ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二三章 時は緩やかに流れて…

第805話 しばらく会わなかったら、だいぶ老け込んだね…

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 老いのため、突然にっぽん爺に衰えが襲って来たらしい。
 確か、タロウが辺境の街にやって来た時ににっぽん爺は六十五歳と自己紹介してたよね…。
 あの時おいらは八歳で、今は十六歳。…ってことは、にっぽん爺は今七十三歳になるのか。

 七十歳を超えると長寿と言われる世の中だから、七十三歳となるとかなりの長生きだね。
 色々と衰えが来るのも仕方が無いって、ミントさん達からの話を一緒に聞いてたマリアさんは言ってたよ。
 むしろ、七十歳を超えて子供を儲ける力があったことに驚いてた様子だった。

 事情を説明するうちに、ミントさんとカズミ姉ちゃんの表情はどんどん暗くなっていったのだけど。

「カズトさんと少しお話させて戴けます?
 私、ダーリンからお爺ちゃんの話を伺って一度お話ししてみたいと思ってたの。
 もしかしたら、お役に立てるかもしれませんよ。」

 そんな二人に、マリアさんがにっぽん爺との面会を求めたんだ。

「失礼ですが、こちらの方は?」

 唐突に会話に加わった見知らぬ人にミントさんは怪訝な顔をしてたよ。

「ゴメン、紹介してなかったね。
 そのお姉さんはマリアさん。タロウのお嫁さんの一人だよ。
 色々と不思議な力を持っているから、ホントに力になってくれるかも。」 

 なんてたって、齢二十数億歳なのに二十代前半みたい姿をしているんだもの。少しはその若さを分け与えてくれるかも。

「おいらもにっぽん爺にご挨拶したい。会うのは難しいかな?」

「俺も、爺さんの顔が見たいぜ。」

 ここまで来てにっぽん爺に会わないで帰る訳にはいかないよ。
 ミントさん達の表情から、にっぽん爺に残されている時間は少ないことが窺われるからね。
 もしかしたら、顔が見られるのはこれが最後の機会になるかも知れないもの。
 タロウも同じことを思っている様子だったよ。

「ミント様。
 マロン様、タロウ様、シフォン様は以前からお父さまと懇意にしております。
 お父さまも最後にお会いしたのではと。」

「そうね、せっかくいらしたのですし。
 カズト様に会って戴きましょう。」

 人と会う事がにっぽん爺の体の負担になるのではと心配しているのか、ミントさんはおいら達が面会することに乗り気じゃなかったみたいなんだけど。
 カズミ姉ちゃんが取りなしてくれたので、何とか会うことが出来ることになったんだ。

         **********

 にっぽん爺の屋敷、南側面の陽当りの良い寝室に通されると。
 最後に会った三年程前には想像もできなかったにっぽん爺の姿があったよ。 
 瘦せ衰えた老人となって力なくベッドに横たわっていたんだ。

 ベッドサイドには子供用の椅子に腰かけた幼女が居て。

「とうしゃん、いたい、いたいなの?」

 にっぽん爺が元気のないことを、子供ながらに理解している様子で声を掛けていたの。

「カズネ、心配させてしまってごめんよ。
 お父さん、少し寝ていればまた元気になるからね。」

 にっぽん爺を心配する愛娘の頭を愛しそうに撫でながら、にっぽん爺は愛娘を安心させようとしたよ。

「にっぽん爺、久し振り。」

 寝室に入って、おいらが声を掛けると。

「その声はマロンか? 大きくなったな。
 もう、立派なレディ…、にはなってないか。
 まあ、元気そうで何よりだ。」

 そんな憎まれ口を叩けるのなら、まだ大丈夫そうだね。

「にっぽん爺は、あまり元気じゃなさそうだね。」

「情けない姿を見せてしまったな。
 この一年で急に衰えが来てな…。ずっと、寝たり起きたりなんだよ。」

 にっぽん爺の話では、切っ掛けはなんってことは無い風邪だったそうなの。
 熱を出して何日か寝込むことになって、それが治った後に急に起きていることが辛くなったんだって。
 もう、元気に動き回れることは無いだろうと弱気なことを言ってたよ。

「爺さん、何を気弱になってるんだ。
 まだ七十歳を過ぎたばかりだろう。
 日本だったら八十、九十歳当たり前だぜ。
 早く元気になれよ。」

「おや、タロウも来ておったか。
 無理を言うものじゃない。
 この世界の文明レベルがどの程度かは、お主も理解したであろう。
 日本だって平均寿命が七十歳を越えたのは千九百七十年代に入ってからのことだよ。
 地球の中世のような生活様式のこの国なら、七十歳を越えたら大年寄りさ。」

 励まそうとするタロウに対して、にっぽん爺は弱気な返事をしてたんだ。
 すると。

「お爺ちゃん、初めまして。
 私、ダーリン、いえ、タロウ君の嫁でマリアと申します。
 少々、お加減を診せて戴いてよろしいですか?」

 マリアさんが何やら大きなカバンを出してベッドサイドに立ったんだ。

「タロウ君、いったい何人、嫁さんを貰うつもりかね。」

「具合悪いなら、そんなツッコミしないで良いから。
 それより、具合を診てもらえよ。マリア姉さん、プロだから。」

 二人がそんな掛け合いをする間に、マリアさんはカバンから色々と小道具を取り出してた。

「マリアさんと言ったか。それは何かね?」

「うん? これ? 体温計。
 外耳にちょっとかざすだけど正確な体温が測れるの。
 うーん、少し体温低めかな…。」

 にっぽん爺の問い掛けに答えながらも、マリアさんはテキパキと作業を続けたの。
 腕に何か帯状の物を巻いたかと思えば、それが一度ぷくっと膨れて元に戻るとマリアさんの手許にある箱に何やら数字が表示されてたよ。
 
「いや、体温計は分かるよ。
 私が聞きたいのは、そう言うことでは無くて…。
 血圧計に、聴診器と、何でそんな物があるのかを聞きたいのだが。」

 どうやら、にっぽん爺にはマリアさんが所持している小道具やその使用目的が分かっている様子だった。

「心音もかなり弱いし…。大分、お体全体が弱っていますね…。」

 マリアさんはそんな呟きを漏らすと。

「ああ、これですか? 私の故郷の星から持ち出したものです。
 タロウ君やお爺ちゃんの故郷にも似たような物があったのですね。」

「故郷の星って…。マリアさんは他の星から来たと言うのかね。」

「他の星から来たのは確かですが…。
 この大陸の人々は皆、故郷の人々の子孫ですよ。
 何なら、耳長族や妖精族、それに山の民も。」

「それはいったい?」

 マリアさんの言葉を聞いて、にっぽん爺は訳が分からないって表情で首を傾げていたよ。

「それを詳しく説明していると時間が掛かるので。
 先にお爺ちゃんの健康状態についてお話ししましょうか。」

 マリアさんは惑星テルルの話はせずに、当初の目的に話を戻したんだ。

      **********

「端的に言います。恐らく、年を越すのは難しいかと。」

 今は年の半ばくらいなので、余命半年くらいだとマリアさんは宣告したの。
 細かい検査器具が無いので詳細には分からないとしつつも、にっぽん爺の体は寿命が尽き掛けていると告げたんだ。
 
「やはりな…。私もそんな気はしていたのだ。」

 にっぽん爺にとってマリアさんの言葉は答え合わせのようなものだったみたい。自分の予想を裏付けるための。

「ダーリンから聞きましたが。
 お爺ちゃん、違う世界から飛ばされて大変なご苦労をされたようですね。」

「ああ、この世界では散々な目に遭ったよ。
 だけど、最後は最愛のミント様と一緒に過ごすことが出来たし。
 ミント様との間にこんなに可愛い子供達を授かった。
 そして、親孝行なカズミも側に居てくれる。
 今なら胸を張って言えるよ、幸せな人生だったと。」

「そうですか? もう心残りはございませんか?」

「心の残りは無いかって?
 勿論、あるよ。
 カズネとカズサの成長した姿を見られないのが心残りだ。」

 にっぽん爺は本当に悔しいって顔で、幼い二人を残して逝くのは耐えられないと訴えたんだ。
 今ベッドサイドにいる娘さんがカズネちゃんで、最近産まれた子がカズサ君らしい。
 
「そうですか。
 私、お爺ちゃんに感謝しているのですよ。
 お爺ちゃんがダーリンを助けてくれたので。
 私はダーリンに出会うことが出来たのですから。」

 マリアさんはいきなり脈絡の無い言葉を発したの。
 マリアさんのセリフを耳にして、にっぽん爺は勿論、ミントさん、カズミさんも「こいつ、何を言っているんだ?」って怪訝な表情でマリアさんを見詰めてたよ。

 そんな三人の視線を気にも留めていない様子で、マリアさんはカバンをゴソゴソと漁ると小瓶を一つ取り出したの。
   
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