ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
763 / 848
第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第763話 そのさりげない気遣いにキュンときたらしい…

しおりを挟む
 その日、クコさんは流されるままオベルジーネ王子の部屋に泊まることになったんだって。
 幸いにして、王子のベッドは庶民が使うそれの優に三倍はある大きなサイズだったらしく。
 クコさんはなるべく王子から離れたベッドの隅で横になったそうなの。

「寝室の灯りが消され、部屋が暗くなると。
 突然恐怖心が襲って来たのです。
 どうやら、闇が暴漢に襲われた恐怖を想起させるようで…。」

 街道の暗闇で暴漢に襲われたから、闇=怖いモノと頭が認識してしまったのだろうとクコさんは言ってたよ。
 湧き上がる恐怖心のため、クコさんは体を強張らせてブルブルと震えてしまったらしい。

 ベッドの隅で恐怖に身を震わせているクコさんに対して。

「可哀想に、本当に怖かったんだね。
 ほら、こっちにおいで、僕が護ってあげるから。」

 王子が優しく抱き寄せてくれたそうだよ。

「その時の旦那様の腕の中はとても温かくて…。
 頭や背中を優しく撫でられるととても安心出来ました。
 この方の胸に抱かれていれば、何も怖れるものは無いと。」

 クコさんが寝付くまでオベルジーネ王子はとても優しくしてくれたそうでね。
 その晩、それから先は夢心地となってしまい、何がどうなったのか良く覚えていないそうだよ。

 クコさんは、王子の腕の中で熟睡してしまったそうで、翌朝、寝室の扉が開く音で目が覚めたらしい。

「翌朝は、つい寝過ごしてしまったんです。
 よく眠れたはずなのに、何故かとても疲れていて…。
 目覚めた時も、気だるくてボウッとしていました。
 すると、突然、布団が剥ぎ取られて…。」

 それで、ハッキリと覚醒したらしいよ。いったい何事かと。
 気付くとペピーノ姉ちゃんが、クコさん達が使っていた掛け布団を手にしていたんだって。

 そのペピーノ姉ちゃんは細い目をいっそう細めて、嬉しそうに言ったそうなの。

「まあ、お兄様ったら、期待を裏切りませんこと。
 早速、お召し上がりになられたようですね。」

 …と。

 ペピーノ姉ちゃんの視線は、赤く染まったシーツに向けられていたそうだよ。
 その時、ペピーノ姉ちゃんと一緒に居たのは、三人の男女だったらしい。

 最初に口を開いたは、三十代半ばのペピーノ姉ちゃんによく似た目の細いご婦人で。

「あら、あら、この子ったら…。
 私、この若さでお祖母ちゃんと呼ばれちゃうのかしら。」

 穏やかな笑みを湛えてそんな呟きをもらすと、今度は隣にいた紳士が。

「先ずは、事実関係を確認せねばいかんな。
 女医殿、そちらの娘さんを診てはくださらぬか?」

 白い割烹着のような物を身に着けた初老の女性に向かって指示を出したんだって。
 女医殿と呼ばれる女性は丁重に、だけど有無を言わせず、クコさんを寝室の奥にある小部屋に連れて行ったらしい。
 そこは部屋付きの侍女が寝泊まりする部屋とのことで、簡素なベッドが一つだけ置かれていたそうだよ。
 ベッドに横にされたクコさんは、他人様ひとさまには言えないような診察をされたらしい。

        **********

 今思い出しても赤面してしまう診察を終えて、元居た寝室に戻ると。
 女医さん、何を思ったか、オベルジーネ王子のズボンとパンツを強引に剥ぎ取ったらしい。
 パンツの裏側と王子の股間を、僅かな埃すら見落とさないって様子でじっくりと観察していたそうなの。

 そして…。

「陛下、ご報告いたします。
 シーツの染みはこのお嬢様の破瓜の血に間違いござません。
 注ぎ込まれた子種の存在も確認致しました。
 また殿下にも、その痕跡が御座います。
 お二方がそのようなご関係になられたのはほぼ確実かと。」

 女医さんは陛下と呼ぶ紳士に向けて報告したそうだよ。
 クコさん、初めての睦事を暴露された恥かしさの余り、顔から火が噴き出しそうだったって…。
 そのため、『陛下』とか『殿下』という尊称が何を示すものかに頭が回らなかったみたい。

「ふむ、そうか…。」

 報告を受けた紳士はその一言だけ呟くと、何か思索に耽ってしまったらしいけど。

「あら、良いではございませんか。
 ペピーノちゃんもお気に入りのようですし、うちの娘になって貰えば。」

 奥様と思しきご婦人は何やら不穏なことを言い出したそうなの。
 しかも。

「お母様、それ、とても素敵ですわ。
 私も大賛成です。
 クコちゃんとなら、きっと私も仲の良い姉妹になれますわ。」

 ペピーノ姉ちゃんもメチャクチャ乗り気で、クコさんの意思など置き去りにして話が進みそうな雰囲気だったらしいよ。
 そんな時、盛り上がる母子を後目に、なにやら思索に耽っていた紳士が口を開いたんだって。

「オベルジーネよ。そなた、自分が何を仕出かしたのは理解しておるのだろうな。
 王侯貴族が特権的地位を笠に着て、平民の娘に関係を強いるのは重罪であるぞ。
 その刑罰に例外は無く、去勢した後、身分を剥奪して孤島への島流しとなるが。
 そなた、覚悟は出来ているのであろうな。」

 開口一番、オベルジーネ王子を糾弾したそうなの。

「ちょ、ちょ、何で、ボクちんが無理強いしたって決め付けてんの。
 ボクちん、そんな横暴はしてないしぃ。」

 チャラ王子は必死になって自己弁護していたんだって。
 こいつ、本当に身内から信用されてないんだな…。

「うちのバカ息子はこう言っておるが。
 娘さん、本当のところはどうなのだ。
 暴漢に襲われているところをこ奴に救われたそうだが。
 それを恩に着せて、無理やり関係を迫ったのではないか?」

 チャラ王子の弁明を聞いた父親らしき紳士は、クコさんに確認して来たそうだよ。

「いいえ、決してそんなことございません。
 無理強いなどされていませんし。
 とても優しくして戴き、幸せな気持ちで満たされています。」

 クコさんの答えを聞いた紳士は満足そうに頷き。

「ふむ、双方合意の下であったと言うことか。
 では、そなたはこれからどうするつもりであるか?
 この娘さんを妃に迎え入れるつもりであるか?」

 オベルジーネ王子にそう尋ねたそうなの。
 このセリフを聞いて、クコさんは初めて事の重大さに気付いたそうだよ。『妃』なんて聞き慣れないフレーズがあったから。
 と同時に、目の前の紳士がどんな立場の方なのか、やっと気付いたそうだよ。

「お兄様、そうしなさいませ。
 クコちゃんは絶対にお買い得です。」

 そんな動揺するクコさんのことなどお構いなしに、ペピーノ姉ちゃんは王子に嫁取りを勧めたらしい。
 とんでもない方向へ話が転がり始めちゃったものだから、何とかしないと拙いとクコさんが焦っていると。

「父上、それにペピーノも、少し落ち着いてちょ。
 クコちゃんが混乱しているじゃん。
 ボクちん、自己紹介してないしぃ。
 クコちゃん、多分ここが何処かも分かって無いよ~。」

 上手いタイミングでオベルジーネ王子が二人を落ち着かせてくれたんだって。 

「さては、そなた、身分を明かさずに、娘さんをもてあそんで。
 飽きたらポイ捨てするつもりであったか。
 我が息子ながら、見下げ果てた外道であるな。」

 その時、父上と呼ばれた紳士は軽蔑の眼で王子を見ていたらしい。
 こいつ、どんだけ身内から信頼されてないんだよ…。

「酷っ、みんな、ボクちんに対する評価低過ぎない?
 何で、ボクちんを悪者扱いするの。
 クコちゃん、昨日、暴漢に襲われて怯えていたんだよ~。
 そんなクコちゃんに、更に緊張を強いるなんて出来ないでしょう。
 ボクちんが王族で、ここが王宮だと知ったらリラックスできないじゃん。」

 オベルジーネ王子は主張したの。
 そもそも最初に王族と明かしたら、クコさんは是が非でも半裸に近い状態で家に帰ろうとしただろうって。
 確かにチャラ王子の言葉にも一理あると思うよ。王族から怪我の治療と服を用意すると言われても、普通は躊躇するもん。ホイホイと付いてくる胆の太い人はそうそう居ないよね。
 更に王宮に着いた後も、暴漢に襲われて強張っているクコさんに少しでも寛いでくつろいでもらうために、敢えて場所と身分を明かさなかったと弁明してたんだ。

 チャラ王子なりに、クコさんに対する気遣いを色々としてたんだね。
 その時、クコさんは王子の自分に対する配慮を知って、とても心が温かくなったそうだよ。キュンときちゃったって。

        **********

 オベルジーネ王子の弁明に、その場に居た大人達は一応納得したようで。
 ここで初めて、クコさんはオベルジーネ王子を含めてその場に居た人達を紹介してもらったそうだよ。

 そして、王様は言ったらしい。

「して、クコさんや。ペピーノから話は聞いている。
 毎日、図書館へ通っており、その帰りに襲われたそうじゃの。
 ペピーノはそなたを甚く気に入ったようで。
 ここに滞在させ、図書館へ通わせるよう望んでおる。
 儂としても是非は無い故、ここに留まりペピーノと共に図書館へ通うと良い。
 ご両親には、王宮から連絡しておくので心配せずとも良いぞ。」

 前の晩はそこが王宮と知らなかったので、ペピーノ姉ちゃんに押し切られる形で承諾してしまったけど。
 流石に、王宮は敷居が高いと感じたらしく、クコさんは無礼にならないよう遠回しに辞退しようとしたらしいの。
 それにこれ以上、話しが変な方向に転がったら拙いと…。

 クコさんはなるべく丁重にお断りしたつもりだったそうだけど、王様は渋い顔をみせると。

「申し訳ないが、そう言う訳にもいかんのだ。
 クコさんの中にオベルジーネの種があるからのう。
 下手に王宮から外に出すとややこしい話しになりかねん。
 しばらくはオベルジーネ以外の男性との接触は避けてもらうことになるし。
 外出の際は監視も兼ねて侍女が一人付くことになるが、それも辛抱してもらえるか。
 まあ、何年ここに滞在してもかまわんから、気の済むまで学ぶと良い。
 そうそう、その間、オベルジーネと今後のことも相談すると良いぞ。」
 
 クコさんのお腹に視線を向けてそう告げたらしいの。
 その時、クコさんは悟ったらしいよ。「どうやら、自分に拒否権は無いらしい。」と。
 結局、クコさんは王宮に滞在するとになったんだって。
 朝、ペピーノ姉ちゃんと共に馬車で図書館へ行き、夕方迎えの馬車で王宮に戻ってからは夕食までペピーノ姉ちゃんの話し相手になる。そんな生活が始まったらしい。
 衣食住、すべて王宮が負担してくれる上に、ペンとノートまで支給されると言う破格の待遇だったそうだよ。

 唯、想定外だったことが幾つかあったそうで…、
 何故か最初の約束にあった部屋が用意されることは無く、そのままオベルジーネ王子の部屋に滞在することになったこと。
 それから、女医さんの恥ずかしい健診を定期的に受けることになったこと。

 そして極めつけは…。

「そうこうしている間に、ロコトが出来ちゃったんです。」

 恥じらいを見せつつ、クコさんがそんなことを言ったんだ。

「何が想定外よ!
 することしてるんだから、出来るに決まっているでしょう!」 
 
 リュウキンカさんが、すかさずそこにツッコミを入れてたよ。

 なんだって…。
  
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...