ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二三章 時は緩やかに流れて…

第834話 嫁さんに相談してみた(後)

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 シフォンは貴族になることに消極的で、マリア姐さんは心底どうでもいい様子だった。

「何でしょうか、この話の流れ…。
 貴族になるのをお断りするんですか?
 こんなチャンス、滅多にあるもんじゃないんですよ。
 勿体ない。」

 どうやら、カヌレは貴族になることに乗り気らしい。
 二人の発言を黙って聞いていて、辞退する方向に話が流れていることに待ったを掛けたんだ。
 カヌレは農家の出身で、地方の農村部から働き口を求めて王都へやって来た。冒険者研修制度がスタートして間もなくの頃に王都へ着いて、女性で冒険者資格を取得した最初の五人の一人なんだ。
 王都へ来た時から玉の輿願望があったらしくてな。最初は冴えない容姿の俺に興味が無かったようだが、俺が金持ちだと知ると手のひらを返したように擦り寄って来やがった。幾ら非モテの俺でも露骨に財産目当ての娘には引いたんだけど、何故かシフォンが気に入っちまって。シフォンの鶴の一声で俺の嫁さんに収まったんだ。今でもそうだが、その時の俺はシフォンに逆らえなかったからな。
 とは言え、今では俺の片腕としてひまわり会の幹部として経営の一翼を担っているので、嫁にしておいて良かったと思ってはいる訳だが。

「その言い方じゃ、カヌレは貴族になりたいのか?」

「だって、貴族の奥方になるのは田舎娘の憧れだもの。
 せっかく機会が巡って来たんですから、お断りするのは惜しいかなって…。」

 どうやら、カヌレはシンデレラストーリーに憧れがあったようだ。
 トアール国じゃ、カズヤ陛下が即位した時に爺さんの娘二人やワイバーン退治に貢献したハテノ領の騎士達が平民から貴族に取り立てられたが、この国ではそんな話は聞かないからな。平民から貴族になる機会なんて殆ど無いと思われているんだろう。
 因みに、俺の知っている限りじゃマロンが平民から貴族に取り立てたのは四人。最初の一人はもちろんマロンを育てた義父のモリイシーさん。
 後の三人は、ヌル王国から連れて来た製鉄技師の親方と火薬衆の長を務めていた二つの家の当主だ。製鉄の親方には鉄の大量生産を、火薬衆の長には窒素肥料の量産を命じてた。それぞれに爵位、領地、工房、そして立ち上げの資金を与えてたけど、その甲斐あって鉄の流通量も増えてたし、農産物の実りも良くなったとマロンは喜んでいたな。
 なので、もし、俺が今回爵位を貰えばマロンが女王になって五人目の平民からの取り立てとなるはずだ。

         **********

「あのう…、タロウちゃん。
 私のような貧民にとってお貴族様は雲の上の存在で…。
 憧れでもありますし…。なれるものなら、なっておいた方が…。」

 控え目に意見したのは我が家で一番若い嫁さんのミヤビ。貧しい家の生まれで十四歳の時から風呂屋の泡姫として働いていたんだ。
 辺境の街に居た頃、爺さんが風呂屋の新人泡姫に実技指導をしてたんだが、加齢で泡姫のお相手が難しくなった爺さんはあろうことか俺に泡姫の相手役を振ってきたんだ。爺さんが見ている前で新人泡姫と致すなんてどんな羞恥プレーだよと、一度は断ったのだが…。泡姫のテクに興味津々のシフォンが乗り気になっちまって、結局引き受けることになったんだ。プロになる前の素人娘と嫁さん公認でナニできるのだから、役得と言えば役得だったけどな…。

 マロンが女王に即位してこの王都に引っ越す直前、俺が最後のお相手役を務めたのがミヤビだ。他にアテが無かったとはいえ泡姫の仕事はハードルが高いようで、実地研修のミヤビは可哀想なくらい怯えていたんだ。まだ十四歳、当然生娘だった訳で怯えるの無理もないと思ったぜ。
 とは言え、お店に出す以上は『泡姫』として必要なテクは身に着ける必要があるんだから実地研修をやらないって訳にもいかなかった。なので、恐怖心を払拭させるためにできる限り優しく接することを心掛けたのだが、それで気に入られてしまったらしい。
 それから約二年後、色々溜め込んだカズヤ陛下の護衛として風呂屋を訪れた俺は、ミヤビと再会することになった。その時、ミヤビは俺と離れたくないと子供のようにぐずったんだ。一応シフォンと相談してみたところ、シフォンが無茶苦茶乗り気で三人目の嫁さんとして迎えることになったぜ。

 今、ミヤビには『新開地レジャーランド』の総支配人としてギルドが手掛ける風俗営業の取りまとめを任せている。
 『新開地レジャーランド』は直営、テナント併せて約二百軒も風俗店が軒を並べるこの大陸最大の歓楽街。それまでは風俗店が王都の繁華街に無秩序に点在し、王都の風紀を乱していただけではなく治安を乱す原因にもなっていた。王都の風紀や治安の改善をはかるため、王都に在った風俗店を集約したのが『新開地レジャーランド』なんだ。王都から小さな半島状に海に張り出した一帯を風俗営業専用地域として、そこを俺主導で再開発したんだぜ。
 『新開地レジャーランド』の開設と同時に、それ以外の王都では風俗営業が全面的に禁止され。それ以降、違法営業は騎士団によって厳しく取り締まられることになった。
 で、元々、その半島部分は風呂屋の店舗を増やす目的でひまわり会が土地を買い占めてあったことから、『新開地レジャーランド』の運営はひまわり会が一手に引き受けることになったんだ。
 開業後まだ数年だが、王都が貿易港で長い航海の末辿り着いた交易船も多く、劣情を持て余した船乗り達が掃いて捨てるほどいることもあって、『新開地レジャーランド』は大繁盛だ。特に爺さん秘伝のソープランドテクを導入した風呂屋は、毎日昼間から行列ができるほど繁盛しているぜ。今じゃ、ひまわり会が経営する風呂屋を目当てに、大陸各地からやってくる旅人がいるくらいだからな。

 そんな『新開地レジャーランド』指揮を執っているのがミヤビだ。直営店の経営から、テナントの管理、違法営業の取り締まり、お客とのトラブル仲裁と仕事は多岐にわたるのだがそつなくこなしてやがる。まだ二十歳前なのに頼もしい限りだぜ。

「ミヤビもカヌレの意見に賛成か。
 やっぱり、身分制度の中で暮らしていると貴族の身分に憧れるんだな。」

「いえ、憧れだけじゃなくて…。
 色街の仕事をしていると、無法者が介入してくることが多いんです。
 この間も、筋の悪い連中が店を出させろと脅してきまして…。
 そんな時、貴族の看板があった方が良いかなって。
 貴族に無理難題を吹っかける輩は居ないでしょうから。」

 危ない薬を扱っている連中や娘さんを無理矢理風呂屋に沈めるような連中、それにそんな輩と結託してヤバい店を出そうって連中。
 そんな連中はマロンと協力して徹底的に潰したつもりなんだが、あんな輩はゴキブリと同じで次から次へと湧いて出るからな。
 
「そうだね。ミヤビちゃんの言う通りかも知れない。
 タロウ君が貴族になれば、ひまわり会は貴族の傘下ってことになるもんね。
 悪質な営業妨害をしてくるような輩は減るかも知れないわね。
 やっぱり、貴族の看板は伊達じゃないもの。」

 貴族になることを消極的に捉えていたシフォンが、ミヤビの意見に同調する仕草を見せたよ。

「そう言えば、ダーリンって、マロンちゃんの行幸や外遊に当たり前のように同行しているけど。
 あれって、どういう資格で同行しているの?」

 突然、話題を換えるようにマリア姐さんが尋ねて来たぜ。

「資格って何が? マロンに同行するのに資格が居るのか?
 俺、いつもアルト姐さんから護衛として無理やり連れてかれるんだが。
 言っとくが、俺が自発的に同行している訳じゃ無いぞ。」
 
「だって、ダーリンったら、他国の王様の前でも当然のようにマロンちゃんの後ろに控えているよね。
 あれって、本来、正式な側近の立ち位置だし。若しくは近衛騎士の幹部。
 どちらにせよ、普通は上位貴族でしょう。平民が居て良い位置じゃないと思う。」

「そんなことを言っても、アルト姐さんがあの位置に立たせるし…。」

「まあ、マロンちゃんは平民育ちで破天荒なところあるし。
 今はまだ十六歳って歳だから、周りも大目に見ているんじゃないかしら。
 マロンちゃんも女王としての作法が分かって来て。
 国情が安定して形式が重視されてきたら。
 今まで通りの立ち位置って訳にはいかなくなると思う。」

 マリア姐さんはそんなことを言うけど、俺は別に今の立ち位置が良いと一言も言ってないんだが…。
 何も好き好んで、他国のVIPの前に顔を出している訳でも無いし。

 とは言え、マリア姐さんのそのセリフが決め手となり、俺は爵位を受け取ることにしたんだ。
 貴族になることに前向きだった、カヌレとミヤビは子供のようにはしゃいでたよ。

「でもね、ダーリン。
 新設貴族家なら、爵位はどうせ男爵でしょう。
 貴族の中じゃ一番の下っ端だし、成り上がりと揶揄されるわよ。
 貴族になったらなったで、気苦労が絶えないでしょうね。」

 叙爵を受けると決めた途端、マリア姐さんが笑いながら嫌なことを言ったよ。そんな助言は、せめて決める前に言って欲しかったぜ。
 
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