ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第758話 こいつ、やっぱり女の敵だったのか?

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 アルトに呼ばれて、声が聞こえた場所へ移動したおいら達。

「どうしたの?」

 おいらが問い掛けると、アルトは地面を指差して。

「これよ、これ、ヒュドラの卵。
 数えたら十個もあったわ。
 これ、人間の間ではとっても貴重品よ。
 取り分を決めましょう。」

 と、言ったの。
 そこには、何やらブヨブヨと柔らかそうな白くて大きな楕円体が転がってたよ。

「えー、ヒュドラの卵が貴重品なの?
 それって、ヒュドラが増えないように潰しちゃうんじゃないの?」 

 ヒュドラって大きな蛇だよ。あんなキモい魔物の卵なんて欲しくないんだけど…。
 迂闊に卵を持ち帰って孵化しちゃったら対処に困るじゃない。

「そうよね、マロンの言葉に私も同感なのだけど。
 何故か、人間の社会ではこれがとても珍重されてるの。
 これ、売りに出したら一つ銀貨百万枚は下らないわよ。」

 それって、ちょっとした有力貴族の年収以上じゃない。それが十個も落ちているなんて…。

「それって、もしかしてヒュドラ酒の素だったりする?
 このくらいの徳利一つで銀貨千枚はするって聞くしぃ。」

 両掌の隙間で小振りな徳利のサイズを示しながら、オベルジーネ王子がそんな見当を付けると。

「そうよ、この中身を生かしたまま強い酒に漬けたのがヒュドラ酒。
 昔から殿方の間で垂涎の的となっている滋養強壮の薬酒よ。」

「一口、口にすると死に掛けのじじいでもそそりつと言われる霊薬ね。」

「リュウキンカったら、下品なことを言って。
 マロンにそんな品の無いことを教えないで欲しいわ。」

「あら、そうかしら?
 マロンちゃんだってそろそろお年頃なんじゃない。
 知っておいて損は無いと思うけど。」

 何故そこでおいらが引き合いに出されるのか分からないけど、妖精二人がヒュドラの卵の使い道を教えてくれたよ。
 とんでもなく効能が高い薬酒の原料となるみたいだね。
 小さな徳利一本で、街道整備に従事する作業員の給金四カ月分もするなんてびっくりだよ。

 何でも生かしたまま強いお酒に漬けないといけないってのがネックになってるみたい。
 巨大なヒュドラを生かしたまま捕えるのはムチャクチャ困難だし。
 首尾よく捕獲できたとしても、ヒュドラの巨体を漬け込める樽なんて存在しないそうだよ。

 そのため、普通は孵化する前の卵を採集して、幼体を生かしたまま樽に漬け込むんだって。
 でもね、大抵の場合、卵は番のヒュドラが護っていて入手は極めて困難らしいよ。
 入手の困難さが、薬酒の強力な効能と相俟ってとんでもない高値が付いているみたい。

          **********

「十個あるから半々で良いんじゃない?
 二人で一匹ずつ親を倒したんだし。」

 アルトがそんな提案を口にすると。

「いや、いや、ボクちん、マロンちゃんにお願いした立場だしぃ。
 全部、マロンちゃんが持って帰って良いよ。」

 オベルジーネ王子はそんな謙虚なことを言ったんだ。
 こいつ、チャラ男の癖にそんなところ妙に律儀だね。

「あんた、欲が無いにも程があるでしょう。
 そこは七・三か、六・四で貰っておくところよ。
 それを王家で商えば、王家の財政が潤うし。
 なんなら嫁に渡して領地の産業にしても良いじゃない。」

 リュウキンカさんはオベルジーネ王子が無欲過ぎると窘めたんだ。
 そんなところ、本当にお母さんみたいだよ。おいら、実物のお母さんって知らないけど…。

「おいらも全部なんて要らないよ。
 アルトの提案通り、半々で良いんじゃない。
 本当はキモいから全部上げちゃいたい気分だけど。
 お金になるんだったら、貰っておかないとだから。」

「ほら、マロンちゃんの方がよっぽどしっかりしているじゃない。
 少しはマロンちゃんを見習いなさい。」

 市井育ちのおいらはお金の大切さを知っているからね。
 温室育ちの王族とはひと味違うよ。

「厳しいな、リュウキンカちゃんは…。
 でも、半分分けてもらえるなら。
 クコちゃんとこの特産品に出来るじゃん。
 ヒュドラ酒目当てで他所から客が来るだろうしぃ。
 曾孫の代まで安泰じゃん。」

 いや、流石に曾孫の代までってことは無いと思うよ。
 いったい、何年、このヒュドラで酒を造るつもりなの。

 おいらが独り言で突っ込み入れたら、肩の上で座っていたアルトの耳には届いたようで。

「あら、あのチャラ王子の言うこと大袈裟って訳でもないわよ。
 ヒュドラの幼生一匹で巨大な樽一つ仕込めるから。
 最初、熟成に三年掛かるけど。
 初めは成分が濃過ぎて、別の酒で十倍くらいに希釈して売り出すはず。
 そして、一体で約三十年成分を抽出出来るからね。」

 ヒュドラの毒は、お酒に漬けると分解して滋養強壮を高める成分に変化するらしい。
 それにだいたい三年掛かるそうなんだ。毒が十分に分解する前に飲むと命に関わるんだって。
 なので、毒消しのため最初は三年漬け込むそうなんだけど、その間に成分が濃くなり過ぎるみたい。
 鼻血を吹き出すのはまだ良い方で、元気になり過ぎて心臓発作や脳卒中を起こしかねないそうだよ。
 最初のうちは十倍くらいに希釈して売りに出し、大樽の空いた隙間に漬け込み用の酒を継ぎ足してくんだって。
 次第に希釈する必要は無くなるそうだけど、酒の継ぎ足しで三十年くらいは滋養強壮成分を抽出できるみたい。
 ヒュドラの幼生一匹でそうだからね、五匹もあればそれこそ曾孫の代まで維持できるって。

「こういうのは欲を掻かずに少しずつ売るのがコツよ。
 希少性を高めて高値で売るの。
 それと、あんたの目の付け所は良いと思う。
 商人には卸さず、嫁の領地で数量限定の直販をするの。
 そうすれば好事家があの領地を足繁く訪ねてくれると思うわ。
 そしたら宿屋や飲み屋が商えるでしょう。」

「リュウキンカちゃん、冴えてる~。
 やっぱ、外から客を呼ばないとね。
 お金を落としてもらわないと領地が回らないし。」

 オベルジーネ王子はリュウキンカさんの助言を容れ素直に従う様子だった。
 やっぱり、この二人、仲が良いね。
 領地へ戻ったら、さっそくクコさんも交えて相談しようなんて言ったてたよ。

 そんな訳で、十個あったヒュドラの卵は五個ずつ分けて持ち帰ることにしたんだ。
 おいらの『積載庫』には生きたままでは入らないので、アルトに預かってもらったよ。
 ヒュドラ酒を造るためには、生きたままお酒に漬けないといけないそうだからね。

        **********

 そして、クコさんの領地まで戻って来て…。

「ねえ、何で、こんなところで降りるの?
 しかも、わざわざ、獲物のキングボアを担ぐなんて…。」

 オベルジーネ王子は領地の手前、森の中の街道で『積載庫』から降ろしてもらったんだ。
 リュウキンカさんは王子達を降ろすと、指示されるまでも無く獲物のキングボアもそこに降ろしたの。
 どうやら、狩りの時はいつもそうしている様子だったよ。
 リュウキンカさんはキングボア五体と共に五本の天秤棒と縄も出していたし。

 おいら、思ったよ。
 せっかくリュウキンカさんの『積載庫』に乗せてもらっているんだし、そのまま領主の屋敷まで行けば楽なのにって。
  
 だから尋ねた訳だけど、返って来た答えはというと…。

「やっぱ、父ちゃんとしてはロコト君に男らしいところを見せたいじゃん。
 それにロコト君には、リュウキンカちゃんのような協力してくれる妖精さんは居ないしぃ。
 妖精さんのお便利な能力は見せられないでしょう。ロコト君は王族じゃ無いし。」

 天秤棒に括りつけたビッグボアを一人の騎士と共に担ぎ上げながら、オベルジーネ王子は事も無げに言ったんだ。
 大したこと無いような口調だったけど、こいつ、今とんでもないことをいったよ。

「王族じゃ無いって…。
 もしかしてロコト君は、ジーネが王子だって知らないの?」

「そ~だよ。
 ロコト君の前では、父ちゃんは貧乏貴族のお婿だもん。
 王都へ出稼ぎに行っていることになってるし。」

 ロコト君だけじゃなく、あの領地に住んでいる人の多くがオベルジーネ王子の素性を知らないらしい。
 てか、知っているのはクコさんと領主館に仕える一部の達だけで十人にも満たないんだって。
 王都ではオベルジーネ王子の顔が知れているんで、他の街で領民の募集をしたそうだから。

「また、なんでそんなことを?」

「だって、ロコト君は婚外子で王族じゃ無いからね~。
 父ちゃんの素性を知らない方が良いじゃん。
 王族の血を引くってことで増長したら困るもん。
 だから、ここにいる時、父ちゃんは下級貴族の婿になり切るんだよ~。
 ちゃんと、貴族としてのあり方をロコト君に見せないといけないし。
 子どもは親の背中を見て育つって言うからね。」

 チャラい口調でいて、何かとても立派な父親らしいことを言うオベルジーネ王子。
 こうして獲物の魔物を担いでるのも、領主の義務を果たしているところを見せる意図らしい。
 ただ素直に称賛できないのは、たぶん『婚外子』という言葉のせいだと思う。
 実際、おいらの護衛騎士達が王子を白い目で見ているし…。

「クコさんとは結婚している訳じゃ無いんだ?」

「あっ、マロンちゃん、今、ボクちんを軽蔑した?
 王宮の外に女を囲っているクズ王子だって。」

「まあ、ぶっちゃけそう思った。
 可愛い女の子を見掛けたら声を掛けてくる節操無しだし。」

 こいつ、見た目や言動がまんまチャラ男だもんね。

 すると…。

「だから、マロンちゃんをここへ連れて来たくなかったのよ。
 あんたのだらしない女性関係を、他国の女王に知られるなんて…。」

 そんなことを言ってため息を吐くリュウキンカさん。
 そう言えば、朝、こいつと一緒に狩りに行くと言ったらリュウキンカさんは渋い顔をしてたね。

「誤解して欲しくないけど、ボクちんの最愛の女性はクコちゃんだよ~。」

「なのに結婚しないで、こんな僻地に囲っているの?」

「結婚するしないは、また別の話なんだよ~。
 王族の結婚は義務で、仕事の一部だしぃ。
 国を治めるために、有力貴族の娘さんを妃に迎えないとね~。」

 すると、オベルジーネ王子はそんな自己弁護をしてたよ。
 それはそれでどうかと思うけど…。
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