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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第740話 ウニアール国でもナイショなんだって…

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 無事に一月の冒険者研修を乗り切ったピーマン王子とその取り巻き達。
 連中を慰労するために、おいらは公衆浴場を貸し切ったんだ。

 連中、男ばかりなので、おいらとペピーノ姉ちゃんは空いている女湯に浸かっていたの。
 豊富な湯量の大浴場に驚きを隠せない様子のペピーノ姉ちゃん。
 お湯の出所を尋ねられたものだから、元は海水だと答えたら細い目をまん丸にしたよ。
 おいら、ペピーノ姉ちゃんが目を見開く姿を始めてみたけど、それほどの驚きだったらしい。

 ペピーノ姉ちゃんは手のひらにすくった湯船のお湯を一舐めすると。

「間違いなく真水ですね…。
 これだけの量の真水をどうやって海水から作っているのですか?」

 そこでおいらは自分が拙いことを言ったと気付いたんだ。
 おいら、今までアルトから授かった『妖精さんの不思議空間』で作っていると周囲に説明して来たけど。
 それは周囲の人が妖精さんの事を余り知らないから通じた言い訳なんだ。
 妖精に関する伝承で、理屈では説明できない不思議なことが色々伝わっているからね。
 妖精の力なら説明がつかなくても仕方が無いと、誰もが納得してくれるんだ。
 
 その点、ペピーノ姉ちゃんは幼少の時から妖精のイチゲさんが教育係として付いているからね。
 妖精さんが『不思議空間』を渡すはずなど無いと知っているし。
 何なら、『積載庫』という名称はともかく、実は『不思議空間』がスキルだと知らされているかもしれない。
 その上で、『積載庫』がどんなスキルの実から取得できるかは教えられて無いのだと思う。
 おいらが、スキル『積載庫』を取得していて、その機能を使えば海水から無尽蔵に真水を取り出せると知れば。
 きっと、どうやってスキルを取得したのかを、ペピーノ姉ちゃんは尋ねてくると思う。

 おいら、どう答えたら良いものかと困った。
 アルトの話では、積載庫のスキルを持つ人は二人しかいないだろうとのことだし。
 スキルの取得方法は絶対に他人に漏らすなと、アルトから固く口止めされているからね。
 
 すると、ペピーノ姉ちゃんの疑問に答えたのは意外な人(?)だった。
 誰あろうアルトやアネモネさんと一緒に湯船のお湯に浮かんでいたイチゲさん。
 
「マロンちゃん、『不思議空間』を持っているそうよ。
 『不思議空間』の機能を使って海水を塩と真水に分離してるみたい。」

 イチゲさんは事実をありのままに答えちゃったんだ。
 それを聞いたペピーノ姉ちゃんは珍しくヘソを曲げた様子で…。

「何それ。
 以前、イチゲちゃんにあの空間の取得方法を尋ねたら。
 確か、あれは妖精の掟で絶対に人には教えないって言ってたでしょう。
 アルトちゃんは、マロンちゃんに教えちゃったの?
 それって、ズルい。なら、私も教えて欲しいわ。」

 まあ、当然そう言うよね。
 でも、ウニアール国の妖精さん達も『積載庫』のことは禁句にしてるんだね。

 すると、今度はアルトが言ったの。

「あら、私は何一つ教えていないわよ。
 というより、知らないうちにマロンが修得してて驚かされたもの。」

 まあ嘘は言ってないね、おいらには一言も教えてくれなかったから。
 スフレ姉ちゃんには、無理やり取得させてたけど…。

「ねえマロンちゃん、それ、本当なの?」

「うん、本当に偶然だったんだ。」

 ペンネ姉ちゃんの問い掛けに答えると。

「ほら、ごらんなさい。
 マロンちゃんは独力で『不思議空間』を手に入れたそうよ。
 私は常々言ってるでしょう。
 この能力が欲しければ、自分で探求しなさいと。
 私達妖精は教えはしないけど、邪魔はしないから。
 何事も探求心が大事よ。」

 どうやら、イチゲさんは一度ならず何度も『積載庫』の取得方法を尋ねられている様子だったよ。

「そっか、独力で辿り着いたなら仕方ないわね。
 どうせ、アルトちゃんから他言無用と口止めされているんでしょう。」

「うん、他人に話したらダメって。
 だから周りの人には、アルトから授かった妖精の持つ不思議な力だと説明してるの。
 妖精から授かったと言っとけば、誰も深く突っ込まないからね。」

「でも、あのスキルって、スキル全書に記載が無いのよね。」

 何か、また初めて耳にする言葉が出てきたよ。

「スキル全書って?」

「ああ、スキルについて解説した書物よ。
 図書館に収蔵されているわ。
 この国にもあるでしょう。
 三つ目の試練を突破した第四層に収蔵されてる。」

 スキルはかなり強力なものもあるから、悪用されないように閲覧できる人を制限しているんだって。
 三つの試練をクリアした先、一般の人が閲覧できる最上階に置かれているそうだよ。
 だから、その本の存在を知る人はほんの一握りみたい。

「そっか、だとしたら最終試練を突破した先。
 禁断書庫まで辿り着かないと、『不思議空間』の秘密は解き明かせないのかしら。」

 そんな独り言を呟くペピーノ姉ちゃん。
 いや、そんな大そうなものじゃないよ。
 飢えて、そこらに落ちているモノを拾い食いした結果だもの。
 現時点で、『積載庫』にまで至った人間二人ともね。

             **********

 イチゲさんのおかげで、なんとかペピーノ姉ちゃんを納得させることもでき。
 お風呂を上がると、今度は二階のレストランにやって来たよ。

「美味しいでおじゃる。
 研修施設の食事も中々であったでおじゃるが。
 ここの食事は輪を掛けて美味いでおじゃる。」

 レストランに入ると、一月の間摂食を強いられたおじゃるがここぞとばかり料理を頬張っていたよ。
 今日は夜の閉店時間まで飲み放題、食べ放題にしたんだけど。
 おじゃるの奴、テーブルの上にズラリと料理を並べて一心不乱にかき込んでるの。

「あら、あら、あの豚ったらはしたない…。
 少しは貴族らしく、品の良いところを見せられないのかしら。
 だいたい、あんなに食べたら、リバウンドが酷そうだわ。
 せっかく痩せたのに。」

 ペピーノ姉ちゃんったら、おじゃるを豚と言い切ったよ。
 まあ、実際、いつも豚を見るような目でおじゃるを見てたからね。

「たぶん、今日一日くらいなら暴飲暴食をしても大丈夫だよ。
 次の研修に移ったら、冒険者研修以上に体を動かすことになるから。
 食べて憂さが張れるなら、好きなだけ食べさせてあげて。」

 おじゃるは食べて寝ての生活が、一番気が休まるようだからね。
 今日は明日からの研修に備えて英気を養ってもらうのが目的だから好きにさせれば良いよ。
 仮にリバウンドがあっても、あの料理長に絞られれば数日で痩せるだろうし…。

 意地汚く料理を貪るおじゃるを後目に、公演会場に足を運ぶと。
 ご機嫌な様子のピーマン王子がいたよ。

「おお、ここは中々良い施設だな。
 広いお風呂にのんびりと浸かって、気分が晴れたぞ。
 それにここの演奏会は良いな。
 我が国の音楽堂の公演は堅苦し過ぎていかん。
 その点、ここでの演奏は気楽に聴けるのが良い。」

 ピーマン王子にとって公演というのは、オーケストラによる演奏とか歌劇を示すものらしい。
 なんでも王侯貴族にとって公演会とは正装をして聴きに行くものだとか。
 どうやら、普段着で楽しむことが出来る大衆音楽のコンサートが気に入ったみたいだよ。

「前に、マイナイ領での肉祭りで野外コンサートをしてたでしょう。
 あれ、普段はこの公演会場でしているんだ。
 内容を変えてほぼ毎日ね。
 街の人が気軽に楽しめるように、観覧料も割安なんだよ。」

「あら、それは良いわね。
 うちの国では、音楽とか演劇とかは貴族の娯楽なのよ。
 観覧料も高いし、入場するにもドレスコードがあって。
 こんなに気軽に楽しめる場所じゃ無いの。」

 おいらの答えを聞いたペピーノ姉ちゃんは、今度ウニアール国でも大衆向けの娯楽施設を造ろうかなんて言ってたよ。
 因みに、大衆にとって音楽ってのは酒場や飯屋で聴くもので、他に娯楽と言えば街角の大道芸くらいだって。

 まあ、そんな感じで、ピーマン王子とその取り巻き達は一日の休みを堪能してくれたみたいだった。
 そしてその翌日、一行は土木工事の実習のために辺境へ向かうことになったんだ。 
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