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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…
第727話 お約束通り笑わせてくれたよ…
しおりを挟むウニアール国の連中に受講させた冒険者研修、その初日のこと。
同じく初日の娘さん達がウサギの魔物を倒したのを見て、おじゃる言葉のゴマスリーが自分もやると言い出したよ。
どうやら、自分達が蹂躙されたウサギをレベルも持たない町娘が倒したのでは沽券に係ると思ったらしい。
自分達もウサギを倒して、魔物の領域で襲われたのはもっと強い魔物だったと言い張りたいようなの。
連中の指導役を買って出た父ちゃんは、当初、素振りからやらせるつもりでいたんだ。
鈍り切っている連中の体付きを見て、他の研修生と同じウサギ狩りから入るのは無理だと判断したから。
父ちゃんは、怪我人が続出して研修どころじゃなくなると予想したみたい。
でも、監視役として付き添っているアネモネさんはやらせてみろと言ったんだ。
それで父ちゃん、気乗りはしないようだけど希望通りにやらせてみることにしたの。
なので、おいらは連中のために武器を各種出して上げたよ。
連中が腰に下げている剣ではとても戦えそうも無いから。
だって、どれも装飾華美でどう見ても儀礼用の剣なんだもん。
ところが、今回も連中はおいらが提供した武器を手に取ろうとしなかったんだ。
そんな武骨な剣は貴族が使う物では無いなんて言って、馬鹿にしているの。
おいらが出した武器を手に取ろうとしないと連中を見て。
「なあ、お前ら、本当にその剣で戦うつもりなのか?」
見る見かねたったって表情で父ちゃんが尋ねたんだ。
「モリィシー殿もここにある剣を使えと言うのでおじゃるか。
麿達は手に馴染んだ自分の剣で戦うでおじゃる。
日頃、この剣を握って剣の鍛錬をしてるでおじゃる。
剣の重さや長さが変ると、鍛錬の成果が出せないのでおじゃる。」
それなりに尤もらしく聞こえるおじゃるの言葉だけど。
こいつら剣なんて真面に振ったことも無かったはずだよね。
イメージトレーニングを日頃の鍛錬と言われても…。
「いや、別にどんな剣を使うのも勝手だが…。
そもそも、お前らは何で剣を使うんだ?
ああ見えてウサギってのは結構すばしっこいぞ。」
「だからどうしたでおじゃるか?」
「いや、剣ってのは接近戦用の武器だろう。
ウサギに接近して素早い攻撃を躱しながら反撃せねばならん。
お前らにそんな機敏な動きが出来とは、俺には思えないのだが。
それなら遠巻きに攻撃できる槍の方が良いんじゃないか。」
おじゃるの弛んだ腹を見ながら、父ちゃんは槍を使うことを勧めたんだ。
ブクブクと肥え太った連中では、俊敏なウサギの攻撃を躱すのは難しいだろうし。
何より、父ちゃんは目撃しているからね。
ベヒーモスを目の前にした連中が、逃げ出す事も出来ずに気を失ったのを。
臆病者揃いのあいつ等のことだから、例え最弱のウサギでも牙を剥いて間近に迫って来たら気圧されて剣など振るうことが出来ないのではと思ったみたいだよ。
槍なら、ウサギの攻撃範囲外から攻撃できるので少しはマシじゃないかと考えたみたい。
「何を言うでおじゃる。
騎士は剣を振るって敵を討伐するものと相場が決まっているでおじゃる。
騎馬戦で馬上槍を使うならともかく。
雑兵じゃあるまいし、そんな粗末な槍は使えないでおじゃる。」
「いや、お前らに馬上槍なんて重量物は持てないだろうが。
この一番軽い槍だって、どうかと思うのに…。
まあ、お前らがそれで良いと言うのならもう何も言わんが…。」
おじゃるが粗末だと斬り捨てた槍は父ちゃんが連中の体力に合わせて選んだものらしい。
親切心からの助言を無碍にされて、父ちゃんはこれ以上は何も言うまいと諦めたみたい。
**********
そして、近くにあったウサギの巣穴の前で。
「よし、麿が正面でウサギと対峙するでおじゃる。
皆はウサギの周りに散開し、適宜ウサギを攻撃するでおじゃる。
麿に攻撃が集中しないように、上手くウサギの気を逸らすでおじゃるよ。」
おじゃるがそう指示すると、配下の騎士四人がウサギの巣穴の左右に散ったよ。
そして、おじゃるがこぶし大の石を巣穴に投げ込み…。
「ウキッー!」
例によって怒りに目を血走らせたウサギが巣穴から飛び出して来んだ。
そして、正面に立つおじゃるに向かって襲い掛かろうとし…。
「町娘にさえ倒せるウサギ如きに。
うちら騎士が後れを取るはずあらへんにゃ。」
そんな威勢の良い言葉を吐きながら、騎士の一人がウサギの横から一撃を入れたの。
キーン!
「えっ! そないアホな!」
斬り付けた剣がウサギの腕に当たると、ボッキリ折れて弾け飛んだよ。
「ウキッー!」
傷一つ追うことはなかったウサギだけど、剣で斬り付けられて痛みを感じたのか。
怒りの任せて、斬りつけて来た騎士をその鋭い爪で引き裂いたの。
「ウギャーーー!」
ざっくりと腕を引き裂かれて血飛沫を上げた騎士の悲鳴が轟いたよ。
「ええい、畜生の分際でよくもやりおったな!
貴族に傷を負わせたこと、あの世で後悔するが良い!」
いや、ウサギには相手が貴族だろうが、町娘だろうが関係ないから…。
ウサギには通じるはずの無い言葉を吐きながら、別の騎士が斬り付けるけど…。
キーン!
「うっ、先祖伝来の宝剣が!」
またもや、騎士の剣が中ほどから折れて先の方が跳ね飛んだよ。
「ウギャーーー!」
そして、繰り返される惨劇…。
「何だこりゃ? こんな軽い鉄、初めて見たぞ?
しかも、刃が付いてないじゃないか。
一応、木製の模造刀では無いようだが…。」
足元に飛んできた剣の先を拾い上げた父ちゃんがそんな呟きを漏らしたの。
「おいら、それ、知ってる。
タロウのパチンコに使われている軽銀だよ。
軽いのがウリの金属で、もろいから武器には向かないらしいよ。
あいつらの使っている剣、多分儀礼用の宝剣だから。
戦う訳じゃ無いし、式典の間疲れないように軽銀で作ったんじゃ。」
軽いからノーム爺が考案した機械式の弓の台座とかには良いらしいけど。
剣とか、槍とかにはとても使えないって、ノーム爺は言ってたよ。
なるほど連中が子供用の剣でも重いって愚痴ってたのは、いつも軽銀製の剣を使ってイメージトレーニングしてたからか。
おいらと父ちゃんがそんな会話をしている間にも、一人、二人と騎士が倒され…。
「こら、寄るなでおじゃる!
やめろ! この無礼者!
麿はゴマスリー子爵家の嫡男でおじゃるよ。
畜生如きが触れて良いものでは無いでおじゃる。」
最後に一人残ったおじゃるが、ブンブンと剣を振り回しながらウサギ相手にしょうもないことを叫んでた。
相手が貴族だからって、ウサギが接待プレーをしてくれる訳無いじゃない。
剣をしっちゃかめっちゃか振り回しながら後退りするおじゃるだけど。
日頃の運動不足が祟って既に息が上がっている様子だったよ。どんどん剣の勢いが無くなっていくの。
そして…。
「ウギャーーー!」
足がもつれて転んだおじゃるに、ウサギはすかさず喰い付いたよ。
太ももを鋭い下あごの歯で噛み付かれて、鮮血と一緒に悲鳴を上げるおじゃる。
結局、騎士五人、ウサギ一匹に瞬殺されたよ。
まあ、親から狩りの仕方を習っている最中の子ウサギに殲滅される連中だからね。
成獣のウサギを相手にして手も足も出ないのも仕方ないことか…。
「まさか、ここまで情けない連中だったとは…。」
そんなボヤキを零しながら近付いた父ちゃんが、一撃でウサギを屠って周囲を見回すと。
「痛いでおじゃる、痛いでおじゃる。
誰でも良いでおじゃる。
早く麿を治療するでおじゃる。」
太ももからドクドクと流血しながら治療を要求するおじゃる。
「けしからんにゃ。
父上さえ、うちに手を上げたことはあらへんに。
畜生如きがうちに傷を負わせるなんて。
どなたか、早ううちを治療しはるにゃ。」
他四人からも治療を求める声が上がり、阿鼻叫喚の光景だった。
「全く、口ほどにも無い連中だこと。
子ウサギにも負ける連中が、成獣に勝てる訳無いのに。
よくも勝てるなんて思ったものだわ。」
心底呆れたって顔をしたアネモネさんが、そんな言葉を漏らしながらおじゃる達のもとへ飛んで行ったよ。
そして血で汚れた連中を洗い流すように、大量の水を頭から浴びせていたよ。
もちろん、『妖精の泉』の水ね。
「あんな大きな傷がきれいさっぱり消えたでおじゃる。
痛みも感じないでおじゃる。
助かったでおじゃる。」
おじゃるは治療してくれたアネモネさんに感謝の言葉も無く、怪我が治ったことを喜ぶと。
「モリィシー殿、麿達は運が悪かったでおじゃる。
麿達は不運にも、特殊個体のウサギを引き当てたでおじゃる。
あんな手強い個体と対峙するとは予想外だったでおじゃる。」
意地でも普通のウサギに負けたと認めたくないのか、厚顔無恥にもそんな言葉を吐いたよ。
その瞬間、周りはシーンとしちゃった。その場にいた全員にシラケた雰囲気が漂ったの。
すると、ピーマン王子がおじゃる達の側にやって来て。
「もう言うな、ゴマスリーよ。
余やそなたは、そろそろ現実を受け入れる時なのだ。
余達の能力はそこらの町娘にも劣ると言うことをな。
だが、余やそなたの人生はこれからが本番なのだ。
きっと、これからの努力で幾らでも挽回できるであろう。
モリィシー殿も指導をしてくれるとのことだし。
明日から本気を出そうではないか。」
おじゃるの肩に手を置くと、穏やかな口調で目を覚ませと諭したの。
ピーマン王子の方はすっかり身の程を弁えたみたいだよ。
でも、本気出すのは今この時点からじゃないんだね…。
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