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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達
第764話 能あるにゃんこは爪を隠しているらしい…
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流されるがまま王宮で暮らし始めたクコさん。
オベルジーネ王子の部屋に住んで四ヶ月程すると、妙に酸っぱいモノが食べたくなり。
そして、不意に吐き気を催すことも増えたそうなの。
そんなある日、女医さんの定期健診があって…。
「あら、まあ、これは…。」
診察の最中に女医さんは言葉に詰まったそうなんだ。
「何か、悪い病気でも見つかったのでしょうか?」
女医さんの普通ではない様子に、体調が優れなかったクコさんは不安になったそうだよ。
「いいえ、悪い病気なんかではございません。
むしろ、とてもおめでたいことですよ。
クコさんのお腹に殿下の御子様が宿っているのですから。
ご懐妊おめでとうございます。」
「はいぃ?」
余りにも想定外の返答に、クコさんは問い直してしまったそうだよ。
「だって、私、その時、まだ十三ですよ。
もうすぐお母さんになるとか言われても…。
正直、想像もできませんでした。
確かに、身に覚えが無いかと問われたら…。
両手でも足りないくらい、覚えはあったのですが。」
顔を赤らめてオベルジーネ王子を見るクコさん。
十三と言えば今のおいらと同じ歳だし、確かに想像できないね。子供が子供を産むようなものだもん。
ペッタンコな自分の胸に視線を向け、おいらがそんなことを思っていると。
「ニャハハ、ボクちん、百発百中みたいだしぃ。」
赤面するクコさんに、そんなチャチャを入れたチャラ王子。
クコさんは、王子のその耳を引っ張って…。
「へぇー、百発百中ですか…。
旦那様は、何処で命中させておられたのでしょうか?
ロコト以来五年、私、一つも当たっていないのですが。」
と、問い詰めたんだ。
「痛い、痛い、単なる言葉の綾だって…。
そんな深い意味はないしぃ~。
今晩こそ当てて見せるから勘弁してちょ。」
クコさんは、弁明をするチャラ王子をジト目で睨み…。
「白々しい…。
まあ良いです、深くは追及しないでおきます。
た・だ・し…。
今晩は期待してますからね♡。」
怒っているのかと思いきや、そういってチャラ王子の胸に顔を埋めるクコさん。
ホント、この二人、他人目を気にせずいちゃつくんだね…。
「全く、このバカップルは…。
みんな、呆れるじゃない。」
そう呟いて、リュウキンカさんは呆れてたよ。
**********
クコさんの懐妊が告げられると、王様達がやって来たそうで…。
「聞いたぞ、オベルジーネ。
クコさんは孕ましたそうではないか。
分かっておるのか。
こうなるとクコさんの処遇を先送りする訳には参らんぞ。」
「お兄様、潔くクコさんを妃に迎えなさいまし。」
オベルジーネ王子に選択を迫る王様と、『妃』推しのペピーノ姉ちゃん。
そんな二人に対する王子の返答はというと。
「嫌だな~、クコちゃんを妃になんてしないよ~。
平民の娘さんが妃に何てなれる訳ないじゃん。」
それを聞いた王様は青筋を立てて、護身用の懐剣を抜いたんだって。
「そなた、やはり、散々弄んだ後で孕んだら捨てるつもりであったか。
権力を笠に着て平民の娘を弄ぶことは、先祖代々の家訓に背く行為であるぞ。
貴様のような、家の恥、即刻ちょん切ってくれる。」
「お兄様、最低ですわ!
平民を妃に出来ないと仰るなら、最初から手を出さなければ良いのに。
それに身分など、幾らでも誤魔化しが利きますわ。
私、弱みを握っている貴族家が幾つか御座います。
なんなら、そこの遠縁だと口裏を合わすように脅せますよ。」
剣を持って今にも斬り掛かろうとする王様とチャラ王子を非難するペピーノ姉ちゃん。
そんな二人を宥めるように、王子は言ったそうなの。
「ちょ、ちょい待ちっ、何でそうなるの~!
誰も責任を取らないなんて言って無いしぃ。
出自が悪いから妃に出来ないなんて言ってないっしょ。」
「嘘仰いませ。
お兄様、確かに言ったではございませんか。
『平民の娘さんが妃に何てなれる訳ないじゃん。』と。
そのおチャラけた口調で。」
「違うって。
平民育ちのクコちゃんが、妃なんて重圧に耐えられる訳無いじゃん。
『妃』ってのは仕事だよ~。それもかなりハードな。
そんな仕事を押し付けたら、クコちゃんが可哀想じゃん。」
オベルジーネ王子は言ったそうだよ。
王妃なんてものは、自分の娘を王に宛がおうと目論む上級貴族が幼少の頃から妃教育を施した娘がなるものだと。
それは、本人の資質以上に永年の洗脳により培われた覚悟が大切なんだと。
上級貴族が差し出してきた妃候補の中から、ハズレを引かないように一番能力がある者を妃に据えるのが万事丸く収まるって。
「ぶっちゃけ、妃なんて仕事はよっぽど面の皮の厚い娘じゃなきゃ務まんないよ~。
性格の穏やかなクコちゃんじゃ、絶対無理。妃なんかにしたら心を病んじゃうよ。」
クコさんと結婚してない理由を尋ねたら、チャラ王子は王族の結婚は仕事だからと言ってたけど。
チャラ王子なりのクコさんに対する思いやりだったんだ。
「あら、あら、この子は…。
お母さんをそんな風に見ていたのね。
面の皮が厚くて悪うございました。」
「痛い、痛い、ギブ、ギブ。」
その時、いつの間にか横に居た王妃様が、チャラ王子の頬を力いっぱい抓っていたそうだよ。
クコさん、言ってた。王妃様、目を細めて一見笑顔なのに激オコで、凄く怖かったって。
**********
「ふむ、では、そなたはクコさんの処遇をどうしようと考えておるのだ?
どこか離宮に囲うという手もあるが。
それではクコさんも、お腹の子供も一生飼い殺しとなるぞ。
その方が気の毒だと思うが。」
一見もっともそうなオベルジーネ王子の言葉を受けて王様が尋ねたそうなの。
「クコちゃん、正確にはクコちゃんのお腹の子には王家とは独立した家を興してもらうよ。
ボクちんが新しい領地を開拓して、そこの領主家としてね。
王侯貴族が婚外子に領地を分与して、領主にするのは認められているでしょう。」
ぶっちゃけ、お手付きで出来た子供に対し、慰謝料及び養育費として、領地と貴族位を与えるのはありなんだって。
その場合、分与を受けた子供一代に限り、『図書館の試練』は免除されているそうだよ。
実は今居る領地も、正確にはロコト君が領主で、クコさんは領主代行らしい。国王が幼少の時の摂政みたいなもんだって。
「そなた、本気か?
それは不埒な行いをした王侯貴族に対する免責規定のようなもので。
婚外子の父親自らが開拓した領地に限定されておるのだぞ。
新たに領地を築くことが、どれだけの資金と労力を要すると思っておるのだ。」
本来はちょん切って島流しにするところを、相手方に誠意を見せて赦してもらうという趣旨なんだって。
だから、懲役刑よろしく自分が汗水垂らして開発した領地でないといけないらしい。
「もちろん、分かっているしぃ。
ボクちん、言ったじゃない。
新しい領地を開拓して、クコちゃんのお腹の子に譲るって。
リュウキンカちゃん、預けてあったアレ出してちょ。」
オベルジーネ王子の指示で、リュウキンカさんが積載庫から出したのは銀貨がいっぱいに詰まった木箱だったらしい。
目の前に積まれた木箱を「ひぃ、ふぅ、みぃ…。」と王子は口に出して数えたそうで。
「十三個あった。これ、一箱でだいたい一万枚の銀貨が入るんだよね~。
これで資材と労賃くらいは出せるしぃ。
堀と土塁はボクちんが自分で造れるから、楽勝で出来るじゃん。」
王子は、あい変わらずのチャラい口調で自信満々に言ったらしい。
「銀貨十三万枚とな、そなた、こんな大金をどうやって工面したのだ。
まさか、国庫からくすねてきた訳では無かろうな。
横領罪となると、ナニではなく首をちょん切ることになるぞ。」
王様は、目の前のチャラ王子が悪事を働いたと端から決め付けていたらしい。
「ちょ、ちょ、なんで、ボクちんは悪者にするかな…。
これはボクちんが三年間コツコツと魔物狩りをして貯えたものだしぃ。
魔物の肉やら、毛皮やらを換金したんだよ~。」
それを聞いた王様は目を丸くしてたって。
「十を超えた頃から頻繁に王宮を抜け出しているのに気付いてはおったが。
まさか魔物狩りをしておったとは…。
儂はてっきり、女子の尻でも追っかけ回しているのかと思っておったぞ。」
「酷いな、父ちんは。
ボクちん、コツコツと地味な努力が出来る子だしぃ。
魔物狩りってお得じゃん。レベルも上がるし、お金にもなるしぃ。」
「ということは、そなた、そこそこレベルも上がっておるのか?」
「モチのロン。大分前にレベル十になったしぃ。
十五の誕生祝いにレベル十相当の生命の欠片が貰えれば十一になるはずだよ~。」
これには王様も驚いたんだって。
全ての貴族の子弟に対し、十五の誕生日を迎えた時に王室からレベル十相当の『生命の欠片』を下賜してるとは聞いてたけど。
怪我などしないようにとの配慮から、大概の貴族の子弟はそれを貰ってから始めて魔物狩りに挑むんだって。
十五の誕生日前に自力でレベル十を超えているなんて、代々騎士を務める家の子でもそうそうお目にかかれないみたい。
「儂は初めてそなたを見直したぞ…。
宮廷で若い侍女を見ると胸を揉んだり、尻を撫でたりと。
悪さばかりしおるで、育て方を間違えたかと思っておったら…。」
十三歳で宮廷侍女の胸を揉んだり、尻を撫でたりって…。そりゃ、育て方を間違えていると思うよ、おいらも。
「ふふふ、能あるにゃんこは爪を隠してるんだよ~。
もっと褒めても良いんだよ~。
そんな父ちんには良いものを上げるよ~。」
鷹の間違いだろうと思ったけど、チャラ王子的にはにゃんこらしい。爪を隠して媚びを売るにゃんこは若い女の子に可愛がられるってのがポイントらしい。
チャラ王子の意外と真面目な一面を垣間見て感無量となっている王様に、王子は一冊の帳面を差し出したそうなの。
それにパラパラと目を通した王様は、それが何なのか見当もつかなかったようで。
「これは何であるか?
なにやら、人名が羅列してあるが…。
何かの名簿であるか?」
「それ、違法な闇娼館の顧客リストだよ~。
クコちゃんを襲った連中を撲滅したら芋づる式に出てきたんだ~。
顧客に貴族も居るから、去勢、身分剥奪して島流しにしてちょ。」
オベルジーネ王子はクコさんを襲った三人組の亡骸を騎士団の詰め所に持ち込んだそうなの。
そこで三人組が懸賞金の掛けられたお尋ね者だと判明して、懸賞金を貰ったんだって。
更に、そいつらが街道を荒らしている盗賊団の構成員だと知らされたそうで。
クコさんを襲ったことへの報復として、チャラ王子はその盗賊団のアジトを襲撃したらしい。
「可愛い女の子は社会の宝じゃん。
可愛い女の子に狼藉を働くような連中を野放しには出来ないからね~。」
なんて、チャラ王子は言ってたけど。
リュウキンカさんに協力してもって、王都周辺を空から隈なく探してアジトを見つけたんだって。
クコさんを保護した翌日から始めて三日掛かりで探し出したそうだよ。
「でさ、賊は一網打尽にしたんだけどさぁ~。
連中を締め上げたらゲロったんだ。
若い娘さんを襲っては、自分達が楽しんだ後に娼館に売り飛ばしてたって。
そこが王都の裏社会で変態客を相手にしてる違法な娼館らしくてね。
そんなことを聞かされたら、放って置けないじゃん。」
行き掛けの駄賃だと思って、帰り道に即行で娼館を潰しに行ったんだって。
娼館を経営している連中を捕えて、拉致されてる娘さん達を開放した訳だけど。
その時、娼館に残されていたのが、その顧客名簿だったそうなの。
王子がパラパラと中を見ると、素行不良で有名な貴族の名前が幾つか目に付いたので持って来たらしい。
捕らえた盗賊、娼館の連中と一緒に騎士団の詰め所に託そうかとも考えたらしいけど。
何処かで揉み消されると癪なので、直接王様に手渡すことにしたんだって。
「ダメだよね。
相手は拉致されて無理やり客を取らされてる娘さんだしぃ。
そんな気の毒な娘さんに変態プレイを要求するなんて、貴族の風上にも置けないじゃん。
それこそちょん切って島流しにしないと。」
チャラ王子の目論見通り、顧客名簿にあった不貞貴族達は去勢されて島流しに処されたらしいよ。
因みにこの時、チャラ王子は盗賊団に掛けられた多額の報奨金に加え、盗賊団が貯め込んでいた金銀財宝も手に入れたそうなの。
それらを元手に、オベルジーネ王子はクコさんの領地開発に着手したんだって。
オベルジーネ王子の部屋に住んで四ヶ月程すると、妙に酸っぱいモノが食べたくなり。
そして、不意に吐き気を催すことも増えたそうなの。
そんなある日、女医さんの定期健診があって…。
「あら、まあ、これは…。」
診察の最中に女医さんは言葉に詰まったそうなんだ。
「何か、悪い病気でも見つかったのでしょうか?」
女医さんの普通ではない様子に、体調が優れなかったクコさんは不安になったそうだよ。
「いいえ、悪い病気なんかではございません。
むしろ、とてもおめでたいことですよ。
クコさんのお腹に殿下の御子様が宿っているのですから。
ご懐妊おめでとうございます。」
「はいぃ?」
余りにも想定外の返答に、クコさんは問い直してしまったそうだよ。
「だって、私、その時、まだ十三ですよ。
もうすぐお母さんになるとか言われても…。
正直、想像もできませんでした。
確かに、身に覚えが無いかと問われたら…。
両手でも足りないくらい、覚えはあったのですが。」
顔を赤らめてオベルジーネ王子を見るクコさん。
十三と言えば今のおいらと同じ歳だし、確かに想像できないね。子供が子供を産むようなものだもん。
ペッタンコな自分の胸に視線を向け、おいらがそんなことを思っていると。
「ニャハハ、ボクちん、百発百中みたいだしぃ。」
赤面するクコさんに、そんなチャチャを入れたチャラ王子。
クコさんは、王子のその耳を引っ張って…。
「へぇー、百発百中ですか…。
旦那様は、何処で命中させておられたのでしょうか?
ロコト以来五年、私、一つも当たっていないのですが。」
と、問い詰めたんだ。
「痛い、痛い、単なる言葉の綾だって…。
そんな深い意味はないしぃ~。
今晩こそ当てて見せるから勘弁してちょ。」
クコさんは、弁明をするチャラ王子をジト目で睨み…。
「白々しい…。
まあ良いです、深くは追及しないでおきます。
た・だ・し…。
今晩は期待してますからね♡。」
怒っているのかと思いきや、そういってチャラ王子の胸に顔を埋めるクコさん。
ホント、この二人、他人目を気にせずいちゃつくんだね…。
「全く、このバカップルは…。
みんな、呆れるじゃない。」
そう呟いて、リュウキンカさんは呆れてたよ。
**********
クコさんの懐妊が告げられると、王様達がやって来たそうで…。
「聞いたぞ、オベルジーネ。
クコさんは孕ましたそうではないか。
分かっておるのか。
こうなるとクコさんの処遇を先送りする訳には参らんぞ。」
「お兄様、潔くクコさんを妃に迎えなさいまし。」
オベルジーネ王子に選択を迫る王様と、『妃』推しのペピーノ姉ちゃん。
そんな二人に対する王子の返答はというと。
「嫌だな~、クコちゃんを妃になんてしないよ~。
平民の娘さんが妃に何てなれる訳ないじゃん。」
それを聞いた王様は青筋を立てて、護身用の懐剣を抜いたんだって。
「そなた、やはり、散々弄んだ後で孕んだら捨てるつもりであったか。
権力を笠に着て平民の娘を弄ぶことは、先祖代々の家訓に背く行為であるぞ。
貴様のような、家の恥、即刻ちょん切ってくれる。」
「お兄様、最低ですわ!
平民を妃に出来ないと仰るなら、最初から手を出さなければ良いのに。
それに身分など、幾らでも誤魔化しが利きますわ。
私、弱みを握っている貴族家が幾つか御座います。
なんなら、そこの遠縁だと口裏を合わすように脅せますよ。」
剣を持って今にも斬り掛かろうとする王様とチャラ王子を非難するペピーノ姉ちゃん。
そんな二人を宥めるように、王子は言ったそうなの。
「ちょ、ちょい待ちっ、何でそうなるの~!
誰も責任を取らないなんて言って無いしぃ。
出自が悪いから妃に出来ないなんて言ってないっしょ。」
「嘘仰いませ。
お兄様、確かに言ったではございませんか。
『平民の娘さんが妃に何てなれる訳ないじゃん。』と。
そのおチャラけた口調で。」
「違うって。
平民育ちのクコちゃんが、妃なんて重圧に耐えられる訳無いじゃん。
『妃』ってのは仕事だよ~。それもかなりハードな。
そんな仕事を押し付けたら、クコちゃんが可哀想じゃん。」
オベルジーネ王子は言ったそうだよ。
王妃なんてものは、自分の娘を王に宛がおうと目論む上級貴族が幼少の頃から妃教育を施した娘がなるものだと。
それは、本人の資質以上に永年の洗脳により培われた覚悟が大切なんだと。
上級貴族が差し出してきた妃候補の中から、ハズレを引かないように一番能力がある者を妃に据えるのが万事丸く収まるって。
「ぶっちゃけ、妃なんて仕事はよっぽど面の皮の厚い娘じゃなきゃ務まんないよ~。
性格の穏やかなクコちゃんじゃ、絶対無理。妃なんかにしたら心を病んじゃうよ。」
クコさんと結婚してない理由を尋ねたら、チャラ王子は王族の結婚は仕事だからと言ってたけど。
チャラ王子なりのクコさんに対する思いやりだったんだ。
「あら、あら、この子は…。
お母さんをそんな風に見ていたのね。
面の皮が厚くて悪うございました。」
「痛い、痛い、ギブ、ギブ。」
その時、いつの間にか横に居た王妃様が、チャラ王子の頬を力いっぱい抓っていたそうだよ。
クコさん、言ってた。王妃様、目を細めて一見笑顔なのに激オコで、凄く怖かったって。
**********
「ふむ、では、そなたはクコさんの処遇をどうしようと考えておるのだ?
どこか離宮に囲うという手もあるが。
それではクコさんも、お腹の子供も一生飼い殺しとなるぞ。
その方が気の毒だと思うが。」
一見もっともそうなオベルジーネ王子の言葉を受けて王様が尋ねたそうなの。
「クコちゃん、正確にはクコちゃんのお腹の子には王家とは独立した家を興してもらうよ。
ボクちんが新しい領地を開拓して、そこの領主家としてね。
王侯貴族が婚外子に領地を分与して、領主にするのは認められているでしょう。」
ぶっちゃけ、お手付きで出来た子供に対し、慰謝料及び養育費として、領地と貴族位を与えるのはありなんだって。
その場合、分与を受けた子供一代に限り、『図書館の試練』は免除されているそうだよ。
実は今居る領地も、正確にはロコト君が領主で、クコさんは領主代行らしい。国王が幼少の時の摂政みたいなもんだって。
「そなた、本気か?
それは不埒な行いをした王侯貴族に対する免責規定のようなもので。
婚外子の父親自らが開拓した領地に限定されておるのだぞ。
新たに領地を築くことが、どれだけの資金と労力を要すると思っておるのだ。」
本来はちょん切って島流しにするところを、相手方に誠意を見せて赦してもらうという趣旨なんだって。
だから、懲役刑よろしく自分が汗水垂らして開発した領地でないといけないらしい。
「もちろん、分かっているしぃ。
ボクちん、言ったじゃない。
新しい領地を開拓して、クコちゃんのお腹の子に譲るって。
リュウキンカちゃん、預けてあったアレ出してちょ。」
オベルジーネ王子の指示で、リュウキンカさんが積載庫から出したのは銀貨がいっぱいに詰まった木箱だったらしい。
目の前に積まれた木箱を「ひぃ、ふぅ、みぃ…。」と王子は口に出して数えたそうで。
「十三個あった。これ、一箱でだいたい一万枚の銀貨が入るんだよね~。
これで資材と労賃くらいは出せるしぃ。
堀と土塁はボクちんが自分で造れるから、楽勝で出来るじゃん。」
王子は、あい変わらずのチャラい口調で自信満々に言ったらしい。
「銀貨十三万枚とな、そなた、こんな大金をどうやって工面したのだ。
まさか、国庫からくすねてきた訳では無かろうな。
横領罪となると、ナニではなく首をちょん切ることになるぞ。」
王様は、目の前のチャラ王子が悪事を働いたと端から決め付けていたらしい。
「ちょ、ちょ、なんで、ボクちんは悪者にするかな…。
これはボクちんが三年間コツコツと魔物狩りをして貯えたものだしぃ。
魔物の肉やら、毛皮やらを換金したんだよ~。」
それを聞いた王様は目を丸くしてたって。
「十を超えた頃から頻繁に王宮を抜け出しているのに気付いてはおったが。
まさか魔物狩りをしておったとは…。
儂はてっきり、女子の尻でも追っかけ回しているのかと思っておったぞ。」
「酷いな、父ちんは。
ボクちん、コツコツと地味な努力が出来る子だしぃ。
魔物狩りってお得じゃん。レベルも上がるし、お金にもなるしぃ。」
「ということは、そなた、そこそこレベルも上がっておるのか?」
「モチのロン。大分前にレベル十になったしぃ。
十五の誕生祝いにレベル十相当の生命の欠片が貰えれば十一になるはずだよ~。」
これには王様も驚いたんだって。
全ての貴族の子弟に対し、十五の誕生日を迎えた時に王室からレベル十相当の『生命の欠片』を下賜してるとは聞いてたけど。
怪我などしないようにとの配慮から、大概の貴族の子弟はそれを貰ってから始めて魔物狩りに挑むんだって。
十五の誕生日前に自力でレベル十を超えているなんて、代々騎士を務める家の子でもそうそうお目にかかれないみたい。
「儂は初めてそなたを見直したぞ…。
宮廷で若い侍女を見ると胸を揉んだり、尻を撫でたりと。
悪さばかりしおるで、育て方を間違えたかと思っておったら…。」
十三歳で宮廷侍女の胸を揉んだり、尻を撫でたりって…。そりゃ、育て方を間違えていると思うよ、おいらも。
「ふふふ、能あるにゃんこは爪を隠してるんだよ~。
もっと褒めても良いんだよ~。
そんな父ちんには良いものを上げるよ~。」
鷹の間違いだろうと思ったけど、チャラ王子的にはにゃんこらしい。爪を隠して媚びを売るにゃんこは若い女の子に可愛がられるってのがポイントらしい。
チャラ王子の意外と真面目な一面を垣間見て感無量となっている王様に、王子は一冊の帳面を差し出したそうなの。
それにパラパラと目を通した王様は、それが何なのか見当もつかなかったようで。
「これは何であるか?
なにやら、人名が羅列してあるが…。
何かの名簿であるか?」
「それ、違法な闇娼館の顧客リストだよ~。
クコちゃんを襲った連中を撲滅したら芋づる式に出てきたんだ~。
顧客に貴族も居るから、去勢、身分剥奪して島流しにしてちょ。」
オベルジーネ王子はクコさんを襲った三人組の亡骸を騎士団の詰め所に持ち込んだそうなの。
そこで三人組が懸賞金の掛けられたお尋ね者だと判明して、懸賞金を貰ったんだって。
更に、そいつらが街道を荒らしている盗賊団の構成員だと知らされたそうで。
クコさんを襲ったことへの報復として、チャラ王子はその盗賊団のアジトを襲撃したらしい。
「可愛い女の子は社会の宝じゃん。
可愛い女の子に狼藉を働くような連中を野放しには出来ないからね~。」
なんて、チャラ王子は言ってたけど。
リュウキンカさんに協力してもって、王都周辺を空から隈なく探してアジトを見つけたんだって。
クコさんを保護した翌日から始めて三日掛かりで探し出したそうだよ。
「でさ、賊は一網打尽にしたんだけどさぁ~。
連中を締め上げたらゲロったんだ。
若い娘さんを襲っては、自分達が楽しんだ後に娼館に売り飛ばしてたって。
そこが王都の裏社会で変態客を相手にしてる違法な娼館らしくてね。
そんなことを聞かされたら、放って置けないじゃん。」
行き掛けの駄賃だと思って、帰り道に即行で娼館を潰しに行ったんだって。
娼館を経営している連中を捕えて、拉致されてる娘さん達を開放した訳だけど。
その時、娼館に残されていたのが、その顧客名簿だったそうなの。
王子がパラパラと中を見ると、素行不良で有名な貴族の名前が幾つか目に付いたので持って来たらしい。
捕らえた盗賊、娼館の連中と一緒に騎士団の詰め所に託そうかとも考えたらしいけど。
何処かで揉み消されると癪なので、直接王様に手渡すことにしたんだって。
「ダメだよね。
相手は拉致されて無理やり客を取らされてる娘さんだしぃ。
そんな気の毒な娘さんに変態プレイを要求するなんて、貴族の風上にも置けないじゃん。
それこそちょん切って島流しにしないと。」
チャラ王子の目論見通り、顧客名簿にあった不貞貴族達は去勢されて島流しに処されたらしいよ。
因みにこの時、チャラ王子は盗賊団に掛けられた多額の報奨金に加え、盗賊団が貯め込んでいた金銀財宝も手に入れたそうなの。
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更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
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帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
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しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
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