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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第721話 まさか、他国にまで迷惑を掛けてたなんて…

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 チューニ病患者の気持ちは元チューニ病患者が最も良く理解できるようで。
 タロウが優しく諭すと、ピーマン王子は自分にとって辛い現実を受け入れるようとしてたの。
 王族として特別な存在でありたいと願っていたのに、実際には何も秀でた能力は無いという残酷な現実を。

 そんなピーマン王子に、おじゃる言葉を話す胡散臭い側近が余計なことを言ったんだ。
 おいらやタロウ、それに護衛騎士の皆が易々と魔獣を倒せたのは貴族の血に秘められし力が覚醒したからではないかと。
 まっ、そんな淡い期待は、タロウや護衛騎士の殆どが根っからの平民だと知らされてあっけなく打ち砕かれたんだけどね。

 がっくりと肩を落としたおじゃる男は。

「貴族の血に特別な力が無いなんて悪夢でおじゃる…。
 これでは貴族籍の剥奪を免れる術が無いでおじゃるか。」

 いや、いや、そんな力があったとしても貴族籍の剥奪を免れることは出来ないでしょう。
 『図書館の試練』をクリアする事が貴族として認められる条件なんだから。
 おいらがそう思っていると…。

「貴族籍を失いたくないのなら、『図書館の試練』をクリアすれば良いじゃない。
 あんた達、全員まだ十八歳なんでしょう。
 二十歳の期限まではまだ一年以上あるわ。
 これから死ぬ気で勉強すればまだ間に合うでしょう。」

 アネモネさんが、至極真面なアドバイスをしたよ。

「そんなの無理でおじゃる。
 麿は難しいことを考えるのは苦手でおじゃる。
 あと一年やそこらで三つクリアするなんて出来る訳ないでおじゃる。」

 でも、おじゃるはそんなことを訴えてたよ。
 これって、端から貴族の地位を放棄しているようなもんじゃない。

「呆れた。
 貴族に相応しい能力もない癖に地位に固執するなんてアホじゃない。
 なら、もう一つ、貴族の地位を維持する手段があるんだけど知らない?」

「なに?
 試練をクリアしなくとも、麿が貴族に残る手段があるでおじゃるか?」

 アネモネさんの言葉を聞いて、項垂れていたおじゃるが顔を上げたよ。
 まるで一筋の光明を見出したような表情でね。

「ええ、あるわよ。
 そもそも、あんた達に辺境の開拓を命じたのは王の温情なのよ。
 辺境の未利用地で一定規模以上の開拓を行った者は、そこの領主に任ぜられ。
 貴族籍を与えられるの。
 その代に限り、『図書館の試練』クリアは免除されるわ。」

 アネモネさんの説明によると。
 今回はピーマン王子から王籍を剥奪するに際し、せめて貴族籍は残そうと言う親心なんだけど。
 併せて試練をクリアできない者にも、貴族に残るチャンスを与えようとする意図があったそうなの。
 ピーマン王子の領地を造った後、協力して他の者達の領地を造ればその分貴族籍を確保できるし。
 開拓地が足りず貴族籍が行き渡らなくても、領主の家臣として召し抱えてもらえば貴族に準じた生活が出来るからって。

 で、一定規模の開拓地だけど、五十世帯二百人が生活できる家と農地、それに魔物除けの掘りと擁壁が必要なんだって。
 概ね、徒歩一時間四方くらいの土地を開拓する事が目安らしいよ。
 更に開拓が終わったら、入植してくれる領民を募って、無償で家と農地を分け与えるのが条件らしい。
 家と農地を無償で譲り渡す代償として、法で定められた範囲内の領税を課すことが出来るんだって。

 ウニアール国は人口が少なく、未利用地が沢山あるので常時開拓する者を募集しているそうだけど。
 我こそはと名乗りを上げる人は少ないんだって。
 何て言っても入植者に対する家と農地の無償譲渡が条件だから、開拓時の負担が重くて大変らしい。
 国が存続する限り永遠に収益が上がるとはいえ、開拓時の投資を回収するのに長い年月を要するからね。

 ちなみに第一王子は十五歳の誕生日にレベルを分け与えられてから、自発的に開拓に取り組んだそうで。
 既に二つ、王家とは独立した領地を持っていて、将来王族を離れる孫に与えるつもりなんだって。
 レベル十の体力を活かせば掘りや土塁なんて簡単に造成できるし。
 加えて第一王子は『器用さ』のスキルを所持していて、一人で家を建てちゃうらしいの。

「そんなしんどいことは嫌でおじゃる。働いたら負けでおじゃる。
 何故に貴族に生まれついた麿が、土木作業などせねばならぬでおじゃる。
 我が国はおかしいでおじゃるよ。
 試練をクリアできなければ貴族籍を剥奪するとか。
 それが無理なら、自力で新たな領地を開拓せよとか。
 そんな馬鹿な話は無いでおじゃる。
 貴族の家に生まれた者は生まれながらに貴族で、死ぬまで貴族でおじゃる。
 特権階級である貴族は愚民共から搾り取った税で遊んで暮らせば良いのでおじゃる。」

 何だ、こいつ、単なる怠け者じゃない…。
 なんだかんだ言っても、結局は働きたくないだけだよね。

       **********

 おいらが、おじゃるのニイチャンを冷めた目で見ていると。 
  
「もう止すのだ、ゴマスリーよ。
 余や、そなたに特別な血など流れていないことは明らかだ。
 これ以上、ゴネるのは見苦しいぞ。
 潔く領地開拓に励むとしようではないか。
 余の領地が出来た暁にはここにいる全員を召し抱えてみせる。
 そのためにも立派な領地を開拓せねばな。」

 項垂れたおじゃるの肩に手を置いて、ピーマン王子が説得したんだ。

「殿下…。 麿は、悔しいでおじゃる。
 なにが悲しくて貴族が穴掘りなどせねばならぬのでおじゃる。
 貴族たるもの、働かずに酒池肉林の限りを尽くすものでおじゃる。
 隣国の英雄ヒーナル王のように…。
 なのに、我が国の愚物共は誰一人として、ヒーナル王の偉業を理解しないでおじゃる。
 麿は殿下に、我が国のヒーナル王になって欲しかったでおじゃる。」

 ピーマン王子の言葉を聞いて涙を流すおじゃるのニイチャン。
 でも、こいつ、言ってることが無茶苦茶だよ。
 あのならず者ヒーナルを英雄だなんて。
 しかも、ウニアール国をヒーナルに倣って王侯貴族が好き勝手出来る国にしたかったって。
 まあ、ウニアール国の王侯貴族は真面な感性の人ばかりだったみたいだね。
 おじゃるのニイチャンに賛同したのは、憂国騎士団のメンツだけだったみたいだし。

「マロンちゃんが悪い訳じゃないけど…。
 あんたの国の前王はとんだ迷惑者だったわね。
 あのならず者さえ居なければ、こんなアホな主張をする愚物なんて出て来なかったと思う。」

 アネモネさんがそんなことを愚痴ってた。
 今までも、試練をクリアできない貴族の子供は居たそうだけど、皆、家の恥として放逐されていたそうなんだ。
 従来は放逐された本人もそんなモノだと納得していたらしいけど。
 おいらの国でヒーナルが王になり、その噂が伝わるとこいつ等みたいな愚か者が出てきたらしい。
 貴族に努力を求めるのは間違っているなんて主張をする者は建国以来初めて出てきたそうだよ。
 ヒーナルの大馬鹿に感化された愚か者の出現に、ウニアール国の王侯貴族は頭痛がする思いだって。

「言うな、ゴマスリー。
 ヒーナル王は目の前の小娘に倒されたのだ。
 そして、余やそなたはその小娘に命を救われた。
 認めるのは辛かろうが、それが現実なのだ。
 ヒーナル王に天命は無かったし。
 余達王侯貴族に特別な力なんて無かった。
 平民の小娘にさえ、及ばないのだ。
 これ以上は何を言っても、負け惜しみにしか聞こえんぞ。」

 ピーマン王子は、すっかり自分の小者っぷりを自覚したみたいだった。

「殿下…。
 ですが、麿達には堀を掘って土塁を築く技術など無いでおじゃる。
 まして、自力で家を建てるなんて…。」

 でも、おじゃるの方はまだ消極的なセリフをボヤいていたの。

「なに、あんた達、誰も『器用さ』のスキルを持っていないの?
 あれをカンストしていれば、家なんて簡単に建つわよ。
 現に第一王子は一人で家を建てているもの。」

 項垂れるおじゃるを宙から見下ろしてアネモネさんが言ってたの。

「あんなものこそ、貴族の口にする物ではないでおじゃる。
 う〇この臭いがするものなど人の食べる物ではないでおじゃる。」

 すると、おじゃるは凄い剣幕で抗議してきたよ。

「〇んこの臭いがするスキルの実っていったい?」

「あっ、マロンちゃんは知らない?
 これよ。」

 アネモネさんがそう言った途端、アルトが慌てて上空へ飛びあがったよ。
 アネモネさんが抱えているのは、表面が亀の甲羅のようにゴツゴツした楕円形の物体だった。

 その物体を抱えたアネモネさんがおいらに近付くと…。

「うっ…。」

 一瞬目がクラっとしたよ。本当にうん〇のような臭いが…。
 アルトったら、これを知っていて慌てて退避したんだね。

「あっ、それ、ミニドリアンね。
 私が改良して小さくしたんだ。
 テルルにあった実物はその何倍も大きかったんだよ。
 でも、それをカンストまで二万も食べるなんて罰ゲームみたいでしょう。
 だから、およそ五分の一サイズに品種改良したの。」

 アネモネさんが抱えたスキルの実を目にしたマリアさんが、おいらの耳元でボソッと言ってたよ。
 
「これ、領地の開拓が求められる貴族には必須のスキルなの。
 平和なウニアール国では、戦闘系のより器用さのスキルの方が有用なのよ。
 なのに、こいつ等ときたら貴族の義務を何一つ果たそうとしないのだもの。」

 アネモネさんはそんなこと言ってるけど。
 おいら、心の底から思ったよ、ウニアール国に生まれなくて良かったって。
 流石にあの実は勘弁して欲しいよ。
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