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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第733話 とても同一人物とは思えないよ…

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 草原で魔物のウサギを手懐けて上機嫌なペピーノ姉ちゃん。

「あなたの名前はウサミちゃんにしましょう。
 これからよろしくね、ウサミちゃん。」

 とか言いながら、ウサギに騎乗しようとしたの。

「待って、直ぐにウサギに乗ると多分酷い目に遭うよ。
 主に内股とか。
 アネモネさんか、イチゲさんにビリビリを掛けてもらって。」

「?」

 今まさにウサギに跨ろうしていたペピーノ姉ちゃんは、頭の上に疑問符を浮かべたような顔をしておいらを見てたの。
 おいらの忠告の理由に思い至らなかったみたい。

「野生のウサギには、ノミやらダニやらが沢山居るんだって。
 スカートなんかで跨ろうものなら、どうなることやら。」

 おいらの言葉を聞いた途端、ペピーノ姉ちゃんはサッとウサギから距離をとったよ。 
 
「危ないところだった…。
 マロンちゃん、有り難う。
 そんな虫がいるだなんて、想像するだけでも悍ましいわ。
 イチゲちゃん、お願いしても良いかしら?」

 さっきのウサギから離れた動きを見ると相当焦っていたようなんだけど。
 そのおっとりとした口調からは全然そんな様子を窺うことは出来なかったよ。
 
「ペピーノ、あなた、少し迂闊だったわよ。
 野生動物にノミやダニは付き物なのだから。
 マロンちゃんに言われる前に気付かないと。」

 イチゲさんはノミやダニの存在に気付いてたみたいだね。

「イチゲちゃん、知ってて教えてくれなかったの?」

「当たり前でしょう。
 何でも助けてもらえると思ったら大間違いよ。
 あなた、何でもそつなくこなすから。
 たまには失敗した方が良いかと思って言わなかったの。
 油断大敵って言葉を身をもって学べる良い機会でしょう。」

 するとイチゲさんは即座に要望に応えるのでは無く、先ずはペピーノ姉ちゃんを諫めたの。
 イチゲさんって、結構厳しい指導をする妖精さんみたいだね。

「もう、イチゲちゃんたらいけずなんだから…。
 ウサミちゃんを手懐けて嬉しかったから、つい油断しちゃったの。
 反省するから、虫の駆除、お願い。」

 イチゲさんの指摘に素直に反省の言葉を口にしたペピーノ姉ちゃん。 
 もっとも相変わらずの笑顔で、その表情からは本当に反省しているかは読み取れないけど。

「はい、はい、軽く電撃を当てて虫を殺せば良いのね。」

 イチゲさんはそう言うとウサギに向かって軽いビリビリを数回放っていたよ。
 どうやら、ペピーノ姉ちゃんの返答に満足したらしい。

 やがてイチゲさんの電撃が終わると、ペピーノ姉ちゃんは嬉しそうにウサギに乗っていたよ。

         **********

 朝の掃除と草原でのウサギ狩り。
 ピーマン王子とその取り巻きが真面目に取り組む様子を目にして、ペピーノ姉ちゃんはとても満足そうだった。
 もちろん、常に微笑んでいるように見える糸目のせいで、表情からそれを読み取ることは出来ないけど。

「五日間でこんなに矯正が進んでいるなら。
 四ヶ月後に何処まで真人間になっているか楽しみですわ。」

 そんな感想を口にしていたから、連中の更生具合に満足してもらえたのだと思うの。
 
 連中の矯正が進んでいるのが確認でき、可愛い乗り物も手に入れたペピーノ姉ちゃんは上機嫌で王都へ戻って来たんだ。
 街往く人の迷惑にならないよう、ゆっくりとウサギを進ませていると。

「わぁー、まろんしゃまだー!」

 そんな歓声を上げながら見知った幼い女の子がよちよち歩きで近付いて、ひしっとおいらが乗るウサギに抱きついたの。
 おいらが騎乗するバニーも慣れたもので、いきなり飛びつかれてもちっとも暴れなかった。

「なに? また、バニーに乗りたいの?」

「うん、ウサギさんにのゆの乗るの。」

 目を輝かせてウサギに乗りたいと主張する少女。
 バニーをしゃがませておいらが手を差し伸べると、少女はおいらの手をとってよじ登って来たよ。
 おいらは少女を抱きかかえるように前に座らせて、いつも通り中央広場を一周したんだ。

 ゆっくりと広場を一周してくると、そこには順番待ちの子供達が集まっていたよ。
 それもいつものことで、一人乗せてあげるとそれを見た子供達が自分もと集まって来るんだ。
 最初の頃は畏れ多いと言って、親御さんが子供達を制止していたんだけど。
 毎日のようにしていたら慣れっこになって、最近は止めることも無くなったよ。

 いつでもタルト達護衛の騎士が手分けをして一緒に子供達を乗せてあげるのだけど。
 どうしてもおいらと一緒に乗りたいと言う子供達が居て順番待ちが出来てしまうの。

「あら、あら、マロンちゃん、人気者なのね。
 可愛い子供達に慕われて羨ましいわ。」

 ペピーノ姉ちゃんも子供好きなのか、おいらと一緒にウサギに乗りたがる子供達を眺めてそんな言葉を漏らしてた。
 そして、自分もウサギに乗った初日だと言うのに、危な気なく子供を乗せて広場を回ってた。
 とても楽し気なその姿を見ると、『(百人)殺めること自体は造作もない』なんて物騒なことを言ってた人物とは思えなかったよ。

 集まっていた全員を乗せ終わり、子供達が散って行くと。

「これ良いわね。
 子供達がこんなに喜んでくれるのなら。
 今度、国に帰ったらやってみましょう。」

 そんな言葉を口にしたペピーノ姉ちゃんは細い目をいっそう細めていたよ。
 ウニアール国でも街の子供をウサギに乗せてあげたいって。

「ペピーノ姉ちゃん、子供が好きなんだ?」

「ええ、大好きよ。
 子供は国の宝だし。
 何よりも、とても可愛いでしょう。」

 とても楽しそうに答えたペピーノ姉ちゃんはおいらに向かって。

「マロンちゃんこそ、市井の子供達と気安く接するのね。
 朝、屋台で買い食いをしているのにも驚いたけど。
 マロンちゃんほど市井の民と距離の近い君主は居ないのではないかしら。」

「まあ、知ってるだろうけど、おいら、市井の育ちだからね。
 王宮の中で貴族と接しているよりも、こうして街の人と話している方が気が楽なんだ。
 それにおいらを保護してくれた妖精のアルトが教えてくれたの。
 民の言葉に耳を傾けていれさえば、国なんて案外簡単に治まるものだってね。
 だから、おいらは街の人達とコミュニケーションを取るようにしてるんだ。」

 国が乱れる時って、大概権力者が私利私欲に走って民を蔑ろした時だってアルトは言ってたけど。
 実際、ヒーナルを見たら子供のおいらにも良く理解できたよ。
 キーン一族はダメな君主のお手本みたいなものだったからね。

 おいらの答えを聞いたペピーノ姉ちゃんは、おもむろにおいらの手を取って。

「マロンちゃんとは気が合いそうですわ。
 これから、仲良くしてくださいね。
 そうだ、マロンちゃん、一度ウニアール国へもいらしてください。
 国を挙げて歓迎しますし。
 わたくしのとっておきの宝物を是非見て戴きたいと思います。」

 そのおっとり口調のテンションを少しだけ上げた感じで言っていたの。

「宝物?」

「ええ、とても素敵な宝物です。
 でもそれが何かはナイショ。
 見て戴いてのお楽しみです。」

 おいらの手を握りしめたまま、上機嫌で答えるペピーノ姉ちゃん。
 「訪問する。」と答えるまで、握った手を放さないって雰囲気だったよ。

 どうやら、おいらはペピーノ姉ちゃんにとても気に入られたみたいだった。
 まあ、ペピーノ姉ちゃんって、ウサギを一撃で気絶させる人だし、気に入られるに越したことはないね。
 『(百人)殺めること自体は造作もない』なんて言える人と敵対したら怖そうだもの…。
 
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