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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第782話 最初から知ってたんだって…

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 王様がウルピカさんの領地に来訪したことは、オベルジーネ王子も知らなかったみたい。
 カレンちゃんとネネちゃんに王家に連なる者の証を渡して帰ったと知り、王子は訝しげな顔をしてたよ。
 王子は王様の真意について思い巡らせている様子だったけど、王様が何を考えてるかなんて直接聞いてみないと分からないよね。

 翌日、「行かないで。」と言って寂しそうに王子の袖を掴むカレンちゃんを宥めて、おいら達はウルピカさんの領地を後にしたんだ。
 その日も森の中に造られた街道沿いに魔物を狩りながら進み、お昼時にはフルティカさんの領地に着いたよ。
 三日後には戻ると言う王子の言葉を心待ちにしていたように、パルチェちゃんが屋敷から飛び出してきたよ。
 約束通りの返って来たことが嬉しかったのか、パルチェちゃんはもう逃がさないぞって感じで王子に抱き付いてた。

 その日の午後と翌日の午前中、たっぷりパルチェちゃんやリンカちゃんと遊ぶと、名残惜しそうにする幼女達を置いてクコさんの領地へ向かうこととなったんだ。
 フルティカさんの領地に着いて直ぐ、オベルジーネ王子はこの領地に王様が訪ねて来なかったかとフルティカさんに尋ねていたけど。
 フルティカさんは、「王様なんて偉い人がこんなちっぽけ領地に来る訳無いでしょう。」って笑いながら答えてた。
 どうやら、パルチェちゃんとリンカちゃんにはまだ会いに来ていないみたい。
 王子は藪蛇になることを怖れてか尋ねはしなかったけど、当然、王家に連なる者の証も貰っていないんだろうね。

 そして、また、魔物を狩りながら進み、クコさんの領地へ着いたのは夕方だったよ。
 領地の正門の前まで来ると、王子の帰りを待ち切れなかったのか領地を囲む土壁の上でロコト君が待ち構えてたよ。
 ロコト君は、王子の姿を確認すると土壁から駆け下りて、正門から飛び出してきたんだ。

「父ちゃん、お帰りなさい! 
 騎士の皆さんも魔物退治お疲れ様でした。」

 ロコト君は前に注意されたことを覚えてたみたい、王子の帰りを迎えると次いで騎士達に労いの言葉を掛けてたよ。

「おう、ロコト、偉いぞ。
 頑張った騎士達に、ちゃんと感謝の気持ちを伝えたな。」

 そんな姿を見た王子は、とても満足そうに笑ってロコト君の頭を撫で回してた。
 例によって王子は魔物をぶら下げた天秤棒を担いだまま、空いた手をロコト君と繋いで屋敷に向かったの。

 屋敷の前ではクコさんが、領民らしきおばさんに囲まれて談笑してた。

「おや、婿さんがお帰りだよ。」

「こりゃまた、随分と大猟じゃないかい。
 あんた良い婿さんを貰ったねぇ。」

「それじゃ、私らそろそろ帰ろうかね。
 若夫婦の邪魔しちゃ、馬に蹴られちゃうからねぇ。」

 クコさんを囲んでたおばさん達は、オベルジーネ王子の帰還に気付くと口々にそんな言葉を掛けて散って行ったよ。相変わらず、クコさんもチャラ王子も領民から親しまれているみたいだね。

「旦那様、お帰りなさいませ。
 騎士の皆様もお疲れさまでした。
 そんなに沢山狩りをされて、さぞお疲れでしょう。
 ささ、早く屋敷に入って体を休めてください。」

 騎士達に労いの言葉を掛けて、屋敷に迎え入れるクコさん。
 クコさんに促されて騎士達は魔物を担いだまま屋敷の敷地内へ入っていたんだけど。
 おいらは、その場を動かなかったんだ。先に確かめたいことがあったから。

         **********

「あら、マロン陛下、どうかなさいましたか?
 旦那様の無茶振りで、さぞお疲れでしょう。
 屋敷に入ってお休みになってください。」

 クコさんがおいらに気遣ってそんな声を掛けてくれたけど。

「少しこの街を案内して欲しいんだ。
 初めて来た時、直ぐに屋敷入っちゃって。
 翌朝は早々に狩りに出ちゃったでしょう。
 全然、街の中を歩く暇が無かったからね。
 これから良いかな?」

「それでしたら、喜んでご案内させて戴きます。。
 旦那様も騎士の皆さんもすぐに湯浴みをされると思うので。
 時間の余裕は御座いますし。
 女王陛下に御覧戴けるなんて光栄です。」

 急なお願いにも関わらず、クコさんは快く引き受けてくれたよ。

「それで、何処からご案内しましょうか? 何かご希望は御座いますか?」 

「この領地の特産物とか見たいんだけど。」

「それでしたら、こちらへどうぞ。」

 おいらの希望を聞くと、クコさんは屋敷を囲むフェンスの横を通って裏側に回り込んだの。
 すると、この領地が真っ平ではなく、屋敷の裏側は緩やかに傾斜していることが分かったよ。

 丁度、屋敷のすぐ裏に湧いている泉があり、そこから斜面に沿ってせせらぎを作っているの。
 そして、領地の一番奥が一番低くなっていて、そこには池があったよ。
 泉から湧き出す水量は結構なモノらしく、せせらぎはとても浅い一方でそこそこの幅になってた。
 しかも、普通目にする川とは違い、平坦な棚が上から下へと段々に連なる形で流れているの。
 そして、そのせせらぎの中には、何やら等間隔に植物が生えてたよ。

 クコさんはせせらぎに近付くと、それを一本引き抜いたんだ。

「これが、この領地自慢の沢ワサビです。
 これ一本で銀貨五枚くらいする高級食材なんですよ。
 この太い根っこの部分を摩り下ろすと、他では味わえないハーブになります。
 もちろん、葉っぱの部分も食べられますよ。
 少し鼻に抜けるような、刺激が癖になるんです。」

 かなりの上物だと嬉しそうにワサビを見せてくれるクコさん。

「凄い高価な野菜なんだね。この辺に自生してるの?」

「まさか。こんな所には生えてませんよ。
 これは国境近くの山岳地帯に自生している植物ですもの。
 イチゲ様にお願いして取り寄せてもらったのです。」

 クコさんは図書館にある書物でワサビの存在を知ったらしい。とても高価な野菜だってことも。
 オベルジーネ王子にそこかしこに湧水地があると聞き、ワサビの栽培を思い付いたんだって。
 ちなみに国境付近の自生地でも栽培に取り組んでいる農家は無く、この国で栽培しているのはクコさんだけらしい。

「他にも、特産品てあるの?
 幾ら高価でも、ワサビだけで領地を維持するのは無理でしょう?」

「ええ、まだありますよ。あの池です。
 行ってみましょう。」

 手にしたワサビで池を指し示して歩き始めるクコさん。向かった先は一番低い場所にある池だった。
 池は思ったより大きくて深さもそこそこにあるみたい。
 ただ、池の水はとても澄んでいて、水底まではっきり見えたよ。そしてそこには沢山の魚が泳いでた。

「ここにいる魚がニジマスです。これも山岳地帯から取り寄せたんですよ。
 養殖に成功するまで三年も掛かりました。」

 これはワサビを取りに行ったイチゲさんが、たまたま見つけて捕まえてきたらしい。
 イチゲさんが、淡白な味わいでとても美味しいってことを知ってたんだって。
 魚なんて食べない妖精が良くそんなこと知ってたね。流石、妖精さんは博識だ…。

 ワサビもニジマスも試行錯誤の結果、やっと栽培・養殖に成功したそうで。
 少量販売できるようになったのは二年程前のことらしい。ちょうど、ウルピカさんの宿屋が開業する頃だね。

「ねえ、ワサビも、ニジマスも、この辺じゃここでしかとれないの?」

「はい、私以外では手掛けている方は居ないと思いますね。」

「それじゃ、ここからまる一日ほど歩いた町にある宿屋に卸しているのって?」

「ああ、ウルピカさんが経営している宮殿みたいな宿屋ですね。
 あそこにお泊りになられたのですか。
 お泊りになっていかがでした? とっても良い宿だったでしょう?」

 おいらの問い掛けに対して返ってきた答えは、一番知りたかったことだった。

「クコさん、ウルピカさんのこと知っているの?」

「もちろん知っていますよ。大切な取引先ですもの。
 それとも、旦那様のコレと言うことですか?」

 おいらに向かって小指を立てて見せるクコさん。小指の意味が分からないで首を傾げていると。
 「恋人ってことですよ。」と護衛のタルトが耳元で囁いてくれたよ。

「やっぱり、ウルピカさんのこと知ってたんだ。
 宿の料理長にワサビとニジマスのことを聞いた時に思ったんだよ。
 卸しているのは、クコさんだろうって。
 だとしたらウルピカさんの事を知ってるんじゃないかと思ったの。」

「ええ、最初から知ってましたよ。
 旦那様が必死に隠そうとしているので知らない振りをしていますが。」

 王子の事を怒っているのか、気にしてないのか、何方とも判断つかない笑顔で答えるクコさん。

「最初というのは、どのくらい最初なんだろう?」

「レイカさんとフルティカさんを妊娠させてしまった時からですね。
 あの時は、呆れて言葉も出ませんでした。
 私のために領地を造ると言って王都を出たくせに、一体何をしてるんだろうって。」

 クコさん、本当に一番最初からお見通しだったよ…。
 もしかして、あのチャラ王子よりクコさんの方が数枚上手なんじゃないの?

 
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