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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第753話 カチコミじゃないんだから、やっぱ拙いって…

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 アネモネさんの提案で会議室のような場所に移動し、腰を落ち着けると。

「先ほどの父上からの問いに答えたいと思います。」

 最初に口を開いたのはピーマン王子だった。

「ふむ、聞かせてもらおうか。
 既に心は決まっておるようだのう。」

 ピーマン王子の目を見て、王様は決意のほどを理解したみたいだった。

「我等が開発した土地が、貴族の領地としての基準を満たしていると認められたならですが。
 ここにいる五人をそれぞれの領主として、生家とは独立した貴族家の設立を許可して戴きたく存じます。
 他の者は領地を護る騎士として、それぞれの領主が召し抱えることとしたいと考えております。
 このことに関しては全員の了解を取り付け済みです。」

 王様はピーマン王子のプランを聞いて戸惑いの表情を見せたよ。

「もとより、国の定めに基づき貴族に列することに異存は無い。
 一定の基準を満たす集落を新たに開発した者を、その地の領主として貴族に列する。
 法にはそう明記されているからな。
 だが、アネモネ様の報告によると新たに開発した五ヶ所のはず。
 そこの五人をその領主とすると、そなたはどうするのだ?
 儂は、そなたの身の振り方を問うた筈であるが。」

 それではピーマン王子の領地が無いじゃないかと、王様は尋ねたんだ。

「はい、実は心に決めた女性が居まして…。
 婚姻を結んでこの国を出ようとかと存じます。」

 想定外の答えに王様は目を丸くしてたよ。
 束の間、呆然としてた王様だけど、ハッとした表情で我に返ると。

「そなた、いつの間に佳い人が出来たのだ。
 もう相手方の承諾は取れておるのか?」

 王様はある意味もっともな疑問を口にしたよ。
 ここを出る前は見るからに不健康そうな肥満体で、とても女性にモテたとは思えないからね。

 その時、扉を開け閉めする音が聞こえ…。

「話があるからと呼ばれて、何かと思えば。
 ピーマン、あなた、お嫁さんをもらうの?」

 ペピーノ姉ちゃんが二人の妖精さんを連れて部屋に入って来たよ。
 片方がペピーノ姉ちゃん付きの妖精イチゲさんだから、もう一人がレンテンローゼーンさんかな?

       **********

「あら、あなた、アルトローゼン?
 まあ、まあ、随分と久しぶりね。三百年振りくらいかしら。
 今日はどうしたの?」

「久しぶり、お姉さま。
 今日は運搬係よ。
 この男の想い人を乗せてきたの。
 未婚の女性だもの。
 飢えたオオカミと一緒に運ぶ訳にはいかないわ。」

 アルトはそんな返答をすると、おいら達を『積載庫』から降ろしたんだ。
 まずはレクチェ姉ちゃんとラフランさん。
 それから、おいらとオラン、それにムース姉ちゃんを筆頭とするおいらの付き人達をね。

 レクチェ姉ちゃんは静々とピーマン王子の隣に歩み寄り、ラフランさんはレクチェ姉ちゃんの後ろに控えたの。
 ピーマン王子と婚姻を結ぶのはレクチェ姉ちゃん一人らしい。
 二人共お嫁さんにしたら良いんじゃないって尋ねたら、大人の事情でダメなんだと言ってたよ。

「こちらのご婦人が、私の求婚したレクチェ嬢です。」

 レクチェ姉ちゃんの肩を抱き寄せるようにして、ピーマン王子は王様に紹介するけど。
 王様の方は、おいら達のことが気になって仕方が無い様子でちらちらとこちらを見ていたよ。

 まあ、ピーマン王子の側に寄ったのが二人なのに対して、おいら達は十人近くいるからね。
 王様の目の前に突如として、見知らぬ人間が沢山現れれば普通は警戒すると思う。
 テロリストなんかが入り込んだら嫌だもん。

 入り口で正規の手続きをせずに、アネモネさんもアルトもいきなり王様の執務室に入り込むんだもん。
 確かに今まで何度も王様の部屋に無理やり押し入ったことはあるけど…。
 それは殆どがカチコミだったからね。
 今回のような親善目的の訪問は手順を踏んだ方が良いと思ったのに。

 でも、流石は一国の王だった、表面上は動じた様子を晒すことなく。

「レクチェ嬢、ようこそ参られた。
 儂はそなたを歓迎するぞ。」

 鷹揚に歓迎の言葉を口にしたの。

「この度は突然の訪問にも関わらず、歓迎して戴き有り難く存じます。
 ウエニアール国はマイナイ領で領主をしているレクチェと申します。」

「なんと、女子ということもさることながら、その若さで領主とな?」

「父上、レクチェ嬢はとても良く領地を治めてます。
 自ら率先して魔物を狩り、民の声によく耳を傾け。
 とても領民に慕われておるのです。
 レクチェ嬢と話をする機会があり、自分の不徳を悟りました。」

 流石に、キモいと蔑まれて愉悦を感じたとは言わないか…。
 ピーマン王子はその時レクチェ姉ちゃんに一目惚れしたと明かし。
 レクチェ姉ちゃんに相応しい人間になるために、如何に自分が精進したかを力説してたよ。

「ふむ、そなとの意思が固いのは分かった。
 レクチェ嬢も承諾しておるようだし。
 婚姻を結びたいと申すのであれば反対はしないが…。
 レクチェ嬢は領主なのであろう?」

「はい、ですから余は国を出てマイナイ伯爵家へ婿入りするつもりです。」

「ふむ、それでせっかく開拓した領地を要らぬと申したのか。
 しかし、他国の王族が婿入りするとなると。
 ウエニアール国の王宮の承諾が要るのではないか。
 その辺の根回しはしてあるのか?」

 王様がもっともな心配を口にすると。
 ピーマン王子はそれに答えようとしたのだけど。

「根回しは済んでいるのでしょう。
 マロンちゃんがそこに居るのだから。
 問題があるなら、何か言っていると思うわ。」

 ピーマン王子より前に、ペピーノ姉ちゃんがおいら達に目を向けつつ口を挟んだの。

        **********

 ペピーノ姉ちゃんの言葉は渡りに船だったみたい。

「うん? ペピーノ、そなたはそちらの客人と顔見知りなのであるか?」 

 王様は、ずっとおいら達の事が気になっている様子だったからね。

「知っているも何も、マロンちゃんとオランちゃん。
 ウエニアール国の女王陛下と王配殿下ですわよ。
 お父様、ご存じではございませんでしたの?」

 いや、王様の前に現れたのって、ペピーノ姉ちゃんは部屋に入ってきた後だもの。
 知っている訳が無いって…。
 現に王様は、おいらの方を見て言葉を失っているし。

「ゴメンね。本来は手続きをして正門から入らないと拙いのに。
 いきなりここに降ろされちゃって。」

 おいらが謝罪すると。

「そんなの気にしないで良いのよ。
 妖精族は王宮に自由に出入りできることになっているし。
 私達に危害を加えるような人を立ち入らせる訳が無いから。
 アネモネちゃんじゃなくて、イチゲちゃんでもそうしたと思うわ。」

 ペピーノ姉ちゃんはケラケラと笑って気にする必要無いと言ってたよ。
 それはまた随分と大らかな王宮なんだなと思ったけど、王様は顔を引きつらせてた。
 どうやら、王様はペピーノ姉ちゃんほど大らかじゃないみたい。

 まっ、それはともかく挨拶は大事だからね。

「お初にお目に掛かります。
 ウエニアール国女王、マロン・ド・ポルトゥスです。
 突然の訪問をお赦しください。」

「何の、何の、そんな些細なことは気になさらないでください。
 ようこそ、遠路はるばるお越しくださいました。」

 改めて挨拶をすると、王様は歓迎の言葉を掛けてくれたよ。
 引き攣っていたその顔に、無理やりのように笑みを張り付けてね。

「して、マロン陛下。
 陛下はこの二人の婚姻を承諾しているのでしょうか。」

「うん、基本的には当事者の意思を尊重することにしているんだ。
 ピーマン王子が求婚して、マイナイ伯爵が承諾するのをこの目で見ているから。 
 おいらに反対する理由は無いよ。」

 おいらの返事を聞いた王様は、ピーマン王子とレクチェ姉ちゃんに向かって大きく頷くと。

「では、儂も二人の婚姻を認めることとしよう。
 ピーマンよ、良い伴侶に巡り会えたようで良かったな。
 二人の婚姻を心から祝福するぞ。」

 おいらに向けた無理やりの笑顔とは打って変わって、満面の笑みを浮かべて二人を祝福したんだ。
 そして、五人を領主とすることも内諾して、さっそく検査のために技術者を派遣することになったよ。
 ピーマン王子の婚姻の発表と五人の叙爵を兼ねて式典を催すので、おいらにも臨席して欲しいとのことでね。
 出来るだけ短期間に検査が済むようにと、アネモネさんが技術者を連れて飛んでくれるって。

 そんな訳で、おいらはしばらくウニアール国の王都に留まることになったんだ。
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