ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
740 / 848
第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第740話 ウニアール国でもナイショなんだって…

しおりを挟む
 無事に一月の冒険者研修を乗り切ったピーマン王子とその取り巻き達。
 連中を慰労するために、おいらは公衆浴場を貸し切ったんだ。

 連中、男ばかりなので、おいらとペピーノ姉ちゃんは空いている女湯に浸かっていたの。
 豊富な湯量の大浴場に驚きを隠せない様子のペピーノ姉ちゃん。
 お湯の出所を尋ねられたものだから、元は海水だと答えたら細い目をまん丸にしたよ。
 おいら、ペピーノ姉ちゃんが目を見開く姿を始めてみたけど、それほどの驚きだったらしい。

 ペピーノ姉ちゃんは手のひらにすくった湯船のお湯を一舐めすると。

「間違いなく真水ですね…。
 これだけの量の真水をどうやって海水から作っているのですか?」

 そこでおいらは自分が拙いことを言ったと気付いたんだ。
 おいら、今までアルトから授かった『妖精さんの不思議空間』で作っていると周囲に説明して来たけど。
 それは周囲の人が妖精さんの事を余り知らないから通じた言い訳なんだ。
 妖精に関する伝承で、理屈では説明できない不思議なことが色々伝わっているからね。
 妖精の力なら説明がつかなくても仕方が無いと、誰もが納得してくれるんだ。
 
 その点、ペピーノ姉ちゃんは幼少の時から妖精のイチゲさんが教育係として付いているからね。
 妖精さんが『不思議空間』を渡すはずなど無いと知っているし。
 何なら、『積載庫』という名称はともかく、実は『不思議空間』がスキルだと知らされているかもしれない。
 その上で、『積載庫』がどんなスキルの実から取得できるかは教えられて無いのだと思う。
 おいらが、スキル『積載庫』を取得していて、その機能を使えば海水から無尽蔵に真水を取り出せると知れば。
 きっと、どうやってスキルを取得したのかを、ペピーノ姉ちゃんは尋ねてくると思う。

 おいら、どう答えたら良いものかと困った。
 アルトの話では、積載庫のスキルを持つ人は二人しかいないだろうとのことだし。
 スキルの取得方法は絶対に他人に漏らすなと、アルトから固く口止めされているからね。
 
 すると、ペピーノ姉ちゃんの疑問に答えたのは意外な人(?)だった。
 誰あろうアルトやアネモネさんと一緒に湯船のお湯に浮かんでいたイチゲさん。
 
「マロンちゃん、『不思議空間』を持っているそうよ。
 『不思議空間』の機能を使って海水を塩と真水に分離してるみたい。」

 イチゲさんは事実をありのままに答えちゃったんだ。
 それを聞いたペピーノ姉ちゃんは珍しくヘソを曲げた様子で…。

「何それ。
 以前、イチゲちゃんにあの空間の取得方法を尋ねたら。
 確か、あれは妖精の掟で絶対に人には教えないって言ってたでしょう。
 アルトちゃんは、マロンちゃんに教えちゃったの?
 それって、ズルい。なら、私も教えて欲しいわ。」

 まあ、当然そう言うよね。
 でも、ウニアール国の妖精さん達も『積載庫』のことは禁句にしてるんだね。

 すると、今度はアルトが言ったの。

「あら、私は何一つ教えていないわよ。
 というより、知らないうちにマロンが修得してて驚かされたもの。」

 まあ嘘は言ってないね、おいらには一言も教えてくれなかったから。
 スフレ姉ちゃんには、無理やり取得させてたけど…。

「ねえマロンちゃん、それ、本当なの?」

「うん、本当に偶然だったんだ。」

 ペンネ姉ちゃんの問い掛けに答えると。

「ほら、ごらんなさい。
 マロンちゃんは独力で『不思議空間』を手に入れたそうよ。
 私は常々言ってるでしょう。
 この能力が欲しければ、自分で探求しなさいと。
 私達妖精は教えはしないけど、邪魔はしないから。
 何事も探求心が大事よ。」

 どうやら、イチゲさんは一度ならず何度も『積載庫』の取得方法を尋ねられている様子だったよ。

「そっか、独力で辿り着いたなら仕方ないわね。
 どうせ、アルトちゃんから他言無用と口止めされているんでしょう。」

「うん、他人に話したらダメって。
 だから周りの人には、アルトから授かった妖精の持つ不思議な力だと説明してるの。
 妖精から授かったと言っとけば、誰も深く突っ込まないからね。」

「でも、あのスキルって、スキル全書に記載が無いのよね。」

 何か、また初めて耳にする言葉が出てきたよ。

「スキル全書って?」

「ああ、スキルについて解説した書物よ。
 図書館に収蔵されているわ。
 この国にもあるでしょう。
 三つ目の試練を突破した第四層に収蔵されてる。」

 スキルはかなり強力なものもあるから、悪用されないように閲覧できる人を制限しているんだって。
 三つの試練をクリアした先、一般の人が閲覧できる最上階に置かれているそうだよ。
 だから、その本の存在を知る人はほんの一握りみたい。

「そっか、だとしたら最終試練を突破した先。
 禁断書庫まで辿り着かないと、『不思議空間』の秘密は解き明かせないのかしら。」

 そんな独り言を呟くペピーノ姉ちゃん。
 いや、そんな大そうなものじゃないよ。
 飢えて、そこらに落ちているモノを拾い食いした結果だもの。
 現時点で、『積載庫』にまで至った人間二人ともね。

             **********

 イチゲさんのおかげで、なんとかペピーノ姉ちゃんを納得させることもでき。
 お風呂を上がると、今度は二階のレストランにやって来たよ。

「美味しいでおじゃる。
 研修施設の食事も中々であったでおじゃるが。
 ここの食事は輪を掛けて美味いでおじゃる。」

 レストランに入ると、一月の間摂食を強いられたおじゃるがここぞとばかり料理を頬張っていたよ。
 今日は夜の閉店時間まで飲み放題、食べ放題にしたんだけど。
 おじゃるの奴、テーブルの上にズラリと料理を並べて一心不乱にかき込んでるの。

「あら、あら、あの豚ったらはしたない…。
 少しは貴族らしく、品の良いところを見せられないのかしら。
 だいたい、あんなに食べたら、リバウンドが酷そうだわ。
 せっかく痩せたのに。」

 ペピーノ姉ちゃんったら、おじゃるを豚と言い切ったよ。
 まあ、実際、いつも豚を見るような目でおじゃるを見てたからね。

「たぶん、今日一日くらいなら暴飲暴食をしても大丈夫だよ。
 次の研修に移ったら、冒険者研修以上に体を動かすことになるから。
 食べて憂さが張れるなら、好きなだけ食べさせてあげて。」

 おじゃるは食べて寝ての生活が、一番気が休まるようだからね。
 今日は明日からの研修に備えて英気を養ってもらうのが目的だから好きにさせれば良いよ。
 仮にリバウンドがあっても、あの料理長に絞られれば数日で痩せるだろうし…。

 意地汚く料理を貪るおじゃるを後目に、公演会場に足を運ぶと。
 ご機嫌な様子のピーマン王子がいたよ。

「おお、ここは中々良い施設だな。
 広いお風呂にのんびりと浸かって、気分が晴れたぞ。
 それにここの演奏会は良いな。
 我が国の音楽堂の公演は堅苦し過ぎていかん。
 その点、ここでの演奏は気楽に聴けるのが良い。」

 ピーマン王子にとって公演というのは、オーケストラによる演奏とか歌劇を示すものらしい。
 なんでも王侯貴族にとって公演会とは正装をして聴きに行くものだとか。
 どうやら、普段着で楽しむことが出来る大衆音楽のコンサートが気に入ったみたいだよ。

「前に、マイナイ領での肉祭りで野外コンサートをしてたでしょう。
 あれ、普段はこの公演会場でしているんだ。
 内容を変えてほぼ毎日ね。
 街の人が気軽に楽しめるように、観覧料も割安なんだよ。」

「あら、それは良いわね。
 うちの国では、音楽とか演劇とかは貴族の娯楽なのよ。
 観覧料も高いし、入場するにもドレスコードがあって。
 こんなに気軽に楽しめる場所じゃ無いの。」

 おいらの答えを聞いたペピーノ姉ちゃんは、今度ウニアール国でも大衆向けの娯楽施設を造ろうかなんて言ってたよ。
 因みに、大衆にとって音楽ってのは酒場や飯屋で聴くもので、他に娯楽と言えば街角の大道芸くらいだって。

 まあ、そんな感じで、ピーマン王子とその取り巻き達は一日の休みを堪能してくれたみたいだった。
 そしてその翌日、一行は土木工事の実習のために辺境へ向かうことになったんだ。 
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...