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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第732話 この人を怒らせてはいけないと思った…

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 さて、ピーマン王子達のグループは無難にウサギを倒して見せた訳けど。
 他のグループがどうだったかといえば、ピーマン王子達と同様にそつなくこなしていたよ。
 感心したのは、どのグループも見栄で剣を持とうとしなかったこと。
 自分達の力量を弁えたと見えて、大方の者達は槍を使ってウサギの間合いの外から攻撃してたよ。
 槍なんて雑兵が持つもので貴族の使う武器ではない、なんて言ってたのはどの口だとツッコミたいくらいに。

 ただ、どの班もピーマン王子のように一撃で仕留められる者が居なくて。
 及び腰で力が入ってないため、チクチクと手数で弱らせて倒すことになったの。
 おかげでウサギの毛皮は傷だらけになっちゃって、ほとんど商品価値が無くなってたよ。

 そんな光景を目にして。

「まあ、まあ、夢でも見ている気分です。
 真面目に朝の掃除をしている姿を見た時も、何の冗談かと思いましたが。
 あの極め付けの怠け者達が、最弱のウサギとは言え魔物狩りに挑むだなんて…。」

 ペピーノ姉ちゃんが細い目をいっそう細めて感心してたよ。

「五日前、十四、五歳の娘さん達がウサギを狩るのを見たんだ。
 そしたら、ゴマスリー達が対抗意識を出してウサギに挑んだの。
 その時、ものの見事にウサギに一蹴されてね。
 華奢な娘さん達にも及ばないことを身をもって知ったんだ。
 それで流石に自分達の無能さを理解したらしいよ。」

「あらそうでしたの。本当にお馬鹿さん達ですね。
 若い娘さん達に負けるまで、理解できないなんて…。
 まあそれでも、自分達の無能さを自覚して貰えて良かったですわ。」

「うん、それからだよ。連中の態度が目に見えて変わったの。」

「これならわたくしも手を汚さないで済みそうです。
 幾らゴミのような者達とは言え、一応人ですからね。
 やはりあやめるのは気が咎めますし。
 何より、百人も屠るのは少々疲れますから…。」

 見た目とても和やかな表情で、そんな物騒な言葉を漏らすペピーノ姉ちゃん。
 ホント、怖いよ、このお姉さん。いったい何処まで本気なんだろう…。

「ねえ、ペピーノ姉ちゃん。
 連中に更生の見込みが無ければ、本気で葬るつもりだったの?」

「もちろんですわ。
 民の安寧を妨げるような、愚かな王侯貴族を生み出さないこと。
 それが王族の大切な役割の一つですもの。
 王族や貴族の存在意義は、民が安心して暮らせる世の中を維持することですから。
 民をしいたげる王侯貴族を世に出したら、民に対する背信行為ですわ。」

「じゃあ、ペピーノ姉ちゃんは馬鹿な貴族を殺ったことがあるの?」

 聞かない方が利口かと思いつつも、思わず尋ねちゃったよ。

「幸い、今までわたくしが手を汚すことはございませんでした。
 長い歴史の中では、増長した勘違い貴族が稀に生まれたようですが。
 そういった者は、成人前に家の当主が責任をもって排除して来ましたから。」

 やっぱり世襲で権力が引き継がれる貴族制にあっては、選民意識が強い人物も出て来るそうで。
 アネモネさんが言っていた通り、そんな不穏分子は一族の当主が闇に葬って来たんだって。
 今回は隣国の女王に粗相をしたってことで、王族のペピーノ姉ちゃんが動いたらしい。

「わたくしが使節として赴くことを希望したら。
 お父様ったら、連中の処分も一任するなんて言うのです。
 更生の見込み無しと判断したら、速やかに排除しろですって。
 いくら王族の役目とは言え。
 うら若き乙女に、百人も殺めろなんて酷いことを命じますね。
 まあ、殺めること自体は造作もないことですが…。」

 見た目笑顔のペピーノ姉ちゃんは、そんな怖いことを事も無げに言ったよ。 
 そういえば、最初に会った時にペピーノ姉ちゃんは言ってたね。
 あの連中をどうやって矯正するのかとウエニアール国の幼い女王に関心があったと。
 それでこの国を訪問したいと名乗り出たら、ついでに連中の処分も押し付けられたみたい。
 大量殺戮をすることにならなくてホッとしているようだった。
 
         **********

 ピーマン王子の取り巻き約百人が全てウサギ狩りを終えるのを見届けると。

「さて、今日からしばらくこの街に滞在するとなると…。
 わたくしも移動の足があった方が便利そうですね。」

 ペピーノ姉ちゃんは不意にそんな呟きを漏らしたんだ。
 何事かと思っていると、ペピーノ姉ちゃんは足下に落ちている石ころを拾い上げたの。

 そして。

「なるべく愛らしい子が当たれば良いのですが…。
 やっぱり、男の子より、女の子の方が可愛いですよね。」

 そんな言葉と共にウサギの巣穴に石ころを投げ込んだよ。

「えっ、そんなヒラヒラなドレスでやるの?」

 不意を突かれたおいらが、咄嗟に口にしたのはそんな言葉だった。
 だって、動き難そうなドレスを着ているんだもの。とても狩りをする服装には見えないよ。

「ウキッー!」

 例によって、怒りで目を血走らせて飛び出して来たウサギ。
 ペピーノ姉ちゃんはそのウサギの突進をひらりと躱すと…。

「ゴメンなさいね。
 ちょっと痛いかも知れないけど我慢してね。」

 ウサギに対して謝罪の言葉を掛け、その横っ面に拳で強烈な一撃を入れたんだ。
 次の瞬間、信じられないことが起こったよ。
 何と、ウサギの巨体が横へ吹っ飛んだの…。

「キュ~。」

 そんな可愛らしい鳴き声を上げて地面に横たわったウサギ。

「あら、あら、可哀想に…。
 少し手加減を間違えたかしら。」

 頬に手を当て、相変わらずの笑顔でそんな呟きを漏らすペピーノ姉ちゃん。
 横たわったウサギの横にしゃがむと、寝ている人を起こすようにウサギの体を揺すったの。

「ウキュ~?」

 しばらくして意識を取り戻したウサギは、何が起こったのか理解して無い様子でそんな頼りない鳴き声を漏らしたけど。
 やがて、ペピーノ姉ちゃんを視線に捕らえると。
 襲い掛かってくるかと思いきや、丸まってブルブルと震え始めたんだ。

「よち、よち、怯えなくて大丈夫ですよ。
 良い子にしてくれたら、もう痛いことはしませんからね。」

 ペピーノ姉ちゃんが丸まったウサギの背を撫でながら優しく声を掛けると。

「ウキュキュ~?」

 ウサギは、あたかも「もうイジメない?」と問い掛けるような媚びた鳴き声を発したの。
 ペピーノ姉ちゃんにもそう聞こえたのか。

「ええ、もうイジメないから安心して。
 これから、わたくしと仲良くしてもらえるかしら?」

 丸まった背中を撫でながら、優しい声音で答えたの。

「ウキュ~!ウキュ~!」

 ペピーノ姉ちゃんに害意が無いと伝わると、ウサギは媚びた声を上げてペピーノ姉ちゃんに頬ずりし始めたよ。
 その瞬間、おいらの周囲でざわめきが起こったよ。

「信じられない…。あれほど容易く手懐けてしまうとは。」

 そんな呟きを漏らしたのは、近衛隊長のジェレ姉ちゃん。
 騎士の皆がウサギを手懐けた時は、あんな手荒なことはしてないけど結構時間が掛かったからね。

 ホント、こぶしでウサギを吹き飛ばしたのにも驚いたけど、一撃でウサギを手懐けるなんてビックリだよ。

 そして、ピーマン王子達が居る方を目を向けると、連中も怯えた表情でペピーノ姉ちゃんを見詰めてた。
 良かったね、ペピーノ姉ちゃんの拳が自分達に向けられるのを回避できて。

 これなら、『(百人)殺めること自体は造作もない』と言っていたのも納得だよ…。
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