ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第757話 まるで仲の良い母子のようだった

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 おいら達は、大量に溢れてくる魔物の発生原因を探るべく森の奥深くに立ち入ったんだ。
 そこで目にしたのはつがいとなった二匹のヒュドラが絡み合う姿。
 街道まで溢れ出したキングボアは、ヒュドラの餌食になるのを逃れて移動して来たみたい。

「さあ、マロン、準備体操は十分でしょう。
 今日のメインディッシュを片付けて来なさい。」

 アルトはサッサと倒して来いと催促するんだ。おいらは蛇が苦手だと知っている癖に…。
 仕方が無いので、『積載庫』から業物の剣を取り出してヒュドラに向かって歩いたの。

 まだ距離があるからと油断していると。

「マロン、そろそろ来るわよ。
 そいつ、ピット器官があるから、獲物の体温を感じ取って襲ってくるの。」

 そう言うことは事前に教えておいてよ…。
 ヒュドラとの距離はまだ結構離れているのに、既に攻撃範囲に入っているらしい。
 アルトの言葉通り、ヒュドラは威嚇するヘビみたいな音を発すると毒牙を剥き出しにして襲って来たよ。
 凄い速さで、四本同時に多方向から襲い掛かってくるんだ。

「シャー!」

 スキル『完全回避』が発動して、ヒュドラの毒牙を紙一重で回避したんだけど…。

「シャー!」

 何と、回避したその先に別の頭が鎌首もたげて牙を剥いてたよ。
 もちろん、それもお便利スキルが回避してくれるんだけどね。
 ただ…、相手はヘビだからウネウネと縦横無尽に攻撃してくるの。
 手数だけならトレントも多いけど、所詮アレは木だからね曲がると言っても限度があるし。
 スキルの効果で死角を突くように回避してるんだけど、そこに別の首が待ち構えてやんの。
 そんな訳で、おいらは攻め倦ねていたんだ。
 
「うひょ~、あれも躱すんだ~。
 一流の軽業師を見てるようじゃん。
 女王ちゃん、それで食っていけるレベルじゃん。」 

 オベルジーネ王子なんて、おいらの苦労も知らずに高みの見物を決め込んでたよ。
 こんな楽しい余興があるなら、ロコト君を連れて来れば良かったとか言ってるし…。
 こいつ、おいらがいったい誰のために戦っていると思っているんだ。

 とは言え、しばらくヒュドラの攻撃を避けているうちに一つ分かったよ。
 最初、四本の首が同時に襲ってくるように見えたけど、実際には四本同時に襲って来る訳じゃ無いの。
 一つの頭が襲ってくると、他の頭は予め逃げ道を塞ぐように待ち構えてるんだ。

 それはおいらを侮っている訳じゃ無く、多分、小動物を狩るのにはその方が確実だから。
 小動物はちょこまかと素早く逃げ回ることが多いからね。
 一飲みにできる小さな獲物なら、仕留めるのは頭一つで十分だし。
 他の頭は逃げ道を塞ぐことに使った方が確実に餌に有り付けるって、ヒュドラは本能的に理解してるんだろう。
 相手がベヒーモスみたいな大物なら、きっと全ての頭を同時に使って全力で攻撃するんだと思う。
 
 そんな訳で…。

「避けたところに別の頭が待ってるなら…。」

「シャー!」

 威嚇音を上げながら迫る毒牙、やっぱりキモいけどそこは我慢だよ。
 『完全回避』のスキルが発動する前に、自らヒュドラの頭に接近し…。

「一本、一本、潰して行けば良いだけじゃん。」

 おいらは迫りくるヒュドラの首を横薙ぎにしたんだ。
 ヒュドラから見たらおいらなんて小動物だもんね、真っ向から反撃してくるとは思いもしなかったみたい。
 回避することなくおいらに向かってきた頭は、『クリティカル』スキル二種類の働きでスパッと刎ね飛んだよ。
 
 頭を刎ねられた首は痛そうにウネウネと動き、怒りためか今度は残りの頭三つが一斉に襲い掛かって来たよ。

「「「シャー!」」」

 ほぼ同時においらに迫りくる三つの三対の毒牙。
 あわや、おいらが毒牙の餌食になろうかという寸前に、スキル『完全回避』が発動して紙一重で攻撃を躱したの。

 一歩横に退いたおいらの目の前をヒュドラの頭が一つ通り過ぎ、おいらが元居た位置を目掛けて別の頭二つが襲い掛かってきた。
 狂ったように牙を剥いて襲い来る二つの頭は、おいらがその場所から移動しても即座に方向を変えることは出来ず…。
 グシャっと嫌な音を立てて、おいらが最初に躱した頭の首筋に噛み付くことになったんだ。

 自分の毒にられるなんて間抜けなことは無いみたいだけど、鋭い毒牙が二対、一つの首筋に突き刺さると流石に痛いようで。
 ヒュドラは一瞬硬直したように動きを止めたよ。
 当然、その瞬間を見逃すようなヘマはしないよ。おいらは四つ股に分かれた首の付け根を剣で薙ぎ払ったんだ。
 山の民が鍛えた業物の剣と二つの『クリティカル』スキルが相俟って、ヒュドラの四つの首をまとめて斬り飛ばしたよ。

「女王ちゃん、マジヤバじゃん。
 強過ぎる~。
 その調子で、もう一匹もっちゃってちょ。」

 安全な場所からそんな虫の良いことをほざいたオベルジーネ王子。
 いっそのこと、こいつをもう一匹のヒュドラの前に投げ飛ばしてやろうかと思ったよ。

        **********

 もっとも、おいらがするまでもなく…。

「ほう、他国の女王に押し付けといて。
 自分は物見遊山とは、良い度胸しているじゃない。
 あんたの嫁の領地を護るためでしょう。
 あんたが戦わないでどうするの!」

 オベルジーネ王子のお目付け役リュウキンカさんも、おいらと同じ気持ちだったみたい。
 リュウキンカさんはオベルジーネ王子の後襟を掴むと。

「さっさとってきなさい!」

「タンマ、タンマ。それ字が違うしぃ!」

 オベルジーネ王子の抵抗虚しく、王子をヒュドラに向かって放り投げたんだ。

「ひぃ…、無理っ、絶対に無理だって!
 ボクちん、やっとレベル二十になったところじゃん。
 無理せず堅実にモットーのボクちんには荷が重すぎるって~。」

「なに言っているの!
 せっかくレベルを上げるチャンスなのよ。
 もっと、貪欲になりなさいよ!」

 弱音を吐くオベルジーネ王子にハッパを掛けるリュウキンカさん。

「ボクちん、ピーマンと違って分を弁えてるんだよ~。
 無茶するのは性に合わないの~。」

 泣き言を言いながらも、ヒュドラが臨戦態勢に入るとオベルジーネ王子は剣を抜いたよ。

「そいつ、最初は頭一つずつしか攻撃して来ないよ。
 最初の攻撃を避けると、避けた場所に待ち構えていた頭が攻撃してくるの。
 避けると他の頭に翻弄されるから、最初の頭は避けずに切り捨てに行った方が良いよ。」

「そんな簡単に言ってくれてるなしぃ。
 普通の人はあんなでかいヘビに対峙することなんて出来ないの。」

 せっかく助言してあげたのに、攻撃した頭を必死に避けるオベルジーネ王子。
 当然、避けた先には別の頭が待ち構えていて、王子の方はそれに対処する術が無かったよ。

「ひぃ、死んだ…。
 クコちゃん、ウルピカちゃん、フルティカちゃん、ゴメン、もう会えない。」

 クコさんは分かるけど、他の人は何処の誰だよ?
 ってか、絶体絶命の窮地に立たされて、良くもそんなスラスラと女の人の名前が出てくるもんだ…。

 と、その時。

 バリ!バリ!バリ!

「なに情けないことを言ってるの。
 他の首は私が引き付けておくから。
 あんたはマロンちゃんのアドバイス通り一つ一つ片付けなさい。」

 リュウキンカさんが、今まさにオベルジーネ王子を丸呑みにしようとしようとしてた頭にキツイ電撃を放ったの。

「わお! リュウキンカちゃん、マジ天使!」

 軽口を利いたオベルジーネ王子は、電撃により硬直した首に向けて続けざまに三回剣を叩き込み、何とか一つ切り落としていた。
 リュウキンカさんの支援を受けると、オベルジーネ王子は見違えるほど上手に立ち回るようになったよ。
 リュウキンカさんが電撃を入れた頭を王子が落し、王子を狙ってきた頭にリュウキンカさんが電撃を入れる。
 二人はとても息が合った連携で、巧みにヒュドラの四本の首を捌いていったんだ。

          **********

 リュウキンカさんのサポートで何とかヒュドラを倒し終えると。

「リュウキンカちゃん、マジ感謝!
 マジ愛してる~。
 ヒュドラの前に放り投げられた時は見捨てられたかと思ったよ~。」 

 オベルジーネ王子は何時ものチャラ男モードに戻ってた。

「私があんたを見捨てる訳ないでしょう。
 誰があんたのおしめを取り換えたと思ってるの。
 おねしょがバレないように、こっそり下着とシーツを洗ってあげたのは誰かしら。」

 リュウキンカさんって、監視役というより乳母みたいだよ。

「ボクちん、マジ愛されてるじゃん。
 感激だな~。」

「馬鹿言って無いで、サッサと『生命の欠片』を取り込みなさい。
 こんな大物を討伐できる機会は滅多にないんだからね。
 嫁と子供を養わないといけないんだから、もっと貪欲にならないと。」

 ヒュドラの遺骸の側に積み上がった『生命の欠片』を指差すリュウキンカさん。
 王子は指示通り素直に生命の欠片を体に取り込んでいたよ。

「おおっ、レベル三十一になったじゃん。
 ボクちん、地道にコツコツが信条だし。
 あんまり無茶は好きじゃないんだけど…。
 リュウキンカちゃんには感謝しないといけないね~。」

 意外なんだけど、オベルジーネ王子はチャラい言動とは裏腹に、結構堅実な性格をしているみたい。

「そうよ、感謝しなさい。
 こんな森の中に領地を構えたんだもの。
 レベル二十やそこらじゃ、心もとないでしょう。
 嫁と子供を護るためよ、チャンスは逃がさないようにしなきゃダメよ。」

 オベルジーネ王子を諭すリュウキンカさんの眼差しは、我が子を愛おしむ母親のようだった。
 二人の会話にほっこりしていると。

「マロン、それにリュウキンカとチャラ王子も。
 ちょっと、こっちに来てちょうだい。」

 呼ばれて振り向くと、「ひぃ、ふう、みぃ、よっ」と声を出してアルトが何か数えてた。
 いったい、何を熱心に数えているんだろう?
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