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アイイロモンペ

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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第742話 サルにだって出来るんだって…

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 おいらが居るのは王都の南、トアール国との国境へ延びる街道に面した草原の一画。
 そこは街道整備に携わる作業員が寝起きする宿舎や現場事務所の移転予定地なんだ。
 トアール国側辺境から進めてきた街道整備事業もかなり進捗したので、王都寄りに街道整備の拠点を移すことになったの。

 とは言え、今は家一軒無い草原のど真ん中。
 これから魔物除けの土塁や掘を造って、その中に宿舎や事務所の建物を建設しないとならない。
 それは、あたかも小さな村を造るようなものなんだ。

 いや、実際に村を造る作業そのものらしい。
 街道整備事務所の所長の話では、用済みになった拠点跡地は建物を撤去した後に希望者を募って払い下げるそうなの。
 何と言っても、数百人からの作業員が数年生活を送る拠点なので面積はそこいらの村よりよっぽど広いし。
 魔物除けの擁壁や堀、それに生活のための水場も敷地内に確保されているから、一から開拓を始めるよりずっと効率的なんだ。
 建物も全て撤去するのではなく、広めの物を一棟だけ残して売却するらしい。
 残された建物は移住者それぞれの家が出来るまで集合住宅として使われ、家の完成後は村の集会所に利用するそうだよ。
 整備拠点の跡地を売却することによって、街道整備に掛かる総予算を多少なりとも節約しているらしい。
 そんな訳で、跡地の払い下げを前提に、敷地内は区画整然としていて道や用水路もその場しのぎではないんだ。

 これって、ピーマン王子達にやらせるのにぴったりの仕事だよね。
 領地開拓のため、土木や建築の作業を実習しに来たのだから。
 ピーマン王子達に関するおいらの説明を聞いて、整備事務所の所長もそこに気付いたみたい。
 新たな街道整備の拠点建設をピーマン王子達にさせることを即決したんだ。

 と言うことで、おいらは無人の草原の中に降り立ったの。

「ここは何処でおじゃる?
 街道整備の作業員に混ざって実習をすると聞いていたおじゃるが。
 工事現場はおろかひとっこ一人見当たらないでおじゃる。」

 アネモネさんの『積載庫』から降ろされ、周囲を見回したおじゃるが不安そうに呟いてた。
 おじゃるだけじゃなくて、ピーマン王子の取り巻き達は皆不安そうな表情だったよ。
 そりゃそうか、人が沢山働いている場所へ行くものだと思ってただろうからね。

「はい! 注目!」

 おいらは手を叩きながら、ざわつく皆に声を掛けると。

「余らは街道整備の現場に行くのではなかったのか?」

 皆を代表するようにピーマン王子が尋ねてきたんだ。 

「街道整備が大分進捗していてね。
 今の整備拠点から現場に通うのに大分時間が掛かるようになっているらしいの。
 なので宿舎や事務所を置く拠点を移動することにしたんだ。
 ちょうど良いから、ニイチャン達には拠点建設をしてもらうことになったよ。」

 おいらは街道整備工事の進捗状況や連中にしてもらう作業の内容を説明し。
 連中を指導してくれる技師や警備の騎士、それに料理長を紹介したんだ。

「この何も無い荒れ地に、一から拠点を築けと言うでおじゃるか。
 何で麿がそんなたいそいことをしないといけないでおじゃる。
 麿はこの一月、踏んだり蹴ったりでおじゃるよ。
 見よ、麿のふくよかな体がこんな貧相になってしまったでおじゃる。
 もう、真っ平御免でおじゃるよ。」

 相変わらずやる気のない言葉を発するおじゃる。
 おいらの隣では、ペピーノ姉ちゃんがおじゃるの態度を見て舌打ちしてたよ。
 見た目には笑っているようだけど、実際、殴り掛からんほどに怒っているみたい。

「こら、ゴマスリーよ、そう申すでない。
 余もそなたも領地開拓を成功させないと、貴族に留まることは出来ぬのだぞ。」

「そうは言っても、これが貴族のすることでおじゃるか。
 麿は納得できないでおじゃる。」

「ゴマスリー、そなた、よもや忘れた訳ではあるまいな。
 そなたの場合、命がかかっているのだぞ。
 姉上のアレ、アレは単なる脅しでは無いからな。」

 拠点建設の仕事を渋るおじゃるを更に説得するピーマン王子。
 おじゃるは、おいらの隣で不気味な笑みを浮かべるペピーノ姉ちゃんを見て身震いし…。

「トホホ、何で麿はこんな目に遭わないとならないでおじゃる。」

 いや、それは今まで散々怠けてきたツケが回って来ただけだから。
 
「まあ、そう言うな、ゴマスリーよ。
 これはまたとないチャンスだぞ。
 ここでの、作業は領地開拓そのものではないか。
 それを専門の技師が、懇切丁寧に指導してくれると言うのだ。
 この機会を活かさずにどうする。」

 すっかり真人間になったピーマン王子がおじゃるを諫めていたよ。
 ペピーノ姉ちゃんがキレる前に…。

 ペピーノ姉ちゃん、ピーマン王子の言葉にうんうんと満足そうに頷いてて。
 おじゃるの言葉を聞いた時の苛立ちの様子はすっかり消えていたよ。
 
「殿下がそう仰せになるのなら…。
 麿としても、これ以上は何も言えないでおじゃる。
 トホホ…。」

 おじゃるの奴、心では納得しないようだけどピーマン王子に従うことにしたみたいなの。

        **********

 そして、その日最初の作業。

「よし、おまえ等、今日は仮設の飯場を建てちまうぞ。
 もたもたしてると、魔物が闊歩する草原で野宿になるからな。
 さっさと建てちまうぞ。」

 ピーマン王子とその取り巻き達に指示を出したのは何故か料理長…。
 今はまだお昼前だけど、夕暮れまでに仮設の建物を建てると息巻いてたよ。

「麿達だけで、これだけの人数が雨風を凌げる建物を建てるでおじゃるか。
 それも今日中に?
 無茶を言うのもいい加減にするでおじゃる。」

 命知らずにも、おじゃるは武闘派の料理長に食って掛かったよ。
 まだお昼前だけど、流石に百人以上の人員が寝泊まりできる広さの建物を一日で建てろと言われるとは思わなかったみたいね。

 ゴチン!

 口より手が先に出る料理長は、おじゃるの脳天に拳骨を落とすと資材置き場を指差し。 
 
「バカ野郎! 口答えするんじゃねえ!
 文句言ってる暇があったら、体を動かさねえか!」

 さっさと作業に取り掛かれとハッパを掛けてた。

「余は建物を建てるのは初めてなのだが。
 仮設とは言え、そう簡単に建てられるものであるか?
 建てながら指導して戴けるのであるか?」

 いきなりおじゃるに鉄拳制裁を加えた料理長に、ピーマン王子はやや怯えた様子でそんなことを尋ねたの。

「まあ、一応、建て方が分らなければ指導はするが…。
 取り敢えず、資材置き場に行ってみろ。
 素人でも百人もいれば何とかなるはずだから。」

 料理長は説明するのを面倒臭そうにしてそんな指示を出したの。
 鉄拳制裁を恐れたピーマン王子はそれ以上尋ねることなく、指示通り資材置き場に向かってたよ。

 資材置き場と言っても、おいらの『積載庫』に入れてきた資材を用途別に分けて積み上げただけの場所。
 資材置き場に行くと、その一画にいつの間にか『仮設建物用資材』と記された看板が立てられてた。

 そこで待ち構えていた技師のおじさんが一人一人に何やら冊子を配布してたよ。
 さほど厚くないけど、一枚一枚がとても大きな紙で綴られた冊子だった。
 
 おいらも一冊貰って、ペピーノ姉ちゃんと一緒に見ることにしたよ。

「設計図?」

 表紙を捲るとペピーノ姉ちゃんが尋ねてきたの。
 そこには建物の全体図が、正面、側面、上方の三方向から描かれてた。
 そして、次のページ以降、部分ごとに組み立て方が記されている。

「そう、設計図。
 予め材木が加工されていて、部品ごとに番号が振ってあるの。
 更に接合部分にも記号が振ってあるから、同じ記号の部分をはめ込むの。
 指定された番号の部品の同士を組み合わせれば誰でも簡単に組み立てられるんだ。」

「現場ですぐに建てられるように予め建材を加工してあるのね。
 ここにある二番の柱と三番の柱にそれぞれiと記された凸凹があるから…。
 こう、はめ込んで二本の柱を繋ぐ訳なんだ。」

「そうそう、設計図を通りに部品を組めば良いから簡単でしょう。
 仮設建物くらいなら、あっと言う間に出来るそうだよ。」

 以前、所長から教えてもらったことを説明すると、ペピーノ姉ちゃんは感心した様子で。

「良く出来ているわね。
 これなら熟練の大工さんじゃなくても建てられそう。
 これ考えた人は凄いと思うわ。」

 もっとも仮設じゃなくてちゃんとした建物を造るとなると、基礎を造るのは素人じゃ無理なんだけどね。
 だから専門の技師が来てもらっているんだもの。

「そうかな?
 でも、タロウの故郷じゃ、サルでも考えつくらしいよ。」

 前回、一緒に所長の話を聞いた時にタロウが言ってたんだ。
 プレハブ住宅みたいだなとか言った後で、ニッポンって国の昔話をしてくれたの。

「サルって、あの山にいるおサルさん?
 木材を加工するなんて器用なサルがいるの?」

「うん、タロウが生まれる四百年くらい前にサルがやってたらしいよ。
 なんでも川の上流にある森で、サルが木を加工して川に流したんだって。
 下流でそれを引き上げて、建てたい場所に一晩で建物を建てたそうなの。」

 おいらもなんの冗談かと思ったけど、タロウが余りにマジ顔で言うもんだから突っ込めなかったんだ。
 こうして予め加工しておけばサルでも簡単に建てられるって例え話だと、おいらは理解したんだけどね。

 まあ、サルでも簡単に建てられるのなら、連中にだって出来ると思うんだ。
 まさか連中がサルにも劣るってことは無いよね…。
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