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第二三章 時は緩やかに流れて…

第801話 オランを修行に出したらオマケが付いてきたよ…

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 オランをウレシノに預けた最初の晩。

「こんな大きなベッドに一人で寝るなんて初めてだ。
 今日はオランに気兼ねなく、寝返りが打てるよ。」

 思えば九歳の時は鉱山住宅の狭いベッドでオランと二人身を寄せ合って眠ってたね。
 それを思えば王宮のだだっ広いベッドを独り占めできるなんて凄い贅沢だよ。

 で、翌朝。
 おいら、昨晩ベッドに入った位置で固まったように眠ってた。毎晩欠かすことなく六年もオランと一緒に寝てたら知らず知らずのうちに寝相が良くなってたみたい。最初、鉱山住宅の狭いベッドじゃ、寝返りをうって何度もベッドから落ちたからね。きっと何度も痛い思いをするうちに、寝相も矯正されたんだと思う。

 その日、朝食をとっていると。

「マロン様、申し訳ございません。
 今日、オラン様の執務をお休みとして戴けませんか?」

 目の下に隈を作ったウレシノが、少しガニ股気味に歩いて来てオランの休暇を申請したの。

「うん、別に良いけど…。
 ウレシノも休んだ方が良いと思う。
 どうしたの目の下真っ黒だよ。歩き方もぎこちないみたいだし。」

「ホント、申し訳ございません。
 私もお休みを戴けると有り難いです。」

「ホント、今日一日ゆっくり休んでね。
 で、いったい何があったの?」

「はい、オラン様、見かけによらずお強くて…。
 がっつくと言うか…、あの年頃の男の子には良くあることなのですが…。
 夢中になってしまったご様子で、朝まで眠らせて戴けなくて…。」

 ウレシノは言ってたよ。オランに、いきなりおいらのお相手をさせなくて良かったと。
 あれじゃ、おいらが怯えてしまうだろうって。

「マロン様のお相手をする迄には、オラン様が自重できるように手解きしておきますのでご安心ください。」

 ウレシノはそう答えると、一眠りすると言ってガニ股で立ち去ったよ。
 いったい、オランったらどんなヤンチャをしたんだろう?

          **********

 一人寝二日目の晩。

「う…ん、こう、何か、抱き枕かなんか無いと落ち着かないな…。」

 初日は一人寝の新鮮さに忘れていたけど、隣に寄り添うものが無いと何気に物足りなく感じたんだ。
 おいらは従者控え室にいるカラツに頼んで抱き枕を用意してもらったよ。

 そして、その翌日の朝。

「マロン様、ホント、申し訳ございません。
 オラン様のビーストモードが収まらなくて、もう一日お休みを戴けないでしょうか。
 オラン様、あんなに男性の精が強いのに、ヒゲの一本、すね毛の一本もないなんて信じられません。」

 前日よりいっそう目の下の隈を濃くしたウレシノが驚嘆してたよ。
 通常、性欲が旺盛な男性って、毛深い人が多いんだって。何やら男性の気が体毛の濃さに影響を与えるらしいの。
 一方で女性の気が多いと体毛が薄く、体全体が柔らかい丸みを帯びるみたい。
 ウレシノはオランがもう少し淡白なのではと予想していたみたい。
 オランって、ヒゲ、すね毛、腋毛が全く生えて無いし、体の線が女性的で柔らかいから。

 お疲れのウレシノに無理はさせられないから、その日も休暇を与えたよ。

 一人寝三日目の晩。

「ねえ、カラツ、一緒に寝てくれない?」

「ダメですよ、マロン様。
 私が眠ってしまったら誰がマロン様の護衛をするのですか。
 オラン様が居なくて寂しいのは分かりますが、お一人でお休みください。」

 一人寝に耐えられなくなって、カラツに一緒に寝るようお願いしたらサラっと断られたよ。
 まあ、仕事熱心なのは良いことなんだけど…。

 その翌日の朝。

「マロン様…。」

「あっ、休んで良いよ。おいら一人でも仕事は回っているから。
 オランのことよろしく頼むよ。」

 日に日にやつれて行くウレシノに仕事をせいと言うほど、おいらは鬼じゃないよ。
 しかし、ウレシノの奴、あれほどオランに寝所での作法を伝授するのを楽しみにしてたのに。思ったほど楽しそうじゃないね。

 一人寝四日目の晩。

「えへへ、お姉ちゃんと一緒に寝るの久し振り。
 最近、お姉ちゃん、王宮を留守にしていることが多いんだもん。
 お姉ちゃんと遊べなくて、寂しかったんだよ。」

 妹のミンメイがおいらのベッドで嬉しいそうにはしゃいでた。ミンメイも七歳になってすっかり言葉も達者になったね。
 四日目にして一人寝に耐えられなくなったおいらは、ミンメイに泊まりに来てもらったんだ。
 と言うより、気を遣ったカラツが呼んでくれたの。

 一緒に晩ごはんを食べて、お風呂に入って、寝るまでお喋りしたらミンメイはとても喜んでたよ。
 この日、おいらは三日振りによく眠れたの。
 いつの間にか、隣のオランが居るのが当たり前になっていて、一人で眠るのに耐えられなくなってたみたい。
 もしかしたら、父ちゃんが居なくなって不安を抱えて一人寝してた頃の記憶が影響してるのかも知れないね。

 そしてその翌朝。

「マロン、三日も執務を休んで申し訳なかったのじゃ。
 今日から仕事の遅れも取り戻すので勘弁して欲しいのじゃ。」

 オランが憑き物が落ちたような晴れ晴れとした表情で朝食の席に現れたよ。

「マロン様、予定外に時間が掛かり申し訳ございませんでした。
 オラン様も溜まっていたモノを全て吐き出されたら平静に戻られたご様子です。
 私も、本日より執務に戻らせて戴きます。」

 昨晩はしっかり眠らせてもらえたとのことで、ウレシノも目の下の隈が無くなってた。

「無理をさせてしまって、面目ないのじゃ。」

「良いのですよ。そのためのお役目で御座いますから。
 マロン様をお相手した時に失敗さえしなければ、それで良いのです。
 今日からは女性を優しく扱う術を覚えましょうね。」

「承知したのじゃ。よろしく頼むのじゃ。」

 どうやら、こちらの方は上手くいきそうだね。

 そして一人寝五日目の晩。

「オランお兄ちゃんが留守の間、ずっとお姉ちゃんの部屋に泊まっても良いって。
 ミンメイ、嬉しい!」

 前日、ミンメイが一緒だと熟睡できたんで、宰相と父ちゃんの許可をもらい、しばらくおいらの部屋に滞在してもらうことにしたんだ。昼間はカラツに遊び相手をしてもらうことにした。

         **********

 そして、一月が過ぎた頃。

「オラン様、免許皆伝です。
 ノノウ一族に伝わる秘伝の技を全て完璧にマスターしました。
 今のオラン様なら、どんな生娘でもイチコロです。
 これなら、マロン様にいつ『ルナからのお客さん』が来ても安心ですよ。」

 ウレシノから『寝所での作法』についてのお墨付きが出されたよ。その時が来たら全てオランに任せれば良いって。
 その日からまたオランと一緒に眠ることになったんだけど。
 今度はミンメイが帰りたくないってぐずったの。

「ミンメイ殿、それなら五日後にまた泊まりに来れば良いのじゃ。
 マロンと一緒に眠ってもらえば、有り難いのじゃ。」

「ホント? また来ても良いの?」

「うん、おいらもミンメイが来てくれれば嬉しいな。
 一人で寝るのは寂しいもの。」

 何で五日後だって?
 ウレシノの話にでは男の人の子種は五日くらいで満タンになるそうで、先日みたいにお漏らしする恐れがあるみたい。
 それと男の人って子種が溜まると発情するらしく、まだ未成熟なおいらに襲い掛かったら困るってこともあり。
 手解きを受けた技の復習を兼ねて、五日毎にウレシノの部屋を訪ねることになったんだ。

 そして、更に一月後。
 オランとウレシノが二人並んでおいらの前に立ち…。

「マロン、済まないのじゃ。
 ウレシノを孕ませてしまったのじゃ。」

 申し訳なさそうに謝罪するオラン。
 まっ、考えてみれば当たり前のことだよね。子作りの仕方を実地で手解きするのだから、ウレシノが身籠るのも。

「何もオラン様が謝罪することは無いです。
 それも考えた上で、お役目に手を上げたのですから。」

 ウレシノはそんなオランを庇うと。

「それに、これはとてもおめでたいことですよ。
 オラン様の子種に女性を孕ます能力があることがハッキリしたのですから。」

「うん? 子種が出れば子供を作れるんじゃないの?」

 ウレシノの言葉が理解できなかったので、問い直しちゃったよ。

「あの子種汁ですが、稀に種が無いことがあるのです。
 種なしブドウを思い浮かべてください。」

 あの栗の花の臭いの汁がブドウの実の部分で、普通は中に種があるのに、物によっては種が無いのもあるってことね。男の人でも子種汁は出るのに、中身の種が無いこともあるのか。

 ウレシノは懸念してたんだって。オランは体毛が薄く、成長しても女の子みたいな体型なので、もしや種無しではと。

「それで、ウレシノのお腹の子はどうするの?
 オランの子なのは明らかみたいだし。
 公爵家でも創ろうか? オランの出身をとってトマリ公爵家とか?」

 まあ、大分貴族も減っちゃったし、一つくらい増えても問題ないよね。
 だいたい、オランはシタニアール国の王位継承権を放棄しないで婿入りしてるから、ウレシノのお腹の子にはシタニアール国の王位継承権が発生するものね。公爵家くらい与えておかないと体裁が悪いと思う。

「いえ、そういうお気遣いは無用です。
 出来れば、お腹の子がオラン様の子だってことも内密にして戴ければと。」

「どういうこと?」

「この子は、ノノウ一族の次期当主として育てますので。
 父親がいない方が都合が良いのです。
 ですから、このお役目は渡りに舟でして。」

 間諜メイドの育成派遣を家業としているノノウ一族は、外戚からの干渉を受けたくないそうなの。
 先代は王家のごり押しで入った婿養子だったそうだけど、愚王と結託してムチャクチャして一族を滅ぼしたからね。
 外部からの干渉も、男性当主も懲り懲りだって。

「でも、お腹の子が女の子とは限らないでしょう?」

「そこは、それ。ノノウ一族は代々間諜メイドを自前で生み出してきたのです。
 男女産み分けの術も心得ています。」

 ウレシノは常日頃から肉類・魚類・穀類・卵・乳製品・アルコールを多く摂取するようにしているらしい。それがノノウ一族の経験から得た女の子を産み易い体を作る食べ物なんだって。
 他にもトマト・リンゴ・ミカン・ブドウ・クランベリー等もたくさん食べると女の子を産み易い体になるそうだよ。

「まあ、それならそれで良いよ。
 でも、気が変わったら言ってね。
 オランの子だし、爵位の一つも用意するから。」

「マロン様、変わってますね。
 普通、自分の旦那が外で子供をこしらえたら怒るんじゃないですか。」
 
 おいらの言葉を聞いて、ウレシノは半ば呆れたように言うけど。

「うーん、でも、オランが不義を働いた訳じゃ無いよね。
 おいらのために手解きを受けてたんだもの。
 その過程で子供が出来たのなら、怒るのは筋違いだし。
 産まれてくる子供には責任を取らないといけないと思うから。」

「マロン様が寛大なお方で良かったです。
 ではもう一つ、マロン様、早く大人になって子を儲けた方がお得ですよ。
 私がこの子を産んで二年以内なら乳母を務めることが出来ますから。
 もれなく信頼できる乳母が付いてくるってお得でしょう。」

 いやまあ、そうかも知れないけど…。普通、自分のことを『信頼できる乳母』だなんて言う?
 それはともかく、早く大人になれと言われても、こればっかりは自己努力じゃどうにもならないし…。  
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