上 下
725 / 819
第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第725話 連中を冒険者研修施設に連れて来たよ

しおりを挟む
 好みのタイプのレクチェ姉ちゃんにキモいと言われたピーマン王子。
 怠惰な生活を改めれば痩せられると励まされて俄然やる気になったみたい。

 そんな訳で、それから四日後。

「はっ? ウニアール国の第二王子ですか?
 その方を冒険者研修施設に放り込む? 一月も?
 そんなことをすれば隣国と軋轢を生じるのではございませんか。」

 王宮へ帰ったおいらは、直ぐに宰相に報告したんだ。
 ホウレンソウは忘れるなって、いつも言われているからね。
 おいら、言い付けはちゃんと守る良い子だもの。
 でも、おいらの話を聞いて、宰相はとても心配そうな表情を見せたんだ。

「大丈夫じゃないの。
 元々、王様から辺境の開拓を命じられたらしいけど。
 それを放り出した時点で、王族の地位を剥奪されるって宣告されてたみたいだから。
 魔物の領域の奥で遭難していたことを説明すれば、王様だって何も言わないよ。」

 だいたい、辺境の開拓予定地からピーマン王子とその取り巻きが姿を消したことすら知られてないだろうし。
 四ヶ月後、更生したピーマン王子達が領地開拓に戻れば誰にも気付かれないよ。
 おいらから強いられたことを、ピーマン王子達が口にしない限りはね。

 すると。

「そういう心配はしないで良いわ。
 私がこれから国に戻って報告してくるわ。
 うちの馬鹿共に、マロン陛下が更生の機会を与えてくれるのだもの。
 感謝する事さえあれ、文句を付ける筋合いでは無いでしょう。」

 アルトと一緒においらの後ろに浮かんでいたアネモネさんが、心配無用だと宰相に伝えてくれたよ。
 どうやら、アネモネさんはピーマン王子達を預けたら一旦ウニアール国へ戻るつもりらしい。
 やはり、王宮に報告だけはしておかないと拙いと思ったみたい。

「まあ、殿下の指導役を務めるアネモネ様がそう仰せなら…。」

 妖精さんが大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろうと、宰相は無理やり納得することにしたようだよ。
 まあ、妖精のアネモネさんが事を荒立てるなと言えば、ウニアール国の王様だって逆らえないだろうからね。

           **********

 そんな訳で一応宰相を納得させたおいら達は、冒険者研修施設にある広場にやって来たんだ。
 そこで、アネモネさんの『積載庫』からピーマン王子とその取り巻き憂国騎士団の連中を降ろすと。

「ここは何処でおじゃるか? 麿はこれから何をさせられるのでおじゃるか?」

 取り巻きの一人、おじゃる言葉のゴマスリーが辺りを見回して不安気に言ったんだ。
 ベヒーモスから助けてあげた代償として、おいらの言うことを聞いてもらう。
 ピーマン王子が口にした誓約に基づき、冒険者研修(軽犯罪者向け)を受講してもらうと伝えたけど。
 憂国騎士団の連中はピーマン王子から一緒に受講するよう命じられただけで、詳しい説明は無かったからね。

「みんな、注目! 俺は冒険者管理局長のモリィシーだ。
 お前らはこれから一ヶ月間、ここで冒険者研修を受けることになる。
 お前らの指導は管理局長の俺が自ら行うが。
 まず最初に言っておく、研修期間中は全て俺の指示に従ってもらう。
 指示に対する返事は常に『イエス・サー』だ。
 それ以外の返答は一切許さん。
 逆らえば鉄拳制裁が待っているから、覚悟しておけよ。」

 『積載庫』から降ろされて呆然と辺りを見回していた連中に、父ちゃんがそんな指示を出したの。

「冒険者管理局長だか、何か知らぬでおじゃるが。
 麿は、由緒正しいゴマスリー子爵家の嫡男でおじゃるぞ。
 何故、貴様のような平民の下っ端役人の指示に従わないとならんのでおじゃる。」

 如何にも冒険者って装いの父ちゃんを侮って、そんな暴言を吐いたゴマスリー。
 こいつ、本当に見た目でしか他人を判断出来ないんだね。
 局長の父ちゃんを平民だと思って、下っ端役人だと決め付けているんだもの。

 一応、この国では役職の名称にもランク付けがあって、局長って名称の役職は上級官吏なんだ。
 ほぼ上位貴族しか就けないの。
 他の国でも似たようなものだと宰相から教えてもらったんだけど、ウニアール国では違うのかな?

 ゴツン!

 すると、父ちゃんは有無を言わさず拳骨をおじゃる男の脳天に落としたの。

「ああ? お前、俺の言葉が分からなかったのか。
 『イエス・サー』以外の返答は許さんと言っただろうが。
 それとな、俺は一応グラッセ伯爵家の当主ってことになっているんだ。
 悪かったな平民でなくて。」

「伯爵…。」

 権威を振りかざす者は権威に弱いらしく。
 国が違うとは言え父ちゃんが自分よりも格上の貴族だと知り、おじゃる男は言葉に詰まったよ。
 しかも、息子とかじゃなく当主本人だからね。
   
「さて、俺に従わないとこんな目に遭うことになる。
 こうなりたくなかったら、素直に俺の指示に従うんだな。
 分かったか!」

「「「イエス・サー」」」

 父ちゃんが威圧するように言うと、憂国騎士団の連中は震え上がり指示通りの言葉を返していたよ。

「分かれば良い。
 それじゃ、今日から研修を始める訳で…。
 本来のカリキュラムでは初日からウサギ狩りを経験してもらうのだが…。
 お前ら、体が鈍りまくっているようだな。
 ならず者冒険者でも、ちったぁ締まった体つきをしているぞ。
 お前らにいきなり狩りなんてやらせた日には怪我人ばっかりになるだろうから。
 明日から剣の素振りを始めることにして、今日は…。」

 そう言って父ちゃんが周囲を見回すと。

「あっ、局長お疲れさまです。
 後に沢山いる不摂生そうな者共は、新しい囚人ですか?
 命じて頂ければ、何時ものように私達が厳しく躾けますが…。」

 丁度、ウサギ狩り実習に出掛けるところなのか、講師のお姉さんが研修生らしき娘さん二十人を従えて通り掛かったの。
 お姉さんの言葉通り、普段なら軽犯罪者も講師のお姉さんが指導していて。
 今では、父ちゃんが直接指導することは殆ど無いの。

「いや、この者達は犯罪者では無くてな。
 マロンが連れて来た特別研修生なんだ。
 全員、貴族身分の者だから、俺が相手をしないとな。」

「マロン陛下が連れて来られた…。
 なるほど、色々とご事情のある方々なのですね。
 局長、大変でしょうが、頑張ってくださいね。」

 講師のお姉さんは父ちゃんを気の毒そうに見て、励ますように声を掛けたの。
 おいらが引っ張って来たと言うことと、不摂生そうな体つきから、お姉さんは悟ったみたい。
 ロクでもないことをやらかして懲罰を食らった貴族のボンボンを、父ちゃんが押し付けられたのだと。

「ところで、君達はこれからウサギ狩り実習かな?」

「はい、今日、研修初日の娘さん達に初めてのウサギ狩りを体験してもらいます。」

 お姉さんの返事を聞いた父ちゃんは含み笑いを浮かべ。

「それは丁度良かった、その実習を見学させてもらってもかまわないか?」

「もちろん、かまいませんよ。
 ただ、実習の邪魔にならないように遠巻きでお願いします。」

 どうやら、父ちゃん、連中に自分達の雑魚さ加減を思い知らせるつもりだね。
 連中が蹂躙されたウサギなど、まだ冒険者にもなってない娘さん達でも狩れるってところを見せて。

 さて、レベルも持たない十五、六歳の娘さん達がウサギを狩るところを見て、連中がどんな反応を示すかな。
 自分達の無力さを謙虚に認めて、やる気を出してくれたら良いんだけど。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【連載版】婚約破棄ならお早めに

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:34,151pt お気に入り:3,644

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,371pt お気に入り:2,135

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,750pt お気に入り:142

獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件

BL / 連載中 24h.ポイント:19,526pt お気に入り:2,405

【完結】婚約破棄をした後に気づいた思い

恋愛 / 完結 24h.ポイント:972pt お気に入り:43

喫茶店に入るまでのプロセス。

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

化物侍女の業務報告書〜猫になれるのは“普通”ですよね?〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:133

私のスキルが、クエストってどういうこと?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:618pt お気に入り:182

処理中です...