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第二三章 時は緩やかに流れて…
第828話 レベルの遺伝が実証されたよ
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遊びに来ていたマリアさんが、母親から娘にのみレベルが遺伝するなんて爆弾発言をかましたよ。
「それで、何で女親から娘に限定したの?」
どんな場合でも遺伝するようにしておけば、親殺しなんて言う悍ましい習慣が出来ずに済んだのに。
「決まっているじゃない。
野蛮な男共から、女性を護るためよ。」
惑星テルルでは歴史上戦争を引き起こしていたのは、往々にして野心に溢れる男だったらしい。
テルルの人類を新天地で根付かせるって使命を帯びたマリアさんは、惑星テルルでの過ちを繰り返さないため『男性の草食動物化計画』を掲げて男性が持つ攻撃的な本能を弱めようと研究していたのだけど。それが実現しない場合の保険として二つの対策を講じたんだって。
一つは人類共通の敵として魔物を生み出すことにより、人間同士が争っている場合ではない状態を創り出すこと。戦争が起こらないように国と国の間に魔物の領域を配置するほど男性に不信感を持ってたものね。もっとも、それすらトアール国の祖アダムにあっさり破られちゃって頭を悩ましていたみたいだけど。
そして二つ目がレベルなんだって。男性に比べ肉体能力に劣る女性にのみ遺伝が発生するように設定することにより、王統が女系になるように仕組んだんだって。血の気の多い男性ではなく、母性の強い女性が国の指導者になるように。
でも、それもマリアさんの思惑通りにはならなかったみたいだね。以前、『始まりの森』でアカシアさんから聞いた話だと、最初に建国したアダムとノア以外は全て女性をリーダーとして国造りをしたんだ。ところが、長い歴史の中で王位は男性のものとなり、女王を認めない国が殆どになってしまったもの。
まあ、子作りに関しては女児が産まれないこともあるから、男系になってしまうケースがあるのも仕方がないのだけど。どうやら、何処かの代で王子が、女王ないしは王女を殺害してレベルと王位を奪った国もあるみたいだよ。そんな蛮行があったこともアカシアさんから報告を受けているそうで、簒奪を行った者の余りの愚昧さにマリアさんは気が遠くなったって。
「全く権力欲ってのは度し難いね。
それで、レベルが遺伝すると言う重要な情報が失伝したんじゃ意味ないよ。
ずっと女王を続けてれば親殺しなんてしないで済んだのに…。」
王侯貴族が全て女系であれば、王家に女児が産まれなくても高レベルの妃を迎えてれば良いだけだものね。そうすれば、少なくとも王妃のレベルを次代の女王が継承できるから。
「実は私もキャロットちゃんの顔を見るまで忘れていたのですけどね。」
マリアさんは平素レベルのことなど意識していないので、レベルが母親から娘に遺伝することを気に留めていなかったらしい。
キャロットの顔を見て、レベルの遺伝についての情報が継承されてないとしたら拙い事態になると思ったんだって。
「拙い事態ってなに?」
「決まっているでしょう。
マロンちゃんの人間離れしたレベルが、キャロットちゃんに遺伝しているのよ。
子供の喧嘩で相手を殺しかねないわ。」
おいら思わず顔が引き攣ったよ。子供の喧嘩で人死にが出るなんてシャレにならないじゃん…。
**********
「今、キャロットはおいらと同じレベルなんだ…。
考えてみれば、ヤバいことだね。
ぐずって子守りを殴ろうものなら怪我をさせかねないじゃん。」
レベル七十二の新生児って…。乳母のウレシノにケガでもさせたら大変だよ。
「でも、おかしいですね。
今までのキャロット様が寝起きにぐずったことはありましたし。
あやすために抱き上げると、腕の中で暴れることもしばしばです。
ですが、ごく普通の赤ちゃんの力としか感じられませんでした。
もちろん、怪我などしたこともございませんし。」
おいらの言葉に、ウレシノはそんな呟きを漏らして首を傾げたの。
「ああ、それはこれから説明しようと思ってたの。
幼児にはレベルに関してリミッターを付けてあるわ。
だって、自分の力を制御できない幼子にレベルを与えたら危ないじゃない。」
「リミッターってなに?
今現在、キャロットのレベルはどうなっているの?」
「今、キャロットちゃんのレベルはゼロよ。
ウレシノさんの感じた通り、普通の新生児と変わらないわ。
レベルは五歳から段階的に解除されるように設定してあるの。」
マリアさんの解説に拠れば、満五歳の誕生日にレベル十までのレベルが解禁されるらしい。六歳、七歳の誕生日にもレベル十づつ追加で解禁され、満八歳の誕生日に上限が解除されるそうなんだ。
キャロットの場合、五歳でレベル十、六歳でレベル二十、七歳でレベル三十、八歳でレベル七十二ってことか…。
「五歳になるまでに、レベルに関する知識を教えて。
無闇矢鱈に暴力を振るわないように厳しく躾けろってことだね。
五歳を過ぎたら、力加減を覚えさせないといけないんだ。
殴った相手が死んじゃったじゃシャレにならないし。」
「そうそう。その理解で正しいわ。」
「でも八歳で限定解除って早過ぎない?
レベル三十からいきなり跳ね上がったら、力加減に戸惑うと思う。」
「それはマロンちゃんが人間離れしているからよ。
普通ならレベル四十もあれば最強クラスの人間よ。
大概の人間が五、六歳のリミッター解除で済んじゃうはずなの。
レベル七十超の幼児だなんて、誰が想定できるって。」
まあ、確かに。おそらく、キャロットは史上最高レベルの新生児のはず。
アダム以来綿々とレベルを積み上げて来たトアール国の愚王がレベル七十と伝わっているからね。トアール国の歴史は数万年に及ぶ訳で、それでもレベル七十程度なんだ。しかもその時代、トアール国に女王は認められていなかったから、レベルの遺伝なんて起こりえなかったし。
仕方が無い。キャロットが物心つく歳になったらすぐにレベルについて教え込んで、五歳になったらウサギ狩りでも始めさせよう。そうすれば力加減の仕方も身に付くだろうし。
**********
「そっか、五歳まではリミッターが効いてるから何の心配もないんだ。
って、五歳!」
「マロン、五歳がどうしたのじゃ? 何か、問題があるんじゃろうか?」
おいら、ハッとして思わず大声を上げちゃったよ。おいらが慌てていると、オランがその理由を尋ねてきたの。
「ライム姉ちゃん、多分、レベルの遺伝について知らないよ。
ユズちゃん、もう五歳になっているはず。
早く教えてあげないと拙いことになるかも。」
確か、ライム姉ちゃんがユズちゃんを産んだのはおいらが十一歳の時だと思った。おいらは今十六歳だから…。
ダイヤモンド鉱山の解放の時に、領主が前線で指揮を執らないと様にならないってことになって。ライム姉ちゃんはレベル四十までレベルを上げていたんだ。アルトが『生命の欠片』を譲ってあげたの。
領主のライム姉ちゃんはあれ以降魔物退治の最前線に出ているとは思えないんで、おそらく今でもレベル四十だと思う。
だとしたら、ユズちゃんもライム姉ちゃんからの遺伝でレベル四十まで上がるはず。
「あらら、最初のリミッターが解除されているわね。
レベル十か…。子供同士の喧嘩なんてしたら拙いわね。」
おいらの言葉を聞いて、マリアさんもおいらの懸念を理解してくれたよ。
なので、アルトに頼んで大至急、領都まで飛んでもらったんだ。
ライム姉ちゃんの屋敷を訪ねて、今しがたマリアさんから教えてもらったことを明かしたの。
「へっ、レベルが遺伝するって?
私のレベルがユズに遺伝しているのですか?」
ライム姉ちゃんは、俄かには信じられない様子で目を丸くしてたよ。
「うん、おいらもさっきマリアさんから教えてもらったんだ。
それで、ユズちゃんがもう五歳だと思い出して慌てて来たんだ。」
「そうなの。ユズちゃん、五歳になったそうですが…。
何か変化はありませんか?
おそらくレベル十になっているはずですが。」
「はい先日、五歳の誕生日を迎えましたが。
今のところ、問題は起こっていません。」
ライム姉ちゃんに似て気性が穏やかなユズちゃんは無闇矢鱈と人を殴るようなことは無く。幸いにしてレベル十の力を他者に向けて振るうことを無かったみたいなの。
「そうですか。大事が無くて良かったです。
良い機会ですから、ユズちゃんのレベルを確認しておきませんか?
私も女児のレベルの遺伝の実例を見るのは数千年振りですので。」
ユズちゃんがちゃんとレベル十になっているのか確認しようと、マリアさんは提案したんだ。
「そうですね、確認とはどうすれば良いのでしょう?」
「能力値の確認の仕方を教えて、レベルの欄を読み上げてもらいましょう。
その後、レベルのことを口止めすれば良いでしょう。」
この機会に能力値の見方を教えれば良いとするマリアさん。子供は素直なので能力値さえ見ることが出来れば、レベルの欄を読み上げてくれるだろうって。
**********
そんな訳で、ユズちゃんを呼んでもらったよ。
「ユズちゃん、これから自分の能力値の見方を教えますね。」
「のうりょくち?」
「そうですよ。それを見れば自分の力が分かるんです。」
と我が娘に教える、ライム姉ちゃん。
まあ、幼児に能力とか言っても理解できる訳が無く、ユズちゃんはぼうっとしてたよ。
おいらが父ちゃんから能力値の見方を教えてもらったのも、ちょうどユズちゃんくらいの歳だったよ。
やっぱり、父ちゃんの言葉の意味が理解できないで、言われた通りにしてたっけ。
「はい、頭の中で能力値が見たいと強く願ってくださいね。」
「のうりょくち、みたい。のうりょくち、みたい。」
ライム姉ちゃんに指示されると、ユズちゃんは能力値を見たいと口頭で繰り返してたよ。
ユズちゃんはしばらく呪文のように繰り返していたんだけど、やがて…。
「あっ、なんかみえた!」
「ユズちゃん、その一番上にはなんて書いてある?」
「ユズって、ユズのおなまえがかいてある。」
「そこにユズちゃんの歳は書いてあるのが分かるかな? 年齢と書いてあるはずだけど。」
「うん、わかるよ。ごさいってかいてある。」
ユズちゃんは、無事に能力値を見ることに成功した様子だった。
「そしたら、レベルと書いてあるのは分かる?」
能力値の見方を教えた目的に迫るライム姉ちゃん。
「うん、レベルもわかる。となりにじゅうってかいてあるよ。」
レベルの母親から娘への遺伝が、実証された瞬間だった。
問うまでもなく、ユズちゃんはレベルの数値を読み上げてくれたんだ。
「信じられません。本当にこの子はレベルが十まで上がっているのですね。」
「おいらも半信半疑だったんだけど…。これで、マリアさんの言葉が正しいと確信したよ。」
ユズちゃんが自分のレベルを読み上げてことで、その場にいた全員がマリアさんの言葉に嘘はないと理解した様子だったの。
この後、ライム姉ちゃんはユズちゃんに対して早速躾を始めたんだ。まずは、自分のレベルを決して他言してはいけないってことからね。
それから、ユズちゃんがレベル十の能力に体を慣らさないといけないことを、マリアさんが伝えてた。
自分がレベルを手に入れた時の経験から、ライム姉ちゃんはマリアさんの助言を素直に受け入れたみたい。ライム姉ちゃんの護衛騎士を務めるエクレアさんにユズちゃんの指導を任せると言ってたよ。
本気か、冗談かは知らないけど。先ずはユズちゃんが騎乗するためのウサギを捕まえさせようとか言ってるし…。
「それで、何で女親から娘に限定したの?」
どんな場合でも遺伝するようにしておけば、親殺しなんて言う悍ましい習慣が出来ずに済んだのに。
「決まっているじゃない。
野蛮な男共から、女性を護るためよ。」
惑星テルルでは歴史上戦争を引き起こしていたのは、往々にして野心に溢れる男だったらしい。
テルルの人類を新天地で根付かせるって使命を帯びたマリアさんは、惑星テルルでの過ちを繰り返さないため『男性の草食動物化計画』を掲げて男性が持つ攻撃的な本能を弱めようと研究していたのだけど。それが実現しない場合の保険として二つの対策を講じたんだって。
一つは人類共通の敵として魔物を生み出すことにより、人間同士が争っている場合ではない状態を創り出すこと。戦争が起こらないように国と国の間に魔物の領域を配置するほど男性に不信感を持ってたものね。もっとも、それすらトアール国の祖アダムにあっさり破られちゃって頭を悩ましていたみたいだけど。
そして二つ目がレベルなんだって。男性に比べ肉体能力に劣る女性にのみ遺伝が発生するように設定することにより、王統が女系になるように仕組んだんだって。血の気の多い男性ではなく、母性の強い女性が国の指導者になるように。
でも、それもマリアさんの思惑通りにはならなかったみたいだね。以前、『始まりの森』でアカシアさんから聞いた話だと、最初に建国したアダムとノア以外は全て女性をリーダーとして国造りをしたんだ。ところが、長い歴史の中で王位は男性のものとなり、女王を認めない国が殆どになってしまったもの。
まあ、子作りに関しては女児が産まれないこともあるから、男系になってしまうケースがあるのも仕方がないのだけど。どうやら、何処かの代で王子が、女王ないしは王女を殺害してレベルと王位を奪った国もあるみたいだよ。そんな蛮行があったこともアカシアさんから報告を受けているそうで、簒奪を行った者の余りの愚昧さにマリアさんは気が遠くなったって。
「全く権力欲ってのは度し難いね。
それで、レベルが遺伝すると言う重要な情報が失伝したんじゃ意味ないよ。
ずっと女王を続けてれば親殺しなんてしないで済んだのに…。」
王侯貴族が全て女系であれば、王家に女児が産まれなくても高レベルの妃を迎えてれば良いだけだものね。そうすれば、少なくとも王妃のレベルを次代の女王が継承できるから。
「実は私もキャロットちゃんの顔を見るまで忘れていたのですけどね。」
マリアさんは平素レベルのことなど意識していないので、レベルが母親から娘に遺伝することを気に留めていなかったらしい。
キャロットの顔を見て、レベルの遺伝についての情報が継承されてないとしたら拙い事態になると思ったんだって。
「拙い事態ってなに?」
「決まっているでしょう。
マロンちゃんの人間離れしたレベルが、キャロットちゃんに遺伝しているのよ。
子供の喧嘩で相手を殺しかねないわ。」
おいら思わず顔が引き攣ったよ。子供の喧嘩で人死にが出るなんてシャレにならないじゃん…。
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「今、キャロットはおいらと同じレベルなんだ…。
考えてみれば、ヤバいことだね。
ぐずって子守りを殴ろうものなら怪我をさせかねないじゃん。」
レベル七十二の新生児って…。乳母のウレシノにケガでもさせたら大変だよ。
「でも、おかしいですね。
今までのキャロット様が寝起きにぐずったことはありましたし。
あやすために抱き上げると、腕の中で暴れることもしばしばです。
ですが、ごく普通の赤ちゃんの力としか感じられませんでした。
もちろん、怪我などしたこともございませんし。」
おいらの言葉に、ウレシノはそんな呟きを漏らして首を傾げたの。
「ああ、それはこれから説明しようと思ってたの。
幼児にはレベルに関してリミッターを付けてあるわ。
だって、自分の力を制御できない幼子にレベルを与えたら危ないじゃない。」
「リミッターってなに?
今現在、キャロットのレベルはどうなっているの?」
「今、キャロットちゃんのレベルはゼロよ。
ウレシノさんの感じた通り、普通の新生児と変わらないわ。
レベルは五歳から段階的に解除されるように設定してあるの。」
マリアさんの解説に拠れば、満五歳の誕生日にレベル十までのレベルが解禁されるらしい。六歳、七歳の誕生日にもレベル十づつ追加で解禁され、満八歳の誕生日に上限が解除されるそうなんだ。
キャロットの場合、五歳でレベル十、六歳でレベル二十、七歳でレベル三十、八歳でレベル七十二ってことか…。
「五歳になるまでに、レベルに関する知識を教えて。
無闇矢鱈に暴力を振るわないように厳しく躾けろってことだね。
五歳を過ぎたら、力加減を覚えさせないといけないんだ。
殴った相手が死んじゃったじゃシャレにならないし。」
「そうそう。その理解で正しいわ。」
「でも八歳で限定解除って早過ぎない?
レベル三十からいきなり跳ね上がったら、力加減に戸惑うと思う。」
「それはマロンちゃんが人間離れしているからよ。
普通ならレベル四十もあれば最強クラスの人間よ。
大概の人間が五、六歳のリミッター解除で済んじゃうはずなの。
レベル七十超の幼児だなんて、誰が想定できるって。」
まあ、確かに。おそらく、キャロットは史上最高レベルの新生児のはず。
アダム以来綿々とレベルを積み上げて来たトアール国の愚王がレベル七十と伝わっているからね。トアール国の歴史は数万年に及ぶ訳で、それでもレベル七十程度なんだ。しかもその時代、トアール国に女王は認められていなかったから、レベルの遺伝なんて起こりえなかったし。
仕方が無い。キャロットが物心つく歳になったらすぐにレベルについて教え込んで、五歳になったらウサギ狩りでも始めさせよう。そうすれば力加減の仕方も身に付くだろうし。
**********
「そっか、五歳まではリミッターが効いてるから何の心配もないんだ。
って、五歳!」
「マロン、五歳がどうしたのじゃ? 何か、問題があるんじゃろうか?」
おいら、ハッとして思わず大声を上げちゃったよ。おいらが慌てていると、オランがその理由を尋ねてきたの。
「ライム姉ちゃん、多分、レベルの遺伝について知らないよ。
ユズちゃん、もう五歳になっているはず。
早く教えてあげないと拙いことになるかも。」
確か、ライム姉ちゃんがユズちゃんを産んだのはおいらが十一歳の時だと思った。おいらは今十六歳だから…。
ダイヤモンド鉱山の解放の時に、領主が前線で指揮を執らないと様にならないってことになって。ライム姉ちゃんはレベル四十までレベルを上げていたんだ。アルトが『生命の欠片』を譲ってあげたの。
領主のライム姉ちゃんはあれ以降魔物退治の最前線に出ているとは思えないんで、おそらく今でもレベル四十だと思う。
だとしたら、ユズちゃんもライム姉ちゃんからの遺伝でレベル四十まで上がるはず。
「あらら、最初のリミッターが解除されているわね。
レベル十か…。子供同士の喧嘩なんてしたら拙いわね。」
おいらの言葉を聞いて、マリアさんもおいらの懸念を理解してくれたよ。
なので、アルトに頼んで大至急、領都まで飛んでもらったんだ。
ライム姉ちゃんの屋敷を訪ねて、今しがたマリアさんから教えてもらったことを明かしたの。
「へっ、レベルが遺伝するって?
私のレベルがユズに遺伝しているのですか?」
ライム姉ちゃんは、俄かには信じられない様子で目を丸くしてたよ。
「うん、おいらもさっきマリアさんから教えてもらったんだ。
それで、ユズちゃんがもう五歳だと思い出して慌てて来たんだ。」
「そうなの。ユズちゃん、五歳になったそうですが…。
何か変化はありませんか?
おそらくレベル十になっているはずですが。」
「はい先日、五歳の誕生日を迎えましたが。
今のところ、問題は起こっていません。」
ライム姉ちゃんに似て気性が穏やかなユズちゃんは無闇矢鱈と人を殴るようなことは無く。幸いにしてレベル十の力を他者に向けて振るうことを無かったみたいなの。
「そうですか。大事が無くて良かったです。
良い機会ですから、ユズちゃんのレベルを確認しておきませんか?
私も女児のレベルの遺伝の実例を見るのは数千年振りですので。」
ユズちゃんがちゃんとレベル十になっているのか確認しようと、マリアさんは提案したんだ。
「そうですね、確認とはどうすれば良いのでしょう?」
「能力値の確認の仕方を教えて、レベルの欄を読み上げてもらいましょう。
その後、レベルのことを口止めすれば良いでしょう。」
この機会に能力値の見方を教えれば良いとするマリアさん。子供は素直なので能力値さえ見ることが出来れば、レベルの欄を読み上げてくれるだろうって。
**********
そんな訳で、ユズちゃんを呼んでもらったよ。
「ユズちゃん、これから自分の能力値の見方を教えますね。」
「のうりょくち?」
「そうですよ。それを見れば自分の力が分かるんです。」
と我が娘に教える、ライム姉ちゃん。
まあ、幼児に能力とか言っても理解できる訳が無く、ユズちゃんはぼうっとしてたよ。
おいらが父ちゃんから能力値の見方を教えてもらったのも、ちょうどユズちゃんくらいの歳だったよ。
やっぱり、父ちゃんの言葉の意味が理解できないで、言われた通りにしてたっけ。
「はい、頭の中で能力値が見たいと強く願ってくださいね。」
「のうりょくち、みたい。のうりょくち、みたい。」
ライム姉ちゃんに指示されると、ユズちゃんは能力値を見たいと口頭で繰り返してたよ。
ユズちゃんはしばらく呪文のように繰り返していたんだけど、やがて…。
「あっ、なんかみえた!」
「ユズちゃん、その一番上にはなんて書いてある?」
「ユズって、ユズのおなまえがかいてある。」
「そこにユズちゃんの歳は書いてあるのが分かるかな? 年齢と書いてあるはずだけど。」
「うん、わかるよ。ごさいってかいてある。」
ユズちゃんは、無事に能力値を見ることに成功した様子だった。
「そしたら、レベルと書いてあるのは分かる?」
能力値の見方を教えた目的に迫るライム姉ちゃん。
「うん、レベルもわかる。となりにじゅうってかいてあるよ。」
レベルの母親から娘への遺伝が、実証された瞬間だった。
問うまでもなく、ユズちゃんはレベルの数値を読み上げてくれたんだ。
「信じられません。本当にこの子はレベルが十まで上がっているのですね。」
「おいらも半信半疑だったんだけど…。これで、マリアさんの言葉が正しいと確信したよ。」
ユズちゃんが自分のレベルを読み上げてことで、その場にいた全員がマリアさんの言葉に嘘はないと理解した様子だったの。
この後、ライム姉ちゃんはユズちゃんに対して早速躾を始めたんだ。まずは、自分のレベルを決して他言してはいけないってことからね。
それから、ユズちゃんがレベル十の能力に体を慣らさないといけないことを、マリアさんが伝えてた。
自分がレベルを手に入れた時の経験から、ライム姉ちゃんはマリアさんの助言を素直に受け入れたみたい。ライム姉ちゃんの護衛騎士を務めるエクレアさんにユズちゃんの指導を任せると言ってたよ。
本気か、冗談かは知らないけど。先ずはユズちゃんが騎乗するためのウサギを捕まえさせようとか言ってるし…。
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