ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
761 / 848
第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第761話 こうして二人の出会ったんだって

しおりを挟む
 クコさんは、書物を読み耽る幼女として図書館を利用する人達の間では顔の知れた存在だったらしい。

「ボクちんが十歳の頃だったかな。
 算術の問題に頭を悩ませていたんだよ~。
 そしたらね。」

 と言って、クコさんに視線を向けるオベルジーネ王子。

「あら、旦那様、良くそんな幼い日のこと覚えておられましたね。
 あの時、偶々隣に座っていた私に声を掛けて下さったのですよね。
 『ねえ、ねえ、可愛いお嬢ちゃん、これ解る~?』って。」

 このチャラ王子のことだし、どうせクコさんに粉を掛ける口実に利用しただけだろうに…。

「忘れる訳ないじゃん。
 あれがクコちゃんと交わした記念すべき最初の会話だしぃ。
 でも、あの時はボクちん、目が点になったよ~。」

「うん? 何かあったの?」

「だってさぁ、あの時はクコちゃんと仲良くなりたかっただけでぇ。
 答えなんて期待してなかったんだぁ~。」

 思った通りだ、やっぱり、ナンパの口実に使っただけなんだね。
 十歳にして、早、そんなロクでもないことを…。

「そしたら、クコちゃんったら、ちっとも難渋する様子が無くてね。
 いとも簡単に解いたんだ、淀みなくスラスラと。
 ホント、目が点になったね。
 ボクちん、幾ら考えても分からなかったのに…。」

 因みに、その前日、王子は妹ペピーノ王女に教えを乞うたらしいのだけど。
 いきなり答えを出された挙げ句、「問題を読めば即座にわかるでしょう。」で説明の一言も無かったそうなの。
 王子はその時思ったそうだよ、「こいつ、人に物を教える才能は無いな。」って。
 一方で、クコさんは解答へ至る過程を丁寧に紙に書き示し、とても分かり易く解説したみたい。

「ボクちん、ペピーノみたいな天才肌じゃないけど…。
 それなりに出来る子だと思ってたんだぁ~。
 まさか、歳下の女の子に教えられることになるなんてビックリだったよ。」

 こいつ、自分に解けない問題をクコさんが解ける訳ないと思ってたんだって。
 算術の問題はクコさんに話し掛ける口実に過ぎなかったのに、物の見事に解答されて仰天したそうだよ。

「その時、尋ねたんでクコちゃんの名前は憶えてたんだ~。」

「そう、あの時、私の名前は尋ねた癖に。
 旦那様は名前も教えて下さらなかったのです。
 だから、旦那様がどのような方かは知りませんでしたし。
 身形が良いので、貴族様だとは思っていましたが…。」

 クコさんは、今後関りになることも無いだろうと思い、名を尋ねもしなかったんだって。
 実際、それからクコさんが暴漢に襲われた日までの数年間、言葉を交わす機会は無かったみたい。

       **********

 その日、暴漢を退治したオベルジーネ王子はと言うと。

「あれ、誰かと思えばクコちゃんじゃない。
 こんな連中に襲われて災難だったね~。」

 草むらから身を起こしたクコさんに気付いて、そんな声を掛けたそうだよ。

「まさか、私の名前を憶えているとは思いませんでした。
 三年も前に、たった一度だけお話をしただけなのに。」

 クコさんが図書館で目にする王子は常に女の子に囲まれていたそうで。
 その女の子達は、皆貴族と思しき身形の良い子ばかりだったこともあり。
 まさか、下々の自分まで名前を憶えているとは想像もしなかったみたいなの。
 助けてもらっただけでも嬉しいのに、そのことで好感度が赤マル急上昇だったって。

「それが、ボクちんの唯一無二の特技だしぃ。
 可愛い女の子の名前と顔は、一度会ったら忘れないんだぁ。」

 オベルジーネ王子が助けた時のクコさんだけど、暴漢に服を引き裂かれて殆ど裸に近い格好だったらしい。
 クコさんの姿をマジマジと凝視していたオベルジーネ王子が発した言葉は…。

「ボクちん、クコちゃんの大事なモノは護れたかな?
 それとも、手遅れだった?」

 などという、デリカシーに欠ける言葉だったそうなの。
 でも、危機が去って安心したためか、王子の言葉がどことなく可笑しくて笑ってしまったんだって。
 クコさんは間一髪だったけど大事には至らなかったと返答し、王子にお礼を言ったんだって。
 そして、村へ帰ろうとしたらしいけど…。

「ダメ、ダメ、そんな格好で帰ったらご両親が心配しちゃうよ~。
 それ以前に、村に帰り着くまでに別の男に襲われるって。
 それにあっちこっち傷だらけじゃん。
 ちゃんと治療しないと~、傷口が化膿したら大変だしぃ。」
 
 王子はそんなもっともらしい理由を付けて、怪我の治療と着替えの用意をするから家に寄って行けと誘ったらしい。
 最初、クコさんは遠慮して王子のお誘いを丁重に断ったみたい。これ以上、お貴族様にご迷惑をお掛けするなど畏れ多いって。
 それを王子と一緒に居たリュウキンカさんが説得したみたい。
 年頃の娘が裸同然の格好で夜道を歩くのは危険過ぎるから、ここは好意に甘えておけって。
 
 でも、その時はリュウキンカさんの『積載庫』の存在を知らない訳で…。
 クコさんは思ったらしいよ。この格好で王都の街中を歩く方が恥ずかしいと。
 それこそお嫁に行けなくなっちゃうと、王子やリュウキンカさんの誘いを受けるのを躊躇したそうだよ。
  
        **********

「結局、リュウキンカ様の不思議な空間のことを教えて戴き。
 それに乗せて下さるとのことでしたので。
 ご好意に甘えることにしたのですが…。」

 おいら達が王宮を訪問した時と同様、リュウキンカさんは直接オベルジーネ王子の私室へ行ったらしい。
 いきなり豪華絢爛な降ろされたクコさんは、とても場違いな所に来てしまったと思ったみたい。
 貴族という生き物はとっても煌びやか所に住んでいるのだなと感心したそうだけど、ここが王宮だとは流石に想像もしなかったって。

「部屋に着くと。
 旦那様は侍女を呼んで着替えと湯浴みの用意を命じていました。」

「そうそう、あの時のクコちゃん、あちこち泥だらけで。
 傷口もかなり汚れていたからね。
 先ずは清潔にしないといけないと思ったんだ。」

 服を無理やり剥ぎ取られて地面に押し倒されたものだから、あちこち土で汚れてたらしいの。
 この会話を聞いた時、チャラ王子にしてはとても良い心遣いだと感心したんだけど…。

「そして、湯浴みの支度が整うと侍女を退室させて…。
 旦那様自ら私が湯浴みするお世話をしてくださったのです。」

「ちょっと待った!それ、おかしいでしょう!」

 クコさんの回想を耳にして、アルトがすかさず突込みを入れてたよ。

「ですよね。私も言ったのです。
 お貴族様に体を洗わせるなんて畏れ多いと。」

「違うでしょう!
 あなた、年頃の娘だったのでしょう。
 そこは気を利かせて、侍女に世話をさせるのが普通でしょう。」

 クコさんの的外れな言葉に、アルトは再度ツッコミを入れたよ。
 おいら、普段からオランや父ちゃんと一緒にお風呂に入っているけど…。
 見知らぬ同年代の男の子と一緒にお風呂に入るのは、流石にハードルが高いよね。

「やっぱり、おぬし、クコ殿を手籠めにしようと部屋に連れ込んだのじゃろう。
 恩を笠に着て、クコ殿が嫌と言えないようにしたに違いないのじゃ。
 おぬし、贔屓目に観ても最低の男なのじゃ。」

 オランはチャラ王子に向かって、珍しく辛辣な言葉を吐いていたよ。

「嫌だな、オランちゃん、それは誤解だよ。
 傷の手当てをするために必要だったんだよ~。
 何処に傷があるか調べないといけないじゃん。
 特に、大切なところが傷付いていたらいけないしぃ。
 奥の奥まで念入りに確かめないとね~。」

 チャラ王子は自分のしたことを正当化しようとしたのだけど…。

「このド変態! マロンの前で何てこと言ってんのよ!」 

 王子は特段間違ったことは言って無いと、おいらには思えたけど。
 アルトは何処か気に障ったみたいで、烈火の如く怒っていたよ。

 そんなアルトの怒りをよそに…。
  
「あの時の旦那様は、傷が無いか体の隅々まで入念に診ておられました。
 そして、とても丁寧に、優しく体を洗い流してくださったのです。
 その時の私は、旦那様の慈悲深いお人柄に感激していました。
 私のような下々の者にも気遣いしてくださるのですから。」

 その時のことを思い出したのか、クコさんは頬を赤らめて言ってたよ。
 クコさん、チャラ王子に優しく介抱してもらい、心をときめかせたんだって。

 だけど、クコさんの言葉には続きがあったの。

「と、その時の私は思っていたのです。
 思えば、あの頃の私は何も知らない初心うぶな小娘でしたから。」

 そう言ってチャラ王子をジト目で見たクコさん。

「クコちゃん、何かな、その目は?」

「でも、今なら分かりますよ、旦那様。
 あの時、とても邪な気持ちになっていらしたでしょう?」

「そんな事ないよ~。
 あの時は、クコちゃんのことを心から心配していたしぃ。」

 さらりとクコさんの言葉を否定するチャラ王子。
 クコさんはそんな王子の耳を摘まんで。

「嘘仰いませ。
 でしたら、何故、あんなところをマジマジ観察する必要があったのでしょう?
 あんなところに傷がある訳無いじゃないですか。」

「痛い、痛い…。
 そのくらいの役得があっても良いじゃん。
 ボクちんだって、そういうことに興味津々なお年頃だったんだしぃ。」

 耳を捻り上げられたチャラ王子は本音を暴露してたよ。

「そういうこと?」

「マロンは解らなくても良いわ。
 至ってしょうもないことよ。」

 アルトはチャラ王子を眺めて呆れてたよ。
 そういうことがどんなことかは知らないけど…。
 どうやら、その時のチャラ王子は下心満載だったみたいだね。 
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...