領域の最奥に生息しているベヒーモスだね。
 最低レベル五十の魔物。
 ソノギなら冷静に対処すれば楽勝だって。」

「レベル五十って…、それ厄災級じゃ…。」

 レベル五十の魔物と聞いてソノギは及び腰になるけど。

「平気、平気、みんなサポートするから。
 レベル五十の『生命の欠片』を手に入れるチャンスだよ。
 積極的にいかないと。」

 人里のこんなに近くにレベル五十の魔物が棲んで定住している場所なんてここしかないからね。せっかく来たのだから、ソノギのレベルを五十まで上げちゃおうって思ったんだ。

 そうこうしているうちに、ベヒーモスは迫って来てその姿がハッキリと捉えることが出来たよ。

「うわっ、大きなサイだ! ソノギ姉さん、はやく行こう!
 あんなのを狩れるなんて楽しみ!」

「あっ、こら、キャロットちゃん。」

 臆しているソノギの手を引いて駆け出すキャロット、嬉々としてベヒーモスに向かって行ったよ。

「もう…。危ないから、キャロットちゃんは後ろに下がっていて。
 私が何とかするから。」

 ベヒーモスに対峙するとソノギも肝が据わったみたいで、無鉄砲な義妹を矢面に立たせる訳に行かないとばかりにキャロットの前に立って剣を構えたよ。
 そしてベヒーモスの巨体が目前に迫り、フッと一瞬ソノギの姿が消えたように見えると…。

「えいっ!」

 ソノギの可愛い気合いが聞こえ、いつの間にか突進を躱したソノギがベヒーモスの首筋に一閃入れたんだ。
 と同時に…。

「私、こっち!」

 キャロットがソノギと反対側からベヒーモスに斬り付けたの。

 首筋の左右両側から血飛沫を上げたベヒーモスは、突進してきた速度のまま地面に倒れ込んでゴロゴロと転がり、やがて命尽きたよ。

「「やったね!」」

 ハイタッチを交わして喜ぶ、ソノギとキャロット。

「よくやったね。お見事だよ。
 それじゃ、ソノギ。
 『生命の欠片』を取り込んじゃおう。」

 おいらがソノギの頭に手を置いて健闘を讃えると。

「はい、有り難うございます。」

 ソノギは嬉しそうに山積みとなった『生命の欠片』に手を翳したよ。
 生命の欠片はキラキラと輝く光となって、ソノギの体に吸い込まれるように消えていった。

「レベルどうなった? ちゃんと上がったかな?」

「はい、凄いです! レベル五十三ですって。」

 ソノギはおいらの問い掛けに嬉しそうな笑顔で答えてた。
 一体倒してレベル五十三とは運が良い。どうやら、ソノギが倒した個体は歴戦の強者だったようだね。

              **********

 そんな訳で、キャロットの初めての本格的な魔物狩りは恙なく終了したんだ。
 キャロットは自分もベヒーモスを倒したいと駄々を捏ねていたけど、時間が無いから諦めてもらったよ。
 もちろん、その日は町をあげての肉祭りになった。今回の狩りで獲った酔牛や馬鹿のお肉を惜しみなく民に振る舞ったんだ。
 年二回の恒例となった肉祭りはその日も大盛況で、キャロットもソノギもたらふく食べて大満足な様子だった。

 そして、その晩。

「それで、その後どう? アレはまだ続いてるの?」

 おいらは密かにレクチェ姉ちゃんと会談していたの。

「はい、情けないことですが。
 陛下の御心を理解できない愚者が居りまして。
 一応、見つけ次第、保護はしているのですが…。」

 レクチェ姉ちゃんは表情を曇らせて教えてくれる。

「レクチェ姉ちゃんが悪い訳じゃ無いし。
 保護しているのなら、十分な働きだよ。
 それじゃ、気取られないように保護しておいて。」

「陛下の御心のままに。
 それではいよいよ決行なさるのですか?」

「うん、ノノウ一族を通じて各家のご令嬢とは話が付いたし。
 今回の狩りで、キャロットとソノギの力も把握できたからね。
 レベルもスキルも良い感じに仕上がったし、旧弊を一掃するよ。」

 実は今回の狩り、キャロットとソノギの実力を確認することの他に、もう一つ目的があったんだ。それは、とある計画を実行に移すためにレクチェ姉ちゃんと密会すること。
 レクチェ姉ちゃんは、以前お願いしてあった悪事の証拠を首尾よく押さえてくれたみたい。それを確認したおいらは計画を決行に移す決意を固めたんだ。
 
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