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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…
第720話 経験者の言葉は重みがあったみたい…
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おいらの素性を知らないで、平民は貴族の盾になるのが当然だなんて言ったおじゃる男。
その言葉は論外だけど、こいつも他人を見た目だけでしか判断できないんだね。
「ねえ、おじゃるのニイチャン、自己紹介がまだだったけど。
おいら、マロン・ド・ポルトゥス。
一応、ウエニアール国で女王をしているんだ。」
いつまでもおいらを町娘だと思わせておくと話が進まないから、素性を明かすと。
「見え透いた嘘を言うでないでおじゃる。
こんな物騒な場所をうろついている女王が居るわけ無いでおじゃる。
しかも、そんな貧相な格好で。」
「おいら、休暇中でこの近くの離宮に保養に来たんだよ。
体が鈍ると困るから、鍛錬を兼ねてここで魔物狩りをしてるんだ。
身形に関しては、そんな甲冑を着込んで魔物の領域に入る方が非常識だよ。
魔物は素早いし、ムチャクチャ破壊力があるんだよ。
重い甲冑なんて邪魔なだけで、何の役にも立たないじゃない。」
おいらがピーマン王子に言ったのと同じ言葉を繰り返すと。
「全く、見た目でしか他人を判断できないなんて情けない。
本当におバカね…。
この方は正真正銘、ウエニアール国のマロン女王よ。
噂ぐらい聞いたことがあるでしょう。
隣国で簒奪王を廃して正当な血筋の女王が即位したって。」
おいらが女王だと信じようとしないおじゃる男に対し、アネモネさんが呆れ顔で言ってたよ。
すると、憂国騎士団の連中の中でざわめきが起こり…。
「聞おいやしたか?
女王が聞いて呆れへん。
なんぼ狩りんためとへーえ。
よお恥ずかしくもなく町娘んなりやらなんやら出来はるモンや。
貴族たるモン、如なんなるときかて相応しい装いをせんとな。」
「ほんま、そん通りや
ウエニアール国ん女王は下賤ん育ちと噂で聞おいやしたやけど。
雅ちゅうモンを理解でけへんにゃろう。
お里が知れへんちゅうモンや。」
なんて、失礼な会話が聞こえてきたよ。下賤の育ちで悪かったな…。
王侯貴族を気取って煌びやかな甲冑を身に着けていても、実力が伴わなければ意味ないじゃない。
挙げ句、それが仇になって命を落とそうものならシャレにならないのに。
こいつら、そんな事も分からないのかな。
アネモネさんの言葉を聞いて驚いた表情を見せたおじゃる男だけど。
ふと何かを思い付いた様子で、おいらをマジマジと眺めていたの。
そして…。
「このちんまい娘が女王でおじゃるか。
だとすれば、まさに天啓ではおじゃらぬか。
下賤育ちとはいえ、正当な王族の血を引くでおじゃろう。
ならば、やはり王侯貴族の血には特別な力が宿っているでおじゃる。
でなければ、その貧相な体であのような狂暴な魔物を屠れる訳無いでおじゃる。
こら娘、その力、どうやって覚醒したでおじゃる。」
こいつ、隣国の女王に向かって「ちんまい」とか「貧相な体」とか、本当に失礼な奴だな…。
それはともかく、こいつ、ピーマン王子よりもチューニ病を拗らせているみたいだね。
ベヒーモスを目にして即行で気絶した癖に、いまだに王国貴族の血に秘められし力があるなんてほざいてる。
**********
いっそ、今度は魔物の領域の最奥にでも放置してやろうかと考えていると…。
「なあ、もうそろそろ目を覚ませよ。
お前らだって気付いているんだろう。
自分に特別な力なんて無いことを。
俺には分かるぜ、お前らの気持ちが。」
タロウが連中に向かって、今まで見たこと無い慈愛に満ちた表情で話し掛けたの。
「何でおじゃるか、馴れ馴れしい。
貴様に何が分かると言うでおじゃる。」
「分かるさ。
お前らのそれは劣等感の裏返しだものな。
数年前の俺もそうだったもの。」
そこで一旦言葉を切ったタロウは、思いを馳せるような表情をして少しの間を置くと…。
「周りを自分よりも優秀な奴等に囲まれて。
何をやっても敵わなくて…。
それでも自分を特別な存在だと思いたいんだろう
特にお前らは貴族なんて特別な身分に生まれたのだから。
さぞかし、周りからのプレッシャーを感じたんだろうな。
特別な存在でなければ、存在価値が無いと思い込むほどに。」
確かに、アネモネさんの話ではピーマン王子の兄姉はとても優秀な人みたいだから。
誰に言われることが無くても、ピーマン王子はさぞかし肩身の狭い思いをしていたんだろね。
第一王子や姉姫と比較しちゃって自分の存在価値に自信が持てなくなる。
そんな気持ちは理解できるよ。
「でも、現実って残酷だよな。
年を経るごとに、自分に特別なモノなど何もないって思い知らされるんだから。
だからこそ貴族の血にそのものに特別な価値が有ると思いたかったんだろう。
それだけが唯一生まれついて持っている特別なモノだから。
だけど、そんな力なんてこれっぽっちも無いことが今日わかったはずだぜ。」
タロウは自分でも話したいことがまとまっていないようで、ここで一旦言葉を途切れさせたんだけど。
「ううっ、お主の言う通りじゃ。
余は、余は、…。
何でもできる兄上や姉上と比べられて…。
周囲から搾りカスと揶揄されて居た堪れなかったのだ。
特別な兄上、特別な姉上と並ぶ特別な存在になりたいと懇願してたのだ。
だが、現実はお主の言う通り残酷だった…。
兄上、姉上はおろか、ほかの貴族の子供達よりも劣っていて…。
せめて、この血が特別なモノだと思っていなければ押しつぶされそうだったのだ。」
タロウの言葉が身に染みたのか、そう呟いたピーマン王子が滂沱の涙を流し始めたの。
すると、タロウはピーマン王子の肩を優しく叩いて。
「今までのことは気にしなくて良いんだよ。
これまでの恥ずかしい言動だって。
何年かすれば、若い頃の黒歴史として笑い飛ばせるようになるよ。
それとな、誰にとっても特別な人間なんて一人も居やしねえんだから。
お前も王族だからって特別な存在になろうなんて思う必要はないぞ。
それよりも誰か一人でも特別だと想ってくれる人、特別だと想える人を作るんだな。
それだけで、人生、ハッピーになるモノだぜ。
真面目に地道に生きていれば、きっとお前を特別だと想ってくれる人が出来るさ。」
すると、マリアさんがタロウの腕に抱き付いて。
「そっ、ダーリンは私にとって特別な人。
冴えない見た目で、他の人達にとってはモブかも知れないけど…。
私にとってはオンリーワンの存在なのよ。」
タロウのぽっぺにチューをしたの。
確かに、タロウってシフォン姉ちゃんをお嫁さんに貰ってから見違えるほど立派になったものね。
変な叫び声を上げることも少なくなったし。いや、今でもごく稀にあるけど…。
「タロウの言う通りだよ。
おいらは父ちゃんとオランさえ特別な人だと想ってくれたら。
後は何も望まないよ。それだけで十分幸せだから。」
おいらは父ちゃんとオランの腕をとって、側に引き寄せたんだ。
「あら、私は特別じゃないの? 寂しいわ…。」
そう言ってアルトが拗ねて見せると。
「そうですよ。私だってマロン陛下がこんなに好きなのに。
私は特別な人に入らないんですか。」
護衛のタルトが背後から抱き付いて来たよ。
うん、おいら、愛されているね。これだけで大満足だよ。
「そうか、別に偉大な王になることも無いのだな。
誰か一人、愛する者を見つけて慎ましくても幸せな家庭を築けば良いのか…。
そうだな、何の才能もない余にはそんな生活が向いているかも知れないな。」
今度こそ、ピーマン王子はチューニ病の呪縛から真に解き放たれたみたい。
厄災級の魔物を討伐して英雄になるなんて妄想は捨てて、堅気に生きることを決めた様子だよ。
ところが…。
「ちょっと待つでおじゃる。
殿下、そんな甘言に惑わされたらダメでおじゃる。
殿下や麿達には確かに秘められし力があるでおじゃるよ。
麿は今日、確信したでおじゃる。」
改心しようとするピーマン王子に、おじゃるが待ったを掛けたんだ。
こいつ、一体何を言うつもりなんだ?
**********
その場に居た全ての人の目がおじゃるに集まったよ。
おじゃるは得意気に。
「殿下、先程から訳知り顔で話すその男。
町人のような貧相な形をしてるでおじゃるが。
曲がりなりにも女王の護衛騎士でおじゃる。
女王のお側に侍る護衛騎士と言えば、当然譜代の貴族。
その男、先程の魔物を悠々と討伐していたでおじゃる。
あれこそ貴族の血に秘めし力が覚醒した証拠。
他の護衛騎士だって、皆か弱そうな娘ばかりでおじゃる。
その体つきからは及びもつかない戦闘力を発揮したでおじゃるし。
何より、そのちんまい女王の力は常識では説明できないでおじゃる。
まだ、諦めるのは早いでおじゃる。
力を覚醒させるには、何か秘訣があるに違いないでおじゃる。
そ奴らから聞き出すでおじゃる。」
こいつ、王国貴族の血に秘められた特別な力においら達が覚醒したと、まだ思ってやんの。
すると、タロウが…。
「あっ、俺、貴族じゃないぞ。
先祖代々、生粋の庶民だぜ。
そもそも、俺、マロンの護衛騎士じゃないし。
俺、流れもんでな。
マロンが平民として暮らしていた頃に。
マロンを庇護してたアルトと取引したんだ。
マロンのボディーガードをする見返りに『生命の欠片』を分けてもらうって。
お前らが国王から貰ったのと同じ、レベル十相当分な。
それを踏み台に魔物相手の修羅場を繰り返して、やっとここまで来たって感じだぜ。
秘められし力なんて無くても、努力さえすれば何とでもなるぞ。」
おじゃるの仮説を根底から覆す事実を突き付けてやったよ。
タロウの言葉を耳にしたおじゃるは目を丸くして信じられないって顔をしてた。
「あっ、私も生粋の平民です。
魚屋の生まれで、数代前までは漁師だったそうですよ。
天秤を担いで王都の家々を回ってたらしいです。
その日上がった魚を売り歩いて店を出す元手を稼いだって。」
「私も八百屋の娘ですよ。
やっぱり、数代前は農民で。
ピクルスとか保存野菜を作ることで財を成して王都に店を構えたそうです。
てか、マロン陛下の近衛騎士で貴族は三人しかいませんよ。
騎士に取り立てられた今でも、私達、平民の身分ですし。」
ダメ押しするように、タルトとトルテが自分達の素性を明かしたの。
ここにいる中で生粋の貴族はジェレ姉ちゃん一人だと分かると…。
「何と言うことでおじゃる…。
まさか、平民が女王の護衛騎士を勤めているだなんて…。
厄災級の魔物を易々と討伐したのが平民では、麿らの立場が無いでおじゃる。」
おじゃるは想定外の事実を突き付けられて項垂れちゃったよ。
秘められし力の覚醒方法なんて存在しないことがハッキリしたからね。
その言葉は論外だけど、こいつも他人を見た目だけでしか判断できないんだね。
「ねえ、おじゃるのニイチャン、自己紹介がまだだったけど。
おいら、マロン・ド・ポルトゥス。
一応、ウエニアール国で女王をしているんだ。」
いつまでもおいらを町娘だと思わせておくと話が進まないから、素性を明かすと。
「見え透いた嘘を言うでないでおじゃる。
こんな物騒な場所をうろついている女王が居るわけ無いでおじゃる。
しかも、そんな貧相な格好で。」
「おいら、休暇中でこの近くの離宮に保養に来たんだよ。
体が鈍ると困るから、鍛錬を兼ねてここで魔物狩りをしてるんだ。
身形に関しては、そんな甲冑を着込んで魔物の領域に入る方が非常識だよ。
魔物は素早いし、ムチャクチャ破壊力があるんだよ。
重い甲冑なんて邪魔なだけで、何の役にも立たないじゃない。」
おいらがピーマン王子に言ったのと同じ言葉を繰り返すと。
「全く、見た目でしか他人を判断できないなんて情けない。
本当におバカね…。
この方は正真正銘、ウエニアール国のマロン女王よ。
噂ぐらい聞いたことがあるでしょう。
隣国で簒奪王を廃して正当な血筋の女王が即位したって。」
おいらが女王だと信じようとしないおじゃる男に対し、アネモネさんが呆れ顔で言ってたよ。
すると、憂国騎士団の連中の中でざわめきが起こり…。
「聞おいやしたか?
女王が聞いて呆れへん。
なんぼ狩りんためとへーえ。
よお恥ずかしくもなく町娘んなりやらなんやら出来はるモンや。
貴族たるモン、如なんなるときかて相応しい装いをせんとな。」
「ほんま、そん通りや
ウエニアール国ん女王は下賤ん育ちと噂で聞おいやしたやけど。
雅ちゅうモンを理解でけへんにゃろう。
お里が知れへんちゅうモンや。」
なんて、失礼な会話が聞こえてきたよ。下賤の育ちで悪かったな…。
王侯貴族を気取って煌びやかな甲冑を身に着けていても、実力が伴わなければ意味ないじゃない。
挙げ句、それが仇になって命を落とそうものならシャレにならないのに。
こいつら、そんな事も分からないのかな。
アネモネさんの言葉を聞いて驚いた表情を見せたおじゃる男だけど。
ふと何かを思い付いた様子で、おいらをマジマジと眺めていたの。
そして…。
「このちんまい娘が女王でおじゃるか。
だとすれば、まさに天啓ではおじゃらぬか。
下賤育ちとはいえ、正当な王族の血を引くでおじゃろう。
ならば、やはり王侯貴族の血には特別な力が宿っているでおじゃる。
でなければ、その貧相な体であのような狂暴な魔物を屠れる訳無いでおじゃる。
こら娘、その力、どうやって覚醒したでおじゃる。」
こいつ、隣国の女王に向かって「ちんまい」とか「貧相な体」とか、本当に失礼な奴だな…。
それはともかく、こいつ、ピーマン王子よりもチューニ病を拗らせているみたいだね。
ベヒーモスを目にして即行で気絶した癖に、いまだに王国貴族の血に秘められし力があるなんてほざいてる。
**********
いっそ、今度は魔物の領域の最奥にでも放置してやろうかと考えていると…。
「なあ、もうそろそろ目を覚ませよ。
お前らだって気付いているんだろう。
自分に特別な力なんて無いことを。
俺には分かるぜ、お前らの気持ちが。」
タロウが連中に向かって、今まで見たこと無い慈愛に満ちた表情で話し掛けたの。
「何でおじゃるか、馴れ馴れしい。
貴様に何が分かると言うでおじゃる。」
「分かるさ。
お前らのそれは劣等感の裏返しだものな。
数年前の俺もそうだったもの。」
そこで一旦言葉を切ったタロウは、思いを馳せるような表情をして少しの間を置くと…。
「周りを自分よりも優秀な奴等に囲まれて。
何をやっても敵わなくて…。
それでも自分を特別な存在だと思いたいんだろう
特にお前らは貴族なんて特別な身分に生まれたのだから。
さぞかし、周りからのプレッシャーを感じたんだろうな。
特別な存在でなければ、存在価値が無いと思い込むほどに。」
確かに、アネモネさんの話ではピーマン王子の兄姉はとても優秀な人みたいだから。
誰に言われることが無くても、ピーマン王子はさぞかし肩身の狭い思いをしていたんだろね。
第一王子や姉姫と比較しちゃって自分の存在価値に自信が持てなくなる。
そんな気持ちは理解できるよ。
「でも、現実って残酷だよな。
年を経るごとに、自分に特別なモノなど何もないって思い知らされるんだから。
だからこそ貴族の血にそのものに特別な価値が有ると思いたかったんだろう。
それだけが唯一生まれついて持っている特別なモノだから。
だけど、そんな力なんてこれっぽっちも無いことが今日わかったはずだぜ。」
タロウは自分でも話したいことがまとまっていないようで、ここで一旦言葉を途切れさせたんだけど。
「ううっ、お主の言う通りじゃ。
余は、余は、…。
何でもできる兄上や姉上と比べられて…。
周囲から搾りカスと揶揄されて居た堪れなかったのだ。
特別な兄上、特別な姉上と並ぶ特別な存在になりたいと懇願してたのだ。
だが、現実はお主の言う通り残酷だった…。
兄上、姉上はおろか、ほかの貴族の子供達よりも劣っていて…。
せめて、この血が特別なモノだと思っていなければ押しつぶされそうだったのだ。」
タロウの言葉が身に染みたのか、そう呟いたピーマン王子が滂沱の涙を流し始めたの。
すると、タロウはピーマン王子の肩を優しく叩いて。
「今までのことは気にしなくて良いんだよ。
これまでの恥ずかしい言動だって。
何年かすれば、若い頃の黒歴史として笑い飛ばせるようになるよ。
それとな、誰にとっても特別な人間なんて一人も居やしねえんだから。
お前も王族だからって特別な存在になろうなんて思う必要はないぞ。
それよりも誰か一人でも特別だと想ってくれる人、特別だと想える人を作るんだな。
それだけで、人生、ハッピーになるモノだぜ。
真面目に地道に生きていれば、きっとお前を特別だと想ってくれる人が出来るさ。」
すると、マリアさんがタロウの腕に抱き付いて。
「そっ、ダーリンは私にとって特別な人。
冴えない見た目で、他の人達にとってはモブかも知れないけど…。
私にとってはオンリーワンの存在なのよ。」
タロウのぽっぺにチューをしたの。
確かに、タロウってシフォン姉ちゃんをお嫁さんに貰ってから見違えるほど立派になったものね。
変な叫び声を上げることも少なくなったし。いや、今でもごく稀にあるけど…。
「タロウの言う通りだよ。
おいらは父ちゃんとオランさえ特別な人だと想ってくれたら。
後は何も望まないよ。それだけで十分幸せだから。」
おいらは父ちゃんとオランの腕をとって、側に引き寄せたんだ。
「あら、私は特別じゃないの? 寂しいわ…。」
そう言ってアルトが拗ねて見せると。
「そうですよ。私だってマロン陛下がこんなに好きなのに。
私は特別な人に入らないんですか。」
護衛のタルトが背後から抱き付いて来たよ。
うん、おいら、愛されているね。これだけで大満足だよ。
「そうか、別に偉大な王になることも無いのだな。
誰か一人、愛する者を見つけて慎ましくても幸せな家庭を築けば良いのか…。
そうだな、何の才能もない余にはそんな生活が向いているかも知れないな。」
今度こそ、ピーマン王子はチューニ病の呪縛から真に解き放たれたみたい。
厄災級の魔物を討伐して英雄になるなんて妄想は捨てて、堅気に生きることを決めた様子だよ。
ところが…。
「ちょっと待つでおじゃる。
殿下、そんな甘言に惑わされたらダメでおじゃる。
殿下や麿達には確かに秘められし力があるでおじゃるよ。
麿は今日、確信したでおじゃる。」
改心しようとするピーマン王子に、おじゃるが待ったを掛けたんだ。
こいつ、一体何を言うつもりなんだ?
**********
その場に居た全ての人の目がおじゃるに集まったよ。
おじゃるは得意気に。
「殿下、先程から訳知り顔で話すその男。
町人のような貧相な形をしてるでおじゃるが。
曲がりなりにも女王の護衛騎士でおじゃる。
女王のお側に侍る護衛騎士と言えば、当然譜代の貴族。
その男、先程の魔物を悠々と討伐していたでおじゃる。
あれこそ貴族の血に秘めし力が覚醒した証拠。
他の護衛騎士だって、皆か弱そうな娘ばかりでおじゃる。
その体つきからは及びもつかない戦闘力を発揮したでおじゃるし。
何より、そのちんまい女王の力は常識では説明できないでおじゃる。
まだ、諦めるのは早いでおじゃる。
力を覚醒させるには、何か秘訣があるに違いないでおじゃる。
そ奴らから聞き出すでおじゃる。」
こいつ、王国貴族の血に秘められた特別な力においら達が覚醒したと、まだ思ってやんの。
すると、タロウが…。
「あっ、俺、貴族じゃないぞ。
先祖代々、生粋の庶民だぜ。
そもそも、俺、マロンの護衛騎士じゃないし。
俺、流れもんでな。
マロンが平民として暮らしていた頃に。
マロンを庇護してたアルトと取引したんだ。
マロンのボディーガードをする見返りに『生命の欠片』を分けてもらうって。
お前らが国王から貰ったのと同じ、レベル十相当分な。
それを踏み台に魔物相手の修羅場を繰り返して、やっとここまで来たって感じだぜ。
秘められし力なんて無くても、努力さえすれば何とでもなるぞ。」
おじゃるの仮説を根底から覆す事実を突き付けてやったよ。
タロウの言葉を耳にしたおじゃるは目を丸くして信じられないって顔をしてた。
「あっ、私も生粋の平民です。
魚屋の生まれで、数代前までは漁師だったそうですよ。
天秤を担いで王都の家々を回ってたらしいです。
その日上がった魚を売り歩いて店を出す元手を稼いだって。」
「私も八百屋の娘ですよ。
やっぱり、数代前は農民で。
ピクルスとか保存野菜を作ることで財を成して王都に店を構えたそうです。
てか、マロン陛下の近衛騎士で貴族は三人しかいませんよ。
騎士に取り立てられた今でも、私達、平民の身分ですし。」
ダメ押しするように、タルトとトルテが自分達の素性を明かしたの。
ここにいる中で生粋の貴族はジェレ姉ちゃん一人だと分かると…。
「何と言うことでおじゃる…。
まさか、平民が女王の護衛騎士を勤めているだなんて…。
厄災級の魔物を易々と討伐したのが平民では、麿らの立場が無いでおじゃる。」
おじゃるは想定外の事実を突き付けられて項垂れちゃったよ。
秘められし力の覚醒方法なんて存在しないことがハッキリしたからね。
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