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アイイロモンペ

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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第755話 ビックリ! こいつ、子持ちだった…

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 早朝、魔物狩りに出掛けようとしてしてたら、ウニアール国第一王子のオベルジーネと出くわしたよ。
 見た目チャラ男の王子は、最初オランをナンパするつもりで朝食に誘ったのだけど。
 オランが男の子だと知り、おいら達が魔物狩りに行こうとしていることを知ると、今度は魔物狩りに誘って来たの。
 どうやら、オベルジーネ王子は自領周辺の魔物を間引きに行く途中だったみたい。

 おいらはオベルジーネ王子の誘いに乗ることにしたよ。
 街道の安全確保のために王都周辺の魔物は狩り尽くしてしまったとのことで、鍛錬になりそうもないと知ったから。
 
 オベルジーネ王子に付いている妖精リュウキンカさんの先導で、アルトの『積載庫』で揺れること二時間ほど。
 王都からやや離れた内陸にある広大な森、その一画にオベルジーネ王子が開拓した領地はあったの。
 深い森の中にポツンと堀と土塁で四角く囲まれた土地があって、そこに家が並んで畑が作られてた。
 水の恵み豊かな土地柄なのか、開拓地を囲む堀は水で満たされてる。

 おいら達は開拓地の外、堀の更に外側にぐるりと造られた空き地の一画の降ろされたよ。

「この空き地は?」

 農地にも利用されず、無駄に放置されたままとなっている空き地を眺めて尋ねると。

「ああ、これは魔物や盗賊の襲撃に備えてさ~。
 堀のすぐ際まで森が迫っていると、接近されても気付けないじゃん。
 木の上からの跳躍で、堀と土塁を飛び越す魔物だっているしぃ。」

 ノノウ一族のチャラ男チラン並みの軽薄な言葉で、おいらの疑問に答えるオベルジーネ王子。
 王子の言葉通り、空き地は魔物だけではなく盗賊に対する備えにもなっていて。
 空き地の幅は通常想定される弓矢の最大射程より広く取ってあるそうだよ。
 盗賊が襲ってきたとしても、森の木に隠れて弓矢を射かけることは出来ないし。
 反対に盗賊の方は土塁の上からの弓の攻撃に身を隠す場所が無いんだって。

 オベルジーネ王子、見た目はチャラ男だけど、考えていることは確かに真面だよ。
 王子は空き地をツカツカと進んで、土塁の上に築かれた櫓に近付くと。

「お~い、橋を降ろしてちょ~。」

 軽薄な口調で声を掛け、騎士らしき見張り役に向かって手を振ったの。
 すると、跳ね上げ式になっていた橋が居りてきて、堀に掛かったんだ。
 それまで橋に遮られ見えなかったけど、橋の向こうにはそれなりに堅固な門が閉ざされていた。

 オベルジーネ王子を先頭に橋を渡って行くと、櫓から降りてきた騎士が開門してくれたよ。

「森の中は何かと物騒だからね~。
 普段は門を閉じて橋を上げるように指示してあるんだ。
 でも、門番がサボって指示通りしてないかも知れないじゃん。
 それで、いつも抜き打ちで門の外から訪問することにしてるんだ。」
 
 不真面目な騎士だと門番の仕事中に居眠りをしているかも知れないなんてことも、王子は言ってたよ。

「おっと、忘れてた。
 この村の中では、ボクの事はジーネと呼んでちょ。
 間違えても王子とは呼んじゃや~よ。」

 橋を渡りながら、そんな意味不明なことを言うオベルジーネ王子。

「旦那、お帰りやし。今日は魔物狩りですかい?」

 騎士の格好をした門番は、王族に対する言葉遣いとは思えない挨拶をしたんだ。

「そうだよ~、これから行くから、騎士達に支度させてちょ。
 今晩は村の皆にも肉を振る舞っちゃうからね~。」

「そりゃ良いや、腕が鳴るぜ。」

 門番をしていた騎士はオベルジーネ王子の指示を受けると村の奥に向かって小走りに去って行ったよ。

「あのおじさん、騎士なの? 貴族には見えなかったけど。」

 言葉遣いもそうだけど、身だしなみも騎士服を着崩してるんだもの。

「ああ、あれ? この領地お抱えの騎士だよ~。
 もちろん、貴族の生まれじゃないね。
 王都の酒場で意気投合して、引き抜いたんだ~。
 粗野だけど、真面目だしぃ。
 元は大工だから、腕っ節は強いんだぜ~。」

 お忍びで王都を徘徊していた時に、偶々飲み屋で知り合ったおじさんなんだって。
 オベルジーネ王子がこの領地を開墾したのは十五歳の時らしいけど、堀や土塁を造ったところで気付いたそうだよ。
 流石に素人じゃ、建物までは建てられないって。
 そこで大工さんを探していたらしいけど、王都から離れた森の中と聞くと誰も引き受けてくれなかったんだって。
 途方に暮れていた時に、酒場であのおじさんと隣り合わせになってそのことを愚痴ったそうなの。

 おじさん、その時ほろ酔い気分でご機嫌だったらしく、それなら俺がやってやるとなったそうなんだ。
 オベルジーネ王子ったら、おじさんの酔いが醒める前に、リュウキンカさんの『積載庫』に拉致したんだって。
 その晩のうちにこの開拓地まで運んでもらったそうだよ。
 ここに着いて目を覚ましたおじさん、案の定、酒場で酔ってした約束なんて覚えてなかったそうだけど。
 そこが気の良いところで、連れて来られちまったものは仕方が無いと、大工仕事を引き受けてくれたんだって。

 一年掛かって予定の数の建物を建て終る頃には、おじさんはすっかりここが気に入っていて。
 仕事さえ貰えればこの村に留まると言ったものだから、お抱えの大工兼騎士として採用したそうなの。

       **********

 さっきのおじさんとたった二人で開拓したと言う領地はとても綺麗な村だった。
 最初の印象通り水に恵まれた土地で、村のあちこちで泉が湧いてるの。
 泉から樋を使って各家に配水され、泉から溢れ出した水は小川となって畑を潤していたよ。

 家は領地と認められる最低限の五十軒しか無いそうで、こじんまりとした村だけど。
 四角く囲われた領地の中には、区画整然とした農地に加え、放牧地や貯水池、それに小さな森まで在ったんだ。
 堀と土塁によって護られた区画の中で村人の生活が完結できるだけの基盤が整えられてるの。

「ここが水に恵まれた地域だってことは昔から知られてたんだ~。
 だけど、この国は土地が余ってるし~。
 森の伐採なんて面倒なことをする物好きは居なかったんだよ~。」

 そんな訳で、この辺りの広大な森は手付かずだったらしい。
 森に開拓地を造るためには木を伐採しないといけないし、『魔物の領域』ほどでは無いにせよ草原に比べて魔物が多いからね。
 ただ、オベルジーネ王子は豊富な水と森が育んだ肥沃な土壌、そして豊富な木材に目を付けたんだって。
 伐採した木で家を建てれば木材を購入する資金が節約できるし、厚く積もった腐葉土で生産性の高い農地が出来ると。

「ふーん、でも、その時、ジーネは十五歳だよね。
 今のおいらやオランより、少ししか年が離れて無いのに。
 よく新たな領地を開墾しようなんて思ったね。」

 おいらがそんな素朴な疑問を口にすると、妖精のリュウキンカさんが苦々しい顔をしてたんだ。
 何か、拙いことでも聞いたかなと思っていたら。

 道の先から、小さな男の子がトテトテと小走りにやって来て。

「父ちゃん、お帰りー!」

 そう言いながら、オベルジーネ王子に抱き付いたんだ。

「おう、ロコト、元気だったか?
 また少し大きくなったようだな。」

 王子は目を細めて、抱き付いたままのロコト君の頭を撫でてたの。
 すると、ロコト君は少し頬を膨らませ拗ねて見せると…。
 
「そりゃ、大きくなるよ。もう五歳になったもん。
 父ちゃん、ずっと帰ってこなかったじゃん。」 

 大分ご無沙汰にしていた様子のオベルジーネ王子を責めたんだ。
 うん? 父ちゃん? 今、ロコト君は五歳? えっ?

 オベルジーネ王子って、確か今二十歳と聞いたよ。ロコト君はいったい幾つの時の子なの?
 それ以前に、オベルジーネ王子は結婚してたなんて聞いてないよ。
 お嫁さんがいる身で、さっき、オランに粉かけてたんかい…。

 おいらが直ぐ側で浮いているリュウキンカさんに目で問い掛けると。
 リュウキンカさんは、小さく溜息をついて。

「ロコトは間違いなく、その男の息子よ。
 そして、その子がさっきマロンちゃんが口にした疑問の答え。
 この領地はロコトを領主にするために創ったのよ。
 ロコトにはあまり聞かせたくないので、後で詳しく話してあげる。」

 ロコト君に聞こえないように、おいらの耳元で囁いたの。

 ロコト君はひとしきり抱擁されて機嫌が直ったのか、オベルジーネ王子から離れると。

「母ちゃん、ずっと父ちゃんのこと待ってたんだよ。
 父ちゃんが居ないと寂しいって。」

 そう言って、オベルジーネ王子の手を引いて歩き出したの。

          **********

 ロコト君が手を引いて辿り着いたのは、村の中でも奥まったところにある大きな屋敷だったの。
 大きいと言っても、トアール国の辺境の街にあるおいらが住んでいた屋敷くらいの大きさで。
 貴族の屋敷というより、大商人の屋敷といった大きさだった。

「いや、男爵家程度の家格であればこの屋敷でも立派な物なのじゃ。
 むしろ、マロンの御父上が購入した屋敷が平民としては大き過ぎなのじゃ。」

 おいらの呟きが聞こえたようで、オランがそんな説明をしてくれたの。
 どうやら、領地を開拓して新規に貴族に取り立てられた家としては標準的な規模らしい。

「母ちゃん! 父ちゃんが帰って来たよ!」

 屋敷の扉を開くと、大きな声でオベルジーネ王子の帰還を知らせるロコト君。
 すると、パタパタと忙しなく駆けてくる足音が聞こえて来たんだ。

「旦那様、お帰りなさいませ!」

 嬉しそうに満面の笑みを浮かべて表れたのは、オベルジーネ王子と同じ年頃の娘さんだった。
 この娘さんがロコト君のお母さんって、ホント、いったい幾つで産んだんだよ…。
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