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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第792話 眠っている才能を発掘したいそうだよ

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 王都に住むお母さん達が安心して働けるように託児所を創設したというペピーノ姉ちゃん。

「まあ、託児所を創った目的はそれだけじゃないんだけどね。
 それは実際に視察してもらいながら説明するわ。」

 そう言うと、おいら達を託児所の中に招き入れたんだ。
 いやに立派な建物だと思ったら、託児所に使われている建物は元々街外れにある王室の離宮だったらしい。
 王都が発展するに連れ周辺が無秩序に開発されて下町に面するようになってしまったそうで、治安上の理由からしばらく使われていなかったとのことなの。
 下町に面した立地ってことがペピーノ姉ちゃんの計画に好都合だったことから、託児所に転用したそうだよ。
 元離宮の広いお庭は子供が走り回っても問題ないし、花壇で子供と一緒にお花でも育てれば情操教育にもなるって。

 最初の部屋に入る時には部屋の前で靴を脱がされたの。
 普通、部屋の中でも靴履きが普通なので何事かと思っていると。
 
「ここが一番小さな子供達を預かっている部屋ね。
 乳離れしたばかりから二才児くらいまでの子供をお世話しているの。」

 通された部屋にはフカフカのカーペットが敷かれ、まだ満足に歩行できない幼児がその上を這い這いしてたよ。
 子供が床の上で這い回ることを前提に、この部屋では靴履きを禁止しているんだって。
 足元がおぼつかない年頃の子供ばかりで転倒に備えてカーペットも厚手のフカフカなものにしたそうなの。
 これがもう少し大きな子を預かっている部屋になると靴履きで家に居る時と同じように過ごすことになるみたい。

 預かっている子供の年齢にあわせて、徐々に一般家庭と同じ環境にしていくように工夫してるんだって。

「子供のお世話係は、さっき出迎えてくれたお姉さんだけじゃないんだね。
 おいらより年下の娘さんも居るようだけど。」

 部屋の中で子供を遊ばせていたのは三人の娘さんで、うち一人は玄関前で出迎えてくれたご令嬢で、他の二人は二十代半ばくらいのお姉さんと十代前半の娘さんだったんだ。

「十人の同志だけじゃ、施設が回らないからね。
 子供をお世話するなら子育て経験のある人も必要でしょう。
 だから、現在進行形で子育て中のお母さんも雇い入れているの。」

 ペピーノ姉ちゃんをはじめ、この施設を運営している十人のご令嬢は全員未婚女性なので育児経験なんて無いものね。
 実際に育児に携わっている人のノウハウはとても助かるんだって。
 預かるお子さんを募集した時、同時にこの施設で働きたい人も募集したらしい。もちろん、その人の子供も預かっているそうだよ。
 自分の子供を贔屓しないよう、使用人は自分の子供が居る部屋とは別の部屋を担当することになっているらしい。

「基本、この部屋の子供は育児の代行をしているだけね。
 遊ばさせて、ご飯を食べさせて、昼寝をさせてって感じで。」

 その言葉通り、その部屋では積み木や縫いぐるみなどの玩具を使って子供を遊ばせていたよ。
 部屋の隅には昼寝用と思しき子供サイズのベッドが十台並んでた。

             **********

 最初の部屋を出て隣の部屋に入ると今度は三、四歳児を集めた部屋になっていて、この部屋以降二歳刻みで最長十二歳までのお子さんを預かっているそうなんだ。
 とは言え、農家や商家それに職人さんの家じゃ、早ければ五、六歳から普通でも十歳くらいから仕事を手伝わせるので、年齢が上がるほど預かっている子供は減っていき十二歳まで預かっている子供は少ないそうだよ。

 さて、預かっている間、子供達をどのように過ごさせるかなのだけど。
 最年少の部屋では、遊んで、食べて、昼寝して、起きたら夕方まで遊ばせるってパターンで終わるのに対して。
 年齢が上がる毎に、バリエーションを付けるそうなんだ。
 例えば、二番目の部屋では物語本の読み聞かせを始めるとのことで。
 三番目の部屋以降は読書の時間を設けたり、算術を教えたり、社会で役立つ知識を教えたりしているそうなの。

 この大陸に生まれた人は、マロン(マリア)さんの恩恵で読み書きや話す言葉には不自由しないけど。
 本は高価なため読む人が少なく、市井の人々には馴染みの薄いものなんだ。農村部に行くと売ってすらいないからね。
 ペピーノ姉ちゃんとしては、ここで預かっている子供達には本に慣れ親しんで欲しいんだって。
 そして色々な知識を学ぶことに関心を持ってもらい、図書館を利用する庶民を少しでも増やしたいそうなんだ。

「なんでまた、そんなことを?」

「最初に、世のお母さん方が安心して働きに出られるようにと言ったでしょう。
 でも、託児所を創ったもう一つの目的があってね。
 それは第二、第三のクコちゃんを探し出すことなの。」

 幼少の頃から天才児と持て囃されたペピーノ姉ちゃんは、クコさんと出会って初めて対等に会話ができる相手が出来たと喜んだと聞かされたけど。
 クコさんと出会った時に、こんな優秀な人材が市井に眠っているんだと感じたそうなの。
 それまでペピーノ姉ちゃんの交友関係は貴族社会に限られていたので、市井の民のことには無知だったそうで。
 ペピーノ姉ちゃんにとってクコさんの存在は大発見だったみたい。

 たまたま、クコさんはオベルジーネ王子の目に留まった訳だけど、実際には多くの才能が芽を出すことなく埋もれているのではと考えたんだって。

「もちろん、子育て世代の人々が仕事と育児を両立できるようサポートするのが一番の目的だけど。
 預かっている子供に本を読む習慣と幅広い知識に触れてもらって。
 積極的に知識を得たいと言う意欲とそれを実現できる能力がある子供を発掘したいの。
 言ったでしょう。子供って次代を担う国の宝だもの。優秀な子供は多いに越したことはないからね。」

 五年前、ペピーノ姉ちゃんはまだ王宮に滞在しているクコさんに相談したらしいの。
 優秀な人材を育成する良い手は無いかと。
 それで考え付いたのが託児所。
 子供を無償で預かると言えば、子育てに難渋している人達がこぞって子供を預けようとするだろうと。
 その子供達に初歩の知識を与えたり、本を読む習慣を付けさせれば、より深く学びたいと言う子供が出てくるんじゃないかって。
 それから二年掛けて創設準備を行い三年前にこの託児所開設に漕ぎ着けたらしいの。

「託児所を視察して気付いたことはない?
 さっき、チラッと言ってたでしょう。」

 とのペピーノ姉ちゃんからの問い掛けに。

「お世話役の娘さんに随分と若い子がけっこう居たよね。
 多分、おいらより年下。」

「そう、さっきは敢えて答えなかったの。
 全部見てもらってから説明しようと思って。
 あの子達、以前ここで預かっていた子供なの。
 親御さんが預けるのを止めて、外で働かせると言ったので。
 ここで働いてもらうことにしたの。」

 いずれも十歳くらいの歳で、親御さんが奉公に出そうとしたらしいの。
 その子達の希望を尋ねたところ、奉公に出るよりもっと知識を得たいと望んだとのことで。
 親御さんに奉公へ出るよりも少しはマシな給金を提示してここで雇うことにしたんだって。
 実はそういう子供は今日見た人数の倍居るそうで、勤務は一日置きになっているそうだよ。
 一日託児所で働いたら、翌日は図書館へ通って勉強させているらしい。
 しかも、ここで雇っている娘さん達はこの離宮の使用人部屋で生活させているんだって。
 親元を離れた方が、自由に勉強することができるだろうと配慮したそうなんだ。

「彼女達には言ってあるわ。
 二十歳までに『図書館の試練』を全てクリアしなさいと。
 クリア出来たら貴族と同じ待遇で官吏に登用するって約束したの。」

 このペピーノ姉ちゃんの約束を娘さん達は励みとした様子で、皆熱心に勉学に取り組んでいるようだよ。
 これで農民出身のクコさんがオベルジーネ王子の妃になることが公表されたら、もっと熱心になるんじゃないかって。
 
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