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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達
第769話 他人行儀にされると寂しいと言ってるけど…
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フルティカさんのお屋敷に腰を落ち着けると、さっそくパルチェちゃんがオベルジーネ王子の膝によじ登ったの。
そんなパルチェちゃんに対して王子は。
「パパ、これからお仕事の話があるんだ。
お仕事が済んだら一緒に遊ぶから。
それまでリンカちゃんと遊んでいて欲しいな。」
と、自分の部屋で遊んでいるように指示したんだけど。
「いやっ、パルチェ、ここがいいの~。
パピーのおひざ!」
パルチェちゃんは王子の膝の上が自分の居場所だと主張して譲らなかったの。
すると、王子は足元に降ろした大きな背嚢をゴソゴソと漁り、中から何かを取り出したんだ。
それはクマのぬいぐるみと紙包みだった。
紙包みには可愛いリボンが掛けられていたよ。
それらをパルチェちゃんの前に差し出すと。
「ほら、これ、お土産だよ。
クマさんと新しいドレス。
しばらく、クマさんで遊んでいて欲しいなぁ。」
お土産を受け取ったパルチェちゃんはパッと目を輝かせて。
「わぁ、クマさんだ! かわいぃ~!
こっちはドレスなの?」
「そうだよ。
パルチェに似合いそうな可愛いドレス。
パパが選んだんだよ。
部屋でお着替えして、可愛いパルチェを見せてね。」
実際に狂暴な熊が出没しそうなこの村で、可愛いクマのぬいぐるみはどうかと思うよ。
熊が可愛いものだと刷り込まれて、熊に対する警戒感を無くしたら困るじゃない。
おいらはそんなことを思いながらパルチェちゃんを眺めていたんだけど。
当のパルチェちゃんはお土産を抱えてはしゃいでたよ。
そこへすかさず。
「パルチェおじょうさま、よかったですね~。
それじゃ、お部屋に行ってクマさんで遊びましょう。
後で新しいドレスにお着替えして。
御館様に可愛いって褒めてもらいましょうね。」
空気を読んだリンカちゃんが、パルチェちゃんを部屋から連れ出そうとしたんだけど。
「あっ、リンカちゃん、ちょっとタンマ。」
パルチェちゃんを王子の膝から降ろしたところで、王子が待ったを掛けたの。
そして、王子はさっきと同じように背嚢を漁り。
「はい、リンカちゃんにもお土産だよ。
いつも、パルチェをお世話してもらってアリガトね。」
リンカちゃんにも、クマのぬいぐるみとリボン付きの紙包みを差し出したんだ。
お嬢様と使用人と言う立場を考慮してか、パルチェちゃんに贈った物よりも一回り小さいクマだった。
戸惑った表情を見せたリンカちゃんは、「貰っても良いか。」と尋ねるようにレイカさんに視線を送ったの。
「リンカ、御館様のお心遣いです。有り難く頂戴しておきなさい。
御館様に対する感謝の気持ちを努々忘れてはなりませんよ。」
レイカさんは穏やかな笑顔を浮かべ穏やか口調だけど、その実、厳しく言い聞かせるように言ったの。
どうやら、年相応以上なリンカちゃんの言動は、レイカさんに厳しく仕込まれたものみたい。
レイカさんの許しが出ると、リンカちゃんは差し出されたお土産を手にして。
「御館様、いつも有り難うございます。
とても素敵なお土産を頂戴しとても嬉しいです。」
感謝の言葉と共に礼儀正しくお辞儀をしてたよ。
そんなリンカちゃんを目にして、王子は少し困ったような笑顔を見せると。
「あ、うん、喜んでもらえて嬉しいよ。
でも、ちょっと硬いねぇ。
もうちょっと肩の力を抜いた方が良いかな。」
と言って、片手でリンカちゃんの頭を撫でると、もう一方の手で背嚢をまさぐって。
「これからお仕事の話があるんだ。
パルチェの部屋でこれでも食べながら、二人で遊んでいてね。
夕方までには終るから、ドレスに着替えて二人の可愛い姿を見せて欲しいな。」
新たに取り出したお菓子の袋をリンカちゃんに手渡していたよ。
「かしこまりました。
お茶の用意をして、このお菓子をお茶請けに致します。
夕刻にあわせてパルチェおじょうさまのお召し替えをすれば良いですね。」
リンカちゃんはそう返答して一礼すると、パルチェちゃんの手を引いて部屋から出て行ったんだ。
因みに背嚢は村に入る前にリュウキンカさんから受取って、オベルジーネ王子が背負ってたの。
ここでも王子は、妖精さんの加護があることを周囲に知らせないようにしているんだって。
**********
部屋を出て行く二人の後姿を見て、オベルジーネ王子は溜息を一つ吐くと。
「ねえ、レイカちゃん。リンカちゃんを厳しく躾け過ぎじゃないの?
まだ五歳なんだから、もう少しのびのび育てても良いじゃん。
ボクちん、自分の娘にあんな他人行儀にされたら寂しいしぃ。」
メイド姿のレイカさんにそんな愚痴を漏らしたんだ。
こいつ、今、『自分の娘』と言ったよ。タルトとトルテの想像が当たっていたのかな?
「いいえ、御館様。主人と使用人の線引きはしっかりしませんと。
リンカが分を弁えず増長した言動をとると困りますから。
それに今のお言葉、お客様の前で口にするのは如何なものかと。」
レイカさんの表情は相変わらず穏やかだけど、毅然とした態度で言い切ったよ。
レイカさんが苦言を呈したのは、やっぱり、『自分の娘』って言葉に対してだろうね。
すると、二人の会話の腰を折るようにフルティカさんが割って入り。
「ところでダーリン、そちらのお嬢様方は何方様かしら?
まさか、新しいシスターズじゃないでしょうね。
これ以上ご無沙汰の期間が延びたら、私、本当に拗ねちゃいますよ。」
おいら達について尋ねてきたの。
どうやら、レイカさんと王子の話が気拙い感じになっているので話題転換を図ろうとしたみたい。
ところで、シスターズって何だろう。姉妹?
「ちゃう、ちゃう、この人達、雲の上の人だよ~。
本来、ボクちんじゃ、声を掛けるのも畏れ多いくらい。
隣りの国の女王様なんだから。」
こいつ、自分が王族だってことを棚に上げておいらを雲の上の人だなんて言うの。
てか、もしかしてフルティカさんはチャラ王子の正体をしらない?
「まあ、ダーリンって、凄~い! そんな偉い方とお知り合いだなんて。」
まさか、王族を連れてくるとは夢にも思って無かったんだろうね。
フルティカさんは無邪気にチャラ王子を称賛してたよ。
「ちゃうねんって、ボクちんみたいな下級騎士がお知り合いになれる訳無いじゃん。
ボクちんが休暇でこっちに来ようとしてたら偶然会ったんだよ。
狩りに行かれるとの事なので、お誘いしたんだ~。
王都の周辺じゃ、魔物なんて狩り尽くしちゃってるしぃ。」
こいつ、オランをナンパしようとして声を掛けて来た癖して、都合の良い作り話を…。
「まあ、女王陛下、御自ら狩りをされるなんて素敵!」
と言って、オランに羨望の目を向けるフルティカさん。
「ちゃうって、その方、女王陛下の旦那様。
オランジェ殿下。驚くことにそれでも男の子だよ~。
女王陛下はこっちのちんまい娘さん。マロン陛下。
びっくりだよね、これで人妻なんだって。」
こいつ、マジに失礼な奴だな…。本当に下級騎士なら不敬罪で手討ちにされるぞ。
「それはそれで、色々と凄いですね…。」
おいらが女王だってことか、はたまた、オランが男の子だってことか。
その両方かも知れないけど、俄かには信じ難いようで微妙な表情をするフルティカさん。
「そんな訳で、ボクちんは無実だしぃ。
最愛のハニーやパルチェに会いに来たんだよ。
浮気相手なんか連れて来る訳無いじゃん。」
そのセリフを聞いて、『最愛』って言葉の意味を問い詰めてやろうかと思ったよ。
昨日、クコさんを最愛の女性と紹介しておいて、舌の根の乾かない内にその言葉を吐くかな…。
おいらが冷めた目でチャラ王子を見ていると、フルティカさんはおいら達の視線に気付いた様子で。
「ダーリン、昨日、クコ様の所に泊まったでしょう。
そこでクコ様を最愛の女性って紹介したんじゃないですか?
みなさん、ダーリンを軽蔑の目で見てますよ。」
フルティカさんがチャラ王子をジト目を向けて言うと。
「あっ、分った? でも、ボクちん、嘘はついてないよ~。
今、ここに居る間はフルティカちゃんが、ボクちんの最愛の女性だしぃ。」
チャラ王子の奴、そんな都合の良いことをほざいてたよ。
でも、おいら、びっくりした。まさか、クコさんを知ってたなんて。
思わず、「えっ、クコさんの存在を知ってるの?」って尋ねちゃった。
すると。
「もちろん、知っていますよ。ダーリンの本妻様ですもの。
本来なら、私は泥棒ネコって糾弾される立場ですから。」
意外にも、フルティカさんはあっけらかんと答えたよ。
だけど、クコさんを本妻だと思っているってことは、やっぱり、チャラ王子は自分の身分を偽っているのか…。
**********
「いやね、クコちゃんにはナイショなんだけど…。」
そんな前振りで話し始めるオベルジーネ王子。
「クコちゃんを養うために領地開拓に手を付けたのは良いけど…。
森の中で一人黙々と作業をしていると人恋しくなるじゃん。」
そんな訳で、このチャラ王子、森を抜けて直ぐの所にある町で宿を取ることにしたんだって。
その町とこの村の間には今でも道が無く、陸路を行くとぐるっと遠回りしてクコさんの村の方から来ることになるらしい。
そのため徒歩では二日ほど掛かるそうだけど、リュウキンカさんが一直線に飛ぶとあっという間に往復できるらしいの。
人恋しさを紛らわすためもあって、毎日その町から通いで領地の開拓をすることにしたんだって。
「その町でたった一軒の宿屋の娘がフルティカちゃんなんだ。
小さな宿場町だしぃ、宿と言っても色々とやっているんだぁ~。
一階じゃ、昼は飯屋、夜は酒場をしてるしぃ。
酒場にはお持ち帰りできるお姉さんもいるしねぇ。」
フルティカさんの故郷の街は王都と辺境を結ぶ重要な街道の宿場町らしく。
フルティカさんの実家は、昼食も夕食も取れて、部屋数も多いってことで、かなり繁盛している宿屋なんだって。
「そんな訳で、フルティカちゃんの実家を定宿にしたんだよ。
だけどさぁ、それまでずっとクコちゃんと一緒に寝てたじゃん。
やっぱ、一人寝は寂しい訳よ~。
だから一階の酒場からお姉さんをお持ち帰りすることにしたんだぁ~。
そこにいたのがレイカちゃん。
一目惚れしちゃって、思わず半年分前払いでキープしちゃったよ。」
どうやら、レイカさんは宿屋に併設された酒場で働いていたらしい。
この時点でフルティカさんとはまだ面識がなく、知り合ったのはレイカさんの方が先らしい。
しかし、お持ち帰りできるお姉さんって、初めて聞くけど給仕のお姉さんとは違うのかな?。
そんなパルチェちゃんに対して王子は。
「パパ、これからお仕事の話があるんだ。
お仕事が済んだら一緒に遊ぶから。
それまでリンカちゃんと遊んでいて欲しいな。」
と、自分の部屋で遊んでいるように指示したんだけど。
「いやっ、パルチェ、ここがいいの~。
パピーのおひざ!」
パルチェちゃんは王子の膝の上が自分の居場所だと主張して譲らなかったの。
すると、王子は足元に降ろした大きな背嚢をゴソゴソと漁り、中から何かを取り出したんだ。
それはクマのぬいぐるみと紙包みだった。
紙包みには可愛いリボンが掛けられていたよ。
それらをパルチェちゃんの前に差し出すと。
「ほら、これ、お土産だよ。
クマさんと新しいドレス。
しばらく、クマさんで遊んでいて欲しいなぁ。」
お土産を受け取ったパルチェちゃんはパッと目を輝かせて。
「わぁ、クマさんだ! かわいぃ~!
こっちはドレスなの?」
「そうだよ。
パルチェに似合いそうな可愛いドレス。
パパが選んだんだよ。
部屋でお着替えして、可愛いパルチェを見せてね。」
実際に狂暴な熊が出没しそうなこの村で、可愛いクマのぬいぐるみはどうかと思うよ。
熊が可愛いものだと刷り込まれて、熊に対する警戒感を無くしたら困るじゃない。
おいらはそんなことを思いながらパルチェちゃんを眺めていたんだけど。
当のパルチェちゃんはお土産を抱えてはしゃいでたよ。
そこへすかさず。
「パルチェおじょうさま、よかったですね~。
それじゃ、お部屋に行ってクマさんで遊びましょう。
後で新しいドレスにお着替えして。
御館様に可愛いって褒めてもらいましょうね。」
空気を読んだリンカちゃんが、パルチェちゃんを部屋から連れ出そうとしたんだけど。
「あっ、リンカちゃん、ちょっとタンマ。」
パルチェちゃんを王子の膝から降ろしたところで、王子が待ったを掛けたの。
そして、王子はさっきと同じように背嚢を漁り。
「はい、リンカちゃんにもお土産だよ。
いつも、パルチェをお世話してもらってアリガトね。」
リンカちゃんにも、クマのぬいぐるみとリボン付きの紙包みを差し出したんだ。
お嬢様と使用人と言う立場を考慮してか、パルチェちゃんに贈った物よりも一回り小さいクマだった。
戸惑った表情を見せたリンカちゃんは、「貰っても良いか。」と尋ねるようにレイカさんに視線を送ったの。
「リンカ、御館様のお心遣いです。有り難く頂戴しておきなさい。
御館様に対する感謝の気持ちを努々忘れてはなりませんよ。」
レイカさんは穏やかな笑顔を浮かべ穏やか口調だけど、その実、厳しく言い聞かせるように言ったの。
どうやら、年相応以上なリンカちゃんの言動は、レイカさんに厳しく仕込まれたものみたい。
レイカさんの許しが出ると、リンカちゃんは差し出されたお土産を手にして。
「御館様、いつも有り難うございます。
とても素敵なお土産を頂戴しとても嬉しいです。」
感謝の言葉と共に礼儀正しくお辞儀をしてたよ。
そんなリンカちゃんを目にして、王子は少し困ったような笑顔を見せると。
「あ、うん、喜んでもらえて嬉しいよ。
でも、ちょっと硬いねぇ。
もうちょっと肩の力を抜いた方が良いかな。」
と言って、片手でリンカちゃんの頭を撫でると、もう一方の手で背嚢をまさぐって。
「これからお仕事の話があるんだ。
パルチェの部屋でこれでも食べながら、二人で遊んでいてね。
夕方までには終るから、ドレスに着替えて二人の可愛い姿を見せて欲しいな。」
新たに取り出したお菓子の袋をリンカちゃんに手渡していたよ。
「かしこまりました。
お茶の用意をして、このお菓子をお茶請けに致します。
夕刻にあわせてパルチェおじょうさまのお召し替えをすれば良いですね。」
リンカちゃんはそう返答して一礼すると、パルチェちゃんの手を引いて部屋から出て行ったんだ。
因みに背嚢は村に入る前にリュウキンカさんから受取って、オベルジーネ王子が背負ってたの。
ここでも王子は、妖精さんの加護があることを周囲に知らせないようにしているんだって。
**********
部屋を出て行く二人の後姿を見て、オベルジーネ王子は溜息を一つ吐くと。
「ねえ、レイカちゃん。リンカちゃんを厳しく躾け過ぎじゃないの?
まだ五歳なんだから、もう少しのびのび育てても良いじゃん。
ボクちん、自分の娘にあんな他人行儀にされたら寂しいしぃ。」
メイド姿のレイカさんにそんな愚痴を漏らしたんだ。
こいつ、今、『自分の娘』と言ったよ。タルトとトルテの想像が当たっていたのかな?
「いいえ、御館様。主人と使用人の線引きはしっかりしませんと。
リンカが分を弁えず増長した言動をとると困りますから。
それに今のお言葉、お客様の前で口にするのは如何なものかと。」
レイカさんの表情は相変わらず穏やかだけど、毅然とした態度で言い切ったよ。
レイカさんが苦言を呈したのは、やっぱり、『自分の娘』って言葉に対してだろうね。
すると、二人の会話の腰を折るようにフルティカさんが割って入り。
「ところでダーリン、そちらのお嬢様方は何方様かしら?
まさか、新しいシスターズじゃないでしょうね。
これ以上ご無沙汰の期間が延びたら、私、本当に拗ねちゃいますよ。」
おいら達について尋ねてきたの。
どうやら、レイカさんと王子の話が気拙い感じになっているので話題転換を図ろうとしたみたい。
ところで、シスターズって何だろう。姉妹?
「ちゃう、ちゃう、この人達、雲の上の人だよ~。
本来、ボクちんじゃ、声を掛けるのも畏れ多いくらい。
隣りの国の女王様なんだから。」
こいつ、自分が王族だってことを棚に上げておいらを雲の上の人だなんて言うの。
てか、もしかしてフルティカさんはチャラ王子の正体をしらない?
「まあ、ダーリンって、凄~い! そんな偉い方とお知り合いだなんて。」
まさか、王族を連れてくるとは夢にも思って無かったんだろうね。
フルティカさんは無邪気にチャラ王子を称賛してたよ。
「ちゃうねんって、ボクちんみたいな下級騎士がお知り合いになれる訳無いじゃん。
ボクちんが休暇でこっちに来ようとしてたら偶然会ったんだよ。
狩りに行かれるとの事なので、お誘いしたんだ~。
王都の周辺じゃ、魔物なんて狩り尽くしちゃってるしぃ。」
こいつ、オランをナンパしようとして声を掛けて来た癖して、都合の良い作り話を…。
「まあ、女王陛下、御自ら狩りをされるなんて素敵!」
と言って、オランに羨望の目を向けるフルティカさん。
「ちゃうって、その方、女王陛下の旦那様。
オランジェ殿下。驚くことにそれでも男の子だよ~。
女王陛下はこっちのちんまい娘さん。マロン陛下。
びっくりだよね、これで人妻なんだって。」
こいつ、マジに失礼な奴だな…。本当に下級騎士なら不敬罪で手討ちにされるぞ。
「それはそれで、色々と凄いですね…。」
おいらが女王だってことか、はたまた、オランが男の子だってことか。
その両方かも知れないけど、俄かには信じ難いようで微妙な表情をするフルティカさん。
「そんな訳で、ボクちんは無実だしぃ。
最愛のハニーやパルチェに会いに来たんだよ。
浮気相手なんか連れて来る訳無いじゃん。」
そのセリフを聞いて、『最愛』って言葉の意味を問い詰めてやろうかと思ったよ。
昨日、クコさんを最愛の女性と紹介しておいて、舌の根の乾かない内にその言葉を吐くかな…。
おいらが冷めた目でチャラ王子を見ていると、フルティカさんはおいら達の視線に気付いた様子で。
「ダーリン、昨日、クコ様の所に泊まったでしょう。
そこでクコ様を最愛の女性って紹介したんじゃないですか?
みなさん、ダーリンを軽蔑の目で見てますよ。」
フルティカさんがチャラ王子をジト目を向けて言うと。
「あっ、分った? でも、ボクちん、嘘はついてないよ~。
今、ここに居る間はフルティカちゃんが、ボクちんの最愛の女性だしぃ。」
チャラ王子の奴、そんな都合の良いことをほざいてたよ。
でも、おいら、びっくりした。まさか、クコさんを知ってたなんて。
思わず、「えっ、クコさんの存在を知ってるの?」って尋ねちゃった。
すると。
「もちろん、知っていますよ。ダーリンの本妻様ですもの。
本来なら、私は泥棒ネコって糾弾される立場ですから。」
意外にも、フルティカさんはあっけらかんと答えたよ。
だけど、クコさんを本妻だと思っているってことは、やっぱり、チャラ王子は自分の身分を偽っているのか…。
**********
「いやね、クコちゃんにはナイショなんだけど…。」
そんな前振りで話し始めるオベルジーネ王子。
「クコちゃんを養うために領地開拓に手を付けたのは良いけど…。
森の中で一人黙々と作業をしていると人恋しくなるじゃん。」
そんな訳で、このチャラ王子、森を抜けて直ぐの所にある町で宿を取ることにしたんだって。
その町とこの村の間には今でも道が無く、陸路を行くとぐるっと遠回りしてクコさんの村の方から来ることになるらしい。
そのため徒歩では二日ほど掛かるそうだけど、リュウキンカさんが一直線に飛ぶとあっという間に往復できるらしいの。
人恋しさを紛らわすためもあって、毎日その町から通いで領地の開拓をすることにしたんだって。
「その町でたった一軒の宿屋の娘がフルティカちゃんなんだ。
小さな宿場町だしぃ、宿と言っても色々とやっているんだぁ~。
一階じゃ、昼は飯屋、夜は酒場をしてるしぃ。
酒場にはお持ち帰りできるお姉さんもいるしねぇ。」
フルティカさんの故郷の街は王都と辺境を結ぶ重要な街道の宿場町らしく。
フルティカさんの実家は、昼食も夕食も取れて、部屋数も多いってことで、かなり繁盛している宿屋なんだって。
「そんな訳で、フルティカちゃんの実家を定宿にしたんだよ。
だけどさぁ、それまでずっとクコちゃんと一緒に寝てたじゃん。
やっぱ、一人寝は寂しい訳よ~。
だから一階の酒場からお姉さんをお持ち帰りすることにしたんだぁ~。
そこにいたのがレイカちゃん。
一目惚れしちゃって、思わず半年分前払いでキープしちゃったよ。」
どうやら、レイカさんは宿屋に併設された酒場で働いていたらしい。
この時点でフルティカさんとはまだ面識がなく、知り合ったのはレイカさんの方が先らしい。
しかし、お持ち帰りできるお姉さんって、初めて聞くけど給仕のお姉さんとは違うのかな?。
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