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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第710話 モモンガ、二匹目ゲットだよ

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 ウノの街から魔物の領域に入り、しばらく進んだ先で狩りをしていると何やら人の声が聞こえたの。
 どうやら、魔物と遭遇して苦戦している様子だった。

 『ネズミの分際で空を飛ぶなんて面妖だ』との叫び声も聞こえたから、モモンガの魔物に襲われたみたい。
 モモンガみたいな低レベルの魔物に苦戦する人が、魔物の領域のこんな奥に踏み込むなんて無茶もいいところだけど。
 魔物に襲われているのなら助けない訳にはいかないと思い、おいらは声のする方へ急ぐことにしたよ。

 手懐けたばかりのモモンガに騎乗して、草原に隣接する森の中に入って行くと…。
 
 そこにはモモンガの魔物に組み敷かれて、一方的に蹂躙されているニイチャンが居たんだ。

「こら、噛むんじゃない! 痛いだろうが!
 うわっ! 血が出ておる!
 母上ですら余に手を上げたことは無いのだぞ!
 こんな狼藉を働いて赦されるとでも思っておるのか!」

 言葉の通じる訳がないモモンガに対して、そんな身勝手な抗議を捲し立ているニイチャン。
 ニイチャンはどうやら貴族らしく、膝上あたりから頭に掛けて金属製の甲冑を身に着けてたよ。
 そのおかげで、幸いにして致命傷は免れている様子だった。

 ただ、腕やら、脚やら、防御の薄いところはあちこち齧られて血塗れになってたの。
 まあ、振り払おうと必死にもがいている甲斐あって、見たところ大きなケガは無いようだけど。

「ねえ、ニイチャン、苦戦しているようだけど。
 助けが必要かい?」

 念のため確認したよ。
 修行のためとか、ここに来た目的によっては助太刀無用と言われるかも知れないし。

「おお、誰だか知らんが余を助けるのだ!
 この狂暴な魔物から余を救うことが出来たなら。
 何でも、望むままの褒美を取らせるぞ!」

 こいつ、極め付けの『勇者おろかもの』だね。
 身の程も弁えずに魔物の領域の奥まで踏み込んだあげく、『何でも、望むまま』の褒美を取らせるなんて。
 命を差し出せとか、領地を差し出せなんて要求されたらどうするつもりだろう。
 まっ、おいらはそんなモノ要らないけどね。  

「うん、分ったよ。それじゃ、チョチョッとやっちゃうね。」

 ニイチャンからの救援要請を受けると、おいらはニイチャンを齧るのに夢中のモモンガの背後に回り…。

「キッ、キッ!」

 不意打ちで地面に抑え込まれて、鳴き声を上げてもがくモモンガ。
 モモンガの首を掴んで力任せにニイチャンから引き離すと、そのまま地面にねじ伏せたんだ。

 それから先はさっきと同じ。
 どっちが格上かモモンガが思い知るまで、絞めて緩めての攻防を何度も繰り返したの。
 やがて、「キュ~、キュ~。」と言う媚びた鳴き声を上げ始めたよ。

        **********

 手懐けた二匹目のモモンガを撫でていると…。

「ネズミの分際で、よくも余にケガを負わせおったな。
 ここで成敗してくれるわ!」

 おいらに懐いている今がチャンスと思ったのか、甲冑姿のニイチャンが剣を抜いて斬りつけてきたんだ。
 でも、その太刀筋は修練しているとは思えないほどヘロヘロで…。

「何すんの! 剣なんか振り回して危ないじゃない。
 この子が怪我をしたらどうすんの!」

 おいらは振り下ろされる剣の側面を軽く払いながら、抗議したんだ。
 おいらとしては軽く払ったつもりなんだけど、剣はニイチャンの手を離れて飛んでっちゃった。
 剣がポンと飛んだので驚いたよ。ニイチャンが非力なのか、レベル七十を超えるおいらの力が強かったのか。

「貴様、何故、余の邪魔をする!
 そいつは余に噛み付いたのだぞ! 
 赦しておける訳がないだろうが!」

 齧り回されたことを根に持っている様子で、ニイチャンは激昂してたよ。

「ダメ。この子はおいらの獲物だもの。
 ニイチャンは助けて欲しいと言ったから助けてあげたでしょう。
 後はおいらとこの子の問題だから、勝手なことはさせないよ。
 この子はおいらのペットにするんから傷つけたら赦さないからね。」

 抗議をしながら、おいらがモモンガを庇うようにニイチャンの前に立つと。

「ええい、そこを退け。
 ネズミごときに散々虚仮にされて、ハイそうですかと言える訳なかろう。
 そいつを退治せねば、腹の虫が収まらんわ。」

 ニイチャン、今度は腰に下げた短剣を抜くと腰だめしておいらに退けと命じたの。
 なにこのニイチャン、助けてあげたのに、感謝の言葉の一つもないどころか偉そうに命令するなんて。

「あっ、そう、じゃあ、好きにすれば。」

 おいらはモモンガにやっちゃえと視線で告げて頭を二度ポンポンと軽く叩いたんだ。
 そして、モモンガの前から横に移動してニイチャンに道を空けたよ。

「ふん、最初からそうしておけば良いものを。」

 そう呟くと、にいちゃんは腰の位置に短剣を構えたままモモンガに向かって突進してきたの。

 そして…。

「うぎゃーーー! 痛い、痛いではないか!
 何で、大人しく余のやいばに掛からんのだ!」

 いや普通反撃すると思うよ、誰だって剣で刺されるのはまっぴら御免だもん。
 短剣を持つ手に喰い付かれたニイチャンが剣を手放すと、後はさっきと同じ一方的な蹂躙だった。
 モモンガに馬乗りされて、あちこちを鋭い下あごの歯で齧られてるの。

「何故じゃ、貴様、このネズミを大人しくさせたのではないのか!」

 モモンガに手も足も出ないニイチャン、おいらに視線を向けてそんなイチャモンを付けてきたよ。

「ニイチャン、魔物の習性を知らないの?
 魔物は本能的に勝てないと悟ると、その相手には従順になるけど。
 所詮は闘争本能が強い魔物だもの。
 勝てると思った相手には、襲い掛かって来るよ。」

 まあ、飼い馴らせるのは小動物系の魔物だけらしいけど。
 ワイバーンとか闘争本能が極めて強い魔物は無理みたいだしね。 

「このネズミは貴様の命には従うと言うのか。
 ならば、直ぐに止めさせるのだ!」

 感じ悪いね、他人にものを頼むのに命令口調だなんて。

「嫌だよ。止めさせたら、また、その子を退治しようとするでしょう。
 その子に危害を加えないと誓うのなら、助けてあげても良いけどね。」

 おいらが返事をする間にモモンガの攻撃は続き、甲冑に護られていない場所はボロボロになって来たよ。
 あちこちから出血して凄いことになってるの。

「分かった、分ったから助けてくれ!
 二度とこのネズミには手を出さないと誓うから。
 早く、早く助けるのだ!」

 ニイチャン、余程痛みに耐えかねたのか、涙目になって懇願してきたよ。

「もう、止めな。」

 そんな声を掛けながら、子猫よろしく首の後ろを掴んで少し持ち上げると…。

「キュ~?」

 おいらの顔色を窺うような鳴き声を上げて、モモンガは攻撃行動を止めたよ。

         **********

「やれやれ、酷い目に遭った…。
 まさかネズミ如きに後れを取るとは…。
 おい、貴様、ぼうっと見てないで。
 余のケガの手当てをせんか。
 そんな軽装でこんな物騒な所におるのだ。
 ケガの手当てくらい心得があるのだろう。」

 このニイチャン、助けてもらった癖に、尊大な態度でケガの治療をしろと命じて来たよ。
 いったい、どう育てばこんな横柄な人間が出来上がるんだろうね。

 ニイチャンの状態を観察すると、あちこちに噛み傷があるものの致命傷になるようなケガは見当たらなかった。
 四肢が千切れそうになっている訳でもなく、酷い出血をしている訳でも無かったしね。
 『妖精の泉』の水を使えば、容易く治せそうだったけど…。
 初対面の他人には、『積載庫』や『妖精の泉の水』を持っていることを知られたくなかったんだ。

 どうしようと考えていると…。

「こんな所に居た…。
 ダメじゃない、勝手に突っ走ったら。
 モモンガは細身だから良いけど。
 森の中じゃ、横幅のあるウサギは木が邪魔で速く走れないのよ。」
 
 木々の間から現れたアルトからいきなりお説教されたよ。
 ニイチャンの助けを呼ぶ声を耳にして、おいらは急いで駆け付けたんだけど。
 丸々肥えたウサギに騎乗する近衛騎士達は、木が邪魔しておいらについて来れなかったみたい。
 アルトは、近衛騎士達が見失ったおいら探していたんだって。

「うわっ! レンテンローゼン!
 貴様、何でこんな所に居るんだ!」

 おいらが声を掛けるよりも早く、ニイチャンがアルトを指差して忌々し気に叫んだよ。

「なにこのきたならしい男、いったい何者なの?
 姉さんの事を知っているようだけど。」

 どうやら、レンテンローゼーンというのはアルトのお姉さんの名前らしい。 
 甲冑なんて着用しているから見た目に貴族だとは分かるけど、妖精に知り合いがいるってことはタダの貴族じゃないね。
 レンテンローゼーンって妖精さんの名を呼んだ時の忌々し気な表情は、何となく見覚えがあるよ。
 そう、それはアルトが訪ねた時に見せた前トアール王の表情そっくりだった。

 こいつ、多分何か不始末をやらかして、レンテンローゼーンさんって妖精からお仕置きされたことがあるんだろうね。

「このニイチャン、ここにいるモモンガに襲われていたの。
 今、助けたばかりだから、まだ何も聞いていないんだ。
 それで、アルト、手間を掛けて申し訳ないけど。
 ニイチャンのケガを治してもらえないかな?
 痛くて我慢できないみたいなの。」

 痛みのせいで愚痴ってばかりじゃ、詳しい事情が聴けないなからね。

「仕方ないわね。
 まあ、血塗れで汚らしいし、治してあげるわ。」

 アルトもおいらの『積載庫』を知られない方が良いと思ったみたいで、お願いを聞いてくれたよ。

「どわっ!」

 突如として頭上から降り注ぐ大量の水に、驚きの声を上げるニイチャン。
 アルトはニイチャンの頭上から滝のように『妖精の泉』の水を浴びせたんだ。
 さっきから血塗れで汚らしいと言ってたから。きっと、ケガの治療ついでに血も洗い流しちゃえと思ったんだろうね。
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