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アイイロモンペ

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第二三章 時は緩やかに流れて…

第810話 この大陸で最初の施設を創るらしい

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 ハテノ辺境伯ライム姉ちゃんを訪問したおいら達。
 ミントさんが中心となって、辺境の街に図書館を創る計画を説明したんだ。
 図書館の運営を辺境伯に任せたいと提案すると、ライム姉ちゃんは快く受け入れてくれたよ。

 運営に関し、ウニアール国に倣ってチューターさんを配置することを話したのだけど。
 知識層の大部分は王宮や貴族が召し抱えているので、都合の良い人材は簡単には見つからないだろうとライム姉ちゃんは懸念してたんだ。

「チューターの件は心配いらないわ。私に心当たりがあるから。」

「マリアさんは知識層に伝手があるのですか?
 タロウ君のお嫁さんということは平民ですよね?」

 貴族と平民の婚姻は極めて稀で、ほぼ、経済的に困窮している貴族が資金支援を目当てに大商人から嫁や婿を迎い入れる場合に限られているんだ。
 そして、この大陸で知識層といえばほぼ全員が貴族だからね。
 ライム姉ちゃんには、知識層に伝手があるとするマリアさんの発言が腑に落ちないみたい。

「人じゃないかな…。
 初期の妖精を適当に覚醒させて連れてくるつもりよ。」

 始まりの森に居るアカシアさんの『積載庫』には、二十六億年の間に増殖した妖精さんが二百万人以上眠っているし。
 チューターさん役なんて幾らでも引っ張って来れるだろうから。

「ええっ!妖精さんですか?
 妖精さんって人間の都合に合わせてくれるものなのですか?」

 ライム姉ちゃんがそう言うのも無理ないね。人の都合で動かせる存在では無いからね。
 妖精さんって気まぐれで、相当に気に入った人間じゃないと力を貸してくれないし。

「まあ、私の場合、特別ね。
 初期の妖精なら、意のままに動かすことが出来る…、はず。」

 マリアさん、自信満々に言い出した癖に、最後の方で弱気になってるし…。

「マリアさん、あなたはいったい?
 領地に図書館がないため、私は利用したことが御座いませんが…。
 父からは図書館の蔵書の大部分は逸失技術で作られた本だと聞いています。
 そんな貴重な本を多数保有されているとか。
 厄災とまで言われる妖精さんを意のままに動かせるとか。
 王侯貴族でも不可能なことを…。」

 マリアさんの返答を聞いて、ライム姉ちゃんは困惑の度合いを深めていたんだ。
 妖精さんは気に入られたら庇護してもらえる一方で、機嫌を損ねると厄災に見舞われると広く言われてるからね。
 そんな存在を意のままに動かせるとか言われても、俄かには信じられないのもうな受けるよ。

「ライム。マリアの言葉に嘘はないわ。
 だって、マリアは妖精族の生みの親だもの。
 因みに、若作りしてるけど、マリアはこの世界で一番の年寄よ。」

「あっ、アルトちゃん、年寄ってのは失礼じゃない。
 プン、プンだよ。」

「何がプンプンよ。大年寄りが可愛い子ぶっちゃって。」

 口でプンプンと言いながら子供のように頬を膨らませたマリアさんに冷たい視線を向けて、アルトは突っ込んでたよ。
 
「アルト様、いったい何を仰っているのですか?
 妖精族の生みの親とか、この世界で一番の年寄とか…。」

 アルトの言葉に、ライム姉ちゃんは余計混乱したみたいで首を傾げてた。

「そのままの意味よ。
 私達妖精族はマリアがアシスタントとして生み出した人工生命体だし。
 マリアは二十六億年の歳月を費やして遠い星からここへ辿り着いたのですもの。」 

「まあ、その辺のことに興味があるなら日を改めて説明するわ。
 今日のところはそんなところだと納得しておいて。」

 まあ、説明するなら後日だね。中途半端に説明しても混乱するだけだと思うし。
 おいら達がマリアさんの足跡を辿る映像を見せられた時は、まる二日掛かったもの。

       **********

「それで、カズト様とマリアさんが意気投合してしまいまして。
 図書館を創設する予定のお屋敷はとても広いものですから。
 屋敷内にもう一つ施設を開設することにしましたの。」

 チューターさんの話が済むと、ミントさんはそう切り出したの。
 ミントさんの言葉通り、元ハテノ家の別邸だったお屋敷はムチャクチャ広かったんだ。
 両翼を広げる形の屋敷。その片翼だけで蔵書を全て収納したうえ、まだ半分くらい部屋が余る予定なの。
 それなら、今後蔵書が増えても片翼があれば足りるだろうってことになったよ。

 で、せっかくだからもう片翼も有効利用しようってことになり…。

「はあ? 新しい施設をもう一つ創るのですか…。いったい、何を?」

「ええ、カズト様の提案で屋敷の一方の棟に『カレッジ』という施設を創ろうと思います。」

「カレッジ? 初めて耳にする名称ですが…。 何をする施設なのでしょうか?」

 当たり前だけど、ライム姉ちゃんにはそれが何をする施設なのか見当もつかない様子だった。

「私の故郷やカズトお爺ちゃんの故郷にあった施設なのだけど。
 端的に言えば、高度な学問を学び、発展研究し、その指導者を育成する施設よ。」

 と、マリアさんはカレッジがどのような施設かを説明したの。
 現在、おいらの国でも、ウニアール国でも『図書館の試練』を三つ設けているけど。新設する図書館では、更に四つ目の試練を設けようって話になったんだ。四階層の内容をちゃんと理解しているか否かを確認するための試練。
 何で、そんな試練を設けるかと言えば、この大陸の文明の発展段階をもう少し引き上げるためだって。 
 この大陸の文化水準はこの数百年停滞しているそうで、そろそろ少し発展させても良いのではってことになったらしい。
 具体的には、余り閲覧されていない四階層の書物に記された知識を広めたいらしい。四階層には農業や土木工事といった社会を形成するうえで重要な事柄について高度な知識が記された書物が収められているそうだよ。

 更に四階層の試練をクリアした者で更に一定の要件を満たした者には、マリアさんが『禁書』に指定した書物に対するアクセス権を与えることも検討しているそうだよ。
 現在のところ、おいらの国とウニアール国では『禁書』の閲覧を許されているのはウニアール国のペピーノ第一王女だけなの。シタニアール国とサニアール国に閲覧を許された人が居るかどうかは分からないけどね。
 『禁書』の中には文明の発展段階を飛躍的に引き上げる知識が記されている物もあるそうで、意欲がある者には魅力的なご褒美だろうって。

 とは言え、四階層で得られる知識は独学で学ぶことには困難なモノが多いそうで。ウニアール国では四階層に多数のチューターさんを配置して対応しているみたいなの。
 当然、新設する図書館でも四階層には多くのチューターさんを配置する計画だけど。
 にっぽん爺とマリアさんは、専門分野ごとにカリキュラムを組んで、教授による講義で必要な知識を教え込もうって結論を出したの。高度な知識の中でも必須の事項は講義で教えて、後は各人の関心に応じて独自に研究させるんだって。
 農学科とか、土木学科とか、鉱山学科とかを設置する予定で、実習もさせたいって言ってたよ。
 そして、優秀な成績を収めた者は教授の助手として雇用して、教授となるべく指導するみたい。
 因みに、教授陣も最初は全員妖精さんらしい。将来的には教授も全て人間にしたいと言ってたけど。

「カレッジの運営費は、カズト様があの町に保有する不動産から得る収入の一部を充て。
 公爵としてしての私も寄付金って形で支援することになっています。
 勿論、辺境伯にも支援して戴ければ有り難いですわよ。」

 辺境に町に多数不動産を保有するにっぽん爺。それが街の復興により多額の家賃を生み、家族の生活を賄っても余りある収入があるんだって。にっぽん爺はその中で幾つかの不動産からの家賃収入をカレッジの運営費に充てるそうだよ。
 墓場の中までお金は持って行けないから、住み慣れた町に貢献したいと言ってたの。

「この領地も資金的に大分余裕が出て来ましたし。
 何より、あの町や領地全体の発展に役立ちそうですので。
 支援することはやぶさかではございませんが…。
 よろしいのですか?」

「よろしいって、何が?」

「いえ、私共の領地に開設して戴いてよろしいのかと思いまして。
 とても有意義な施設のようでございますし。
 ミント様の領地に創設された方が宜しいのではございませんか?」

 この大陸で最初の施設となる訳だし、その有用性も理解できるとライム姉ちゃんは言ったんだ。
 だからこそ、こんな辺境に創設して良いのかと、ライム姉ちゃんは躊躇したみたい。
 もっと適した立地があるのではと考えたようだよ。

「そこは遠慮する必要は無いわ。
 切っ掛けは、マリアさんがカズヤ様と意気投合し。
 カズト様個人に蔵書を進呈してくださるって話でしたもの。
 図書館の器もカズト様が用意してくださるのだし。
 あの町以外には有り得ないことなのですよ。」

 ミントさんのこの一言で、ライム姉ちゃんも決心したみたい。
 運営費の一部を辺境伯家も負担するってことで、カレッジの創立が決まったんだ。
 キャロットが大きくなったら、ソノギと一緒にカレッジに通わせるのも良いかな…。
 
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