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アイイロモンペ

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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第788話 随分と手回しが良いようで…

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 クコさんから不正に関する報告書を受け取った王様は、すぐさま大蔵卿と軍務卿を呼び出したんだ。
 緊急の呼び出しを受けて駆け付けた二人に、王様はそれぞれの配下が犯した不正についての報告書を手渡したの。

「なっ…。あ奴め、公金に手を付けておったか…。」

 最初の数ページに目を通してそんな呟きを漏らした大蔵卿は、その後無言で報告書を読み進めていたよ。
 読み進めるうち、報告書を固く握りしめた大蔵卿の手はブルブルと震え出し、その顔は怒りで真っ赤に染まってた。

 方や、軍務卿はと言えば…。

「守るべき婦女子に暴行を加えるとは騎士の風上におけん…。
 しかも、仮にも騎士団長の地位にある者が、息子可愛さに告発を握り潰していたなどとは。」

 こちらは騎士達の規律の乱れを知って狼狽したのか、顔が青褪めていたよ。
 二人とも、しばらくの間無言で報告書に目を通していたけど。

「私の監督不行き届き、真に申し訳ございません。」

 軍務卿がやおら土下座して、謝罪したかと思うと上着の前をはだけ…。

「かくなる上は、死んで詫びる所存でございます。」

 懐から布袋を取り出して、袋の口を縛った紐を解いたんだ。
 袋の中から出てきたのは懐剣で、軍務卿はそれを自分の腹に突き立てようとしたの。

「馬鹿者、やめんか。ここには女子供もおるのだぞ。」

 寸でのところで王が一喝すると、軍務卿は手にした懐剣を取り落として惚けてたよ。

 そんな軍務卿に向けて。

「御前を血で汚そうとは、そなた最期まで陛下にご迷惑をお掛けするつもりか。」

 大蔵卿は、これだから脳筋はと言わんばかりの呆れ顔で言うと王様の前で跪き。

「この度は私の部下がとんだ不始末を仕出かしまして、お詫びの言葉もございません。
 部下の不始末は上司である私の責任、ついてはこの場で大蔵卿の職を辞させて戴きます。
 この場が今生の別れとなりますが、陛下には幾久しくご壮健であられることを祈っております。」

 深々と頭を下げて出処進退を明らかにしたんだ。どうやら、このおじさん、家に帰って毒でも呷るつもりらしい。

「まあ、待て。二人とも、そう早まるでない。
 何もそなた等に死んで責任を取れとは言っておらんだろうが。
 少しは話を聞かんか。」

 そんな王様の言葉に。

「と、申しますと?」

 大蔵卿が怪訝な表情で尋ねると。

「ええ、これほどの不祥事ですし…。
 他の貴族達からの責任追及もさぞ強いのでは?」

 軍務卿は王が赦しても、他の有力貴族が赦さないだろうと言ったんだ。

「まあ、確かにこれが表沙汰になれば、さぞそなた等に対する風当たりは強かろうな。
 とは言え、儂としても、今そなた等に辞められては困るのだ。
 そなた等が忠義に厚く、職務能力に優れているのは儂が一番知っておるからの。」

「は、はぁ…。」

「身に余る評価を戴き光栄で御座います。」

 二人の職務は余人をもって代えがたいという王様の言葉に、戸惑う二人の重臣。

「幸い、この報告書の内容を知っているのはここに居るものだけだ。
 まだ宰相にすら知らせて無いのでのう。
 なので、そなた等に内々で処分を行ってもらおうかと思っておるのだ。
 内々に全て済ませてしまえば、誰もそなた等を非難する者も無かろうて。」

 王様は二人に告げたんだ。報告書に記載された不心得者を厳正に処罰すれば二人の責任は不問とすると。

 王様の提案に対し。

「陛下の御心のままに。」

 委細承知って雰囲気で大蔵卿が返答すると。

「承知しました。不心得者は騎士団で厳正に処罰します。」

 そう答えた軍務卿は、コッソリ色々と危ないことを呟いていたよ。
 村娘を手籠めにした騎士達は去勢して島流しだとか、告発を握り潰した分団長は不慮の事故で消えてもらうとか。  
 自分の与り知らぬところで悪事を働いていた騎士達に相当怒りを覚えたみたい。
 この機に騎士団の綱紀粛正に取り組むなんてなんてことも言ってた。

         **********

 部下の監督不行き届きに関する責任を不問にすると言われて安堵した様子の重臣二人。
 そんな二人に向かって王様は言ったんだ。

「ところで、そなた等二人に少々頼みたいことがあっての。」

 具体的に何を頼みたいか言わないのがズルいね。

「陛下の頼みとあらば否はございませぬ。
 この命に代えましても叶えて見せましょうぞ。」

「もとより御心に適うことが臣下の歓び。
 どのようなこともなんなりとご命じください。」

 まあ、嫌とは言えないよ。先ずは頼みの内容を聞かせてくれとも。
 今さっき、命を差し出す程の重大なミスを見逃してもらったところだもん。

「おお、大儀である。儂は忠義に厚い臣下を持って幸せであるぞ。」

 重臣二人返答を耳にして、王様は満足そうな表情を見せたよ。

「それでは遠慮なく頼むこととしよう。
 そなた等二人、今この場で自分の娘をオベルジーネの妃候補から辞退してくれまいか。
 実はここに居る娘を妃にと決めたいのであるが。
 そなた等の娘を妃にと推す者も多いでのう。
 ここは自発的に辞退してもらうのが良いかと思ったのだ。」

 そう言って、王様はクコさんを指し示したんだ。
 有力貴族の娘二人を差し置いてぽっと出の娘が妃に収まったのでは反発も大きいだろうから、現在候補に挙がっている二人の方から自発的に辞退して欲しいと。
 寝耳に水って感じの表情を見せた重臣二人。

「はて、そちらのご令嬢はどなたでございましょうか?」

「それがしも初めてお目に掛かるご令嬢であるが…。」

 クコさん初めて目にした二人は怪訝そうに尋ねてきたんだ。

「知らなくても当然であるな。
 王宮の重臣で顔を知っておるのは宰相くらいであるから。」

 そう言って、王様はクコさんを手招きすると、自分が座る横に立たせたの。

「ペピーノの筆頭補佐官を務めておる子爵のクコ殿だ。
 子爵の娘ではなく、子爵本人であるからな侮るではないぞ。
 六年前から二年半ほど王宮で暮らしておったのだが。
 ここしばらくは領地に引き籠っておっての。」

「げっ、鬼の監査役補佐…。」

 王様の紹介を聞いた軍務卿は、そう言って怖れるようにクコさんを見詰めてたよ。

「おや、クコ殿の仕事振りは軍務卿の耳にも届いておったか。
 これでいて中々不正を暴くのは得意のようでな。
 儂も大分助けられておる。」
 
 どうやら、クコさん、後ろ暗いところのある宮廷貴族から恐れられているらしい。

       **********

「して、儂はクコ殿をオベルジーネ王子の妃にと決めてるのだが。
 先ほどの頼みは聞いてもらえるだろうか。」

 もう、クコさんが『妃』になるのは既定路線だとしたうえで。
 クコさんが他の貴族から恨まれることが無いよう、有力候補の二人から自発的に妃レースから降りて降りて欲しいと王様は念押ししたんだ。

「いきなりのことで混乱しておるのですが。
 オベルジーネ王子の妃はクコ殿で決まりと言うことで?」

 大蔵卿は問い掛けにウンとは言わず、再度、王様の意向を確認するかのような言葉を投げ掛けたの。

「よもや、先程の言葉忘れたとは申すまいな?」

「うっ…。」

 王様に詰問されて大蔵卿は言葉に詰まってた。さっき、王の望みは命に代えても叶えるって言っちゃったものね。

「しかし、私の娘の立場はどうなります。
 殿下の妃の座が空いているからと、他の縁談をすべて断って参ったのです。」
 
 まあ、確率二分の一で王妃の座が転がり込む見込みがあるなら、賭けてみる価値はあっただろうからね。
 それでもどちらかはハズレくじになる訳だし、賭けに負けたからと言って怨み言は言えないと思うんだ。 

「おお、それは気の毒なことをした。
 ペピーノ、あれをここに。」

 軍務卿の泣き言を聞いた王様は、そう言ってペピーノ姉ちゃんに手を差し出したの。
 王様の後ろに控えていたペピーノ姉ちゃんは、すぐさま二冊の小冊子を差し出したんだ。

「先ずは、大蔵卿からだのう。ほれ、これに目を通してみい。」

 大蔵卿はそのうち一冊を受け取り、王様の指示通り目を通していたよ。

「これは縁談の釣り書き? あっ、あの港町の領主ですか。」

「そうじゃ、あやつ、今二十四歳じゃったな。
 年齢も近いし、初婚であるぞ。
 言うまでもないが、この国で五本の指に入る裕福な貴族だ。」

 なんでも、このウニアール国で王都に次ぐ大きな港町を抱える貴族らしい。
 釣り書きの貴族は先代が早く亡くなり、歳若くして領主になったそうで。
 母親と二人で大きな領地の切り盛りするのに手一杯で、嫁探しをしている暇が無かったらしい。
 気付いた時には歳の近いご令嬢は売り切れていたそうだよ。

「これは願っても無い良縁ですが…。
 先方は我が娘で良いと申しておるのですか?」

「了承済みに決まっておるではないか。
 そうでなければ、この場で持ち掛ける訳が無かろう。
 なんならすぐにでも見合いは出来るぞ。
 王宮に招いてあるからのう。」

 いや、それはおかしいって。王子とクコさんが帰って来たのは今さっきだもん。
 最初から、今日、王子がクコさんを連れて帰ってくると分かってなきゃできないはずだよ。
 これって、もしかしなくても最初から仕組まれていたの?

          **********

「そして、これが軍務卿の分だ。」

 大蔵卿が納得すると、王様は残りの一冊を軍務卿へ差し出したの。

「これは、あの辺境伯ですか…。
 確かに同い年だし、あそこは嫁探しに難渋しておりますな。
 しかし、これは我が娘に御誂え向きの縁談だ。」

「そうであろう、そなたの娘は騎士の配置に長けているようではないか。
 この領地にあってこそ、その能力が発揮できるであろう。」

 どうやら、王様と軍務卿の間では意思疎通が出来ているだけど、おいらには全然理解できなかったよ。

「どういうこと?」

 隣りに立ってるオベルジーネ王子に尋ねると。

「軍務卿に手渡した縁談相手。
 魔物の領域に一番近い処に領地を構えているんだぁ~。
 しかも、山脈を挟んでトアール国に面しているしぃ。」

 この国では、魔物の領域から一定の距離内に人が住むのを禁じているそうだけど。
 それでも全く安全ということはないそうで、くだんの縁談相手の領地はしばしば魔物の襲撃があるそうなの。
 そのため、貴族のご令嬢たちは嫁ぐのを怖がり、毎世代嫁探しに苦労しているらしい。
 しかも、この領地、かつて周辺国に戦争を吹っかけていたトアール国とも国境線を接しているんだって。
 魔物に加えて敵国の侵略があるかも知れないってことで、本当に嫁の来手が無いらしい。

 そんな説明を聞いていると。

「陛下、これは渡りで舟です。
 うちの娘なら、喜んで嫁ぐことでしょう。
 それでこの縁談も先方の承諾は取れているのでしょうか?」

「もちろんである。
 そなたのご令嬢であればすぐにでも嫁に欲しいと申しておる。
 何なら、明日にでも見合いをするかの。
 ちょうど今、王宮に居るでの。」

 魔物の領域と仮想敵国に面している辺境伯領は、王立騎士団以外では最大の戦力を保有しているみたい。
 軍務卿令嬢は、国内の魔物被害の発生状況をつぶさに把握し、それに対応した騎士団の派遣を策定しているらしい。
 もちろん決定するのは軍務卿だけど、令嬢の素案がそのまま採用されるケースが大部分だそうで。
 魔物のリサーチとそれに対応して騎士団の配置を組み替えるのは、軍務卿令嬢の趣味みたいなものなんだって。

 自由に動かせる大戦力を有している辺境伯領は、まさに軍務卿令嬢にうってつけの嫁ぎ先じゃないかって。
 王子の予想通り、縁談話はとんとん拍子に進んで行ったよ。

 でも、縁談相手が二人とも王宮に居るって話が出来すぎだよね。これ、絶対に仕組まれてるでしょうが…。
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