ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第748話 脱落者、第一号が確定したよ…

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 仮設建物の厨房の片隅。

「やれやれ、やっと一段落ついたでおじゃる。」

 配膳係の仕事を終えたおじゃるが、料理を載せたトレーを前にしてボヤいてた。
 因みに、おいらの隣では不機嫌オーラを漂わせたペピーノ姉ちゃんがおじゃるの様子を窺ってる。
 ピーマン王子からおじゃるが脱走を図ったと聞いて、ペピーノ姉ちゃんは堪忍袋の緒が切れたみたいなの。
 すぐさま、おじゃるの首を掻っ切りに飛び出しそうな雰囲気だったので、おいらが必死に宥めたよ。
 配膳の最中におじゃるを亡き者にしたら、お腹を空かせている作業員達が困っちゃうからとね。
 料理がおじゃるの血で台無しになっても困るし…。

 取り敢えず、現場にいる全員に食事が行き渡り、配膳の仕事が一段落するまでは堪えてもらったよ。
 で、配膳カウンターの前に食事を求める人が居なくなるのを見計らってこうしてやって来たの。
 ペピーノ姉ちゃんはすぐにでもおじゃるを叱責したかったようだけど。
 おいらはそれを押し止めて、少し様子を見るようにと言ったんだ。
 流石に怠惰なおじゃるでも改心したんじゃないかと、おいらは思ったんだ。
 軽はずみな行動をして片脚の膝から下を失う目に遭ったのだからね。
 
 だけど、そこは安定のおじゃるクオリティで…。

「トホホ、何で麿がこんな目に遭わないとならんのでおじゃる。
 そもそも、貴族に労働を求めるのが間違いでおじゃるよ。
 労働なんてモノは全て下々の者に押し付けて。
 高貴な者は優雅に遊んで暮らすのが道理でおじゃる。」

 何の反省も無く、そんなことを呟いてるの。  
 馬鹿だね、そんなこと思っていても口に出さなければ良いのに。
 誰が聞いているか分からないのだから。

 そんなことを思いながら隣で覗いているペピーノ姉ちゃんを見ると…。

「いない?」

 確かに、今までおいらの隣に居たはずのペピーノ姉ちゃんが忽然と消えてたんだ。…それこそ、音も無く。

 すると…。

「あなた、わたくしが叱責する度にこれから真面目になると誓いますが…。
 どうやら、ニワトリ並みのオツムしか無いようですね。
 三歩歩けば誓ったことも忘れますか?」

 そんな声がした方を見ると、ペピーノ姉ちゃんがおじゃるの首筋に懐剣の刃を当てていたよ。
 それはもう、今すぐにでも首を掻っ切るって雰囲気を漂わせて…。
 そう言えばこいつ、前回は剣の先を口に咥えさせられてたね。
 あの時、必死になって命乞いしてたけど、全然改心してなかったみたいだ。

「ペッ、ペピーノ殿下…。
 殿下が来られるとは聞いて無いでおじゃる。
 いつ参られたのでおじゃる?」

「たった今よ。
 抜き打ちで来るに決まっているでしょう。
 あなたみたいなおバカがサボって無いか監視に来るのだもの。
 事前知らせたら意味無いと思わない?」

 狼狽するおじゃるの首筋に剣の刃を当てたまま、ペピーノ姉ちゃんは冷淡に言ったんだ。

        **********

「さて、わたくし、無慈悲では無いですから。
 あなたに選ばせて差し上げます。
 この場で命を捨てますか?
 それともこの場で貴族位を捨てますか?
 選択肢はこの二つだけです。
 さあ、今、直ぐに選びなさい。」

 何時もと全く変わらない笑顔で、ペピーノ姉ちゃんはそんなシビアな選択を迫ったよ。
 ペピーノ姉ちゃん、何時も満面の笑顔で、感情が読み取れないから怖い…。

「待つでおじゃる。麿が何をしたと言うでおじゃる。」

「あら、ピーマンから聞きましたわ。
 あなた、ここから脱走を図ったそうではありませんか。
 わたくしが帰って、監視の目が無くなった途端に。
 わたくしの前ではしおらしいことを言ってますが。
 その実、全然反省していないのではございませんか?」

「待つでおじゃる。
 麿は心の底から反省しているでおじゃる。
 けれども、雅な育ちの麿には力仕事は向いて無いでおじゃる。
 何とかして欲しいでおじゃる。」

 こいつ、適当なことを言ってここから抜け出そうとしているだけじゃ…。

「あら、では、どんな仕事なら向いているのかしら?
 あなた、今、十八歳でしたわよね。
 それで『図書館の試練』を一つもクリアしてないのでしょう?
 頭脳労働が出来るとでも?」

「麿は頭を使うのはもっと苦手でおじゃる。
 頭脳労働は向いて無いでおじゃる。」

 肉体労働もダメ、頭脳労働もダメって…。
 じゃあ、こいつ、どんな仕事なら向いているって言うんだよ。

「ほら、見なさい。
 その時点で貴族失格では無いですか。
 もっとも、平民となってもそれでは野垂れ死に確実ですね。
 やはり、ここで一思いに逝っておきますか?」

 ペピーノ姉ちゃんがそう言うとおじゃるの首筋からわずかに血が染み出してきたよ。
 おじゃるの言葉にイラッと来たんだろうね、懐剣を握る手に力が籠ったらしい。

「痛いでおじゃる!
 勘弁して欲しいでおじゃる。
 麿は働きたくないでおじゃるが、死にたくも無いでおじゃるよ。」

 おじゃるは必死に命乞いするけど、それって逆効果だよね。
 本音なんだろうけど、虫の良いことを言い過ぎだもん。 
 
 すると…。

「おい、おい、穏やかじゃないな。
 厨房を汚い血で汚さないでくれよ。
 掃除をするのが大変なんだから。」

 こちらの様子に気付いて料理長がやって来たんだ。

        **********

「そんな物騒なモノを持ち出して、いったいどうしたんだ。
 まさか、そんな不細工を相手に痴情のもつれと言うこともあるまい。」

 そんな軽口を叩きながら近づく料理長。

「これは失礼しました。
 清潔さが求められる厨房を、この愚か者の穢れた血で汚すところでした。
 わたくしとしたことが、つい、平常心を失ってしまいましたわ。」

 そう言って、ペピーノ姉ちゃんは懐剣を鞘に納めたの。
 その時のペピーノ姉ちゃん、どこが平常心を失ってたのとツッコミを入れたいくらい、おっとりとした口調で謝罪してたよ。

「あんたは確か、こいつの国の王女様だったよな。
 どうして、そんな物騒な物を持ち出しているんだ?」

「この愚か者がここから脱走を図ったと聞きまして。
 そのような恥晒しは許し難いものですから。
 今ここで選択するように命じたのです。
 貴族籍を捨てるか、命を捨てるか、どちらかを選べと。」

 料理長の問い掛けにペピーノ姉ちゃんが答えると。

「この女が横暴なのでおじゃる。
 平民になるのも、死ぬのも嫌でおじゃる。
 麿は貴族として一生面白可笑しく暮らしたいでおじゃる。」

 おじゃるは料理長に訴えかけるように言ったんだ。
 料理長はそんなおじゃるを白い目で見てた。

「俺も初日から思ってはいたんだ。
 こいつの曲がった性根を叩き直したいとな。
 でも、殺すのはどうかと思うぞ。
 お前さん、今まで人を殺めたことは?」

「いいえ、これが初めてになります。」

 ペピーノ姉ちゃんったら、おじゃるを手に掛けるのが確定事項のように答えてたよ。

「なら、わざわざ、そんな奴の血で手を汚すこと無いだろう。
 まあ、そいつは貴族の自覚も責任感も持ち合わせて無いようだから。
 貴族籍を剥奪するのは賛成だが、殺すほどの価値もねえぞ。
 ここで貴族籍の剥奪だけで勘弁してやれ。
 後は俺が厳しく躾けてやるよ。大衆食堂の料理人見習いくらいにはな。」

「うん? 料理人見習い?
 いっぱしの料理人に育てるんじゃなくて?」

 おいらが料理長に素朴な疑問を投げ掛けると。

「幾ら俺が厳しく躾けたってな…。
 本人にやる気が無ければいっぱしの料理人にはなれないさ。
 こいつ、一事が万事、やる気が無くて嫌々やっているんだぜ。
 何をさせても、半端者で終わるのが目に見えるようだ。」

 料理長がスパルタで仕込めば、どんな役立たずでも見習いレベルまでは引き上げられると言うけど。
 流石にやる気が無い人間を一人前まで育てるのは無理だって。

「ふむ、料理人見習いですか。
 それなら他人様に御迷惑を掛けずに生きていけるかしら。
 世間に迷惑掛けずに暮らすのなら、命までは取る必要もありませんね。
 では、こちらにサインして戴きましょうか。」

 ペピーノ姉ちゃんは料理長の言葉を受け入れると一枚の紙きれをおじゃるに差し出したんだ。
 それは『貴族籍離届け』と銘打たれた書類だった。
 自分の意思で生家の籍から離脱するとの体裁を取っていて、貴族の特権を全て放棄するとあったよ。
 その他にも色々と書かれてた、今後生家の家名を名乗らないとか、生家に対して財産的な要求を一切しないとか。

「これにサインするのでおじゃるか…。」

 尚も渋るおじゃるに。

「お前、本当に馬鹿だな。
 今、渋るくらいなら他の連中に倣って真面目にやってりゃ良かっただろうに。
 ここ最近で、何度もチャンスを与えられたんだろう。
 それをふいにしたのはお前自身じゃないか。
 安心しろ、平民になっても食って行けるように俺が鍛えてやる。」

「あんなの貴族のすることでは無いでおじゃる。
 麿のプライドに掛けて、肉体労働なんて出来ないでおじゃるよ。」

「おお、そうかい。
 良かったな、これにサインすれば晴れて平民だ。
 貴族でなくなれば、プライドが邪魔することは無いよな。」

 ガハハハッと笑いながら、料理長はおじゃるにサインを迫っていたよ。

「トホホ、こんなはずではなかったでおじゃる。」

 強面の料理長に迫られて、おじゃるは観念したようで渋々貴族籍の離脱届にサインしてた。
 書類を受け取ったペピーノ姉ちゃんは、受理者の欄にサインと受理日を書き込み。

「はい、確かに『貴族籍離届け』を受理しました。
 今この時点をもって、あなたは貴族籍を失いました。
 今後、貴族であると詐称した場合、厳罰に処せられますのでご注意ください。
 もちろん、家名を名乗ることもできません。」

 おじゃるに注意事項をつらつらと説明してたよ。

 ここにピーマン王子の取り巻きから脱落者第一号が生まれたんだ。
 まあ、後は平民として、一人前の料理人になれるよう料理長に厳しく鍛えてもらおう。
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