ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二三章 時は緩やかに流れて…

第836話 私とソノギ姉さんの一日(中)

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 そう言えば、スキルってあまり意識したことが無かった。母さんは幼い子供に教えても理解できないだろうと思ったようで、時が来れば教えるからそれまでは気にする必要ないと言ってたし。実際、子供の私にはスキルなんて無くても暮らしていくのに何の不自由も無かったから。
 母さんがスキルの説明を始めたってことは、きっとその『時』が来たんだね。

 母さんは私に向かって。

「キャロット、能力を確認して。
 スキルの欄には何と書いてある?」

 と、スキルの確認をするよう指示を出したの。能力値を見る機会なんてあまりなくて、確認したのは五歳の誕生日以来だった。

「スキル、スキル…。
 あっ、あった。
 積載量増加 レベル九。
 回避率上昇 レベル八。
 クリティカル発率上昇 レベル八。
 クリティカルダメージ増加 レベル七。
 金貨収穫量増加 レベル五。
 だって。」

 何か、スキルのところには空欄が一つあるけど、それは良いのかな?

「うん、良く育っているね。
 どれも余り役に立っているって感じしないでしょう。
 でもね、キャロットが持っているスキルは全てレベル十を超えると化けるんだ。
 特に『積載量増加』は最優先に育てるスキルだよ。」

 役に立っていないも何も、積載量増加と金貨収穫量増加は意味不明だし、残りの三つはいかにも戦闘系スキルじゃない。
 幼女の私の役に立つ場面なんてそうそうないと思うよ。ましてや、一応お姫様だもの、戦闘系スキルの出番が有ったら困るでしょう。

「何で、『積載量増加』は最優先に育てるスキルなの?
 私に何を積めって…。」

 積載量って…、私は牛馬じゃないよと突っ込むところだったよ。

「それ、レベル十になると『積載庫』ってスキルにアップグレードするから。
 おいらが普段『妖精さんの不思議空間』と呼んでるヤツ。
 あれ実は、アルトから授かったものじゃなくて、スキルなんだ。
 おいらの切り札だから、極一部の人にしか教えてないの。」

 そのことを知っているのは、母さんと父さん、それにタロウおじさん夫婦、あとはハテノ領騎士のスフレおばさんだけみたい。
 ウレシノ母さんとソノギ姉さんにも、たった今明かしたらしい。
 母さんは出来る限り早く『積載庫』を取得させようと、赤ちゃんの時から『積載量増加』のスキルの実を摺り下ろしたものを離乳食として私に食べさせていたんだって。そのおかげで他のスキルより進捗が良いみたい。
 確かに、『妖精さんの不思議空間』は魅力的だね。お菓子でも、果物でも、ご飯でも常に持って歩けるんだから。こっそり屋台で買った串焼きなんかも隠しておけるし…。
 
 母さんは、その他のスキルについても話してくれたわ。『積載量増加』の次に優先的に育てるのは回避率上昇のスキルで、レベル十まで上がると『回避率百%』になるらしい。不意打ちを含めてどんな攻撃でも回避できると言う素敵スキルみたい。暗殺の危険がある王族にとってはとっても有益なスキルだって。
 でも、何でそんな有用なスキルがゴミ呼ばわりされているかと不思議だね。
 そのことを母さんに尋ねたら、スキルの実の食べ方に工夫があるのだと言う。普通に食べたらレベル十になっても回避率は三十%程度しか上らないらしい。しかもこれが曲者なのは、例えば三十%の確率で回避行動ができる身体能力を持つ人が居たとして、普通にレベル十までスキルを上げた時の回避利率は六十%では無く、三十九%にしかならいところ。三十%と言うのは元に回避率に三十%上乗せするのではなく、元の回避率の三十%分が上昇するだけなんだって。
 だから、食べ方を間違えるとレベル十まで上げても大した効果は得られないの。ゴミスキルと呼ばれているものは皆そうらしい。
 元々は正しい食べ方が知られていたらしいけど、いつの間にか伝承が途絶えて、母さんが子供の時に再発見したんだって。
 発見した当時、母さんは治安の悪い所に住んでいたため、切り札としてその食べ方を秘匿したんだって。

 ちなみにソノギ姉さんも同じスキルを持っているんだ。毎日、私と食事やオヤツを共にしているのだから当たり前だよね。レベルの数値は私と変わらないみたい。ただ、私同様に離乳食からスキルの実を食べさせていたそうで、進捗は私より進んでいるだろうと母さんは言ってた。

            **********

 さて、朝食が済むとウサギ小屋にいってウサギの餌やりをするの。
 王族の居住区画の隣には、ウサギ小屋があってウサギ四羽とももんが二匹を飼育しているんだ。いずれも愛玩用ではなく騎乗用に飼っているの。馬の代わりだね。朝の餌やりは私とソノギ姉さんの仕事なんだ。
 これもお姫様の仕事じゃないと顔をしかめる貴族がいるけど、下手な人には頼めないんだ。だって、ウサギとももんがと言っても、小動物じゃなくて、魔物だからね。魔物の習性で、自分よりも弱い者には襲い掛かるんだ。騎士ならともかく、馬丁やメイドさんじゃ齧られちゃうからね。レベル十になった五歳の誕生日以来、私とソノギ姉さんが餌やり係になったの。それまでは、毎朝、母さんと父さんが餌を上げていたの。

「ロップ、おはよう。餌の時間だよ。」

 先ずは、私とソノギ姉さんも自分の騎乗用のウサギに餌をあげるんだ。私がロップに餌を上げている隣では、ソノギ姉さんがポーリに餌を上げている。

 ロップは私が、ポーリはソノギ姉さんが、それぞれ自分で捕えて飼い慣らしたウサギなんだ。私が五歳の誕生日を迎えてレベル十になった時、上がったレベルに体を慣らす期間を一月ほど設けた後で、騎乗用のウサギを捕獲に行ったの。自分が騎乗するウサギは自分で捕獲しないとダメって、母さんが言うんだもの。

 新たに叙任した騎士のお姉さん達が騎乗用のウサギを捕獲に出掛けるのに併せて、私達も草原にウサギを捕獲しに出掛けたんだ。王族の近辺警護を行う近衛騎士は全て女騎士で、騎獣はウサギに決まっているんだ。母さんは近衛騎士のイメージを威圧的なものからフレンドリーなものにしたいと考え、騎獣を馬からウサギに代えたんだって。ウサギに跨る近衛騎士は王都の人達にも大人気なんだ。

 最初に新人騎士のお姉さん達にウサギを捕獲するお手本を見せてもらい、それから私とソノギ姉さんがウサギの捕獲に挑んだの。
 一歳年上のソノギ姉さんは、その時既にレベル二十になっていて、私より体も大きくなっていたので余裕でポーリを捕えていたけど。
 幾ら体を慣らしたとはいえ、レベル十になったばかりだし、何より五歳児の小さな体にはウサギが山のように見えたよ。
 ウサギって、モフモフで可愛らしいけど、自分より遥かに大きな体で襲い掛かられたら生きた心地がしなかった。
 とは言え、所詮はレベルゼロの魔物、攻撃を避けては殴り、避けては殴りしている間にウサギの方がバテてきて何とか服従させることができたの。

 一度服従させてしまえばこっちのもの、可愛いウサギはとても従順になったよ。真っ白のモフモフで、まるで大きなぬいぐるみみたい。

「はい、ニンジンだよ。お食べ。」

 私がニンジンをロップの口の前に差し出すと。

「キュッ、キュッ。」

 なんて愛らしい鳴き声を上げながら、ニンジンを頬張るの。思わず、私も笑顔になっちゃう。
 私の隣では、ニンジンを頬張る愛兎ポーリを眺めて、ソノギ姉さんもニコニコ顔になっているの。

 ロップとポーリがお腹いっぱいになったら、父さんが騎乗するラビと母さんが騎乗するバニーに餌をあげるんだ。その後、フクロモモンガのモモとフクに餌を上げたら餌やりは終わり。

 餌やりが済んだら、次はロップとポーリの運動だよ。ラビとバニーは毎朝、母さんと父さんがトレントの森まで騎乗して往復するので運動は足りているけど。私とソノギ姉さんは滅多に王宮の外に出ないから、ロップとポーリには運動の時間が必要なの。
 私とソノギ姉さんが勝手に王宮の外に出る訳にはいかないので、騎士団の訓練場で運動させるんだ。訓練場まで騎乗して行き、訓練場の中では好き勝手に走り回らせるの。もちろん、騎士の訓練の邪魔にならないよう、訓練時間前に二羽の運動は済ませるようにしてる。
 とは言え、運動を終える頃には訓練の騎士達も集まって来て、ロップとポーリは騎士達に大人気だよ。モフモフしていて可愛いって、騎士のみんなが二羽を撫でに集まってくるんだもん。
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