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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…
第731話 何時でも笑顔の怖いお姉さんがやって来た…
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朝の中央広場、冒険者研修の一環で広場の掃除をしていたピーマン王子と話していると。
背後でピーマン王子の変わり様に感心する声が聞こえたの。
声に釣られて振り返ると、そこには二人の妖精さんと共に二十歳くらいのお姉さんが一人佇んでいたよ。
とても品の良いドレスをまとった、緩く波打つ金色の髪のお姉さん。
そのお姉さんは、目を細めた優し気な表情でピーマン王子を見詰めてたんだ。
「あっ、姉上が何故こちらに?」
予想はしてたけど、やっぱりピーマン王子の姉姫だったみたいだね。
すると、お姉さんはピーマン王子のすぐ傍まで移動し…。
ガツン!
「痛てぇ!」
ニコニコと優し気に目を細めたままで、マジもんの拳骨を落としたんだ。
頭を抱えてしゃがみ込むピーマン王子、相当痛かった様子でその目には涙が浮かんでいたよ。
怖いよ、このお姉さん。喜怒哀楽が表情から読み取れないんだもの。
どうやら、目を細めて微笑みを浮かべているんじゃなく、素で糸目みたいなんだ。
「何故って、アネモネちゃんから報告を受けたからに決まっているでしょう。
あなたがこの国の女王陛下に粗相をしたと聞いたから。
慌てて謝罪に駆け付けたのよ。
イチゲちゃんにも無理言って最速で飛んでもらったし。」
お姉さんは、今の一撃からは想像もつかないおっとりとした口調でピーマン王子の問いに答えたの
どうやらアネモネさんの横にいる妖精さんがイチゲさんらしい。
多分、お姉さんの教育監視係の妖精さんなんだろうね。
そして、お姉さんはおいらの正面に移動し、ドレスの裾をチョンと摘まんで軽く頭を下げると。
「お初にお目にかかります。マロン陛下で御座いますね。
わたくし、現ウニアール国王タマリロが一女ペピーノと申します。
父王の命により、名代として愚弟の無礼をお詫びに参りました。
この度は愚弟が多大なご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ございませんでした。」
丁重に自己紹介と謝罪の言葉を口にしたんだ。
「これはご丁寧にどうも。
おいら、この国の女王をしているマロンだよ。
ペピーノ殿下、ウエニアール国へようこそ。歓迎するよ。
それから、堅苦しいのは苦手だから、陛下とか付けなくても良いよ。
おいらもペピーノ姉ちゃんって呼ばせてもらうから。」
「あら、あら、本当に気さくな女王様で。
では、アネモネちゃんに倣って、マロンちゃんって呼ばせて頂きますね。
改めて、よろしくお願いしますね。」
「うん、よろしく。
でも、遠いところ、わざわざ訪ねて来てもらって悪いね。
謝罪してもらうほどのことも無かったのに。
ピーマン王子を助けたのも日課の魔物狩りのついでだし。」
むしろ、あの時ピーマン王子達に遭遇しなければベヒーモスの大量発生を見落としていたからね。
ベヒーモスのスタンピードを未然に防げたのだから御の字だよ。
「本当、まだ小さいのによくできた女王様だこと。
うちの愚弟に爪の垢を煎じて飲ませたいわ…。
ですが、命を救って頂いた分際で愚弟は暴言を吐いたそうではありませんか。
あまつさえ、マロンちゃんに剣を向けたとも聞き及んでいます。
それを聞いたら、謝罪に上がらない訳には参りませんわ。
まかり間違えば、戦争になってもおかしくない不祥事ですもの。」
子供の喧嘩より些末な出来事で戦争だなんて大袈裟な…。
それにピーマン王子が刃を向けたのは、おいらじゃなくておいらが捕獲したモモンガだもの。
おいらが間に割って入ったから、結果的においらに刃を向ける形になったけど。
それにしたって、あんなヘロヘロの剣じゃ、おいらに触れることすらできなかったし。
「まあ、本当に気にしてないから。
大袈裟な謝罪なんて要らないよ。
とは言え、遠路遥々せっかく来たんだから。
物見遊山でもして、ゆっくりしていって。」
「寛大なお言葉に感謝ですわ。
実は今回の訪問には謝罪以外の目的もありまして。
マロンちゃんの即位式典の際、王族の都合がつかず大使を送ったものですから。
ウエニアール国の王族として正式にご挨拶させて戴くことが一つ。
それと、わたくしも今まで一度も国外へ出たこと無いものですから。
他の国をこの目で見てみたいとの希望がございまして。
そして、最大の目的は…。」
そこで言葉を切ったペピーノ姉ちゃんは、ピーマン王子を睨んで。
笑っているようにしか見えないけど、多分睨んでいるんだと思うんだ…。
「わが国で手を焼いていたおバカさん達を更生させて戴けると耳にして。
どのようにして調教するのか確認して来いとの王命を受けたのです。
マロンちゃんの手腕で首尾よく更生すれば良いのですが…。
もし矯正できないようであれば、その時はわたくしが全員を処分するようにと。」
このお姉さん、変わらぬ笑顔とおっとり口調で怖いことを言ったよ。全員を処分するって…。
その言葉を聞いた途端、ピーマン王子はガタガタと身震いし始めたんだ。
もしかして、お姉さん一人で百人を葬ることが出来るくらい強いの?
**********
「ですが、その必要は無いようですね。
実はマロンちゃんが訪れる前からこの広場の様子を窺っていたのです。
愚弟が朝早くから真面目に掃除をしているのを見て目を疑いました。
ましてや、広場を通り掛かる市井の方々と挨拶を交わしているのですもの。
一体全体どんな拷問や洗脳を受ければこんなにも変わるのかと思いましたよ。」
ピーマン王子の変容に感心した様子で、そんな言葉を口にしたペピーノ姉ちゃん。
酷いな、拷問も洗脳もしてないって…。
「まあ、冒険者研修はこの数年で何千人ものならず者を受け入れてきたからね。
ならず者を更生させる手腕については折り紙付きだよ。」
「まあ、まあ、そうでしたか。
ではお言葉に甘えて、しばらくこの街に滞在させて戴きましょうか。
愚弟が何処まで変われるものか、この目で確かめさせていただきます。」
こうして、ウニアール国の王女ペピーノ姉ちゃんが、しばらくおいらの許に滞在することになったの。
そして、早速、その日の午後。
「あら、あら、魔物のウサギに乗せてもらえるなんて…。
生涯にこんな経験が出来るとは思いませんでしたわ。」
おいらの愛兎バニーの背に乗ったペピーノ姉ちゃんが、上機嫌でそんな呟きを漏らしてた。
上機嫌で良いんだよね、鼻歌、歌ってたし…。
ピーマン王子達のグループが今日初めてウサギ狩りに挑むと聞き、おいら達は見学に来たんだ。
初日におじゃるが儀礼用の剣でウサギに挑んで返り討ちに遭った話をすると、ペピーノ姉ちゃんは声を上げて笑ってたよ。
なるほど、本当に可笑しいと思えば声を上げて笑うんだ。
「あのおバカ達、口しか動かさないから本当にひ弱なの。
鉄製の剣を振り回す力が無いから、いつも軽銀製の模造刀を佩いてるのよ。
あれでも他人を殴りつければ、致命傷も負わせるけど…。
流石に頑丈な魔物相手じゃねぇ。」
「でも、今はちゃんと鉄の剣が振れるようになったんじゃないかな。
この五日間、毎日素振りをやらせたみたいだし。
父ちゃんが大丈夫と見極めをしたから、ウサギ狩り実習を始めるんだろうし。」
「そうね、あの名ばかり騎士団が何処まで出来るようになったか楽しみね。
醜態を晒さなければ良いけど。」
そんな会話をしながら草原を進むと、ピーマン王子達の集団に出くわしたよ。
丁度、ピーマン王子をリーダーとするグループがウサギ狩りに挑むところだった。
「ゴマスリー、オベッカ、準備は良いな。
余が正面で対峙する故、そなた等はウサギの気を逸らすのであるぞ。
無理はする必要は無いから、落ち着いて攻撃するのだ。」
ピーマン王子は他の四人にそんな指示を出すと手にした拳大の石ころをウサギの巣穴に投げ込んだよ。
「ウキッー!」
怒りに目を血走らせて巣穴から飛び出して来たウサギ。
ウサギが目の前に居るピーマン王子に襲い掛かろうとすると…。
「殿下には指一本触れさせないでおじゃる。
今日の麿は、この間とは一味違うでおじゃるよ。」
おじゃるはそんな威勢の良い声と共にウサギに一撃入れたよ。
「ウキッー!」
ウサギが攻撃の矛先をおじゃるに向けると…。
「そないはさせへん。
あんたん敵はこんうちや。」
今度は別の仲間が一撃を入れたんだ。
研修初日とは打って変わって、四人は上手くウサギの注意をピーマン王子から逸らしていたよ。
「まあ、あの怠け者達とは思えない動きですわ…。
でも、あの得物は…。
それに相変わらずの小心者達で、腰は引けてますのね。」
四人を見てそんなことを呟くペピーノ姉ちゃん。
そうおじゃる達は初日に拒否した槍を持って、ウサギの間合いの外からチクチクと攻撃しているの。
ペピーノ姉ちゃんの言葉通り、ウサギに近付くのが怖いようで腰が引けてるんだ。
だから、誰一人としてウサギに致命傷となるような傷は与えていないの。
本当にウサギの気を逸らすだけ。
すると、ピーマン王子が剣を片手に死角から足音も立てずにウサギに近付いて…。
ウサギに気取られないように、無言で首筋に剣を突き立てたよ。
首から血飛沫を上げて倒れ込むウサギ、しばらくピクピク痙攣してたけどやがて力尽きて動かなくなったよ。
「よし! ウサギ討ち取ったり!」
喜びをはらんだ気勢を上げるピーマン王子。
「やったでおじゃる!」
「うちらに掛かったら、こんなん朝飯前どすえ。」
周りの四人からもそんな声が聞こえてきたよ。
五日前にそのウサギに半殺しの目に遭ったのに、朝飯前だなんて調子のいいこと言ってる奴がいるし…。
「取り巻き四人はまだまだだけど。
うちの愚弟は大分様になっていたわね。
特に馬鹿みたいな声を上げずに、コッソリと急所を突いたところ。
そこに成長の跡を感じるわ。」
ペピーノ姉ちゃんは、それなりに満足した様子だったよ。
ピーマン王子達、王宮の庭で軽い模造刀を振り回しながら、『なんちゃら剣』とか自分で名付けた必殺技の名前を叫んでいたらしい。
ペピーノ姉ちゃんはそれを眺めて、「いい歳して、よく恥かしく無いものだ。」と呆れてたんだって。
忍び足で近付いて、無言で的確に急所を突いたピーマン王子に甚く感心してたよ。
「マロンちゃん、有り難う。
よくもこの短期間で、あのおバカ達をここまで矯正してくれたわ。
王宮が何年かけても矯正できなかった連中だったのよ。
これなら弟殺しなんて気乗りのしない仕事をしないで済みそうよ。
他国の君主のマロンちゃんのお手を煩わせて恐縮だけど。
あのおバカ達の調教をお任せするわ。」
いや、調教って、犬や馬じゃないんだから…。
ともあれ、ペピーノ姉ちゃんはこの五日間の成果にとても満足してくれたようなの。
これからしばらくの滞在中、連中が更生していく様子を逐次記録して王宮への報告書を作成するそうだよ。
背後でピーマン王子の変わり様に感心する声が聞こえたの。
声に釣られて振り返ると、そこには二人の妖精さんと共に二十歳くらいのお姉さんが一人佇んでいたよ。
とても品の良いドレスをまとった、緩く波打つ金色の髪のお姉さん。
そのお姉さんは、目を細めた優し気な表情でピーマン王子を見詰めてたんだ。
「あっ、姉上が何故こちらに?」
予想はしてたけど、やっぱりピーマン王子の姉姫だったみたいだね。
すると、お姉さんはピーマン王子のすぐ傍まで移動し…。
ガツン!
「痛てぇ!」
ニコニコと優し気に目を細めたままで、マジもんの拳骨を落としたんだ。
頭を抱えてしゃがみ込むピーマン王子、相当痛かった様子でその目には涙が浮かんでいたよ。
怖いよ、このお姉さん。喜怒哀楽が表情から読み取れないんだもの。
どうやら、目を細めて微笑みを浮かべているんじゃなく、素で糸目みたいなんだ。
「何故って、アネモネちゃんから報告を受けたからに決まっているでしょう。
あなたがこの国の女王陛下に粗相をしたと聞いたから。
慌てて謝罪に駆け付けたのよ。
イチゲちゃんにも無理言って最速で飛んでもらったし。」
お姉さんは、今の一撃からは想像もつかないおっとりとした口調でピーマン王子の問いに答えたの
どうやらアネモネさんの横にいる妖精さんがイチゲさんらしい。
多分、お姉さんの教育監視係の妖精さんなんだろうね。
そして、お姉さんはおいらの正面に移動し、ドレスの裾をチョンと摘まんで軽く頭を下げると。
「お初にお目にかかります。マロン陛下で御座いますね。
わたくし、現ウニアール国王タマリロが一女ペピーノと申します。
父王の命により、名代として愚弟の無礼をお詫びに参りました。
この度は愚弟が多大なご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ございませんでした。」
丁重に自己紹介と謝罪の言葉を口にしたんだ。
「これはご丁寧にどうも。
おいら、この国の女王をしているマロンだよ。
ペピーノ殿下、ウエニアール国へようこそ。歓迎するよ。
それから、堅苦しいのは苦手だから、陛下とか付けなくても良いよ。
おいらもペピーノ姉ちゃんって呼ばせてもらうから。」
「あら、あら、本当に気さくな女王様で。
では、アネモネちゃんに倣って、マロンちゃんって呼ばせて頂きますね。
改めて、よろしくお願いしますね。」
「うん、よろしく。
でも、遠いところ、わざわざ訪ねて来てもらって悪いね。
謝罪してもらうほどのことも無かったのに。
ピーマン王子を助けたのも日課の魔物狩りのついでだし。」
むしろ、あの時ピーマン王子達に遭遇しなければベヒーモスの大量発生を見落としていたからね。
ベヒーモスのスタンピードを未然に防げたのだから御の字だよ。
「本当、まだ小さいのによくできた女王様だこと。
うちの愚弟に爪の垢を煎じて飲ませたいわ…。
ですが、命を救って頂いた分際で愚弟は暴言を吐いたそうではありませんか。
あまつさえ、マロンちゃんに剣を向けたとも聞き及んでいます。
それを聞いたら、謝罪に上がらない訳には参りませんわ。
まかり間違えば、戦争になってもおかしくない不祥事ですもの。」
子供の喧嘩より些末な出来事で戦争だなんて大袈裟な…。
それにピーマン王子が刃を向けたのは、おいらじゃなくておいらが捕獲したモモンガだもの。
おいらが間に割って入ったから、結果的においらに刃を向ける形になったけど。
それにしたって、あんなヘロヘロの剣じゃ、おいらに触れることすらできなかったし。
「まあ、本当に気にしてないから。
大袈裟な謝罪なんて要らないよ。
とは言え、遠路遥々せっかく来たんだから。
物見遊山でもして、ゆっくりしていって。」
「寛大なお言葉に感謝ですわ。
実は今回の訪問には謝罪以外の目的もありまして。
マロンちゃんの即位式典の際、王族の都合がつかず大使を送ったものですから。
ウエニアール国の王族として正式にご挨拶させて戴くことが一つ。
それと、わたくしも今まで一度も国外へ出たこと無いものですから。
他の国をこの目で見てみたいとの希望がございまして。
そして、最大の目的は…。」
そこで言葉を切ったペピーノ姉ちゃんは、ピーマン王子を睨んで。
笑っているようにしか見えないけど、多分睨んでいるんだと思うんだ…。
「わが国で手を焼いていたおバカさん達を更生させて戴けると耳にして。
どのようにして調教するのか確認して来いとの王命を受けたのです。
マロンちゃんの手腕で首尾よく更生すれば良いのですが…。
もし矯正できないようであれば、その時はわたくしが全員を処分するようにと。」
このお姉さん、変わらぬ笑顔とおっとり口調で怖いことを言ったよ。全員を処分するって…。
その言葉を聞いた途端、ピーマン王子はガタガタと身震いし始めたんだ。
もしかして、お姉さん一人で百人を葬ることが出来るくらい強いの?
**********
「ですが、その必要は無いようですね。
実はマロンちゃんが訪れる前からこの広場の様子を窺っていたのです。
愚弟が朝早くから真面目に掃除をしているのを見て目を疑いました。
ましてや、広場を通り掛かる市井の方々と挨拶を交わしているのですもの。
一体全体どんな拷問や洗脳を受ければこんなにも変わるのかと思いましたよ。」
ピーマン王子の変容に感心した様子で、そんな言葉を口にしたペピーノ姉ちゃん。
酷いな、拷問も洗脳もしてないって…。
「まあ、冒険者研修はこの数年で何千人ものならず者を受け入れてきたからね。
ならず者を更生させる手腕については折り紙付きだよ。」
「まあ、まあ、そうでしたか。
ではお言葉に甘えて、しばらくこの街に滞在させて戴きましょうか。
愚弟が何処まで変われるものか、この目で確かめさせていただきます。」
こうして、ウニアール国の王女ペピーノ姉ちゃんが、しばらくおいらの許に滞在することになったの。
そして、早速、その日の午後。
「あら、あら、魔物のウサギに乗せてもらえるなんて…。
生涯にこんな経験が出来るとは思いませんでしたわ。」
おいらの愛兎バニーの背に乗ったペピーノ姉ちゃんが、上機嫌でそんな呟きを漏らしてた。
上機嫌で良いんだよね、鼻歌、歌ってたし…。
ピーマン王子達のグループが今日初めてウサギ狩りに挑むと聞き、おいら達は見学に来たんだ。
初日におじゃるが儀礼用の剣でウサギに挑んで返り討ちに遭った話をすると、ペピーノ姉ちゃんは声を上げて笑ってたよ。
なるほど、本当に可笑しいと思えば声を上げて笑うんだ。
「あのおバカ達、口しか動かさないから本当にひ弱なの。
鉄製の剣を振り回す力が無いから、いつも軽銀製の模造刀を佩いてるのよ。
あれでも他人を殴りつければ、致命傷も負わせるけど…。
流石に頑丈な魔物相手じゃねぇ。」
「でも、今はちゃんと鉄の剣が振れるようになったんじゃないかな。
この五日間、毎日素振りをやらせたみたいだし。
父ちゃんが大丈夫と見極めをしたから、ウサギ狩り実習を始めるんだろうし。」
「そうね、あの名ばかり騎士団が何処まで出来るようになったか楽しみね。
醜態を晒さなければ良いけど。」
そんな会話をしながら草原を進むと、ピーマン王子達の集団に出くわしたよ。
丁度、ピーマン王子をリーダーとするグループがウサギ狩りに挑むところだった。
「ゴマスリー、オベッカ、準備は良いな。
余が正面で対峙する故、そなた等はウサギの気を逸らすのであるぞ。
無理はする必要は無いから、落ち着いて攻撃するのだ。」
ピーマン王子は他の四人にそんな指示を出すと手にした拳大の石ころをウサギの巣穴に投げ込んだよ。
「ウキッー!」
怒りに目を血走らせて巣穴から飛び出して来たウサギ。
ウサギが目の前に居るピーマン王子に襲い掛かろうとすると…。
「殿下には指一本触れさせないでおじゃる。
今日の麿は、この間とは一味違うでおじゃるよ。」
おじゃるはそんな威勢の良い声と共にウサギに一撃入れたよ。
「ウキッー!」
ウサギが攻撃の矛先をおじゃるに向けると…。
「そないはさせへん。
あんたん敵はこんうちや。」
今度は別の仲間が一撃を入れたんだ。
研修初日とは打って変わって、四人は上手くウサギの注意をピーマン王子から逸らしていたよ。
「まあ、あの怠け者達とは思えない動きですわ…。
でも、あの得物は…。
それに相変わらずの小心者達で、腰は引けてますのね。」
四人を見てそんなことを呟くペピーノ姉ちゃん。
そうおじゃる達は初日に拒否した槍を持って、ウサギの間合いの外からチクチクと攻撃しているの。
ペピーノ姉ちゃんの言葉通り、ウサギに近付くのが怖いようで腰が引けてるんだ。
だから、誰一人としてウサギに致命傷となるような傷は与えていないの。
本当にウサギの気を逸らすだけ。
すると、ピーマン王子が剣を片手に死角から足音も立てずにウサギに近付いて…。
ウサギに気取られないように、無言で首筋に剣を突き立てたよ。
首から血飛沫を上げて倒れ込むウサギ、しばらくピクピク痙攣してたけどやがて力尽きて動かなくなったよ。
「よし! ウサギ討ち取ったり!」
喜びをはらんだ気勢を上げるピーマン王子。
「やったでおじゃる!」
「うちらに掛かったら、こんなん朝飯前どすえ。」
周りの四人からもそんな声が聞こえてきたよ。
五日前にそのウサギに半殺しの目に遭ったのに、朝飯前だなんて調子のいいこと言ってる奴がいるし…。
「取り巻き四人はまだまだだけど。
うちの愚弟は大分様になっていたわね。
特に馬鹿みたいな声を上げずに、コッソリと急所を突いたところ。
そこに成長の跡を感じるわ。」
ペピーノ姉ちゃんは、それなりに満足した様子だったよ。
ピーマン王子達、王宮の庭で軽い模造刀を振り回しながら、『なんちゃら剣』とか自分で名付けた必殺技の名前を叫んでいたらしい。
ペピーノ姉ちゃんはそれを眺めて、「いい歳して、よく恥かしく無いものだ。」と呆れてたんだって。
忍び足で近付いて、無言で的確に急所を突いたピーマン王子に甚く感心してたよ。
「マロンちゃん、有り難う。
よくもこの短期間で、あのおバカ達をここまで矯正してくれたわ。
王宮が何年かけても矯正できなかった連中だったのよ。
これなら弟殺しなんて気乗りのしない仕事をしないで済みそうよ。
他国の君主のマロンちゃんのお手を煩わせて恐縮だけど。
あのおバカ達の調教をお任せするわ。」
いや、調教って、犬や馬じゃないんだから…。
ともあれ、ペピーノ姉ちゃんはこの五日間の成果にとても満足してくれたようなの。
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