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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…
第715話 ここにも拗らせた者がいるみたい
しおりを挟む目の前に居るピーマン王子は、かなり問題のある人物のようで。
教育係兼監視係の妖精アネモネさんは相当手を焼いているみたい。
「あんたが、開拓作業をしたくないのは分かったわ。
それで、何で魔物の領域に何て来たのよ。」
うん、それ。おいらも疑問に思ってたんだ。
どうして国中に武威を示そうなんて思ったのか、今の二人の会話からは繋がらないもん。
アネモネさんの問い掛けにピーマン王子は胸を張って答えたの。
「決まっておるではないか。
手っ取り早く功績を上げて王都へ帰るためにだ。
チマチマと辺境の開拓なんぞしていたら何年掛るか分からんではないか。
ワイバーンの一匹でも狩って見せれば、父上だって余の偉大さを理解するであろう。
討伐したワイバーンを載せた荷馬車で王都へ凱旋すれば、愚民共だって腰を抜かすだろうて。
さぞかし、余に対する畏敬の念を持つことであろう。」
こいつ、筋金入りのおバカだね。
ウサギの蹂躙されるような連中が幾ら束になって掛かってもワイバーンなんて倒せる訳ないのに。
ピーマン王子のセリフを聞いて、アネモネさんは脱力していたよ。
「このおバカ!
剣もロクに振ったことが無いモヤシ共が、ワイバーンなんて倒せる訳ないでしょう。
いったい、何処をどう考えればワイバーンを倒せるなんて思ったのよ。」
至極真っ当な意見を口にするアネモネさん。
でも、当のピーマン王子は得意気な顔をして。
「何をたわいも無いことを言っておるのだ。
余は王の子なのだぞ。
王の血を引く者は、天に選ばれた特別な存在なのだ。
鍛錬など必要ないわ。
ワイバーンを目の前にすれば、余の秘められた力が覚醒するに決まっとる。
さすれば、ワイバーンなぞ恐れるに足らんわ。
一撃で屠ってやろうではないか。」
おいら、その言葉を聞いて思わずタロウの方を振り向いちゃった。
ここにもタロウのお仲間が居たって。
タロウも苦笑いをしてたよ。数年前の自分を見ているようで気拙かったみたい。
「秘められた力なんてある訳が無いでしょう!
王侯貴族だって、民と同じ人間なんだから。
あんた、貴族の間で流行っている娯楽本の読み過ぎよ。
子供じゃないんだから、いい加減現実を直視しなさいよ。」
娯楽本って、ペンネ姉妹が仲間内に配布していた薄い本と同じようなものかな。
女性騎士が活躍する物語本だとか言ってたけど。
「そんなことはない。
オベッカ伯爵の息子やヨイッショ子爵の息子だって言っておったぞ。
王侯貴族には特別な血が流れているのだと。
その特別な血こそ、強大な力を秘めておるのだ。
だからこそ、王侯貴族は生まれながらにして民を従える存在なのだと。
なのに王である父上が、王侯貴族は民への奉仕者などと口にするから。
王国貴族の権威が失墜してしまったのだ。
余や余の仲間達は、そんな祖国のあり方に憂いを抱いて憂国騎士団を創設したのだ。
生意気な愚民共を押さえつけて、失墜した王侯貴族の権威を取り戻そうと。」
「『大図書館の試練』に合格できない連中が集まってしょうもないことを…。」
アネモネさんはピーマン王子の言葉を聞いて脱力してたよ。
どうやら憂国騎士団ってのは落ちこぼれの集団みたいだね。
なんだかモネさんの長男が率いていた番外騎士団を彷彿とさせるよ。
**********
アネモネさんの言葉に出て来た『大図書館の試練』、恐らく『塔の試練』と同じものだよね。
ウニアール国にもあったんだ。
「うるさい!
その『大図書館の試練』なんてモノがおかしいのだ。
王国貴族と言うものは血脈それ自体が貴いのだぞ。
なのに、二十歳までに三つの試練を合格せねば貴族籍の剥奪だと。
そんな理不尽なことが許される訳が無かろうが。」
ウニアール国でも試練は三つなんだ。
「ウニアール国ではその『大図書館の試練』ってモノに合格しないと貴族籍を剥奪されちゃうの?」
おいらが二人の会話に割って入ると。
「そうですよ。それが建国からの習わしですもの。
出来の悪い貴族が生まれることを予防する方策としてね。
王侯貴族の家に生まれた者は、満二十歳の誕生日までに三つの試練をクリアしないとダメなの。
さもないと、二十歳になった時点で貴族籍を剥奪、当然相続権も無くなるし。
幾ばくかの手切れ金を渡されて家から出て、以後は平民として生活することになるの。
その代わり試練に合格さえすれば、性別や生まれの順に関わらず相続権を手にすることが出来るわ。
子女が誰一人として試練を合格できないとお家断絶になっちゃうからね。
どの貴族家も子女の教育に躍起になっているんだけど…。」
何か、言葉の最後に含みがあったよ。
暗に、家を上げて躍起になっているのに真面目に取り組まない子供もいるみたいな。
普通であれば、子供達も頑張って勉強するらしいよ。
長男が試練をクリアできない場合、試練をクリアできた兄弟姉妹の相続順位が繰り上がるのでみんな頑張るらしい。
それに合格さえしておけば、誰一人として合格できない貴族家に養子として迎え入れられることもあるらしいし。
そして、それは王族にも適用され、二十歳までに試練をクリアできないと王位継承権を剥奪されるそうだよ。
但し、歴史上、試練をクリアできなかった王族は存在しないみたいだけど。
そんな不名誉なことは許されないと、教育係の妖精さんが厳しく指導してきたから。
現に第一王子も十八歳で試練をクリアしているし、王女に至っては史上最年少十三歳で全てクリアしたんだって。
ところが今回、歴史上初めて試練をクリアできない王子が誕生しそうな状況にあるらしい。
目の前のピーマン王子、既に十八歳になったのに、最初の試練もクリアしてないそうだよ。
「私は決して手を抜いてませんよ。
今まで指導してきた数多の王子王女と同じく、愛情を込めて丁寧に指導してきたもの。
幼少の頃の理解力だけ見ると、兄姉に決して引けを取ってはいなかったんだけど…。
この子は目を離すと直ぐに勉強をほっぽり出して居なくなるのよ。
同じく勉強を抜け出して来た悪ガキ共とつるんで悪戯ばかりして。
たまに真面目に本を読んでいるかと思えば、トアール国の初代王を讃えた英雄物語だもん。
まあ、物語の題材としては面白いんだろうけど…。
あんなならず者を英雄視する物語なんて、子供の教育に悪いことこの上ないわ。」
ああ、マリアさんが手を焼いてたアダムね。
アカシアさんから聞く限り決して褒められた人物じゃないようだけど。
魔物の領域で強大な魔物を討伐したり、そこを越えて他国に攻め入ったりと物語の題材には事欠かないだろうけど。
子供があんなしょうもない人に憧れを持つようになるんじゃ、ちょっとした有害図書だよ。
「英雄アダム王をならず者などとはけしからん。
あれこそ、本来の王に要求される資質だと余は思うぞ。
それを我が国では、地道な開拓、地道な勉強、そんな事ばかり推奨しおって。
余はそんな地味な生き方はしたくないぞ。
それでは、男のロマンと言うものが無いではないか。」
チューニ病を拗らせたピーマン王子は、英雄願望に取りつかれて魔物の領域に足を踏み入れたってことかな。
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