ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第736話 こんな厳しい父ちゃん、初めて見た…

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 冒険者研修の内容に不平不満をこぼしていたおじゃることゴマスリー。
 その不真面目な様子を見たペピーノ姉ちゃんが激怒して、おじゃるを葬り去ろうとしたんだ。
 無理やり口を開かせて、そこに剣先を突き立てようとしてたの。
 脳まで一気に貫いて、苦しむ間もなく逝かせてやるって。

「ふが、ふが…。」

 涙目で何かを訴えるおじゃるだけど、無理やり開口させられているので何を言っているのか分からないよ。

「あら、あら、困ったおバカさんね。
 そんなに暴れると手元が狂うと言ってるでしょう。
 一息に逝けないと、無駄に苦しむだけよ。」

 見た目笑顔のまま、そんな無茶を言うペピーノ姉ちゃん。
 その表情とおっとりとした口調からは、今まさに人を殺めるところだなんてとても思えないけど…。
 ペピーノ姉ちゃんは殺る気満々みたいだよ。

 ガチ、ガチ。

 剣を必死に噛んで口内への侵入を阻止しようとするおじゃる。
 涙だけじゃなく、涎やら、鼻水やらを垂れ流して酷いことになってる。

「ちょっと待って。」

 仕方が無いので、おいらは止めに入ることにしたよ。

「止めないでくださいませ。
 せっかくマロンちゃんが更生の機会を与えてくださったのに。
 今もって、このような醜態を晒すなど見るに耐えませんわ。
 更生の見込み無しとして、抹消します。」

 尚も、口内へ剣を押し込もうとペピーノ姉ちゃん。
 おじゃるが醜態を晒すのは毎度のことだから、今更そんなにムキにならなくても良いのに。

「落ち着いてよ。
 四ヶ月おいらが預かるって約束じゃない。
 まだ、たったの十日だよ。
 今までだって矯正に時間が掛かる者がいたんだ。
 せめて一月の研修が終わるまでは耐えてよ。」

 軽犯罪でここに送ったならず者の中には、馴らすのに時間が掛かった者も居たみたいだからね。
 そんな輩だって、研修所を出る時には借りて来た猫みたいに大人しくなってたもの。
 父ちゃんが全員の矯正具合に目を光らせているはずだから、十日やそこらで慌てなくても大丈夫だと思うんだ。

 おいらがペピーノ姉ちゃんを説得していると。

「ふが、ふが…。」

 おじゃるが何か言いながら、必死に首を縦に振ってたよ。
 どうやら、おいらの言葉に同調してこれからは真面目にやるとでも言っている様子だった。
 なんでもいいけど、こいつ、剣を咥えたまま首を振るもんだから口元が切れて血が流れてるの。

 おいらと向き合ったペピーノ姉ちゃんは小さく溜息を吐くと。

「醜態を晒しまして申し訳ございませんでした。
 こ奴が、マロンちゃんのご厚意を全然理解して無いのを目の当たりにし。
 つい、短気を起こしてしまいました。」

 そう言いながら、おじゃるの口から引き抜いた剣を鞘に納めてくれたよ。

「怖かったでおじゃる。
 もう死んだと思ったでおじゃるよ。」

 そんな泣き言を漏らすおじゃるをペピーノ姉ちゃんはキッと睨み…。
 いや、相変わらずの垂れ目糸目で笑っているように見えるけど、雰囲気から多分睨んでるのだと思う。

「勘違いしないでくださいね。
 あなたの処刑は四ヶ月後に先延ばしになっただけですから。
 その命、長らえたくば、今他の者より出遅れている分死ぬ気で精進なさい。」

「分かったでおじゃるよ…。
 明日から本気出すでおじゃる…。」

 不承不承といって雰囲気で、ペピーノ姉ちゃんに返答したおじゃる。
 こいつ、口では何度も反省するような事を言ってるけど、全然態度が改まらないよね。

 それを聞いたペピーノ姉ちゃんは、再び剣を抜くと切っ先をおじゃるの首に突きつけ。

「本気出すのは明日からではなく、今、この時からです。
 先ずは朝の掃除に精進なさい。
 これからはあなたを中心に監視することにしますから。
 努々、一つ一つの研修に手を抜かないように。」

 おじゃるを脅したんだ。ペピーノ姉ちゃんには『明日から本気だす』は通じなかったみたい。
 ペピーノ姉ちゃんは都合が付けば出来る限り研修の様子を監視しに来ると告げ。
 更に、アネモネさんに指示していたよ、自分が監視に行けない時はおじゃるから目を離すなって。

「ええ、分ったわ。
 今日からしばらく、ゴマスリーを中心に監視しとく。
 ピーマンの方は、余り心配しないでも良さそうだしね。
 少しでもサボろうものなら電撃を食らわせてあげるわ。」

 アネモネさんの本来の役目はピーマン王子の指導監視なのだけど、ピーマン王子は大分更生の兆しが見えてきたからね。
 多少、監視の目を緩めても問題なさそうだと、おいらも思うよ。  

             **********

 そして、早速、朝の清掃作業。

「よりによって今朝はドブ攫いでおじゃるか。
 怖いお目付けが居てサボれないでおじゃる…。」

 そんな愚痴をこぼしながら、広場の側溝の掃除をするおじゃる。
 側溝の脇に立って嫌々底を攫うおじゃるは、溜まった汚泥を全然攫えていないの。

 すると、ペピーノ姉ちゃんはツカツカとおじゃるの背後に近寄り…。

「何をちんたらやっているのかしら?
 その位置からじゃ、きちんと掃除出来ないでしょう。」

 そんな声を掛けるとおじゃるの背中を蹴って側溝に突き落としたよ。

「ほら、そこで腰を入れて底を掬うの。
 そうすれば溜まった汚泥を効率的に攫えるでしょう。」

「ううっ、汚いでおじゃる。臭いでおじゃる。」

 おじゃるは膝まで汚水に使って泣き言を口にするけど。

「不平不満を言う前に手を動かしなさい。
 ピーマンだって、やっていることよ。」

 ペピーノ姉ちゃんの指差す先では、ピーマン王子がズボンのすそを膝まで捲り上げて側溝に入りせっせと汚泥を掬ってた。

「殿下…。
 一国の王子がドブ攫いとは…。
 嘆かわしいでおじゃる。」

「そなたはまだわからぬのか?
 余の王子の身分など、既に無いに等しいのだぞ。
 そなただって、領地開拓に成功せぬ限りは貴族に留まることは出来ぬのだ。
 いや、そなたの場合、真面目にせねば命すら危ぶまれるのに。
 不平不満など口にしている場合では無かろうが。
 ほら、さっさと手を動かすのだ。」

 今まで盟主と担いで来たピーマン王子にまで諫められて、おじゃるはシュンとしちゃった。
 そしてようやく観念したのか、黙って側溝の汚泥を攫い始めたの。

「あまり態度は良くありませんが。
 取り敢えずは真面目に働くことにしたようですね。
 こうして監視の目があるからでしょうけど。」

 取り敢えずは真面目にドブ攫いを始めたおじゃるを見て、ペピーノ姉ちゃんは満足そうだったよ。
 監視の目が無くなれば、またすぐにサボるだろうとは言ってたけどね。

 そして、その日の午後、単独でのウサギ狩り実習二日目。

 初日にウサギ狩りを失敗したのはおじゃるだけらしい。
 他の連中は皆散り散りになって、見つけた巣穴でウサギを狩っていたよ。
 二日目ともなると慣れてきたようで、手際良く罠を仕掛けては難無くウサギを仕留めてた。

 でも…。

「そうじゃないだろう。
 その手前、きちんと固定しないと罠が外れちまうぞ。
 それじゃ、ウサギを拘束できないだろうが。」

 おじゃるが張った罠を見て、父ちゃんが悪い点を指摘してた。

「こうでおじゃるか?
 トホホ、細かい作業は面倒でおじゃる。
 昼食の後に力仕事なんてかなわないでおじゃる。
 本来なら、ゆっくりと午睡を取る時間でおじゃるのに…。」

 そんな愚痴を零しながら、おじゃるは罠を修正してたんだけど。

「マロンちゃん、あれ、ちゃんと固定できているかしら?
 わたくしには全然修正されたようには見えないのですけど。」

 おじゃると違い、ペピーノ姉ちゃんは父ちゃんの説明を一度聴いただけで要点を理解したみたい。

「うん、多分、あれじゃウサギに突破されるね。」

 おいらも小さな頃から父ちゃんが罠を使うのを見てきたからね。
 あれじゃダメなことくらいは分かるんだ。

 案の定、父ちゃんは渋い顔をしていたよ。
 もう一度やり直しさせるのかと思っていると…。

「ふむ、お前はそれで良いと思っているのか?」

「もちろんなのじゃ。
 言われた通りに固定し直したのじゃ。」

 父ちゃんの問い掛けに自信満々で答えるおじゃる。
 父ちゃんは一瞬呆れた表情を見せて。

「そうか、そう思うのならやってみるが良い。」

 実際に狩りをして見ろと石ころを渡したの。
 どうやら、父ちゃんはもう一度痛い目を見た方が良いと判断したみたいだね。

「よし、今度こそ、ウサギなどに遅れは取らんのじゃ。」

 そんな強気なセリフを吐いて巣穴に石を投げ込むおじゃる。
 
 そして…。

「痛いのじゃ…。
 麿はもう死んでしまうのじゃ。」

 ものの見事に罠を突破されて、太股に噛み付かれていたよ。
 おじゃるは大腿筋をざっくりと噛み千切られてドクドクと血を流してた。

「ほら、言わんこっちゃない。
 ちゃんと指示通りの手順で設置しないとダメだろうが。
 怪我が治ったらもう一度説明するぞ。
 今日は単独狩りに成功するまで、お前一人を徹底的に指導するからな。」

 患部に『妖精の泉』の水を掛けながら、おじゃるに対してそんな宣言をした父ちゃん。
 おじゃるの奴、いくら怪我をしても開放されないと知り絶望した様子だったよ。

 おじゃるの傷が塞がると、懇切丁寧に罠を設置して見せる父ちゃん。
 一方、それを聴くおじゃるは何処か上の空で真剣味に掛けるように見えたんだ。

 で、新たな巣穴を探して実際に設置してみるおじゃる。

「痛いのじゃ、助けるのじゃ!」

 今度は腕に噛み付かれて、助けを求めてた。

「ほら、真面目に聞いてないからだ。
 さっきも言ったが、今日はウサギ狩りに成功するまで続けるぞ。
 たとえ何度怪我をしてもな。」

 口で説明しても理解しない奴だと判断したのか、こんな厳しい指導をする父ちゃんは初めて見た。。

 そして、怪我をすること五回。そろそろお日様が沈もうかという頃。

「やったでおじゃる!
 麿はウサギ狩りを成し遂げたでおじゃるよ。」

 やっと罠が正常に作動して、おじゃるは無事ウサギを仕留めたんだ。
 さすがに父ちゃんの説明も六回目ともなれば、多少いい加減に聴いていても要領を掴めたみたい。

 無邪気に喜ぶおじゃるを見て、ペンネ姉ちゃんは呆れてたよ。
 普通の人が一度でマスターするウサギ狩りを前日を含めて六回も失敗するんだもん。

「ふむ、まあ、日没までには何とかなったか。
 それじゃ、コツを忘れないうちに、あと一回狩って終わりにしよう。」

 おじゃるはヘトヘトに疲れていた様子で、父ちゃんの無情なもう一度宣告に泣きそうな顔をしてたよ。 

 まあ、これ以上やらされてはかなわんと、おじゃるも真剣になっていたので次の一回も成功したけどね。
 単独ウサギ狩り実習を全員クリアした憂国騎士団の連中は、翌日からトレント狩りに挑むことになったんだ。
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