772 / 820
第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達
第772話 タルトとトルテからの評価がだだ下がりだよ…
しおりを挟む
フルティカさんの生まれ故郷の周辺は、王都にほど近いにも限らず開発に取り残された地域だったらしい。
その理由は第一に水資源の乏しさ、フルティカさんが住んでた宿場町は数少ないオアシスに造られた町だったそうでね。
町の中に居ると水に困ることは無かったため、生活をしている分には不自由は無かったみたいだけど、一歩町の外に出れば乾燥した大地が広がっていたんだって。
フルティカさんの住む町にしても、宿場町の役割として旅人に水を提供すると、後は町の人の生活用水で手一杯らしくてね。
とても、周辺に供給するだけの余力は無かったそうだよ。
そんな状況なのに開拓に挑み、挫折する輩が後を絶たないそうなの。
そういう輩は決まって『図書館の試練』をクリアできそうにない貴族のボンボンらしくてね。
貴族位剥奪を免れるため、領地開拓による一発逆転を狙っているらしいけど。
そのくせ田舎に行きたくないって甘えた考えから、フルティカさんの故郷周辺で土地の開発に挑戦するみたい。
もっと田舎へ行けば良い土地があるのに、良く調べもせずに無謀な挑戦をしてあえなく玉砕するんだって。
そして、『図書館の試練』も突破できない、領地開拓も途中で投げ出す家の恥として闇に葬られるらしいの。
馬鹿だね。『図書館の試練』を突破できないなら、素直に貴族位を捨てて平民になれば命までは取られないものを…。
そんな訳で、オベルジーネ王子がフルティカさんの父親が営む宿屋を訪れた時、フルティカさん、思ったそうだよ。
また、『勇者』が現れたと…。
逗留初日に、レイカさんを半年買い占めたこともあって、フルティカさんのチャラ王子に対する第一印象は最悪だったらしい。
そんなフルティカさんが、何でチャラ王子とイチャラブになったかと言うと…。
「最初、ダーリンは十日も待たずに逃げ出すものだと思っていました。
それが、十日、二十日と過ぎても挫折する様子が見られないのです。」
水もないような不毛な土地をへこたれずもせず良く続くものだと、別の意味で呆れていたそうだよ。
そのうち、不思議なことに気付いたんだって。
それは、宿泊する旅人に尋ねてみても、チャラ王子が開拓している現場を目にした者が一人も居ないこと。
今までの『勇者』達はおしなべて街道沿いに町を造ろうとするので、その現場が旅人に目撃されてたらしいの。
フルティカさん、いったい何処を開拓しているのだろうと首を傾げていたんだって。
そんなある日の出来事だそうだよ。
「ダーリンってば、とっても大きな『馬鹿』をお土産にと持って来られたのです。
領地開拓をしていたら、突然襲われたので返り討ちにしたそうで。
沢山獲れたので、一頭分けてくださると言われました。
『馬鹿』のお肉と言えば超高級品で、一頭買いすれば銀貨千枚は下らないものですよ。
それを気前よくタダでくださると仰ったのです。
私、ダーリンを見直しました。」
『馬鹿』ってのは馬の体に鹿の角を持つ魔物で、馬のような刺しの入った霜降り肉と鹿のような肌理の細かい赤身肉を兼ね備えた食通垂涎の魔物なんだけど。
ファニーな名前の癖してレベル十以上はあり、人里離れた森に生息することもあって簡単には狩れない魔物なんだ。
それ故、そのお肉はとても貴重で、市場では高額で取引されているの。
「だって、馬鹿って、森の木を伐採していると次から次へと出てくるしぃ…。
一々狩ってたら、結構な数になるじゃん。
肉屋に持って行ったら、全部買い取る金は無いなんて言われてねぇ~。
だから、お世話になっている宿に感謝の気持ちを込めて贈呈したんだよ~。」
その日、フルティカさんは今の言葉と同じ内容を聞かされたんだって。
フルティカさん、何処から突っ込んで良いか分からなかったらしいよ。
まず第一に『馬鹿』ってそんなに沢山狩れる魔物じゃないこと。
一頭に襲われただけでも死を覚悟しないといけない魔物と認識してたから、良く無事に帰って来れたものだと驚いたって。
第二に森を伐採してたってところ。
フルティカさんの町の周辺は見渡す限りの荒野で、森と言えば街道を挟んだ反対側、遥か遠くに見える森だけ。
毎日、そこまで行って開拓作業をしているってのが信じられなかったって。
この時点ではリュウキンカさんの存在を知らなかった訳だから、信じられないのも当然だね。
そして、第三に『馬鹿』なんて物騒な魔物が次々と襲ってくるなんてどんな人外魔境を開拓するつもりなんだってこと。
よしんば開拓が成功したとしても、そんな物騒な所に住みたがる人はいないだろうって。
「まあ、その時点で、今までの『勇者』とは少し違うとは思いましたが…。
まだまだ、胡散臭いお兄さんだなって印象は拭い切れなかったんです。」
この時点では、フルティカさんの評価が『勇者』から『少し変な人』に改善した程度だったらしい。
ただ、その後も、時折『馬鹿』やらイノシシ型の魔物やらをお土産に持ち帰って来たそうで。
フルティカさん、「もしかして、このチャラ男、見かけによらず凄い人なのでは。」と思い始めていたみたい。
**********
その評価が劇的に改善したのは、レイカさんからもたらされた情報に依るところが大きいらしい。
曰く、「あのお客は『図書館の試練』を年相応にクリアしているらしい。」
曰く、「あのお客は親のスネ齧りではなく、魔物退治をしてコツコツと貯えた資金で開拓を行っているらしい。」
チャラ王子と褥を共にしているレイカさんは、寝物語に王子から聞いた話をフルティカさんに伝えていたそうなの。
そして、レイカさんのお腹が大きくなりだした頃のこと。
「レイカ姐さんから聞いたのです。領地の開拓がほぼ終わったらしいと。
領民の募集も始めたそうですし。
なによりも領主の館でメイドとして働かないかと誘われたと。
その時、レイカ姐さんとお腹の子を一生養うと言われたそうなのです。」
これが決め手だったらしいよ。
今までフルティカさんの宿に逗留して領地開拓に挑んだ『勇者』は数多あれど、成し遂げたのはオベルジーネ王子ただ一人だから。
そして、誰が父親か分からない子供を宿しているレイカさんを一生養うと宣言した誠実さに心打たれたらしい。
そして、打算が生まれたんだって。
生家の宿屋は二つ年上のお姉さんが継ぐことになっていて、フルティカさんはいずれ誰かに嫁ぐことになってたらしいの。
そこへ現れた下級貴族らしき少年、歳は十五とフルティカさんの二つ年上。
わずか十五歳で領地開拓をやり遂げたその実行力と父親が誰か分からない子を孕んだ女を養おうと言う包容力。
フルティカさんの目には、それまでの『少し変な人』が『お値打ち商品』に変化したように見えたらしいの。
玉の輿願望がむくむくと頭をもたげたらしいよ。
「つい若さに任せて暴走してしまいまして。
もう行くっきゃないってな感じで…。
後先考えずに、ダーリンの部屋に夜這いを掛けたんです。」
「ボクちんはレイカちゃんが忍び込んできたかと思ったしぃ。
お腹の子が落ち着くまでしばらくご無沙汰だったからねぇ~。
レイカちゃんも色々溜まって我慢できなくなったんじゃないかと思ったんだぁ~。
もちろん、ボクちんはウエルカムだったよ。
据え膳は美味しく戴くのがボクちんのモットーじゃん。」
妊娠が分かった後、お腹の子を案じてオベルジーネ王子はレイカさんのためにもう一部屋借りたそうなの。
お腹の子が安定するまでは自重するってことで、別々の部屋で寝ていたんだって。自重って、何を自重するの?
その時は、お腹の子の状態も安定してくる時期だったそうで、無茶さえしなければOKだったらしい。だから、何がOKなの?
チャラ王子は躊躇なく、ご相伴に与ったらしいよ。
「ボクちん、マジ、焦ったよ~。
腕の中で眠っているのが、レイカちゃんじゃなくて宿屋の娘さんじゃん。
しかも、血染めのシーツや諸々の物証があって、事後なのが明らかだしぃ。」
「実は私、その時、狸寝入りをしてたのです。
ダーリンが焦っているのを目にして、ここぞとばかりプッシュしました。
純潔を捧げたんだから、お嫁さんにして欲しいと。」
レイカさんをメイドとして雇うお屋敷の奥様にして欲しいと迫ったらしいよ。
「ボクちん、いきなり責任を取れって言われて困ったよ~。
だって、お屋敷の主はクコちゃんに決まってるしぃ。
そこは正直に話すことにしたんだぁ~。」
今開拓がほぼ終わった領地は、クコさんとお腹の子供のために用意したものだと包み隠さず説明したらしい。
「自分の浅はかさを悔やんで、泣いちゃいました。
ロクに下調べもせずに自滅するなんて。
そこいらに埋まっている『勇者』と同じじゃないですか。
でも、本当にあの時はそこまで気が回らなかったのです。
まさか、僅か十五歳の少年にお嫁さんと子供がいるなんて…。
しかも、宿泊初日から酒場のお姉さんをお持ち帰りしているんですよ。
新婚さんなら、普通はしませんよ。」
フルティカさんはマジで嘆いたそうだよ。自らの拙速で女の一番の切り札を失ってしまったことを。
玉の輿に乗るために純潔をベットしたのにと、思わず本音を出してしまったらしいよ。
「ボクちん、目の前でマジ泣きするフルティカちゃんを放って置けなくてねぇ…。
だから、提案したんだ。
何なら、フルティカちゃんのために領地を造ってあげようかって。」
「私、耳を疑いました。
ダーリンたら、子供に飴でも与えるかのように言うのですもの。
しかも、私が打算で近付いたのを知ってるのにですよ。」
「だから、ボクちん、言ったんだよ~。
それなら打算じゃなくて、マジに愛し合えば良いじゃんって。」
「信じられますか?
クコ様のために領地を造っている最中にそんなことを言ったのですよ。
クコ様を愛しているのでしょうと尋ねたら、ダーリンはなんて答えたと思います?」
「なんて答えたの?」
どうせしょうもないことを言ったのだろうと、チャラ王子に視線を向けると。
「大丈夫、ボクちん、フルティカちゃんも同じように愛せる自信があるから。
だったかな~?」
チャラ王子が臆面もなくそんな返答をすると、おいらの後ろで「チッ!」って舌打ち音が聞こえたよ。
声を潜めたタルトとトルテが、「典型的な浮気男のセリフですね。」、「ホント、最低です。」なんて会話を交わしてた。
「自信満々に言うダーリンの表情がなんだかとても可笑しくて…。
私、言っちゃいました。
本気で愛してくれないと嫌ですからねって。」
その時、フルティカさんは思ったんだって。この人となら面白い人生が送れそうだと。
おいらの後ろから、「この人もいい加減チョロいですね。」って、呟きが聞こえてきたよ。
その日以降、お腹が大きくなったレイカさんに代わり、フルティカさんがチャラ王子の人恋しさを慰めることになったんだって。
それからほどなくして、フルティカさんのお腹の中にパルチェちゃんが宿ったそうだよ。
結局、オベルジーネ王子は、二人を養うために是が非でもこの領地を造る必要に迫られたんだって。
「ニャハハ、ボクちん、百発百中だしぃ。」
チャラ王子の奴、悪びれもせずに言いやがった…。
その理由は第一に水資源の乏しさ、フルティカさんが住んでた宿場町は数少ないオアシスに造られた町だったそうでね。
町の中に居ると水に困ることは無かったため、生活をしている分には不自由は無かったみたいだけど、一歩町の外に出れば乾燥した大地が広がっていたんだって。
フルティカさんの住む町にしても、宿場町の役割として旅人に水を提供すると、後は町の人の生活用水で手一杯らしくてね。
とても、周辺に供給するだけの余力は無かったそうだよ。
そんな状況なのに開拓に挑み、挫折する輩が後を絶たないそうなの。
そういう輩は決まって『図書館の試練』をクリアできそうにない貴族のボンボンらしくてね。
貴族位剥奪を免れるため、領地開拓による一発逆転を狙っているらしいけど。
そのくせ田舎に行きたくないって甘えた考えから、フルティカさんの故郷周辺で土地の開発に挑戦するみたい。
もっと田舎へ行けば良い土地があるのに、良く調べもせずに無謀な挑戦をしてあえなく玉砕するんだって。
そして、『図書館の試練』も突破できない、領地開拓も途中で投げ出す家の恥として闇に葬られるらしいの。
馬鹿だね。『図書館の試練』を突破できないなら、素直に貴族位を捨てて平民になれば命までは取られないものを…。
そんな訳で、オベルジーネ王子がフルティカさんの父親が営む宿屋を訪れた時、フルティカさん、思ったそうだよ。
また、『勇者』が現れたと…。
逗留初日に、レイカさんを半年買い占めたこともあって、フルティカさんのチャラ王子に対する第一印象は最悪だったらしい。
そんなフルティカさんが、何でチャラ王子とイチャラブになったかと言うと…。
「最初、ダーリンは十日も待たずに逃げ出すものだと思っていました。
それが、十日、二十日と過ぎても挫折する様子が見られないのです。」
水もないような不毛な土地をへこたれずもせず良く続くものだと、別の意味で呆れていたそうだよ。
そのうち、不思議なことに気付いたんだって。
それは、宿泊する旅人に尋ねてみても、チャラ王子が開拓している現場を目にした者が一人も居ないこと。
今までの『勇者』達はおしなべて街道沿いに町を造ろうとするので、その現場が旅人に目撃されてたらしいの。
フルティカさん、いったい何処を開拓しているのだろうと首を傾げていたんだって。
そんなある日の出来事だそうだよ。
「ダーリンってば、とっても大きな『馬鹿』をお土産にと持って来られたのです。
領地開拓をしていたら、突然襲われたので返り討ちにしたそうで。
沢山獲れたので、一頭分けてくださると言われました。
『馬鹿』のお肉と言えば超高級品で、一頭買いすれば銀貨千枚は下らないものですよ。
それを気前よくタダでくださると仰ったのです。
私、ダーリンを見直しました。」
『馬鹿』ってのは馬の体に鹿の角を持つ魔物で、馬のような刺しの入った霜降り肉と鹿のような肌理の細かい赤身肉を兼ね備えた食通垂涎の魔物なんだけど。
ファニーな名前の癖してレベル十以上はあり、人里離れた森に生息することもあって簡単には狩れない魔物なんだ。
それ故、そのお肉はとても貴重で、市場では高額で取引されているの。
「だって、馬鹿って、森の木を伐採していると次から次へと出てくるしぃ…。
一々狩ってたら、結構な数になるじゃん。
肉屋に持って行ったら、全部買い取る金は無いなんて言われてねぇ~。
だから、お世話になっている宿に感謝の気持ちを込めて贈呈したんだよ~。」
その日、フルティカさんは今の言葉と同じ内容を聞かされたんだって。
フルティカさん、何処から突っ込んで良いか分からなかったらしいよ。
まず第一に『馬鹿』ってそんなに沢山狩れる魔物じゃないこと。
一頭に襲われただけでも死を覚悟しないといけない魔物と認識してたから、良く無事に帰って来れたものだと驚いたって。
第二に森を伐採してたってところ。
フルティカさんの町の周辺は見渡す限りの荒野で、森と言えば街道を挟んだ反対側、遥か遠くに見える森だけ。
毎日、そこまで行って開拓作業をしているってのが信じられなかったって。
この時点ではリュウキンカさんの存在を知らなかった訳だから、信じられないのも当然だね。
そして、第三に『馬鹿』なんて物騒な魔物が次々と襲ってくるなんてどんな人外魔境を開拓するつもりなんだってこと。
よしんば開拓が成功したとしても、そんな物騒な所に住みたがる人はいないだろうって。
「まあ、その時点で、今までの『勇者』とは少し違うとは思いましたが…。
まだまだ、胡散臭いお兄さんだなって印象は拭い切れなかったんです。」
この時点では、フルティカさんの評価が『勇者』から『少し変な人』に改善した程度だったらしい。
ただ、その後も、時折『馬鹿』やらイノシシ型の魔物やらをお土産に持ち帰って来たそうで。
フルティカさん、「もしかして、このチャラ男、見かけによらず凄い人なのでは。」と思い始めていたみたい。
**********
その評価が劇的に改善したのは、レイカさんからもたらされた情報に依るところが大きいらしい。
曰く、「あのお客は『図書館の試練』を年相応にクリアしているらしい。」
曰く、「あのお客は親のスネ齧りではなく、魔物退治をしてコツコツと貯えた資金で開拓を行っているらしい。」
チャラ王子と褥を共にしているレイカさんは、寝物語に王子から聞いた話をフルティカさんに伝えていたそうなの。
そして、レイカさんのお腹が大きくなりだした頃のこと。
「レイカ姐さんから聞いたのです。領地の開拓がほぼ終わったらしいと。
領民の募集も始めたそうですし。
なによりも領主の館でメイドとして働かないかと誘われたと。
その時、レイカ姐さんとお腹の子を一生養うと言われたそうなのです。」
これが決め手だったらしいよ。
今までフルティカさんの宿に逗留して領地開拓に挑んだ『勇者』は数多あれど、成し遂げたのはオベルジーネ王子ただ一人だから。
そして、誰が父親か分からない子供を宿しているレイカさんを一生養うと宣言した誠実さに心打たれたらしい。
そして、打算が生まれたんだって。
生家の宿屋は二つ年上のお姉さんが継ぐことになっていて、フルティカさんはいずれ誰かに嫁ぐことになってたらしいの。
そこへ現れた下級貴族らしき少年、歳は十五とフルティカさんの二つ年上。
わずか十五歳で領地開拓をやり遂げたその実行力と父親が誰か分からない子を孕んだ女を養おうと言う包容力。
フルティカさんの目には、それまでの『少し変な人』が『お値打ち商品』に変化したように見えたらしいの。
玉の輿願望がむくむくと頭をもたげたらしいよ。
「つい若さに任せて暴走してしまいまして。
もう行くっきゃないってな感じで…。
後先考えずに、ダーリンの部屋に夜這いを掛けたんです。」
「ボクちんはレイカちゃんが忍び込んできたかと思ったしぃ。
お腹の子が落ち着くまでしばらくご無沙汰だったからねぇ~。
レイカちゃんも色々溜まって我慢できなくなったんじゃないかと思ったんだぁ~。
もちろん、ボクちんはウエルカムだったよ。
据え膳は美味しく戴くのがボクちんのモットーじゃん。」
妊娠が分かった後、お腹の子を案じてオベルジーネ王子はレイカさんのためにもう一部屋借りたそうなの。
お腹の子が安定するまでは自重するってことで、別々の部屋で寝ていたんだって。自重って、何を自重するの?
その時は、お腹の子の状態も安定してくる時期だったそうで、無茶さえしなければOKだったらしい。だから、何がOKなの?
チャラ王子は躊躇なく、ご相伴に与ったらしいよ。
「ボクちん、マジ、焦ったよ~。
腕の中で眠っているのが、レイカちゃんじゃなくて宿屋の娘さんじゃん。
しかも、血染めのシーツや諸々の物証があって、事後なのが明らかだしぃ。」
「実は私、その時、狸寝入りをしてたのです。
ダーリンが焦っているのを目にして、ここぞとばかりプッシュしました。
純潔を捧げたんだから、お嫁さんにして欲しいと。」
レイカさんをメイドとして雇うお屋敷の奥様にして欲しいと迫ったらしいよ。
「ボクちん、いきなり責任を取れって言われて困ったよ~。
だって、お屋敷の主はクコちゃんに決まってるしぃ。
そこは正直に話すことにしたんだぁ~。」
今開拓がほぼ終わった領地は、クコさんとお腹の子供のために用意したものだと包み隠さず説明したらしい。
「自分の浅はかさを悔やんで、泣いちゃいました。
ロクに下調べもせずに自滅するなんて。
そこいらに埋まっている『勇者』と同じじゃないですか。
でも、本当にあの時はそこまで気が回らなかったのです。
まさか、僅か十五歳の少年にお嫁さんと子供がいるなんて…。
しかも、宿泊初日から酒場のお姉さんをお持ち帰りしているんですよ。
新婚さんなら、普通はしませんよ。」
フルティカさんはマジで嘆いたそうだよ。自らの拙速で女の一番の切り札を失ってしまったことを。
玉の輿に乗るために純潔をベットしたのにと、思わず本音を出してしまったらしいよ。
「ボクちん、目の前でマジ泣きするフルティカちゃんを放って置けなくてねぇ…。
だから、提案したんだ。
何なら、フルティカちゃんのために領地を造ってあげようかって。」
「私、耳を疑いました。
ダーリンたら、子供に飴でも与えるかのように言うのですもの。
しかも、私が打算で近付いたのを知ってるのにですよ。」
「だから、ボクちん、言ったんだよ~。
それなら打算じゃなくて、マジに愛し合えば良いじゃんって。」
「信じられますか?
クコ様のために領地を造っている最中にそんなことを言ったのですよ。
クコ様を愛しているのでしょうと尋ねたら、ダーリンはなんて答えたと思います?」
「なんて答えたの?」
どうせしょうもないことを言ったのだろうと、チャラ王子に視線を向けると。
「大丈夫、ボクちん、フルティカちゃんも同じように愛せる自信があるから。
だったかな~?」
チャラ王子が臆面もなくそんな返答をすると、おいらの後ろで「チッ!」って舌打ち音が聞こえたよ。
声を潜めたタルトとトルテが、「典型的な浮気男のセリフですね。」、「ホント、最低です。」なんて会話を交わしてた。
「自信満々に言うダーリンの表情がなんだかとても可笑しくて…。
私、言っちゃいました。
本気で愛してくれないと嫌ですからねって。」
その時、フルティカさんは思ったんだって。この人となら面白い人生が送れそうだと。
おいらの後ろから、「この人もいい加減チョロいですね。」って、呟きが聞こえてきたよ。
その日以降、お腹が大きくなったレイカさんに代わり、フルティカさんがチャラ王子の人恋しさを慰めることになったんだって。
それからほどなくして、フルティカさんのお腹の中にパルチェちゃんが宿ったそうだよ。
結局、オベルジーネ王子は、二人を養うために是が非でもこの領地を造る必要に迫られたんだって。
「ニャハハ、ボクちん、百発百中だしぃ。」
チャラ王子の奴、悪びれもせずに言いやがった…。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
288
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる