ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第712話 貴族の間じゃ、イメージトレーニングが流行りなの?

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 魔物の領域でモモンガに襲われていたピーマンと名乗るニイチャンを助けたよ。
 ピーマンはウニアール国の第二王子だと言う。
 何でもおのが武勇を知らしめるために、配下の騎士団を率いて魔物の討伐にやって来たらしいけど。

 魔物の襲撃に遭遇して、早々に惨敗して散り散りになったそうだよ。
 騎乗していた馬が本能で草原から森に逃げ込んだため、騎士達とはぐれて一騎で森を彷徨っていたみたい。
 仮にも騎士団を名乗る一団を蹴散らした魔物って、どんな狂暴な魔物かと思っていたんだけど。
 拍子抜けにも、騎士団は最弱の魔物ウサギに蹴散らされたらしい。しかも、大部分は子ウサギに…。

「ねえ、ニイチャン、いったいどんな魔物を狩るつもりで来たの?
 ウサギに負けるようじゃ、勝てる魔物なんて居ないと思うんだけど。」

「勝てる魔物が居ないとは無礼な。
 白い悪魔に不覚を取ったのは不意を突かれたからだ。
 油断さえせねば、余の誇る精鋭『憂国騎士団』が魔物などに不覚を取る訳が無いわ。
 何を隠そう憂国騎士団の標的は厄災級の魔物なのだからな。
 ワイバーンか、ベヒーモスか、その辺りを狩って国の連中をあっと言わせてやるのだ。」

 厄災級の魔物とは大きく出たね。
 でもね、ワイバーンを狩れるような猛者なら、例え油断していたとしても最弱のウサギに負けることは無いと思うんだ。
 おいらがピーマン王子の言葉を聞いてそんな疑問を抱いていると。

「陛下、お話し中のところ失礼でございますが。
 そちらにおられる貴人は何方でございましょうか?」

 メイドのウレシノが、おいらの愛兎バニーから降りて側に控えるとそう尋ねてきたの。

「このニイチャンはピーマン王子。
 ウニアール国の第二王子だって。
 ここにいるモモンガに襲われてたんだ。
 可愛いでしょう。
 これでモモンガのペットは二匹になったよ。」

 おいらがピーマン王子を襲っていたモモンガを撫でながら答えると。

「はあ、ウニアール国のピーマン殿下でございますか…。
 先ほどからお話を伺っているとピーマン殿下は魔物の領域にあまり明るくないご様子。
 どうして、一国の王族の方がこのような危険な場所にお越しになられたのでしょうか?
 厄災級の魔物を討伐すると仰せのようですが、何処に生息しているかもご存じない様子ですし。」

 ウレシノは、ピーマン王子に聞こえないように小声で、もっともな疑問を口にしていたよ。
 王族がお出ましになるのなら、事前に十分な下調べをしてから実行に移すのではとも言ってた。
 何を標的にするのか、それが何処に生息しているのか等々を。

 そもそも王族が魔物の領域にまで出張るってのはよっぽどのことだよね。
 町や村に魔物の襲撃があった時に、最初に対応するのは地元の領主の役割だもの。
 王族が出向くのは領主の手勢だけでは手に負えないほどのスタンピードが生じた時だけ。
 ただ、そんな事態が起こらないように、魔物の領域に近い領主は定期的に魔物を間引いているんだ。
 だから、スタンピードが起こること自体不名誉なことだし、地元領主の失点になるの。

      **********

「ねえ、ニイチャン、今まで魔物を狩った経験はあるの?
 初めてウサギを目にしたような口ぶりだったけど。
 普通は、ウサギとか、イノシシとかの魔物を狩って経験を積むんじゃないの。
 ウサギ狩りなんて、魔物狩りの初歩だと思うんだ、おいら。
 それを飛び越してワイバーンとか、無茶だと思うよ。」

 おいらは感じたままの意見をぶつけてみたんだ。

「魔物狩りの経験などある訳が無かろうが。
 なにが悲しゅうて、ウサギなんぞをチマチマ狩らねばならん。
 そんな雑魚は、愚民共にでも狩らせておけば良いのだ。
 騎士を名乗る以上は、もっと大物を狙って行かんとな。
 何と言っても、余の下に集いし憂国騎士団は精鋭揃いなのだから。」

 そのウサギに蹴散らされたのは誰よってツッコミを入れたくなったよ。
 その根拠のない自信はいったい何処から出てくるの…。

「さっきから配下の騎士達を精鋭と言っているけど。
 何をもって精鋭だと言ってるの?
 精鋭と言う割にはウサギに蹴散らされたじゃん。」

「だから、それは白い悪魔どもに不意を突かれたからだと言っておるだろうが。
 余の憂国騎士団はな、図上演習では他の騎士団に一度も負けたことが無いのだ。
 図上演習上では、憂国騎士団は我が国随一の精鋭と認められておるのだぞ。」

 おいらの問い掛けに、鼻高々な様子で答えるピーマン王子。
 また、初めて耳にする言葉が出てきたよ。

「図上演習って、誰か知ってる?」

「はい、存じてますよ。
 あれは騎士が好む盤上遊戯ですな。
 地形などを再現した盤上で、軍団に模した駒を使って用兵の技を競うのです。
 一種の頭の体操ですよ。」

 近衛隊長のジェレ姉ちゃんがそんな説明をしてくれたけど、今一つピンとこなかったよ。
 どうやら、年中戦争をしていた頃の中央平原で発明されたものだそうで。
 彼我の戦力や戦場となりそうな場所の地形が事前に予想されている時にかなり有効なツールだったらしい。
 それを使って、敵軍の動きやそれにどう対処するかを検討したそうなの。
 とは言え、もう数百年もこの大陸では国と国との戦争なんて起きていないからね。
 すっかり、定型化されて一定のルールの下で戦う遊戯となってしまってらしいの。

 机上で頭を使うのが苦手なジェレ姉ちゃんは図上演習は嫌いらしい。
 実戦であんなものが何の役に立つのか、なんて愚痴ってたよ。

 ジェレ姉ちゃんは言ってたよ。
 所詮は遊戯なので、王族麾下の騎士団に忖度して接待プレーでもしてたんだろうって。
 おいらもそれはありそうだと思った。 

「図上演習が得意なのはともかくとして。
 対人でも何でもいいから、実戦経験はあるの?
 剣とか槍の訓練はちゃんとやっている?」

「実戦経験? そんなものある訳が無かろう。
 これが憂国騎士団の初陣だったのだ。
 剣や槍の訓練は毎日欠かさずに行っておったぞ。
 余の部屋に集まってイメージトレーニングを。」

 久しぶりに聞いたよ、イメージトレーニング。
 クッころさんと同じことを言う人が、他にも居るとは思わなかった。
 
「イメージトレーニングって。
 どういう風に剣を振るかとか。
 相手の攻撃をどのように受けるかとか。
 そんなことを頭の中でイメージするんでしょう。
 でもね、剣って振り慣れてないとイメージ通りの動きは出来ないと思うんだ。
 実際に剣を使った素振りとか、試合とかはしてないの?」

 現に出会った頃のクッころさんって、真面に剣を振ることもできなかったもん。

「素振りなどしたら疲れるではないか。
 日頃から素振りなんてしておったら筋肉痛になってしまうぞ。
 いざと言う時に筋肉痛で剣を振ることが出来なかったらどうするのだ。
 剣を使った試合なんてもっての外だ。
 怪我でもしたらどうするつもりだ。」

 おいら、ピーマン王子の返答を聞いて頭が痛くなってきた。
 こんな人間が魔物の領域に踏み込んだら、命が幾つあっても足りないよ。

「ねえ、ニイチャン、魔物の領域を舐めているでしょう。
 そんなんで魔物に勝てる訳ないじゃない。
 精鋭どころかヘッポコも良いところだよ。
 命を落とさなかっただけラッキーだったね。」

「貴様、平民の分際で余を愚弄するか!
 子供だからと多少の無礼は大目に見ておったら、調子に乗りおって。
 もう赦さん、手討ちにしてくれるわ!」

 人間、図星を指されると怒ると言うけど、ピーマン王子は顔を真っ赤にして激昂すると腰に手をやったの。
 でも…。

「無い! 貴様、余の剣を何処にやった!」

 腰の辺りを探って、剣が無いことに気付いた様子でそんな理不尽なことをほざきやがった。
 ピーマン王子の腰に下げた剣を、おいらがどうにかできる訳が無いじゃない。

 それって、さっきおいらのモモンガに斬りつけた剣でしょう。
 その時、おいらが軽く払ったら何処かに飛んでっちゃったよね。

 すると、ジェレ姉ちゃんがスッと動いてピーマン王子の後ろに回ったの。
 そして静かに剣を抜いて、その刃を背後からピーマン王子の首筋に当てたんだ。

「貴様、さっきからマロン陛下に無礼な口を利きおって。
 陛下が気にしてないご様子なので大目に見ていたが。
 陛下に対して危害を加えようとした今の言動、見過ごす訳にはいかんぞ。」

 ジェレ姉ちゃん、『手討ちにしてくれるわ』って言動でキレちゃったよ。

「ひっ!」

 ピーマン王子は恐怖の余り言葉を失ってたの。
 こいつ、本当に観察力の無い奴だね。
 ジェレ姉ちゃん達が現れた時からおいらに向かって『陛下』と呼び掛けているじゃない。

 こいつ、『陛下』って尊称が付くのは一国に一人だと知らないのかな。
 なんで、おいらが町娘だといつまでも思っていたんだろう。
 
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