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アイイロモンペ

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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第716話 これでも兄王子に対抗心を燃やしているらしい

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 王族には特別な血が流れているなんて戯言を漏らすピーマン王子。
 モモンガの魔物にすら歯が立たないと言うのに、ワイバーンを倒せる訳ないだろうってアネモネさんの指摘に。
 王族の血に秘められし力が覚醒すればワイバーンなんて一撃で屠れるだなんて。
 まるで、かつてのタロウを彷彿とさせるセリフを吐いていたの。

 おいら、思わずピーマン王子の両肩を揺すって「おい、目を覚ませ。」と言うところだったよ。
 おいらが言うまでもなく、教育係兼監視係のアネモネさんが子供みたいな事を言ってないで現実を直視しろと突っ込んでたけどね。

 アネモネさんの話では、ウニアール国にはトアール国の初代国王アダムを題材とした物語本があるそうで。
 冒険譚の形で記された物語の中では、アダムは狂暴な魔物を討伐した英雄であり、中央平原を統一した英雄であるらしい。
 幼少の頃にその物語を読んだピーマン王子は、そんなアダムに憧れたまま成長したそうで…。

「まあ、ならず者のアダムを崇拝するのも困ったものだけど…。
 それに輪を掛けて困るのは、最近、貴族の子息たちの間で流行っている創作物語なの。
 主に、『大図書館の試練』をクリアできない若者達が書いているみたいなのだけど。
 どれも貴族の血に特別な力を求める現実逃避モノが多いのよ。
 このおバカもそんな自主制作本にハマっちゃってね。
 『大図書館の試練』に落ちこぼれた者を集めて憂国騎士団なんてロクでもないものを創って…。」

 現実逃避モノとは言うけど、その根底には貴族の血に特別な力が宿ってるいるとする選民思想があるらしい。
 貴族はその体に流れる血自体が貴いのだから、試験なんかで貴族籍が剥奪されるのはおかしいって考え。
 得てして、『大図書館の試練』に合格できない者がそんな不満を抱いているとのことなの。
 そんな憤慨した想いを創作物にぶつけているんだって。

 何の変哲もない貴族の少年が突然覚醒し、強大な魔物に襲われている街を救うとか。
 国に攻め入って来た数万の軍勢を、主人公が単騎で返り討ちにするとか。
 そんなストーリーがお決まりのパターンらしいよ。
 最後に美人の貴族令嬢達からチヤホヤされるまでがお約束なんだって。
 危機に陥った時に、火事場の馬鹿力的に覚醒するってパターンが王道らしいけど。
 中には、道端で拾った小動物に力を目覚めさせてもらうなんて奇をてらった作品もあるみたい。

 とにかく、鬱積したものを物語にぶつけて発散しているみたいなんだけど。
 
「結構大作になっている妄想本を目にする度に思うのよ。
 そんな埒もない物語を描いている暇があるのなら、大図書館へ行って勉強をすれば良いのにと。
 あれだけの情熱があれば、試練なんか幾らでも合格できそうなものなのに。
 もっとも、厄介なのは執筆者よりも読者の方なんだけどね。
 中にはこのおバカみたいに感化されちゃって。
 貴族の血は特別なモノだと本気で口にする勘違い野郎が出て来るから。」

 そんな言葉と共に、アネモネさんは肩を落としてため息吐いてたよ。
 いい歳して、『秘めた力が覚醒する』だなんて恥ずかしいことをよく口に出来るものだと。

 まあ、下っ端貴族がそんな戯言を言う分には、誰も気にしないそうだけど…。
 目の前のおバカは曲がりなりにも王族だからね。
 総勢百人にもなる憂国騎士団なんてものを組織出来るほど、影響力が半端ないので困ってたそうなんだ。
 『大図書館の試練』に合格できず、貴族籍の剥奪を目前に控えた落ち零れを寄せ集めて。
 何とか、過去の慣例を変えようと運動しているらしい。

 もっとも、その主張が貴族の資格制廃止と特権強化だし。
 日頃、冒険者よろしく、屯って活動しては王都の住民との間でトラブルばかり起こしているらしく。
 ウエニアール国の王都では、全ての人々から疎まれる存在だったそうだよ。 
 
 王様がピーマン王子の所行に頭を痛めていた、ちょうどその時のことだそうなの。
 ピーマン王子が、貴族の令嬢暴行未遂と蟄居謹慎の命に背くと言う不始末を仕出かしたのは。
 王様はこれ幸いと、ピーマン王子と配下の憂国騎士団に辺境の開拓を命じたそうだよ。
 王都からの厄介払いとピーマン王子に最後のチャンスを与えるために。

 辺境の開拓を途中で投げ出したら、ピーマン王子は王族籍を、憂国騎士団の連中は貴族籍を即刻剥奪されるらしいの。
 そのことは沙汰が下った時に、正式な王命としてピーマン王子には伝えられていたんだって。
 にもかかわらず、初っ端から開拓を放り出して野営地から姿を消していたでしょう。
 アネモネさん、王都から戻ってみれば野営地がもぬけの殻なので目が点になったと言ってたよ。

       **********

「だから、さっきから言っておるだろうが。
 余は父上の横暴な処分に納得しておらんと。
 何故、由緒正しい王族の余が土木作業員のような事をせねばならんのか。
 騎士を名乗るからには、強大な魔物を倒して魔物の領域を開放したり。
 そこを足掛かりに他国に攻め込んで領地を拡げてこそ華があるのではないか。」

 魔物の領域を開放して、他国へ攻め込むって、まんまならず者じゃん。
 攻め込まれる方の迷惑も考えて欲しいよ。
 おいらの国なんだよ、魔物の領域を挟んでウニアール国と接しているのは。

「お前が王都へ戻った晩、余は腹心のヨイッショとゴマスリーに諮って決めたのだ。
 まずは、第一歩として厄災級の魔物を討伐して王都へ凱旋しようと。
 余はそこで貴族達や国民の信を問うつもりだ。
 何時も図書館に籠って小難しい本ばかり読んでいる兄上と。
 雄々しく魔物を屠って凱旋した余のどちらが次代の王に相応しいかとな。
 王とは英雄王アダムのようにあるべきだと、民に訴えるつもりなのだ。」

 やっと、こいつの話しが理解できたよ。
 勉強で落ちこぼれて王籍剝奪の瀬戸際王子が、起死回生の一撃を放とうとした訳だ。
 それで厄災級の魔物に出会う前に、ウサギに蹂躙されてりゃ世話無いね。

「あんたは筋金入りのおバカですね。
 オベルジーネ第一王子が図書館で本ばかり読んでいると思ってたの。
 オベルジーネ王子は毎朝、あんたが起床する前に王都の外に出て。
 街道沿いの魔物を退治しているのよ。
 ウサギ、イノシシ、オオカミなどが街道の通行を妨げないようにね。
 あんた、知らないの?
 オベルジーネ王子は締まった体つきをしているわよ。
 あんたみたいにブヨブヨの体じゃないの。」

 ウエニアール国の第一王子は毎朝、王都近郊の草原で魔物を狩るの日課にしているらしいよ。
 街道の安全維持と訓練を兼ねて、配下の騎士を率いて夜明け前から数時間かけて魔物を間引いているんだって。
 その甲斐あって、王都周辺の街道はとても安全らしいの。

「なんと、兄上はそんな朝早くから起きておるのか?
 王宮の下働きじゃあるまいし。
 何故、一国の王子たるものが朝も早よから起きねばならんのだ。
 王族は朝食の支度が整った後に、ゆっくり起き出すものと相場が決まっておるだろうが。」

 ピーマン王子は第一王子の習慣を知らなかったみたいだね。
 でも、感心するのならともかく、早起きして魔物狩りをする第一王子を快く思ってない様子だった。
 ウサギやイノシシの魔物みたいな雑魚を狩るために、早起きするなど馬鹿馬鹿しいとも言ってたよ。

「あんた、バカ?
 街道を安心して通れることが民にとってどんなに有り難いことか分からないの?
 それにね、ワイバーンなんて狩って帰っても誰も感心しないわよ。
 ウニアール国の町や村は魔物の領域から、十分な距離を取っているからね。
 魔物の領域奥深くに生息する厄災級の魔物など出て来るものですか。」

 ウニアール国では魔物の領域から一定の距離は、開拓禁止になっているらしい。
 その甲斐あって、ウニアール国では歴史上一度もスタンピードの被害は生じてないそうだよ。
 この大陸に存在する国の中で一番人口の少ないウニアール国には、それでも未利用地が沢山あって。
 幾らでも開拓する土地はあるそうなんだ。
 だから、さっきピーマン王子が口にした『他国へ攻め込んで領土を増やす』ってのも即時に却下らしい。
 そんなことをするくらいなら、新たな土地を開墾すれば良いって。

 一方で街道沿いに未利用地が沢山あるから、人の住む領域にウサギみたいな雑魚の魔物が多く生息しているそうで。
 年がら年中街道沿いの魔物を間引く必要があり、騎士団は休む暇がないほど忙しいらしいの。
 だから、近衛騎士を率いて毎朝魔物狩りをしているオベルジーネ第一王子はとても民に人気があるんだって。

 地に足を付けた活動をする第一王子とチューニ病を拗らせた第二王子か…。
 どっちに分があるか一目瞭然だね。
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