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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第714話 このうつけ者には相当手を焼いているみたい…

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 アルトを叔母さんと呼ぶ妖精のアネモネさん。
 どうやら、ピーマン王子に付き添っているみたいだけど。
 それがとっても謎だったよ。
 妖精さんって基本人族とは関わらず、ごく稀に気に入った人が居ると庇護下に置くと聞いていたのに。
 アネモネさんはピーマン王子を庇護しているようには見えず、むしろ嫌々側にいる様子だったから。

「ちょっと、アネモネ。
 その叔母さんっては止めてもらえる。
 あんたの方が、千年以上長く生きているんだから。」

 アルトは叔母さんと呼ばれたことに心底嫌な顔をしていたよ。

「だって、事実叔母さんじゃない。
 アルトは母さんの妹なのだから。
 ねえ、アルト叔母さん。」

 いたずらな笑みを浮かべて茶化すように言うアネモネさん。
 どうやら、アルトが叔母さんと呼ばれて嫌がる様子を見て面白がっているらしい。
 アネモネさんの言葉から察するに、レンテンローゼーンさんとアルトが姉妹で、アネモネさんはレンテンローゼーンさんの娘のようだね。

 おいらは疑問解消を図るべく、アネモネさんとアルトの会話に割って入ることにしたんだ。

「少し気になるんだけど。
 何故、アネモネさんはピーマン王子と行動を共にしているの?
 妖精さんが庇護下に置くのは、余程お気に入りの人だけかと思ってたんだけど。
 おいらには理解できないんだ。
 ピーマン王子の何処にアネモネさんが惹かれる要素があるのかが。」

 ピーマン王子の何処に見どころがあるのか、おいらは率直に尋ねたよ。  

「私だって好きでこんな愚か者の側にいる訳ではないわ。
 仕方ないのよ。
 母さんがウニアール国の始祖オーロラと交わした約束があるからね。」

 シタニアール国の王家が交わした約束みたいなモノかな?
 耳長族を庇護する見返りに、妖精さんに国を護ってもらうって約束。

「約束って、ウニアール国の王族を守護するとか?」

「守護じゃないわ。
 王侯貴族の監視と監督、それに民に対する圧政の予防ね。
 オーロラは高潔な人でね。
 民を慈しみ、民を護ることにその生涯を捧げたの。
 そんなオーロラがその生涯の最期に母さんに一つの願いを託したのよ。
 この国の王侯貴族が民に迷惑を掛けないように、監視、指導して欲しいと。
 オーロラと懇意にしてた母さんは、始祖の望みを叶えると約束したわ。」

 それがもう何万年も前の話。
 それ以来、妖精族は王宮の裏の森に住み、ウニアール国の王侯貴族が道を踏み外さないように監視して来たらしいの。
 妖精族の長のレンテンローゼーンさんが歴代の王を、その娘達がその他の王侯貴族を担当しているみたい。

 とは言え、歴代の王は始祖の遺した家訓を大事にして善政を行ってきたそうでね。
 レンテンローゼーンさんは王の監視役と言うより、相談役みたいな立場になっているそうなの。
 そして王に子が生まれると、妖精さんが一人教育係に就くそうだよ。
 現在のウニアール王には、王子が二人、王女が一人いるそうで。
 第一王子と王女にはアネモネさんのお姉さんがついているそうなんだ。

「で、私一人がスカを引いたの。
 第一王子は中々の人格者だし、王女は始祖の再来と言われる程の逸材なのよ。
 なのに、私が教育したピーマンはこの体たらくでね…。
 言っとくけど、私の育て方が悪かった訳じゃないからね。
 私だって、今まで何百人もの王子・王女を教育して来たんだから。
 こんなに曲がって育った子は初めてよ。」

 ピーマン王子がしょうもない人間に育ったのは自分のせいでは無いと言い訳がましく言うアネモネさん。

「別に疑いはしないよ。
 人って個性があるものだからね。
 同じように育てても、同じ人間になる訳じゃないし。
 それで、何でピーマン王子はこんな所に居たんだろう?」

 やっと、最初抱いた疑問に話が辿り着いたよ。
 ピーマン王子はワイバーンクラスの魔物を狩りに来たと言ってたけど。
 何で、そんなことをする必要があったのかは話してくれなかったからね。

         **********

「それは、私の方が知りたいわ。
 この子達は、王都で不始末を仕出かして王の怒りをかったの。
 それで懲罰として辺境部の開拓を命じられたのよ。
 開拓予定地に着いた私は、『積載庫』からこの子達を降ろし。
 開拓に必要な資材を一式、その場に降ろすと。
 予定地に無事到着したことを報告に一旦王都へ戻ったの。
 で、王都から帰ってみると野営地はもぬけの殻。
 私、焦って探し回っちゃったわ。」

 どうやら、魔物の領域へ来たのはピーマン王子の独断で、王様から命じられたとかではないらしい。
 それどころか、王様の許可も取らずに危険な魔物の領域へ踏み込んだんだね。

 おいらにそう答えたアネモネさんはピーマン王子に視線を向けて。

「それで、あんた、どうしてこんな所に居るのかしら?
 私は王都へ出かける前に指示したわよね。
 戻ってくるまでに魔物除けの土塁空堀を造るようにって。
、あんたと取り巻きで分担すれば十日と掛からずに出来るはずなのに。
 ちっとも進んでなかったじゃないの。」

 プンプンと怒りを露わにしながら糾弾したんだ。

「決まっておるだろう。
 何で、由緒正しい王侯貴族の我々が穴掘りなどせねばならんのだ。
 そんなもの、平民の土木作業員にやらせれば良いだろうが。
 そもそも、余は納得しておらんぞ。
 余は何一つ悪いことをしてないのに。
 父上は理不尽な怒りに任せて辺境の開拓など命じおった。
 あれは、横暴であろうが。」

 先ず、一つ、分ったのは。
 ピーマン王子は何か悪さを仕出かして辺境送りになったようだけど。
 どうやら、辺境送りになったこと自体に納得していない様子だった。
 そのうえ、開拓作業そのものにも不満を持っていたみたい。

 でも何で、それが魔物の領域に入り込んでワイバーンを狩ろうと言う話になるんだろうね。

「あんた、自分が何をしたのか本当に理解していないの?
 女官や侍女の更衣室に覗きに入るくらいなら大目に見て貰えてたけど。
 あんた、取り巻きと結託して貴族の令嬢を無理やり手籠めにしようとしたじゃない。
 あんなことをして赦されると思っているの?
 それで蟄居謹慎を命じられたのに、その最中に王宮を抜け出して…。
 あろうことか、街中で馬を乗り回して民を蹴り殺そうとしたじゃない。
 その首が胴体と繋がっているだけでも、王の温情だと言うことが分からないの?」

 いったい、どこの冒険者ならずものだよ。しょうもないことをして。

「馬鹿を言うな、王族が直々に寝所に招いたのだ。
 臣下の娘は喜んでその身を差し出すのが当然であろうが。
 それを身の程も弁えず拒否などしおってからに。
 仕方ないから、余の腹心を使って力尽くで手籠めにしようと思ったのだ。
 あの時、お前が邪魔さえしなければ、あの娘は泣き寝入りして大事にはならなかったはず。
 父上も父上だ、たかが家臣の娘一人くらいで蟄居謹慎などと…。」

 ピーマン王子は貴族令嬢に対する狼藉をこれっぽっちも反省していない様子だったよ。
 それどころか、それを咎められて蟄居謹慎を言い渡されたことに鬱憤を溜めていたみたいで。
 鬱憤晴らしに、街中で王子の馬の行く手を遮った住民をそのまま蹴り殺して進もうとしたらしい。

「ピーマン王子はこんなことを言ってるけど。
 ウニアール国って、街で王侯貴族の通行を邪魔したら殺されても文句言えないの?」

 王様が激怒してピーマン王子を辺境送りにするくらいだから、そんな訳が無いんだろうけど。
 余りにもピーマン王子が悪びれずに言うものだから、一応確認しちゃったよ。

「そんなことある訳が無いでしょう。
 例え王侯貴族であろうとも、王都の中心街は下馬して馬を引いて歩くことになってるわよ。
 現に王や第一王子だってそうしているし。
 それをこの虚けは、王侯貴族が民と同じ場所を歩けるかなどと戯けたことを。
 私が気付くのに遅れたら、大惨事になるところだったわ。」

 アネモネさん、蟄居謹慎中の様子を見に来たら部屋がもぬけの殻になってて慌てて探し回ったらしいよ。
 アネモネさんがやっとピーマン王子を探し当てたまさにその時だったそうだよ。
 ピーマン王子は、王都の人々が沢山歩いている目抜き通りを猛スピードで走り抜けようとしてたんだって。
 アネモネさん、無我夢中でビリビリを放って、ピーマン王子と馬を気絶させたらしいよ。
 もう少し遅れていたら、王都の住民を多数巻き込んだ惨劇になるところだったって。

「お前、あの時は良くもやってくれたな。
 今思い出しても腹が立つわ。
 あの時、猛スピードの馬が突然転倒して余は死ぬところだったのだぞ。
 余の命と愚民共の命、何方が大事だと思っておるのだ!」

「民の命の方が大事に決まってるじゃない。
 そもそも、王侯貴族なんてものは民に対する奉仕者として存在しているのよ。
 あんたら王族の命より、民の命の方がずーっと大事なの。
 本当、オーロラは先見の明があったわ。
 何時か、あんたみたい勘違い野郎が出て来るのではと懸念したのでしょうね。 
 母さんに王国貴族の監視を頼んで、結果として正解だったわ。」

 どうやら、ピーマン王子はヒーナルとか、モカさんの長男と同じような人柄らしい。
 王侯貴族に生まれ付いただけで偉いと思っているの。
 
 まあ、分ったよ。
 ピーマン王子の横暴な振る舞いに現王の堪忍袋の緒が切れて辺境の開拓を命じられたのは。
 で、そのピーマン王子は何故、魔物の領域に来ようなんて思ったの。
 土木工事が嫌なのはわかったけど、それとワイバーンを倒して武威を示すってのがどう繋がっているの?
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