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第二三章 時は緩やかに流れて…
第822話 やっと公認の仲になったみたい
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辺境の街に休養に来て一月ほど経ったある日のこと。
おいらはウエニアール国へ帰国する準備をしていたの。帰国と言ってもこれで休暇が終わりって訳じゃないよ。
二年間も休み無しで働いた上、出産までしたんだもの。幾らレベルが高いと言っても、一月くらいの休養では体調が回復しないって。
とは言え、貯水池への真水の補給も、トレントの木炭への加工も、おいらにしか出来ない作業だからね。
一月も補給を休むと貯水池の水は半減しちゃうし、トレントの狩場は討伐したトレント本体で溢れちゃう。王都の特産品でもある木炭は万が一にも品切れを起こすことは出来ないから、半年分くらいの在庫を供出してはあるけど。狩場が足の踏み場も無くなって、狩りをするのに支障を来すと拙いし。
てなことで、いったん帰国することになったんだ。
王都で留守番をしている人達へのお土産など、一時帰国に持って行く物を揃えていると。
「ねえ、マロンちゃん、帰国する前に何日かこの国の王都に立ち寄る時間は無いかしら?」
不意に姿を現したミントさんが、おいらの都合を尋ねてきたの。
「別に、かまわないよ。
おいらの国の王都で、特に約束があるる訳じゃ無いから。
貯水池の水だって、半分くらいは残っているはずだし。」
貯水池を造る際、最長二ヶ月は留守にしても問題が起きないように設計してもらったからね。
慌てて帰国しなくても、寄り道している余裕は十分あるよ。
「そう、それじゃ、私達も王都までご一緒させてちょうだい。」
「アルトは大丈夫? おいらは構わないけど。」
おいらもアルトの『積載庫』に乗せてもらっている身だからね。アルトの承諾が無いと勝手に返事は出来ないし。
「良いわよ、どうせ通り道だし。」
アルトが快諾してくれたので、帰国の途中にこの国の王都に立ち寄ることになったんだ。
「それで、ミントさんはカズヤ兄ちゃんの様子を見に行くつもりなの?」
ミントさんは現国王となった自分の息子に会いに行くのだと、おいらは思ったのだけど。
「公爵家に顔を出すの。
お父様に孫の顔を見せてあげたいし。
アルト様の『特別席』なら、赤ちゃんだって安心して移動できるのでしょう。」
「そう言うことなら、お安い御用よ。」
前公爵に孫の顔を見せて喜ばせたいと言うミントさんに、アルトはほっこりとした表情を見せて請け負っていた。
「それじゃ、グラッセお爺ちゃんとパターツさんもご一緒してくださるかしら?
紹介したい人が居るのよ。」
王都へ行くことが決まると、ミントさんはパターツさん父子を誘ったんだ。誰を紹介したのかも明かさずに…。
**********
もとよりパターツさんはおいらのお世話を命じられており、グラッセのお爺ちゃんもダイヤモンド鉱山の監査が済んで休暇中だったので、二人ともミントさんの指示に従って王都へ同行することになったの。流石に公爵様に誘われて嫌とは言えなかったみたいだよ。
そして、夕方前には王都に着いて。
「おお、ミント、良くぞ戻った。」
元公爵がご機嫌な様子で出迎えてくれたんだ。
「お父様、遅くなりましたが。私がお腹を痛めて産んだ子供達を紹介に参りました。」
子供達って、それじゃもう二歳になるカズネちゃんもまだ会わせて無かったんだ…。
「まったく、何時になったら孫の顔を見せてくれのかと気を揉んでいたのだぞ。
お前ときたら、子供が産まれたと手紙を寄こしたきりで一向に顔を出さないのだから。」
案の定、孫二人の顔を見たことが無いようで、元公爵は不満を漏らしてた。
「すみません、産まれたばかりの赤子に長旅をさせる訳にはいきませんし。
そうこうする間に二人目を身籠ってしまったものですから。
ですが、これでも可能な限り急いできたのですよ。」
ミントさんはアルトのおかげで何とか連れて来れたのだと言い訳してたよ。
確かに長男のカズサ君はまだ生後三ヶ月程らしいから、馬車ではとても連れて来れないね。
そして、ミントさんが指示すると、にっぽん爺に抱かれたカズサ君と一緒にカズネちゃんが公爵の前に現れたよ。
「おお、その二人がミントの子供なのか?」
「はい、お父様。長女のカズネと長男のカズサです。
カズネ、お爺ちゃんですよ。ご挨拶して。」
ミントさんはカズネちゃんの肩を抱いて自分の前に立たせると挨拶をするように指示したの。
「おじいしゃま、はじめましゅて。かずねでしゅ。」
拙い言葉でそう言うと、カズネちゃんはペコリと頭を下げたんだ。その様子がとても愛らしくて。
「幼い頃のミントそっくりだ。
カズネと申すか、良く来た、良く来た。
歓迎するから、ゆっくりして行ってくれ。」
相好を崩した元公爵は、屈んでカズネちゃんの頭を撫で回してたよ。
カズネちゃん、歓迎されていることが分かっている様子で嬉しそうに目を細めてた。
それから、元公爵は姿勢を戻してにっぽん爺の腕の中で眠るカズサ君に視線を向けたのだけど…。
「ところで、カズサを抱いている青年は誰なのだ?
黒い髪や目鼻立ちが陛下に似ておるのだが…。」
そんなことを尋ねた元公爵。
元公爵は首をひねりながら、にっぽん爺を凝視していたよ。
「お父様、ご紹介しますわ。その方はカズト様。
私のパートナーですわ。
カズヤ、カズネ、カズサの父親ですよ。」
「おい待て、カズヤ陛下の父親だと?
年齢的にはそれでもおかしくないが…。
確か、カズヤ陛下の父親は儂より年上であったはず。」
確かに、カズヤ兄ちゃんはまだ二十代半ばだから、父親が五十前でもおかしくはないね。
ただ、元公爵はカズヤ兄ちゃんの実父の素性を最初から知らされてたから、目の前の中年男性が本人だと知り驚愕の表情を浮かべていたよ。
「はい、カズト様は齢七十三歳になりました。
お父様より八つも年上ですね。」
「いやいや、この姿はどう見ても五十前であろう。」
「信じられないかも知れませんが、紛れもなく本人なのです。
実は、先日まで加齢で死の床にあったのですが…。
とある縁が御座いまして、若返りの妙薬を戴きました。」
ミントさん、マリアさんから貰った若返りの薬について暴露しちゃったよ。争いの火種になりかねないから内緒だと言ってたのに。
**********
若返りの妙薬と聞き、胡散臭そうな表情をしている元公爵に。
「ところで、お客様をお連れしているのですが。
ここへお招きしてもよろしいでしょうか?」
ミントさんが公爵に尋ねると。
「お客様というのは、アルト様の『不思議な空間』に居られるのかね。」
公爵はミントさんの傍らに浮かぶアルトに視線を向けて問い返したの。
それに対してミントさんが頷くことで肯定したんだ。
「ちょっと待て。今、貴賓室を用意させるから。
アルト様、もう少々お待ちくださいませ。」
アルトを見ておいらの存在に気付いたんだろうね、公爵は慌てて貴賓室の準備を指示してた。
部屋の準備が整うと、アルトはおいら達を『積載庫』から降ろしてくれたよ。
「マロン陛下、ようこそお越しくださいました。
陛下をお迎えできて、光栄で御座います。」
おいら達が貴賓室に降り立つと、公爵は慇懃な態度で出迎えてくれたの。
「前触れも無しに突然訪問してゴメンね。
休暇中だし、お忍びだから、堅苦しい歓迎はしないでいいよ。」
公爵家を突然訪問するなんて、無礼この上ないし、門前払いされても文句言えないもんね。
「そうは申されましても、隣国の女王陛下にご無礼は出来ませんし。」
長らく国の要職に就いていたこともあって、元公爵はとても常識的な対応をするのだけど。
「お父様、マロンちゃんがああ言っているのだし。
お堅いことは抜きにしましょう。」
現公爵はおいらの身分なんてお構いなしだったよ。一応空気は呼んでいるみたいだけど。
「それで、さっきミントさんが言っていたことだけど。
あれ本当だよ。この人がカズヤ兄ちゃんやその二人のお父さん。
おいらやオランが証人だよ。若返るところを目撃しているから。」
「なっ、なんと…。それは真ですか?
なら、儂もその妙薬とかにあやかりたいものですが…。
お金なら幾らでも詰みますぞ。」
おいらが証言すると、元公爵は眼の色を変えたよ。マリアさんが危惧した通りあの薬は争いのタネになるね。
「お父様、若返りの妙薬はカズト様が服用したもので最後だったそうです。
実は、私もお強請りしたのですが品切れだと断られまして…。」
薬の作成にはとても高度な機材が必要で、それが壊れてしまった今となっては作ることが出来ない。
マリアさんから教えられた事情を、ミントさんはありのままに説明したんだ。
「なんと、残念なことじゃ…。
若返りの妙薬だなんて、人なら誰しも欲するだろうに。」
心底残念そうな表情の元公爵。
それを見ておいら思ったよ。マリアさんをこの場に出さないで良かったと。
下手をすると、マリアさんを拉致って無理やり調薬させそうな雰囲気だもの。
「だから、薬は諦めて、孫を可愛がるだけで諦めてください。」
「そうじゃのう。無い物は仕方が無い。
それではカズト殿、これからも娘を支えてやっておくれ。
その姿が肉体年齢を表しているのなら、娘と生涯を共にできるのであろう。
正式な婚姻を結ぶのは難しいが、気兼ねなくここで暮らして良いぞ。」
正式な婚姻は流石に難しいね。
ミントさんがにっぽん爺と再婚しようものなら、カズヤ兄ちゃんの本当の父親がバレちゃうからね。
「遅ればせながらご挨拶申し上げます。
カズト・ツチヤと申します。
今しがたの寛大なお言葉に感謝致します。
ミント様と我が子二人はこの命に代えましても護って見せます。」
ここまで、にっぽん爺の頭越しに会話がなされていたんだけど。元公爵から掛けられた言葉に返す形で、にっぽん爺は初めて口を開いたよ。
「うむ、そなたのことはかねてよりミントから聞いておった。
儂もそなたには一度会ってみたいと思っていたのだ。
ミントのことくれぐれも頼んだぞ。」
ミントさんがにっぽん爺の許で暮らすことを黙認した時点で、元公爵は二人の仲を認めていたようなものだけど。
いつかこうして、顔を会わせて二人の仲を認めようと、元公爵は考えていたんだって。
にっぽん爺、ミントさんのお父さんに認めてもらえて良かったね。
おいらはウエニアール国へ帰国する準備をしていたの。帰国と言ってもこれで休暇が終わりって訳じゃないよ。
二年間も休み無しで働いた上、出産までしたんだもの。幾らレベルが高いと言っても、一月くらいの休養では体調が回復しないって。
とは言え、貯水池への真水の補給も、トレントの木炭への加工も、おいらにしか出来ない作業だからね。
一月も補給を休むと貯水池の水は半減しちゃうし、トレントの狩場は討伐したトレント本体で溢れちゃう。王都の特産品でもある木炭は万が一にも品切れを起こすことは出来ないから、半年分くらいの在庫を供出してはあるけど。狩場が足の踏み場も無くなって、狩りをするのに支障を来すと拙いし。
てなことで、いったん帰国することになったんだ。
王都で留守番をしている人達へのお土産など、一時帰国に持って行く物を揃えていると。
「ねえ、マロンちゃん、帰国する前に何日かこの国の王都に立ち寄る時間は無いかしら?」
不意に姿を現したミントさんが、おいらの都合を尋ねてきたの。
「別に、かまわないよ。
おいらの国の王都で、特に約束があるる訳じゃ無いから。
貯水池の水だって、半分くらいは残っているはずだし。」
貯水池を造る際、最長二ヶ月は留守にしても問題が起きないように設計してもらったからね。
慌てて帰国しなくても、寄り道している余裕は十分あるよ。
「そう、それじゃ、私達も王都までご一緒させてちょうだい。」
「アルトは大丈夫? おいらは構わないけど。」
おいらもアルトの『積載庫』に乗せてもらっている身だからね。アルトの承諾が無いと勝手に返事は出来ないし。
「良いわよ、どうせ通り道だし。」
アルトが快諾してくれたので、帰国の途中にこの国の王都に立ち寄ることになったんだ。
「それで、ミントさんはカズヤ兄ちゃんの様子を見に行くつもりなの?」
ミントさんは現国王となった自分の息子に会いに行くのだと、おいらは思ったのだけど。
「公爵家に顔を出すの。
お父様に孫の顔を見せてあげたいし。
アルト様の『特別席』なら、赤ちゃんだって安心して移動できるのでしょう。」
「そう言うことなら、お安い御用よ。」
前公爵に孫の顔を見せて喜ばせたいと言うミントさんに、アルトはほっこりとした表情を見せて請け負っていた。
「それじゃ、グラッセお爺ちゃんとパターツさんもご一緒してくださるかしら?
紹介したい人が居るのよ。」
王都へ行くことが決まると、ミントさんはパターツさん父子を誘ったんだ。誰を紹介したのかも明かさずに…。
**********
もとよりパターツさんはおいらのお世話を命じられており、グラッセのお爺ちゃんもダイヤモンド鉱山の監査が済んで休暇中だったので、二人ともミントさんの指示に従って王都へ同行することになったの。流石に公爵様に誘われて嫌とは言えなかったみたいだよ。
そして、夕方前には王都に着いて。
「おお、ミント、良くぞ戻った。」
元公爵がご機嫌な様子で出迎えてくれたんだ。
「お父様、遅くなりましたが。私がお腹を痛めて産んだ子供達を紹介に参りました。」
子供達って、それじゃもう二歳になるカズネちゃんもまだ会わせて無かったんだ…。
「まったく、何時になったら孫の顔を見せてくれのかと気を揉んでいたのだぞ。
お前ときたら、子供が産まれたと手紙を寄こしたきりで一向に顔を出さないのだから。」
案の定、孫二人の顔を見たことが無いようで、元公爵は不満を漏らしてた。
「すみません、産まれたばかりの赤子に長旅をさせる訳にはいきませんし。
そうこうする間に二人目を身籠ってしまったものですから。
ですが、これでも可能な限り急いできたのですよ。」
ミントさんはアルトのおかげで何とか連れて来れたのだと言い訳してたよ。
確かに長男のカズサ君はまだ生後三ヶ月程らしいから、馬車ではとても連れて来れないね。
そして、ミントさんが指示すると、にっぽん爺に抱かれたカズサ君と一緒にカズネちゃんが公爵の前に現れたよ。
「おお、その二人がミントの子供なのか?」
「はい、お父様。長女のカズネと長男のカズサです。
カズネ、お爺ちゃんですよ。ご挨拶して。」
ミントさんはカズネちゃんの肩を抱いて自分の前に立たせると挨拶をするように指示したの。
「おじいしゃま、はじめましゅて。かずねでしゅ。」
拙い言葉でそう言うと、カズネちゃんはペコリと頭を下げたんだ。その様子がとても愛らしくて。
「幼い頃のミントそっくりだ。
カズネと申すか、良く来た、良く来た。
歓迎するから、ゆっくりして行ってくれ。」
相好を崩した元公爵は、屈んでカズネちゃんの頭を撫で回してたよ。
カズネちゃん、歓迎されていることが分かっている様子で嬉しそうに目を細めてた。
それから、元公爵は姿勢を戻してにっぽん爺の腕の中で眠るカズサ君に視線を向けたのだけど…。
「ところで、カズサを抱いている青年は誰なのだ?
黒い髪や目鼻立ちが陛下に似ておるのだが…。」
そんなことを尋ねた元公爵。
元公爵は首をひねりながら、にっぽん爺を凝視していたよ。
「お父様、ご紹介しますわ。その方はカズト様。
私のパートナーですわ。
カズヤ、カズネ、カズサの父親ですよ。」
「おい待て、カズヤ陛下の父親だと?
年齢的にはそれでもおかしくないが…。
確か、カズヤ陛下の父親は儂より年上であったはず。」
確かに、カズヤ兄ちゃんはまだ二十代半ばだから、父親が五十前でもおかしくはないね。
ただ、元公爵はカズヤ兄ちゃんの実父の素性を最初から知らされてたから、目の前の中年男性が本人だと知り驚愕の表情を浮かべていたよ。
「はい、カズト様は齢七十三歳になりました。
お父様より八つも年上ですね。」
「いやいや、この姿はどう見ても五十前であろう。」
「信じられないかも知れませんが、紛れもなく本人なのです。
実は、先日まで加齢で死の床にあったのですが…。
とある縁が御座いまして、若返りの妙薬を戴きました。」
ミントさん、マリアさんから貰った若返りの薬について暴露しちゃったよ。争いの火種になりかねないから内緒だと言ってたのに。
**********
若返りの妙薬と聞き、胡散臭そうな表情をしている元公爵に。
「ところで、お客様をお連れしているのですが。
ここへお招きしてもよろしいでしょうか?」
ミントさんが公爵に尋ねると。
「お客様というのは、アルト様の『不思議な空間』に居られるのかね。」
公爵はミントさんの傍らに浮かぶアルトに視線を向けて問い返したの。
それに対してミントさんが頷くことで肯定したんだ。
「ちょっと待て。今、貴賓室を用意させるから。
アルト様、もう少々お待ちくださいませ。」
アルトを見ておいらの存在に気付いたんだろうね、公爵は慌てて貴賓室の準備を指示してた。
部屋の準備が整うと、アルトはおいら達を『積載庫』から降ろしてくれたよ。
「マロン陛下、ようこそお越しくださいました。
陛下をお迎えできて、光栄で御座います。」
おいら達が貴賓室に降り立つと、公爵は慇懃な態度で出迎えてくれたの。
「前触れも無しに突然訪問してゴメンね。
休暇中だし、お忍びだから、堅苦しい歓迎はしないでいいよ。」
公爵家を突然訪問するなんて、無礼この上ないし、門前払いされても文句言えないもんね。
「そうは申されましても、隣国の女王陛下にご無礼は出来ませんし。」
長らく国の要職に就いていたこともあって、元公爵はとても常識的な対応をするのだけど。
「お父様、マロンちゃんがああ言っているのだし。
お堅いことは抜きにしましょう。」
現公爵はおいらの身分なんてお構いなしだったよ。一応空気は呼んでいるみたいだけど。
「それで、さっきミントさんが言っていたことだけど。
あれ本当だよ。この人がカズヤ兄ちゃんやその二人のお父さん。
おいらやオランが証人だよ。若返るところを目撃しているから。」
「なっ、なんと…。それは真ですか?
なら、儂もその妙薬とかにあやかりたいものですが…。
お金なら幾らでも詰みますぞ。」
おいらが証言すると、元公爵は眼の色を変えたよ。マリアさんが危惧した通りあの薬は争いのタネになるね。
「お父様、若返りの妙薬はカズト様が服用したもので最後だったそうです。
実は、私もお強請りしたのですが品切れだと断られまして…。」
薬の作成にはとても高度な機材が必要で、それが壊れてしまった今となっては作ることが出来ない。
マリアさんから教えられた事情を、ミントさんはありのままに説明したんだ。
「なんと、残念なことじゃ…。
若返りの妙薬だなんて、人なら誰しも欲するだろうに。」
心底残念そうな表情の元公爵。
それを見ておいら思ったよ。マリアさんをこの場に出さないで良かったと。
下手をすると、マリアさんを拉致って無理やり調薬させそうな雰囲気だもの。
「だから、薬は諦めて、孫を可愛がるだけで諦めてください。」
「そうじゃのう。無い物は仕方が無い。
それではカズト殿、これからも娘を支えてやっておくれ。
その姿が肉体年齢を表しているのなら、娘と生涯を共にできるのであろう。
正式な婚姻を結ぶのは難しいが、気兼ねなくここで暮らして良いぞ。」
正式な婚姻は流石に難しいね。
ミントさんがにっぽん爺と再婚しようものなら、カズヤ兄ちゃんの本当の父親がバレちゃうからね。
「遅ればせながらご挨拶申し上げます。
カズト・ツチヤと申します。
今しがたの寛大なお言葉に感謝致します。
ミント様と我が子二人はこの命に代えましても護って見せます。」
ここまで、にっぽん爺の頭越しに会話がなされていたんだけど。元公爵から掛けられた言葉に返す形で、にっぽん爺は初めて口を開いたよ。
「うむ、そなたのことはかねてよりミントから聞いておった。
儂もそなたには一度会ってみたいと思っていたのだ。
ミントのことくれぐれも頼んだぞ。」
ミントさんがにっぽん爺の許で暮らすことを黙認した時点で、元公爵は二人の仲を認めていたようなものだけど。
いつかこうして、顔を会わせて二人の仲を認めようと、元公爵は考えていたんだって。
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