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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第717話 ならば、真の力とやらを見せてもらおうじゃない

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 アネモネさんとの会話から想像するに、ピーマン王子は今のウニアール国の慣例に不満を持っているらしい。
 どうやら、第一王子に取って代わり自分が王太子の座につくことを狙っているみたいなの。
 そして、試練をクリアしないと貴族籍を剝奪されるって制度を始め、各種の制限を撤廃して王侯貴族の権限強化を図りたいそうなんだ。
 取り敢えずは厄災級の魔物を討伐する事で、『こんなことができる俺、スゲー』的なところを見せたかったらしい。
 それをもって、地味で目立たない第一王子とどちらが次期王に相応しいか、国の人々に問うつもりなんだって。

 アネモネさん、その言葉を聞いて呆れていたよ。
 第一王子は、毎朝街道沿いで魔物狩りをして通行の安全を守るなど、その地道な活動から民の評価がとても高いらしい。
 朝遅くまで寝ているピーマン王子が起床する頃には、第一王子は魔物狩りを終えて帰っているそうで。
 第一王子が毎朝魔物狩りをしていることに気付いて無い様子だったの。

「ねえ、ニイチャン。
 ニイチャンは本当に貴族の血は特別だなんて思っているの?
 いずれ、その血に秘めし特別な力が覚醒するって?」

 十八歳にもなってそんな子供騙しなことを本気で信じているとしたら、かなりの末期症状だと思うけど…。
 何か意図を持って敢えて戯言を言ってるのかも知れないから、念のために尋ねてみたよ。

「王侯貴族は選ばれし者なのだぞ。
 その血が特別なものなのは言うまでもないだろうが。
 特別な血には特別な力が宿っているに決まっておる。」

 ピーマン王子ったらマジ顔で言うんだもの、タロウですら「あちゃー」って顔してたよ。
 
「でも、憂国騎士団がウサギに襲われた時。
 誰一人として、その秘められし力ってやつ覚醒しなかったんでしょう。
 流石にそんなものは無いって思うんじゃ…。」

「ええい、だから何度も言っておるではないか。
 あれは不意を突かれたせいだと。
 本来ならばウサギ如きに敗ける訳が無いからな。
 秘められし力が覚醒する必要も無かったのであろう。
 ここぞと言う場面で目覚めるからこそ、特別感があるのだから。
 やはり、厄災級の魔物に対峙せんと張り合いが無いであろう。」

 おいら、思わずこの場でラビとバニーをけしかけてやろうかと思ったよ。
 そうしたら身の程が分かるだろうから。
 と、その時、おいら、一つ面白いことを思い付いたんだ。 

    **********

「ねえ、アネモネさん。
 その憂国騎士団の連中はどうしているの?
 開拓予定地にある野営地に置いて来たの?」

「まさか、あのおバカ達を放置しておく訳ないじゃない。
 ちょっと目を離した隙にこのザマなのよ。
 また何をするか分からないもん。
 全員捕まえて『獣舎』の中に放り込んであるわ。」

 ああ、『積載庫』の中にある家畜を入れておける場所ね。色々垂れ流しにしても大丈夫な構造になっているらしい。
 アルトも罪人を運ぶ時は、いつだって獣舎に押し込めてるんだ。

「それなら、丁度良かった。
 その連中、ここに出してもらえるかな?
 本当に秘められし力があるかどうか試してみようよ。
 アルトも少し協力して欲しいんだけど。」

 おいらがそんな提案をすると…。

「あら、マロン、面白いことを考えたのね。
 それとっても良いと思う。
 じゃあ、ちょっと行ってくるから準備しておくのよ。」

 アルトったら楽し気な笑顔でそう答えて。
 まだ何も説明してないのに、何処かへ飛んで行っちゃったよ。

「アルトったらせっかちなんだから…。
 で、マロンちゃんは何をするつもりなの?
 憂国騎士団の連中なんて顔をあわせても、不愉快な思いをするだけよ。」

 何でも、態度が横柄な連中ばかりで。
 しかも不摂生な生活をしているものだから、見た目にも不愉快だって。

「うん?
 秘められし力ってのをマジで言ってるみたいだから。 
 目を覚ましてあげようかと思って。
 今、アルトがお膳立てしてくれるからチューニ病患者を出してちょうだい。」

「チューニ病? 
 そんな病気、初耳だけど。
 世迷言ばかり言ってると思えば、連中、やっぱり病気だったんだ。
 昼間から寝言ばかり言ってるし、何かの病気なのではと常々思ってはいたのよ。
 連中が目を覚ましてくれるのなら有り難いわ。」
 
 アネモネさんはおいらの提案を受け入れて、憂国騎士団の連中を出してくれることになったよ。

     **********

 ピーマン王子を救助した森から出てすぐの草原。
 森の中に百人にも及ぶ騎士団を降ろすのは無理だと言われたので場所を変えたの。
 そこでアネモネさんは憂国騎士団の連中を降ろすことにしたんだ。

「やや、ここは何処でおじゃるか。
 麿まろはいったい何処にいるでおじゃる?」

 また、いきなり胡散臭い訛りのニイチャンが出てきたよ。
 目の前に現れた騎士の数は百八人、全員に共通しているのは皆一様に小太りで青白い顔をしていること。
 そのブヨブヨの体つきに鍛錬の跡は窺えず、恥かし気も無く騎士団を名乗れたものだとある意味感心したよ。
 不摂生な生活をしているから見た目にも不愉快だと、アネモネさんが言ってたのも納得だった。

「ここは魔物の領域のかなり奥まったところだよ。
 これ、貸してあげるから、使い易い物を選んでね。」

 おいらは連中の前に剣や槍を出してあげたの。
 一応それなりに業物の剣や槍だよ。ヌル王国の軍閥貴族の屋敷から奪って来た刀剣類だからね。

「うん? 何でおじゃるか? この小娘は?
 何で町娘風情が麿に指示するでおじゃる。
 麿は貴族でおじゃるぞ。
 そもそも直言を許しもしてないのに、話し掛けるとは不遜でおじゃる。
 全く、躾の出来てない町娘は困ったものでおじゃる。」

 でっぷりとしたお腹のおじゃるニイチャンは、そんな不満をもらしてた。
 確かに、この平民を見下した態度は頂けないね。
 しかも、相手の服装だけで立場を判断しているし、相手がお忍びの貴人だったらどうするつもりだろう。

「なんどす、この剣の武骨な剣は。
 雅さがまるっきし無いではおまへんか。
 やはり、剣とはこうでないとあきませんで。」

 別のニイチャンは腰に下げた自分の剣を自慢気に見せびらかしていたよ。
 金で装飾された鞘と柄の剣、ご丁寧に鞘には宝飾がされてたの。
 
「それ、儀礼用の宝剣だよね。
 良いの? それ、実用性皆無だよ。
 これからやってもらうことには役立たないと思うけど。」

「なんや、やかましい子供やな。
 うちらにいったい何させよう言うんや。
 てか、何で、うちらがこないな子供の言うこと聞かへんとならんねん。」

「ピーマンのニイチャンから聞いたんだ。
 ニイチャン達の血に秘められた特別な力があるんでしょう。
 それを見せてもらおうと思ってね。
 厄災級の魔物が目の前に居ないと覚醒しないって。
 ピーマンのニイチャンが言うもんだから。
 今、それを連れて来るから戦う準備をして欲しいの。
 それとも、素手で戦うつもり?」

 自慢気に宝剣を見せびらかすニイチャンにそう伝えると。

「おい、こら、貴様。
 まさか、余らに厄災級の魔物をけしかけるつもりでは無かろうな。」

 話の流れから、おつむが残念なピーマン王子でも流石に察した様子で、慌てて尋ねてきたの。

「そっ、今、アルトが探しに行っているから。
 そのうち引き連れて帰ってくるはず。
 早く武器を取って準備しないと大変なことになるよ。」

「それ、本気で言っているのか? 脅しでは無く?」

「マジもマジ、大マジだよ。
 その秘められし力ってやつを覚醒して見せてよ。」

 おいらの言葉にピーマン王子は慌てふためいて。

「おい、皆の者、戦闘準備だ。
 これから厄災級の魔物が現れるぞ。
 願っても無い機会だ。
 それを倒して王都へ凱旋しようではないか。
 余やそなた等を馬鹿にした王都の連中を見返してやろう。」

 憂国騎士団(笑)の連中に指示を飛ばしたの。
 ピーマン王子、秘められし力ってやつを信じて疑わない様子で剣を手にしていたよ。

 だけど…。

「おお、こらピーマン殿下ではおまへんか。
 よくぞ、ご無事で。ずっと、心配しておりましたで。 
 厄災級の魔物どすか?
 そないなもの何処から現れるんどす?」

 これまでの経緯を知らない憂国騎士団の中からは、おっとりとした反応が返って来たの。
 
「説明は後だ! この件には忌々しい妖精が関わっている。
 やつら信じられないことをするからな。
 絶対にとんでもない魔物を引き連れて来るぞ。
 さっさと剣を取るんだ!」

 きっと今までもアネモネさんからきついお仕置きを受けているんだろうね。
 妖精さんの怖ろしさを知っているピーマン王子は、とにかく剣を取るように催促したの。

 憂国騎士団の連中は事情が分からないまま、渋々武器を見繕っていたよ。

 そうこうする間に、森の奥から樹木をなぎ倒す音とドドドと言う突進音が聞こえだし…。

 やがて…。

「マロン、お待たせ! ちょうど手頃なのが群れてたわよ。
 少し増えすぎてるみたいだから、こいつらに間引いてもらいましょう。」

 魔物に先んじて森から飛び出して来たアルトが告げたんだ。
 どうやら普段は手を付けない魔物の領域の奥地に、スタンピードを起しそうなくらい増えている魔物が居たみたい。

 やがて、目の前を木々を薙ぎ倒して、黒々とした魔物の群れが姿を現したよ。
 今回はワイバーンじゃなかったんだね。
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